2030年8月15日 ロシア連邦 モスクワ クレムリン
「大統領閣下、現在の状況を報告いたします」
外務大臣ペトロヴァが、大きな地図を広げた。
転移から早くも3ヶ月が経過していた。この間、ロシアは精力的に外交活動を展開していた。
「現在我が国と正式な国交を樹立した国は、以下の通りです」
地図上で、友好国が青く塗られていた。
正式同盟国
ハティリア王国(人間)
アルメーン獣人連邦(獣人)
アサヒノ国(オーガ族)
友好関係
ギッフェア共和国(ドワーフ)
ウィンザリア侯国(有翼人)
ワーサ公国(蛇人/ナーガ族)
キルサ海洋同盟(人魚&魚人)
交渉中
オゼラ(エルフ)
敵対的
ワーザルクト帝国(人間)
ケソメン大公国(人間)
「順調ですね」
ヴォルコフ大統領は、満足そうに頷いた。
「これらの国々との協力関係を、さらに強化していきます。そして…」
彼は地図の一点を指さした。
「集団安全保障体制の構築を提案したいと思います。名称は『キトグア大陸同盟』」
「集団安全保障…」
国防大臣ソコロフが、興味深そうに身を乗り出した。
「つまり、一国が攻撃されたら、全ての加盟国が共同で防衛するということですか?」
「その通りです。これにより、ワーザルクト帝国のような拡張主義国家を牽制できます」
「しかし、我々にもリスクがあります。同盟国の戦争に巻き込まれる可能性が」
「そのリスクは理解しています」
ヴォルコフは真剣な表情で答えた。
「しかしバラバラの弱小国よりも、団結した同盟の方が長期的には我々の安全保障に資します。そして我々が盟主となることで、無謀な戦争を防げます」
「なるほど…」
「外務省は、各国と交渉を開始してください。目標は、3ヶ月以内の同盟締結です」
「了解しました」
2030年11月1日 ハティリア王国 フォルドン王城 大会議場
3ヶ月後。フォルドン王城の大会議場には、8カ国の代表が集まっていた。
ロシア連邦:ヴォルコフ大統領
ハティリア王国:エルドバラン国王
アルメーン獣人連邦:バーンズ・ウルフィエ大統領
アサヒノ国:ヤシャ・オマツ王
ギッフェア共和国:エレナ・ヴァレンティン大統領
ウィンザリア侯国:アレクサンドロ・ウィンザリア侯爵
ワーサ公国:エキドナード・ヴィクトリア女王
キルサ海洋同盟:オクタビア・ポルフェス大統領
そして、オゼラからもオブザーバーとして代表が参加していた。
「皆様、本日お集まりいただいたのは、我々の共通の脅威について話し合うためです。ワーザルクト帝国は、過去50年間で6つの国を滅ぼしました。そして今や、我々にも牙を向けようとしています」
「その通りだ!」
バーンズ大統領が立ち上がった。
「我々は団結しなければならない!一国ずつでは、帝国に対抗できない!」
「そこで、提案がある」
エルドバランは資料を配布した。
「ロシア連邦の協力の下、我々は軍事同盟を結ぶ。名称は『キトグア大陸同盟』」
「同盟…」
各国代表が資料を読み始めた。
「この同盟の目的は、相互防衛です。一国が攻撃されれば、全ての同盟国がこれを援助する」
「それは良いが…」
ギッフェア共和国のエレナ大統領が質問した。
「ロシアの役割は?」
「我々は、技術と訓練を提供します」
ロシア代表のヴォルコフが答えた。
「そして、必要に応じて、軍事支援も行います」
「その代わりに?」
「各国からの資源供給と、軍事基地の設置許可です」
会議場がざわついた。
「軍事基地だと?」
「はい。しかし、これは侵略のためではありません。同盟国を守るためです」
ヴォルコフは真摯に説明した。
「我々はこの世界で生きていくために、友好国が必要です。そして友好国を守ることが、我々自身の安全にもつながります」
長い議論の末、全ての国が同意した。
「本日、我々はここに、キトグア大陸同盟の設立を宣言する!」
エルドバラン国王が高らかに宣言すると、会場に拍手が湧き起こった。
「キトグア大陸同盟条約」が、全ての代表によって署名された。
主な条約内容
第1条:加盟国は、互いの主権と領土を尊重する
第2条:加盟国のいずれかが武力攻撃を受けた場合、全ての加盟国は集団的自衛権を行使する
第3条:加盟国は、経済協力と技術協力を推進する
第4条:加盟国は、定期的に首脳会議を開催する
第5条:新規加盟には、全加盟国の同意が必要
「これにより、我々は一つとなった!」
ヴォルコフ大統領が演説した。
「我々は、決して他国からの横暴なる要求や侵略を許さない。我々は、平和を守る。我々は、共に繁栄する!」
「同盟万歳!」
「平和万歳!」
会場は、歓喜に包まれた。 この同盟の結成は、キトグア大陸のパワーバランスを劇的に変えた。
ワーザルクト帝国は、もはや容易には侵略できなくなった。 しかし、それは同時に、帝国を追い詰めることにもなった。
追い詰められた帝国が、どのような行動に出るか…それは、まだ誰も予想していなかった。
2031年1月10日 ハティリア王国 全国各地の訓練基地
