ロシア連邦、異世界にて飛躍する   作:兎の助

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第七話:帝国の陰謀

2032年9月3日 ワーザルクト帝国 ブラウンシュタット 帝国兵器廠第7工場

 

秋の冷たい風が吹く中、巨大な石造りの建物から、途切れることのない金属音が響いていた。ブラウンシュタット――帝国本国の北部に位置する工業都市――には、12の兵器廠があった。そして、そのすべてが今、フル稼働していた。

第7工場の外壁には、大きく【皇帝陛下万歳】と書かれた垂れ幕が掲げられていた。しかしその文字は煤で黒ずみところどころ破れているが、誰も修繕する余裕などなかった。

 

工場の門には、重装備の帝国兵が4名立っていた。彼らの仕事は工場を守ることではなく、中にいる者たちが逃げ出さないよう監視することだった。

 

「次の資材搬入だ。門を開けろ」

 

荷馬車が到着した。馬車には鉄鉱石と木材、そして黒色火薬の原料となる硫黄と硝石が積まれていた。

門が開き、馬車が中に入っていくと、その後ろに鎖で繋がれた人々が続いた。

 

約50名。男も女も、老人も若者もいた。全員がぼろぼろの服を着て痩せ細り、目には絶望の色が浮かんでいた。

彼らは、帝国各地から集められた奴隷と犯罪者だった。

 

奴隷――戦争で捕虜となった者、借金を返せなくなった者、あるいは単に帝国に都合が悪いと判断された者。

 

犯罪者――窃盗、詐欺、そして中には「皇帝陛下への不敬罪」という曖昧な罪で捕らえられた者もいた。

 

「さっさと動け!立ち止まるな!」

 

帝国兵が鞭を振るった。革の鞭が、一人の老人の背中を打った。

老人は、悲鳴を上げて倒れた。

 

「立て!立たないなら殺すぞ!」

 

老人は、必死に立ち上がろうとした。しかし、栄養失調と疲労で、脚に力が入らなかった。

 

「ちっ…使えない奴め」

 

兵士は老人を鎖から外すと、そのまま門の外に引きずり出した。

 

「こいつはもう使えん。次を連れて来い」

 

老人は門の外に放置され、そのまま死亡した。数日後、そのまま放置された死体にはカラスや野犬が群がり、骨も残らず食らいつくされた。

 

 

 

工場内部 マスケットライフル製造区画

 

工場の中は、地獄のような光景が広がっていた。 高い天井、石造りの壁。

窓はあるが、ガラスは煤で真っ黒に汚れ、ほとんど光が入らない。代わりに、無数の松明が壁に取り付けられ、揺らめく炎が不気味な影を作り出していた。

 

空気は硫黄と金属の臭い、そして熱で満ちており、呼吸するたびに喉が焼けるようだった。

約200名の奴隷と犯罪者が、ここで働かされていた。彼らの仕事は、マスケットライフルの製造だった。

 

「次の銃身を持ってこい!」

 

職人――帝国の正規の武器職人だが、彼らもまた過酷な労働を強いられていた――が叫んだ。

 

奴隷の一人、20代の若い男が重い鉄の棒を運んできた。彼の両手には、火傷の跡が無数にあった。

 

「これを炉に入れろ。急げ!」

 

巨大な溶鉱炉が、建物の中央にある。炉の中では木炭が勢いよく燃え、恐ろしい熱を発していた。炉の周囲だけは、真夏のように暑かった。

若い男が長い鉄の棒を炉に入れると、熱気が顔を焼いた。自分の眉毛が焦げる臭いがした。

 

数分後、赤く熱された鉄の棒が引き出され、まるで太陽のように輝いていた。

 

「早く引き上げろ!そのまま金床に置け!」

 

鉄が金床に置かれ、複数の職人が巨大なハンマーで鉄を打ち始める。

火花が周囲に複数飛び散った。その内の一つが、近くで作業していた女性奴隷の腕に当たった。

 

女性は短い悲鳴を上げた。しかし、作業は止められない。止まれば鞭が飛んでくる。

彼女は涙をこらえながら、作業を続けた。こうして一本のマスケットライフルの銃身を作るのに、約2時間かかった。

 

