ロシア連邦、異世界にて飛躍する   作:兎の助

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第十話:死闘 ☆

 

 

午前8時30分 帝国軍 北部方面軍指揮所

 

国境線各地で激しい戦闘が繰り広げられている中、丘の上の帝国軍北部方面指揮所ではアルフレッド皇子が参謀や各部隊の将軍たちと盤上の地図を見ながら戦局の報告を待っていた。

するとその時、背中に伝令の旗指物を付けた兵士が汗を流しながら指揮所に駆け込んできた。

 

「皇子殿下殿に先遣攻撃隊からご報告いたします!第一次攻撃はワイバーン部隊、約200騎が撃墜!第一大隊と第二大隊の歩兵、約一万二千の損害を出し、要塞への取り付きに失敗しました!」

 

「なんだと…?まだ二時間程しか経っていないのにか?」

 

「はい…敵の火力が、予想を遥かに上回っております」

 

アルフレッド皇子は、その報告を聞いて眉をひそめた。そして指揮所を出ると、将軍たちと共に望遠鏡で戦場を見渡した。遠方では爆発や銃撃戦が行われており、既に要塞周辺の野原だった場所は爆発で地面がめくれあがり黒くなっている。

 

「なんと恐ろしい光景だ…」

 

副官の呟きが耳に入ったアルフレッドは、歯を食いしばった。彼は勝利を確信し慢心する他の将軍たちと違い、未知の技術を持つロシアを警戒していた。しかし実際に目の当たりにすると、自身の想像のはるか上を行く光景が広がっている。

戦術の天才と称えられてきた彼のプライドが傷つけられた瞬間であった。

 

「皇子殿下、如何いたしますか?第三大隊を投入致しますか?」

 

「…ベルザード要塞の方はどうなっている?」

 

「先ほど竜騎兵からの伝令で、ベルンハルト殿下は既に魔獣部隊を投入したとの報告が上がっております。ですがあちらの方も予想以上の抵抗で損害が増えていると…」

 

「なるほど…よし、こちらは第一攻城部隊と魔獣部隊を投入しろ!それから…ワイバーン部隊も追加投入する。数は1,000騎!」

 

「しかし殿下!既に200騎も失っておりますが…」

 

「構わん!空から圧力をかければ、地上の守備も手薄になる!この際、多少の損害には目を瞑る!」

 

「…かしこまりました」

 

 

 

 

午前8時45分 ヴォロヴェツ要塞

 

アルフレッドの命令で再編成された攻撃部隊による第二波攻撃が開始された。

しかし今度の帝国軍は、別の戦術で攻め方を変えてきた。

 

「何だ…あれ…」

 

城壁の見張りが前方を指さすと、帝国軍の後方から無数の兵士が巨大な武器を運んでくる光景が見えた。運ばれてきたそれは、弓だった。

しかし通常の手持ちできる弓ではない。2メートルを超える巨大な弓を三脚に固定し、複数の兵士で操作する重弩(バリスタ)だった。

 

その数、約2,000基。

 

全弩(ぜんど)、装填完了後、一斉射撃!弓兵隊は布陣を急げ!!」

 

帝国軍の指揮官が命令すると、重弩の前には通常の弓を装備した弓兵隊が並び始める。その数は約4,000名。

弩兵たちは力を合わせて巻き上げ機を使い、弩の弦を引く。そして手の平ほどの大きさがある鉄の矢じりを付けた巨大な矢を装填。そして…

 

「狙え!」

 

4,000名の弓兵と2,000基全ての重弩が、一斉に要塞に向けて狙いをつける。その光景は、まるで鎌首をもたげる蛇の群れのようであった。

 

「放てぇ!!」

 

指揮官が命令すると直後に6,000本もの矢が同時に放たれた。放たれた矢によって空が覆われ、一気に暗くなる。

矢は放物線を描いて飛んでいき、要塞に目掛けて雨のように降り注いだ。

 

「まずい!伏せろぉ!!」

 