同盟結成から2ヶ月後。ハティリア王国全土で、大規模な軍事訓練が行われていた。
ロシア軍の教官団約5,000名がハティリア軍約89万名の他、各国から派遣された新兵たちの軍事訓練を担当していた。
レイナス陸軍訓練基地
「前へ!低く!頭を下げろ!」
ロシア軍の教官が叫ぶ中、ハティリア兵たちが泥だらけになりながら匍匐前進していた。
「もっと速く!戦場では遅い奴から死ぬ!」
「目に泥が入ろうが、口の中に糞が入ろうが進むんだ!」
厳しい訓練だった。しかし、兵士たちの目は輝いていた。
彼らは知っていた。この訓練が、自分たちの命を救うことを。
エーンズ砲兵学校
「装填!」
D-30 122mm榴弾砲の訓練が行われていた。 砲弾を装填し、照準を合わせ、発射。
最初は30分かかっていた一連の動作が、訓練を重ねるごとに短縮されていく。
熟練砲兵は、5分以内で射撃準備を完了できるようになっていた。
アルドス航空学校
「高度3,000!速度350!」
アサヒノ国から派遣された訓練生、タケシ・オニカワが、MiG-29戦闘機のシミュレーターで訓練していた。
オーガ族の優れた反射神経と三半規管は、航空機の操縦に適していた。
「よし!今のは良かった!」
ロシア人教官が、満足そうに頷いた。
「お前は才能がある。実機訓練に進んでいいぞ」
「本当ですか!?」
タケシの目が輝いた。
フォルドン海軍基地
「主砲、旋回!」
アルメーン獣人連邦の海軍士官たちが、スラヴァ級ミサイル巡洋艦の操艦訓練を受けていた。
最初は複雑なシステムに戸惑っていた彼らも、徐々に慣れてきていた。
「レーダーに反応!方位120!」
「了解!対艦ミサイル、発射準備!」
訓練は、日々進化していた。
2031年3月5日 ワーザルクト帝国 首都ゾルディア 軍部会議室
「ふざけるな!」
ワーザルクト帝国軍総司令官、ヴァルター・グリムウルフ元帥は拳で机を強く叩いた。
「ハティリアが…我が帝国の半分しか国力しかない国が…なぜ短期間でこれほどの軍備を!?」
「情報によれば、全てロシアからの支援です」
情報部長が恐る恐る答えた。
「彼らは、ハティリアに数万丁の武器、数百両の兵器を供与しています。そしてそのどれもこれもが、我々の想像をはるかに超えた性能を有しています」
「くそっ…!」
ヴァルターは苛立たしげに席に座った。
「それだけではありません」
「まだあるのか!?」
「他の国も同様です。アルメーン、アサヒノ、オゼラ…ケソメン大公国以外の国が全てロシアの支援を受けています。そして、彼らは『キトグア大陸同盟』を結成しました」
「同盟…だと…?」
「はい。8カ国が相互防衛条約を結んでいます。つまり一国を攻撃すれば、全ての国が敵になります」
ヴァルターの顔が青ざめた。一国なら侵略できる。しかし、8カ国全てを相手にするのは…しかも、ロシアの支援を受けた8カ国を。
「…作戦を中止する」
「元帥!?」
「聞こえなかったか!全ての侵攻計画を一時凍結する!」
ヴァルターは苦々しく宣言した。
「今、彼らと戦えば…我が帝国が滅びる」
会議室に重苦しい沈黙が流れた。
同日 皇帝宮殿 謁見の間
「元帥、それは本当か?」
皇帝ラザリウスは、玉座から身を乗り出した。
「はい、陛下。現状では、キトグア大陸同盟との戦争は不可能です」
「ふざけるな!我が帝国は無敵だ!たかが小国の寄せ集めごときに!」
「しかし、陛下!彼らの武器は我々の想像を遥かに上回っています!」
ヴァルターは必死に説明した。
「彼らの銃は、我々のマスケットの10倍の射程と威力を持ちます!彼らの鋼鉄に覆われた兵器は、我々の城壁を紙のように破壊します!彼らの空飛ぶ兵器は、とてつもない速さで空を駆けます!」
「その様な武器や兵器があるはずがない!それこそ、かのレクセイルでも無ければ!」
「で、ですが...」
「ならば元帥、どうするというのだ?この戦争の為に我が国は10年近く軍備増強を続けてきたのだ、レクセイルの支援の下でな…。それを今更、敵が強くなったので中止します等と言ってみろ。それこそ連中は多額の負債を我が国に押し付けてくるぞ!」
皇帝がここまで焦っているのには理由があった。それはレクセイルが支援をする際、帝国は武器や兵器の代金を半分程度しか払えなかったのだ。そこでレクセイル側は戦争によって得られた資源や奴隷の約3分の1を戦後に後納するという取決めを定めたのだ。
それ故に今更になって戦争を中止することは、今の彼には考えられなかった。
「時間を稼ぐしかありません。そして、我々も軍備を強化する必要があります」
「ではレクセイルに更なる支援を要請しろ!彼らの魔導兵器を…!」
「既に打診しておりますが…」
ヴァルターは苦い表情を浮かべた。
「レクセイルも、ロシアの出現を警戒しています。簡単には動かないでしょう」
皇帝は深く息を吐いた。
「…分かった。侵攻計画は今は凍結する。だが、諦めたわけではない。いずれ、必ず…」