そして工場は一日に、約50本の銃身を生産していた。銃床の製造は、別の区画で行われている。

そこでは、木工職人と奴隷たちが、木材を削り、銃床の形に整えていた。

 

鋸を引く音、鉋をかける音。途切れることなく続いた。

 

「もっと速く!ノルマは一日100丁だ!」

 

監督官が叫んだ。しかし一日100丁などという数字は、非現実的だった。どんなに急いでも、精々50丁が限界だった。

それでも、監督官は要求し続けた。そしてノルマを達成できなければ、食事が減らされた。

 

 

 

 

工場内部 黒色火薬製造区画

 

工場の最も危険な区画。それが、黒色火薬の製造区画だった。

ここで働かされているのは、主に犯罪者だった。奴隷よりもさらに価値がないとされる人々。

 

黒色火薬は、硫黄、硝石、木炭を混ぜ合わせて作られる。しかしこの作業は極めて危険で、少しの火花で爆発する。

区画に入るとまず目に入るのは、壁に書かれた警告文だった。

 

「火気厳禁。違反者は即座に処刑」

 

しかし皮肉なことに、この部屋ではロウソクの火が使われていた。他に照明の手段がないからだ。

約30名の犯罪者が、ここで作業していた。

 

彼らは硫黄と硝石と木炭を、正確な比率で混ぜ合わせる作業をしていた。

 

「硫黄15、硝石75、木炭10。間違えるな」

 

監督官が言った。しかし疲労困憊した犯罪者たちが、正確な計量などできるはずがなかった。

一人の中年男性が木製の匙で硝石を掬っていたが、栄養失調と極度の疲労のために手が震えていた。

 

必然的に匙から、少量の硝石が床にこぼれ落ち、男性は慌ててそれを拾おうとした。

 

その時――

 

近くで作業していた別の犯罪者が、疲労で意識を失い倒れた。

彼が持っていた木炭の袋が床に落ち、倒れこんだ先にあったロウソクを巻き込んだ。

 

火の点いたロウソクが落ちた先は、完成した火薬が詰められた袋。

 

次の瞬間――

 

爆発が起きた。閃光と爆音。

倒れた男性と、近くにいた数名が吹き飛ばされた。

 

「火事だ!消火しろ!」

 

監督官が叫んだ。しかし、既に炎が広がり始めていた。

奴隷たちが、必死に水をかけたおかげで、幸いにも大規模な爆発には至らなかった。火は10分ほどで消し止められた。

 

しかし、4名の犠牲者が出た。即死が2名。重傷が2名。

 

「死体を外に運び出せ!負傷者も使えないなら外だ!」

 

帝国兵が、冷酷に命令した。

他の犯罪者たちが、仲間の死体を引きずって外に運んだ。重傷者も同じように運び出された。治療など受けられない彼らは、工場の外でそのまま死ぬのを待つだけだった。

 

「作業を再開しろ!止まるな!」

 

監督官が怒鳴った。残された犯罪者たちは、震える手で再び作業を始めた。

 

床には、まだ血が残っていた。

 

 

 

工場内部 カノン砲製造区画

 

別の区画では、カノン砲の製造が行われていた。

カノン砲はマスケットライフルよりも遥かに大きく、製造も困難だった。

 

砲身を作るには、大量の鉄が必要であり、そして精密な鋳造技術が求められた。

巨大な鋳型が床に並べられ、溶鉱炉で溶かした鉄をこの鋳型に流し込む。

 

「鉄を運べ!」

 

奴隷たちが、巨大な坩堝を運んだ。

坩堝の中には、真っ赤に溶けた鉄が入っていた。重さは約500キログラム。

 

10名の奴隷が、長い棒で坩堝を担いで運んだ。

熱気が凄まじかった。坩堝に近づくだけで皮膚が焼けるように痛んだ。

 

「もっと近づけ!鋳型に流し込むんだ!」

 

監督官が叫んだ。奴隷たちは、必死に坩堝を傾けた。

溶けた鉄が、鋳型に流れ込んでいく。

 

しかし、その時――

 

一人の奴隷が熱と疲労に耐えきれず、脚がもつれバランスを崩した。

 

傾きすぎた坩堝から溶けた鉄が勢いよく流れ、鋳型からあふれ出した。

そして、一人の奴隷の脚にかかった。

 