城壁上の兵士たちは慌てて身を隠すが、対空砲や榴弾砲を操作していた兵士や射撃に集中していた兵士など、間に合わなかった兵士たちを矢が貫いていく。

 

「ぐあっ!」

 

「ぎゃああああっ!」

 

例え最新のボディアーマーやヘルメットを着用していたとしても、自由落下にて加速した矢を防ぐことはできず、数十名の兵士が矢に貫かれて倒れていった。

 

「第二射の装填を急げ!弓兵隊はそのまま続けて撃ち続けろ!!」

 

帝国軍は再び弩の装填を開始し、弓兵隊がそれを援護するように矢を放つ。

弩による飽和攻撃に、要塞の守備隊は大きな被害を受ける。

 

「くそっ!弩を破壊しろ!」

 

指揮官が叫んだその時、新たな報告が入った。

 

「報告!敵ワイバーン部隊、再び接近!今度は…1,000騎以上!それと正面に帝国軍の魔獣部隊です!!」

 

「何だと!?」

 

空が再び黒く染まった。今度は先ほどの倍の数のワイバーン部隊が要塞に向けて飛来していた。

更にはそれに合わせて森の中から魔獣部隊も出現。要塞は弩の飽和攻撃とワイバーンによる空襲。更には魔獣部隊による三つの攻撃を同時に受けることになった。

 

ベルザード要塞にも出現したジャイアントオークとトロール、そして地竜(ランドドラッヘ)。その数、合計で約100体。おまけにその後ろには魔獣を盾に帝国軍の歩兵部隊も追従している。

エドワード将軍は歯を食いしばった。このままでは守備隊が壊滅してしまう。彼は通信兵に後方の砲撃陣地に支援を要請した。

 

「くそっ!まずは弩を破壊しなければ…!ロシア軍の砲兵部隊に連絡!敵重弩陣地への集中砲火を要請する!奴らを吹っ飛ばせ!」

 

「了解!」

 

 

 

 

同時刻 ヴォロヴェツ要塞 後方砲兵陣地

 

要塞の約2キロメートル後方に展開していたロシア軍の砲兵部隊に、緊急の射撃要請が届いた。

 

「全砲、射撃準備!目標、帝国軍の重弩陣地!」

 

ロシア軍砲兵隊長、ドミトリー・ソコロフ大尉が命令した。

 

彼の指揮下には、2S19ムスタ152mm自走榴弾砲6両が配置されていた。

2S19ムスタはロシア軍の主力自走榴弾砲。152mm砲を搭載し、最大射程は約25キロメートルにも及ぶ。自動装填装置により毎分8発の発射が可能で、何より高精度のデジタル射撃統制システムを搭載していた。

 

砲手が座標を入力するとデジタル射撃統制システムが風向・気温・湿度・砲弾の種類など、あらゆる要素を計算して最適な射撃諸元を算出する。

自動装填装置が152mm榴弾を砲身に装填。圧倒的な暴力装置が今、牙を剥こうとしていた。

 

「座標入力完了!」

 

「装填完了!」

 

「全砲、射撃用意!」

 

6両のムスタが、砲身を僅かに調整した。油圧システムが滑らかに作動し、砲身が正確な角度に固定される。

 

「撃て!!」

 

ドミトリー大尉が命令した瞬間、6両のムスタが一斉に火を噴いた。

152mm榴弾が轟音と共に発射され砲口から巨大な火炎が噴き出し、自走砲の車体が反動で僅かに後退する。

 

6発の砲弾が、放物線を描いて空を飛ぶ。

 

「次弾装填!連続射撃!」

 

ムスタの自動装填装置が、間髪入れず次の砲弾を装填する。その時間、わずか7秒。完了次第、再び発射。

 

6発、また6発、さらに6発。

わずか1分の間に、24発の砲弾が帝国軍の弩陣地に向かって飛んでいった。

 

 

 

 

同時刻 帝国軍 重弩陣地

 

「第三射、装填!」

 