「ぎゃああああああっ!」

 

凄まじい悲鳴が、工場中に響き渡った。奴隷の脚は一瞬で焼け爛れ、肉が焦げる臭いが辺りに広がった。

 

「馬鹿者!」

 

監督官が、他の奴隷たちに命じた。

 

「こいつを外に運び出せ!そして、作業を続けろ!坩堝を再び炉に!」

 

負傷した奴隷は、仲間たちに引きずられて外に運ばれた。彼の悲鳴はしばらくは続いたが、やがてそれも聞こえなくなった。

作業は、何事もなかったかのように続けられた。

 

一つのカノン砲を作るのに、約1週間かかった。

そして事故で命を落とす者、負傷する者が、毎日のように出た。

 

 

工場内部 バリスタ・投石機製造区画

 

木工区画では、バリスタ(大型弩)と投石機の製造が行われていた。

これらは、カノン砲よりも古い兵器だが、今でもまだ有効的な攻城兵器として帝国軍では利用されている。

 

巨大な木材が工場に運び込まれ、それを奴隷たちが大きな鋸で木材を切断する作業をしていた。

二人一組で、大きな鋸を引く。

 

「引け!押せ!引け!押せ!」

 

リズムを取りながら、鋸を動かす。

しかし栄養失調で筋力が落ちている奴隷たちにとって、この作業は極めて困難だった。

 

一組の奴隷――老年の男性と若い男性――が、巨大な丸太を切っていた。

 

既に3時間、休みなく作業を続けていた。老人の顔は真っ赤になり、汗が滝のように流れていた。呼吸も荒く、肩で息をしている。

 

「もう…無理だ…」

 

老人が鋸を手放し、地面に崩れ落ちる。

 

「おい!立て!」

 

監督官が駆けつけた。しかし老人はピクリとも動かなかった。過労死だった。

 

「くそっ…また一人か」

 

監督官は、舌打ちをした。

 

「おい、こいつを外に運び出せ。そして、お前は別の奴と組んで作業を続けろ」

 

若い男性は涙を浮かべながら、老人の死体を引きずって外に運んだ。

工場の外には、既に十数体の死体が積まれていた。

 

夕方になれば、まとめて埋葬される。いや、埋葬というよりも、ただ穴の中に放り込まれるだけだった。

 

 

2032年9月15日 午後6時00分 工場の外 奴隷収容所

 

一日の作業が終わると、奴隷たちは工場の隣にある収容所に戻された。

 

収容所は高い木の柵で囲まれ、その中には粗末な小屋が立ち並ぶだけの質素なものだった。

柵の端には見張り小屋が立てられ、逃げようとするものはクロスボウの餌食となる。

 

そんな場所に約500名の奴隷が、押し込められ生活していた。

彼らに与えられる食事は、一日二回。黒パン一切れと、味の薄いスープだけ。肉や野菜なんてものは当然ながら入っていない。

 

栄養は全く足りない。多くの者が、日に日に痩せていった。

 

「配給だ。列を作れ」

 

帝国兵が大きな鍋を持ってくると、奴隷たちは疲れた足取りで列を作った。

一人ずつパンも一切れと木の椀にスープを受け取っていく。

 

ある若い女性が、スープを受け取った。しかしあまりにも疲れており、手が震えていた。

そして椀を掴み切れず、地面に落としてしまった。落ちた椀からスープが飛び出し、地面にこぼれた。

 

「あ…」

 

女性は、呆然と地面を見つめた。

 

「次!」

 

帝国兵は、容赦なく次の者にスープを配った。

女性は泣きながら、地面にこぼれたスープを手ですくって飲もうとした。

 

しかし、ほとんどが土に染み込んでいた。

彼女は、その夜、飢えと絶望の中で眠りについた。

 

 

娯楽などもちろん無いので、食事を終えると奴隷たちはそのまま眠るしかない。9月末の夜は冷え込むが、奴隷たちに与えられるのは薄っぺらい毛布一枚のみ。もちろんベッドなどもない。

彼らは互いに寄り添って、寒さをしのいだ。

 

「いつまで…こんな日が続くのだろうか…」

 

一人の中年男性が、小さく呟いた。

 

「分からない…でも、もう長くは持たない…」

 

隣にいた若者が答えた。

 