帝国軍の弩兵たちは、再び弩を装填していた。

彼らは城壁からの砲撃を警戒していた。しかし城壁に設置された大砲(D-30)は数が少なく、分散配置された弩陣地を全て破壊することは不可能だと考えていた。

 

「装填完了!狙え!」

 

弩兵隊長が再び発射の命令を出そうとしていたその瞬間、空から奇妙な音が聞こえてきた。

弩兵たちは、思わず空を見上げた。そして、次の瞬間…地獄が訪れた。

 

最初の152mm榴弾が、弩陣地の中央に着弾。巨大な爆発が兵士たちと弩を多数巻き込む。

爆風が半径30メートルの範囲を薙ぎ払う。弩が吹き飛ばされ、兵士たちがまるで木の葉のように宙を舞う。

 

だがそれは、まだほんの始まりに過ぎなかった。

次々と榴弾が着弾。152mm榴弾がまるで暴風雨のように降り注ぎ、爆発が連鎖する。

 

一つの爆発が隣の弩を吹き飛ばし、その破片がさらに別の兵士を傷つける。弩兵たちは突然の事態にただ逃げ惑うしかない。だが逃げる場所はない。

砲弾は正確に弩陣地全体を覆うように着弾していた。ロシア軍の射撃統制システムが計算した、完璧な弾幕射撃だった。

 

「ひいいいっ!」

 

「助けてくれえええっ!」

 

弩兵の一人が命乞いの言葉を叫ぶが、爆発に巻き込まれ搔き消える。体は引き裂かれ、四肢と内臓が辺りに飛び散る。

別の弩兵は破片に貫かれ、声すら上げることなく倒れた。わずか1分間の砲撃で2,000基あった重弩の内、約800基が破壊され、約2,000名の弩兵が死傷。4,000人もいた弓兵も半数近くが吹き飛んで地面の一部と化した。

 

 

 

 

ヴォロヴェツ要塞 城壁

 

「見ろ!敵の弩陣地が!」

 

城壁の兵士たちが、歓声を上げた。

帝国軍の弩陣地が、次々と爆発している。その光景はまるで地面から火山が噴火しているかのようだった。

 

「やった!ロシア軍の砲撃支援だ!」

 

「流石だ!ざまぁみろ帝国軍め!」

 

「馬鹿もん!喜んでいる暇があるなら、あの魔獣どもを何とかしろ!」

 

歓喜する王国軍の兵士たちだが、これは三つあるうちの脅威が一つ減ったに過ぎない。

この間にも魔獣部隊はジリジリと距離を詰め、ワイバーン部隊は空中から攻撃を加えている。

 

兵士たちはD-30やRPGで魔獣部隊を倒していくが、ここで一体のトロールが驚くべき行動に出た。

なんと倒れたジャイアントオークや地竜の死体を担ぎ上げ、それを盾代わりにして前進し始めたのだ。

 

「な…なんてことだ…」

 

トロールは死体を盾にして攻撃を防ぎながら、更に距離を詰めてくる。

 

「RPGで狙え!」

 

RPG-7を発射するものの、ロケット弾は死体の盾に命中してトロールには届かない。

 

「くそっ!」

 

そしてトロールが、城壁に到達。その怪力で城壁に掴みかかりしゃがむと、帝国兵士たちはその背中に取り付けられた縄梯子を登り始めた。

 

「城壁に登ってくるぞ!阻止しろ!」

 

兵士たちがトロールに向けて銃を撃ち続ける。だが固い皮膚と驚異的な再生能力を持つトロールには銃弾程度で致命傷を与えることはできず、その間にも敵兵は着実に登ってくる。

そして最初の兵士が城壁上に降り立った。

 

「ゲルハルト・シュトラウス、一番乗り!!雑魚では相手にならん!!誰ぞ私と戦う者はいないか!?」

 

「いるぞぉ!!」

 

その声に応じたのはアルトハイム准将であった。彼は腰のサーベルを引き抜くと距離を一気に詰め、足で押し倒して首を切り裂いた。

 

「なっ!?ぐっ…ぎゃあ!!」

 

「臆するな!二人一組で打って出ろ!!目だ!トロールの目を狙え!!」

 

王国軍は反撃を続けた。AKMの銃声が、途切れることなく要塞中に響き渡る。

 

 

 

 

午前9時00分

 

魔獣部隊とワイバーンの空襲による波状攻撃は、既に1時間以上続いていた。

ロシア軍・ハティリア王国軍合わせて8,500名もいた要塞の守備隊は、現時点で既に約800名近い死傷者を出しており、要塞内に備蓄してあった弾薬類も徐々に減り始めていた。

 

「現在の状況は?」

 

エドワード将軍が、指令室で将校に尋ねた。

 

「弾薬及び砲弾の備蓄は残り50%を切りました…。死傷者の数は既に800名、その内死亡したのは400名ほどです」

 

「まずいな…」

 

エドワードは、額の汗を拭った。

 

「ロシア軍の到着まで、あとどれくらいだ?」

 

「約3時間と予想されます!」

 

「3時間…それまで持ちこたえられるか…」

 

 

 

 

午前9時30分

 

要塞は絶望的な状況に陥っていた。弾薬は減り続け、逆に損害は増え続けていく。

そして、帝国軍は次々と物量に任せて新手を投入してくる。このままでは陥落する…要塞の兵士たちがそう思い始めたその時、奇妙な音が聞こえてきた。

 

バラバラバラバラバラ…

 

「な…なんだ…?」

 

戦場に響く聞き覚えのない音。それはヘリコプターのローター音。

要塞の後方、空の彼方から4機の攻撃ヘリが飛来してきた。それはアルゴスタ空軍基地から飛び立ったMi-24攻撃ヘリであった。

 

『こちらモシン2-1。地上部隊到着までの間、君たちを援護する。目標を指示してくれ』

 

「救援感謝する!要塞の周りにいる奴らは全員敵だ!全て吹き飛ばしてくれ!!」

 

『了解。これより攻撃を開始する。後ろのガンナー、聞こえたな?デカい奴は我々で叩くから、歩兵部隊はそのAGS-30で片付けてくれ』

 

Mi-24のパイロットが、無線で後ろの兵員室にいるサブガンナーに連絡する。

今回の作戦に合わせて火力向上の為、兵員室に自動擲弾銃のAGS-30を搭載していた。

 

サブガンナーは装填レバーをガチャガチャと何度か引いて30x29mm弾を装填すると、眼下の歩兵に向けて引き金を引いた。

ポンポンポンと軽い音が響くが、そんな気の抜けた音とは対照的に着弾した箇所には連続して爆発が巻き起こる。

 

「ぎゃあ!!」

 

「ひ…ひいいいっ!」

 

「お、俺は死にたくない!」

 

攻撃ヘリの編隊は要塞の上空を通過し、帝国軍の隊列に向けてS-8ロケットと12.7mm機銃を発射。

80mm非誘導ロケット弾が次々と地上に降り注ぎ隊列を丸ごと吹き飛ばした後、機銃の弾丸が生き残った兵士たちを次々と薙ぎ倒していく。

 

メインガンナーは次に9K114(シュトゥールム)対戦車ミサイルをトロールに向けて発射。ミサイルは誘導され着弾し、登っていた兵士ごと背中の肉と脊髄を吹き飛ばす。トロールは突然の激痛に絶叫し、やがて城壁から手を放して崩れ落ちていった。

 

「な、何だあれは!?」

 

「空飛ぶ箱舟が、火を吹いている!」

 

帝国軍の兵士たちは、初めて見るヘリコプターにパニックに陥った。

彼らにとって、それは理解を超えた存在だった。翼もないのに空を飛び、恐ろしい火力を持つ金属の怪物。

 

「隊列を崩すな!城壁まで走れ!!」

 