「俺はペレンゾで暮らしてたんだ。村ではみな平和に暮らしていた。それがある日突然、戦争が起きて帝国兵が村にやって来た。そして村人を奴隷として連れ去った…」

 

「俺は借金を返せなくて、奴隷にされた。たった10ゴールドの借金だ…普通なら、働けば返せる額だった…でも、病気で働けなくなって…」

 

それぞれが、自分の境遇を語った。

しかしどの話も、不条理と絶望に満ちていた。

 

「隣のハティリアとロシアという国に、帝国が戦争を仕掛けるらしい」

 

一人が、噂話を始めた。

 

「本当か?」

 

「帝国兵が噂話しているのを聞いた。ロシアは、強力な武器を持っているらしい」

 

「もし…ロシアが勝てば…俺たちは…」

 

「自由になれるかもしれない…」

 

小さな希望が、彼らの心に灯った。

しかしそれが実現する前に、多くの者が命を落とすことになる。

 

 

 

 

 

2032年9月20日 ワーザルクト帝国 ゾルディア郊外 帝国陸軍第3訓練場

 

首都ゾルディアの郊外には、広大な軍事訓練場があった。ここでは帝国軍の兵士たちが、日々訓練を重ねていた。

開戦が近いことは、兵士たちも感じていた。通常の訓練よりも、遥かに厳しい訓練が課されていた。

 

訓練場には、約5000名の歩兵が集まっていた。彼らはそれぞれの部隊に分かれて、様々な訓練を行っていた。

 

 

剣術訓練区画

 

「構え!」

 

訓練教官の声が響いた。約500名の兵士が、一斉に剣を構えた。

 

帝国軍の標準的な剣――全長約90センチの片手剣――を右手に持ち、左手には木製の盾を持つ。

 

「突け!」

 

兵士たちが、一斉に剣を突き出した。

 

「引け!」

 

剣を引く。

 

「斬れ!」

 

横薙ぎに剣を振る。

 

この基本動作を、一日に何百回も繰り返す。兵士たちの額には大粒の汗が流れていた。

しかし、教官は容赦しなかった。

 

「まだまだ遅い!敵はお前たちを待ってくれないぞ!もっと速く!」

 

訓練は、その後2時間続いた。多くの兵士が腕の筋肉が痙攣し、剣を握る手が震えていた。

 

 

槍術訓練区画

 

別の区画では槍術の訓練が行われていた。帝国軍の槍は、全長約2メートル。長い木の柄の先端に、鉄の穂先がついている。

 

「隊列を組め!」

 

兵士たちが密集隊形を作ると、前列が槍を構え、後列が支える。

 

「前進!」

 

隊列が、一斉に前に進んだ。槍の穂先が、一直線に並ぶ。

 

「突け!」

 

全員が、槍を前へと突き出した。これは、騎兵突撃を防ぐための訓練だった。密集隊形で槍を構えれば、馬は簡単には突っ込んでこられない。

しかしこの戦術は、銃器の時代には既に時代遅れだった。密集隊形は、銃撃や砲撃の格好の標的となる。

 

だが帝国軍はこの訓練を続けていた。まさか自分たちより優れた銃火器(AKM)をハティリアが既に標準装備化しているなど、末端の兵士達は思いもしなかったからだ。

 

 

射撃訓練区画 - マスケットライフル

 

射撃訓練場では、マスケットライフルの訓練が行われていた。約300名の兵士が、射撃訓練を受けている。

マスケットライフルは、帝国軍の中では最新の武器だった。しかしその性能は、ロシア軍の銃火器(AK-74M)とは比べものにならない。

 

「装填!」

 

教官が命令すると、兵士たちがマスケットライフルに弾を込め始めた。

 

まず火薬を銃口から注ぎ入れ、次に鉛の弾丸を入れる。

そして鉄の棒で奥まで押し込み、最後に火皿に火薬を少量置く。

 

この一連の動作に、約30秒程かかった。

 

「構え!」

 

兵士たちが、銃を構えた。

 

約100メートル先に、人型の的が立てられていた。

 

「放て!」

 

300丁のマスケットライフルが、一斉に発砲された。

黒色火薬の白煙が訓練場を覆い、轟音が辺りに響いた。

 