帝国軍の指揮官は叫ぶものの、未知の存在からの攻撃は部隊全体に混乱を招き、兵士たちは我先にと逃げ出そうと隊列が崩れていった。

 

 

 

 

午前10時00分 帝国軍 北部方面軍指揮所

 

「報告!前線から緊急連絡!敵の空飛ぶ箱舟が現れて、我が軍を攻撃しています!」

 

伝令兵が、息を切らせながら報告した。

 

「なに!?空飛ぶ箱舟だと!?」

 

アルフレッド皇子は、再び望遠鏡で前線を観察する。

空を飛ぶ、奇妙な金属の物体。上部の羽を高速で回転させながら、縦横無尽に飛び回り、地上に火を吐く。

 

「あれが…ロシアの兵器…」

 

アルフレッドは、初めて恐怖を感じた。当然ながら彼は今まで、あのような兵器を見たことは無かった。彼の頭の中には純粋に恐怖と疑問が湧いた。どんな歴史を歩めば、あのような人殺しに特化した兵器を生み出そうという事態になったのか。あのレベルに至るまで、一体どれほどの戦いを繰り広げ、研究を重ねたのか、と…

 

しかし、彼はまだ諦めていなかった。

 

「前線の状況は!?」

 

「甚大な被害は受けましたが一部の部隊が城壁に取り付きつつあるとの報告があります!それと敵の攻撃は散発的なものになりつつあるので、恐らくは矢弾が尽きかけていると推測します!」

 

「なら追加の部隊を投入しろ!数に物を言わせて要塞に押し入れ!!もう少しで堕とせるぞ!!」

 

「はっ!!」

 

 

 

 

午前10時30分 ヴォロヴェツ要塞指令室

 

攻撃ヘリの援護により要塞はようやく一息つくことができたものの、状況は依然として厳しかった。

 

「弾薬の残量は!?」

 

「残り約20%を切りました!」

 

「もう…ほとんどない…」

 

エドワード将軍は唇を噛んだ。だが敵は待ってはくれない。

その時、帝国軍の第三次攻撃が始まった。トロールの大群が再び死体を盾にしながら城壁に向かってくる。その数は約20体。

 

指令室の外からは兵士たちの怒号と銃声が入り混じって聞こえてくる。

 

「将軍…」

 

「アルトハイム准将…いざとなったら、君は負傷者を連れて後方へ下がれ。上手くいけばロシア軍と合流できるだろう。殿は私が勤める…」

 

「将軍…貴方がそう言うと思って既に部下たちには話してあります…」

 

「そうか…」

 

エドワード将軍はそう呟くと、テーブルの上の揺れ動くロウソクを見続けていた。

だがアルトハイムの次の言葉に彼は動揺する。

 

「しかし、私を含め全員が後方へ下がることを拒否しております!」

 

「な、何故だ!?」

 

「ここにいるのは全員家族のようなものです。家族を置いて逃げることなど、私にはできません。皆も同じ気持ちです。それに貴方は仰ったではないですか、『決して一歩も引くな』と」

 

「そ、それは…」

 

「戦いましょう、最期の最期まで。醜く足搔いて敵に一矢報いましょう!」

 

「…分かった…すまない、准将。地獄への道行き、付き合ってもらうぞ」

 

 

 

 

「撃て!撃ちまくれ!」

 

兵士たちは残り少ない弾薬を使って応戦するが、無情にも弾薬は尽きていく。

AKMの弾倉が空になり、兵士たちは新しい弾倉を装填しようと弾薬ポーチに手を伸ばす。だが虚空を掴むだけで、肝心の弾倉はもうない。

 

「クソッ!弾切れだ!」

 

「チクショウ、俺もだ!」

 

「誰か弾をよこせ!早く!!」

 

「今撃ってるので最後だよ!!」

 

「最後の弾倉だ!大事に使え!!」

 

「どうする!?」

 

「砲弾の空薬莢でも石でもいい!何でもいいから投げつけるんだ!」

 

兵士たちは使用済みの砲弾の空薬莢や城壁の瓦礫を拾い上げ、梯子で登ってくる帝国兵に向かって投げ落とした。

重い空薬莢が兵士の頭に命中し、兵士が真下に向かって落ちて頭を潰した。だがそれでは間に合わない程、敵兵は次々と登ってくる。

 

「くそっ!数が多すぎる!!」

 

「これじゃ埒が明かん!」

 

「着剣!白兵戦準備!」

 

兵士たちはAKMに銃剣を取り付け、そして帝国兵が城壁に登り切った次の瞬間、銃剣で突き刺した。

それ以外にも軍用円匙を勢いよく振り下ろし、帝国兵の頭をかち割る兵士もいる。

 

「ぐぎゃっ?」

 

円匙が深々と頭に突き刺さった兵士は間抜けな声を上げ、自分が今どうなったのか分からないまま絶命した。

帝国兵と王国軍及びロシア軍による血で血を洗うような激しい白兵戦が始まった。

 

ある者は銃剣付きAKMで槍兵と突きあい、ある者は円匙でサーベルと切りあう。

またある者は被っていたヘルメットを帝国兵の顔面に向かって何度も叩きつけ、ある者に至っては拳で殴りあっている。

 

やがて城壁の上は両軍の兵士の屍で埋め尽くされ、零れ落ちた死体が城壁上から滑り落ちていく。

それでも帝国軍の波は止まらない。200万を超える軍隊は伊達ではなかった。

 

「将軍!もう限界です!」

 

アルトハイム准将が、エドワード将軍に叫んだ。

 

「分かっている!」

 

エドワードはサーベルで切りあいながら腰のホルスターからトカレフ自動拳銃を引き抜き、アルトハイム准将もサーベルとトカレフ拳銃で応戦している。

 

「准将!最期まで共に戦うぞ!!」

 

「はい!」

 

二人が覚悟を決めた次の瞬間、空の彼方から新たな音が聞こえてきた。

 

空を切り裂くジェットエンジンの轟音。ロシア空軍のSu-25攻撃機の編隊が要塞の上空に現れた。その数、12機。

 

『こちらグラッハ1-1、要塞と敵目標を視認。これより空爆を開始する』

 

Su-25は30mm機関砲を発射しながら、帝国軍の陣地に向かって急降下を開始。機関砲の弾丸が地上の帝国軍をまるで刈り取られる雑草のように次々と薙ぎ払っていく。

さらにはS-8無誘導ロケット弾を発射。80mmロケット弾が地上に降り注ぎ、爆発が連続する。

 

ロケットポッド一つで20発、それがSu-25の両翼に4つずつ。それが12機分、合計で1,920発分のロケット弾が帝国軍に束となって襲い掛かった。

歩兵も弓兵も、騎兵も弩兵も、魔獣も魔術師も、皆等しく平等にその命が吹き飛ばされていく。

 

そして要塞の後方、地平線の彼方から新たな轟音が聞こえてきた。

 

戦車のエンジン音が戦場に轟く。アルゴスタ空軍基地から出発したロシア軍の地上部隊が、ようやく到着したのだ。

T-90A戦車の隊列が土煙を上げながら要塞に接近してくる。

T-90A主力戦車5両、T-80BVM戦車10両、そしてBMP-2やBMP-3にBTR-82等の装甲車が30両の大部隊が要塞周辺に展開していく。

 

「全車展開!目標、帝国軍部隊!各車、射撃開始!」

 

「敵歩兵集団、12時方向、距離1,000メートル。榴弾装填、次弾も同じ!」

 

「主砲、撃てぇ!!」

 

125mm滑腔砲が、一斉に火を噴いた。榴弾が帝国軍の陣地や隊列に着弾し、巨大な爆発が起きる。

爆発の衝撃波が兵士たちを軽々と吹き飛ばし、破片が四方八方に飛び散って兵士の身体を傷つけていく。一発の砲弾で、半径20メートル以内の敵兵が無力化された。

 