しかし的を確認すると、当たったのは約80発だけだった。命中率は約27%。しかも、これは静止した的に対してだった。実戦では敵は早く動く為、命中率はさらに下がるだろう。

 

「再装填!急げ!」

 

しかし兵士たちの手は、既に震えていた。黒色火薬の反動で、肩が痛んでいた。

 

 

弓術訓練区画

 

マスケットライフルよりも伝統的な武器、弓やクロスボウも未だに帝国軍では使用されている。約200名の弓兵が、訓練を受けていた。

 

帝国の弓は、全長約1.5メートルの長弓だった。有効射程:約150メートル 熟練兵の発射速度:毎分約10発

 

実はある面では弓の方がマスケットライフルよりも優れていた。射程が長く上に発射速度も速く、そして静かだった。

しかし、弓やクロスボウには欠点もある。訓練に時間がかかることだ。熟練の弓兵を育てるには、数年もの月日がかかる。

 

それこそ幼少の時から訓練している者も少なくはない。

 

「放て!」

 

号令がかかり200本の矢が、一斉に放たれた。矢は美しい放物線を描いて飛んでいき、次々と的に命中した。

命中率は、約60%。マスケットライフルよりも遥かに高かった。

 

 

 

 

訓練の合間 - 兵士たちの会話

 

午後の休憩時間。兵士たちは、訓練場の隅で休んでいた。

水を飲み、黒パンと乾燥肉をかじりながら、雑談をしていた。

 

「なあ、聞いたか?今度はハティリア王国以外に、ロシアっていう国と戦争するらしいぞ」

 

一人の若い兵士が言った。

 

「ああ、聞いた。でも、ロシアってどこにあるんだ?」

 

「知らん。でも小さな国って噂らしい」

 

「小さな国なら、すぐに征服できるだろう」

 

「そうだな。我が帝国は無敵だ」

 

しかし一人のやや年配の兵士が、不安そうに言った。

 

「でも…噂では、ロシアは凄い武器を持っているらしいぞ」

 

「凄い武器?」

 

「ああ。鉄の馬車みたいなもので、大砲を撃ちながら進むらしい」

 

「魔法か?」

 

「いや、魔法じゃないらしい。それに、空を物凄い速さで飛ぶ鉄の鳥もいるって噂だ」

 

「空を飛ぶ?ワイバーンのことか?」

 

「いや、ワイバーンじゃない。鉄でできた、人が乗れる鳥だ」

 

「馬鹿な…そんなものがあるわけない」

 

若い兵士が笑った。しかし、年配の兵士は真剣な顔で続けた。

 

「俺の知り合いが国境付近の村にいるんだ。そいつからこの前、手紙が来た。ロシア軍を見たことがあるらしい。緑色の細かい(まだら)模様の服を着てるらしい。そして、こう書いてあった。『あれは人間の軍隊じゃない。悪魔の軍隊だ』って…」

 

一瞬、沈黙が流れた。

 

「…お、おい、変なこと言うなよ。俺たちはこの大陸最強の軍隊だ。どんな敵でも倒せる」

 

若い兵士が、強がって言った。

 

「そうだといいがな…でも、本当に勝てるのかな…?」

 

年配の兵士は、まだ不安そうだった。

 

その瞬間――

 

「何を弱気なことを言っている!」

 

背後から怒声が響いた。兵士たちが声に驚き、一斉に振り向くと彼らの連隊長が立っていた。

50代の厳格な軍人で、数々の戦争を経験してきた歴戦の勇士だった。

 

「貴様ら!今、何と言った!」

 

連隊長は、年配の兵士を睨みつけた。

 

「す、すみません!」

 

兵士は、慌てて敬礼した。

 

「我が帝国軍は、この大陸最強だ!ロシアなどという聞いたこともない小国に、負けるわけがない!」

 

「は、はい!」

 

「貴様らは、帝国の兵士だ!誇りを持て!そして、勝利を確信しろ!疑念など、敵を利するだけだ!」

 

「申し訳ございません!」

 

全員が、深く頭を下げた。

 

「よし。休憩は終わりだ。訓練を再開する!」

 

兵士たちは、再び訓練場に戻った。しかし、心の奥底では、不安が消えなかった。

 

本当に、勝てるのだろうか?…と

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