砲塔上部の12.7mm重機関銃と7.62mm同軸機銃も同時に射撃を開始。弾丸は身に着けている防具もろとも紙切れのように貫き、撃たれた兵士たちはバタバタとその場に倒れていく。

 

【挿絵表示】

 

 

帝国軍は完全にパニックに陥り、そして――

 

「た…退却!退却だ!!」

 

「逃げろぉ!皆逃げるんだぁ!!」

 

帝国軍の歩兵部隊は、瞬く間に壊滅状態に陥った。密集陣形を取っていた彼らは榴弾の格好の標的だった。前近代的な戦術が、近代兵器の前で無意味であることが証明された瞬間であった。

 

「な、何だあれは…!」

 

アルフレッド皇子は、自らの軍が一方的に虐殺されるのを見て愕然とした。

彼の知る戦争——剣と槍、馬と弓の戦争——は、もはや通用しなかった。戦場は変わった。彼の軍事的才能も、この新しい戦場では意味を持たなかった。

 

アルフレッド皇子も、これ以上の損害を出せなかったのかついに撤退を命じた。

 

「全軍、撤退!体勢を立て直す!!」

 

 

 

 

午前11時30分

 

ロシア軍の到着により、戦況は一変。戦車と歩兵戦闘車が要塞の前面に展開し、帝国軍に向けて砲撃を続けている。

空からはSu-25攻撃機とMi-24攻撃ヘリが帝国軍を追撃。これにより帝国軍ヴォロヴェツ要塞攻撃部隊は、死傷者約3万名を出して撤退した。

 

南のベルザード要塞や他の要塞線にもロシア軍の応援が到着。各地で帝国軍は敗走し、撤退。この要塞戦で帝国軍は、たった5時間余りの戦闘で合計12万近い歩兵と2,000騎に及ぶワイバーン、300体程の魔獣を失うという大損害を出した。

 

これにより戦闘は終結した。城壁の上には、疲れ果てた兵士たちが座り込んで休んでいた。

エドワード将軍とアルトハイム准将の二人も、城壁に寄りかかって息を整えている。

 

「…助かった」

 

「はい…本当に…」

 

「准将…地獄に行き損ねたな。我々は…」

 

「何を言っているんですか、将軍。地獄ならそこに辺り一面広がってますよ…」

 

エドワード将軍が起き上がって周囲を見渡すと、要塞の周辺は砲撃や爆撃によって穴だらけとなり、そこに帝国兵の死体が積み重なる様に多数散らばっていた。

どこを見渡しても死体、死体、死体、死体、死体の山。まさしく地獄絵図である。

 

「確かにこれは…地獄だな…」

 

エドワードは小さく呟いた。

そこにロシア軍の戦車が一両、要塞の中に入ってきた。砲塔のハッチが開き、そこからロシア軍機甲旅団長アントン・グリゴリエフ大佐が顔を出す。

 

「ハティリア軍の諸君、よく戦った!あとは我々に任せろ!!」

 

グリゴリエフ大佐が敬礼すると、エドワード将軍も疲れた体を奮い立たせて敬礼を返した。

 

「よく持ちこたえてくれた、貴殿らの勇気と忍耐に敬意を表します」

 

「いえ、こちらこそ感謝する…もう少し遅かったら我々は全滅していた」

 

「我々は同盟国だ。互いに助け合うのは当然のことです」

 

たった5時間、だがこの戦いを生き抜いた者たちにとっては人生で一番長く感じた5時間であった。

この戦闘でヴォロヴェツ要塞の守備隊は約1,500名、ベルザード要塞と要塞線全体で約3,500名近い損害を出していた。その内ロシア軍の死傷者は300名程。しかし、国境の防衛には成功した。

 

そしてこれはまだ、長い戦争の始まりに過ぎなかった。

 

 

 

 




当初7,000文字くらいだったのに気づいたら16,000文字になっていた…

追加:保存していた文章がダブって変なことになっていたので修正
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