ロシア連邦、異世界にて飛躍する   作:兎の助

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第十五話:シサフィール港奪還作戦 ☆

2032年11月21日 午後9時00分 シサフィール半島 タイフ村

 

シサフィール港に程近いタイフ村では、帝国軍の兵士たちが慌ただしく動き回っていた。

何故なら村のすぐ近くまでアサヒノ国陸軍とオゼラ軍の混成部隊が接近していたからだ。

 

「撤退だ!全員、装備をまとめろ!持ちきれない物は捨てていけ!!」

 

帝国軍の指揮官が、大声で部下たちに命令している。

兵士たちはその命令を聞いて急いで荷物をまとめ、村から撤退する準備を整えている。

 

村人のほとんどが避難するか帝国軍に捕らえられシサフィール港に連れていかれた今、何の戦略的価値もない村に留まり続けるのは自殺行為と考え、帝国軍は早々に占領した村や町を放棄してシサフィール港へ撤退することを決定。

 

同様の光景が、シサフィール半島の各地で繰り広げられていた。この村からも帝国軍は10分とかからずに撤退していった。

その後、無人となった村の中を進みながらオゼラ・アサヒノ国混成部隊が追跡していく。

 

両者の目的地はただ一つ、シサフィール港。

 

 

 

 

2032年11月22日 午後2時00分 シサフィール港

 

ワイバーン部隊による空挺降下が行われる前日、シサフィール港には半島に上陸した帝国軍兵士が約2万人ほど集結していた。

港には帝国海軍の戦列艦やガレオン船、そして輸送船等が約30隻ほど停泊している。

 

しかし、帝国兵全員を脱出させるにはそれだけでは足りなかった。おまけに彼――半島攻略の任を任されている帝国軍の総司令官、カール・フォン・ヴィンター准将は捕らえたエルフは全てネレシア島に連れてくるようグロスマンから別途命令を受けていた。港の倉庫には捕らえられた約3,000人の捕虜が閉じ込められており、全てを港から連れ出すには船も時間も足りない。

 

彼は脱出の時間稼ぎとしてとある作戦を立案していた。

 

「捕虜を盾として利用する」

 

カールは、副官に命令した。

 

「アサヒノ国軍とオゼラ軍に通告する準備をしろ。港の入口に看板を立てる。もし港に接近すれば、すぐさま人質を全員殺すと書け」

 

「はい」

 

副官が部下に命令を出すと、すぐに兵士たちが大きな木の板を用意し、そこに大きな文字で警告文を書き始めた。

 

 

 

 

午後2時30分 シサフィール港から5キロメートル地点

 

アサヒノ国陸軍とオゼラ軍の混成部隊は、港に向かって順調に前進していた。

 

先頭のT-62MV-1戦車の中で、タカハシ少将は双眼鏡で前方を見ている。

その時、港の入口に何かが立てられているのを見つけた。

 

「…あれは何だ?全部隊、停止」

 

タカハシは部隊を停止させると、戦車から降りて看板に歩いていく。

すぐさまカエラン長老も傍に近寄る。

 

二人は前方に立てられた看板に近づき、書かれている内容を読む。

木の板には大きな文字で、こう書かれていた。

 

「これ以上近づくな。我々は港に3,000人の人質を確保している。もし港に接近すれば、人質を全員殺害する――ワーザルクト帝国軍」

 

二人の顔が一気に険しくなった。

 

「3,000人もの…我がオゼラの同胞が…」

 

「全部隊、ここで待機。港への進軍を一時中止する。誰も港には近づくな」

 

「しかし、少将…」

 

部下の一人が言いかけるが、彼はそれを制し、厳しい表情で答えた。

 

「人質がいる以上、うかつに攻撃はできない。我々が港に突入すれば、帝国軍は本当に人質を殺すだろう」

 

「では、どうするのですか?」

 

「…海軍に連絡を取る。海軍に港の封鎖を要請する」

 

タカハシは、無線機を手に取った。

 

 

 

 

午後4時30分 シサフィール港

 

混成部隊が港の入口で立ち往生している時、カール准将は兵士たちに命令していた。

 

「捕虜を船に乗せろ!さっさと乗せるんだ!」

 

倉庫に閉じ込められていた捕虜たちが次々と引き出され、船に押し込まれている。

 

「やめろ!」

 

一人の若いエルフの男性が抵抗するも、そんな彼を帝国兵が殴りつける。

 

「黙ってさっさと乗れ!」

 

エルフの男性は殴られた勢いで地面に倒れるが、すぐさま帝国兵に無理やり起こされて船へと押し込まれた。

同様に他の捕虜たちも、次々と船に乗せられていく。女性、子供、老人問わず。

 

約3,000人の捕虜のうち約2,800人が船に詰め込まれ、残りの約200名は人質役として港の倉庫に残された。

積み込みが完了すると、カール准将は部下に命令した。

 

「よし、出航準備だ。全艦、ネレシア島に向けて出航しろ!」

 

捕虜と兵士達を乗せた帝国海軍の船、約30隻のうち20隻が半島脱出のために出航を始めた。

 

 

 

 

同時刻 シサフィール港沖 15キロメートル

 

水平線の向こうから、艦影が現れる。アサヒノ国海軍の第一艦隊だ。

 

ロシアから供与されたスラヴァ級ミサイル巡洋艦を旗艦とする主力艦隊。

その配下にはソヴレメンヌイ級駆逐艦*11隻に、ウダロイ級駆逐艦*2が2隻とナヌチュカ型コルベットが6隻*3

 

合計10隻の艦隊が、港を封鎖するために展開していた。

 

スラヴァ級ミサイル巡洋艦の旗艦「ツルギ()」の艦橋では、艦隊司令官のヒロタ・サカモト少将が双眼鏡で港を見ていた。

 

「帝国軍の船が、出航準備をしているな」

 

「はい、港にいる数は約30隻程。その内20隻程が湾を出ようとしています」

 

「陸軍からの報告では、人質がその船に乗せられている可能性が高いとのことです」

 

「人質か…」

 

その報告を聞いて彼は、双眼鏡を下ろした。

 

「となるとミサイルは使えないな。市民を巻き込んでしまう」

 

「では、どうしますか?」

 

「主砲と機銃で、マストと帆を破壊する。船の航行能力を奪って、停止させる」

 

ヒロタは、艦隊に命令を下した。

 

「全艦に通達。目標は帝国軍艦船のマストと帆。市民への被害を最小限に抑えるため、船体に対する攻撃は厳禁とする。コルベット各艦は帝国艦隊の前方に展開して進路を塞げ!」

 

艦長の号令で各艦が命令通りに動き始める。

ナヌチュカ型コルベット6隻が、湾の出入り口を包囲するように扇形に展開。港を封鎖した。

 

そして各艦の武装が帝国海軍へと向けられる。「ツルギ」船首のAK-130 130mm連装主砲も、戦列艦のマストに狙いをつける。そして――

 

「各艦、攻撃開始!撃ち~方始め!!」

 

「撃ち~方始め!!」

 

アサヒノ国海軍の攻撃が始まった。

 

 

 

 

 

 

午後4時45分 シサフィール港

 

帝国海軍の船、約20隻が港から出航し始める。

しかしその前方には、アサヒノ国海軍の艦隊が待ち構えていた。

 

「艦長!前方に敵艦隊が!」

 

「構わず突っ切れ!こっちには人質がいるんだ!!連中も撃ってはこれまい!!」

 

だが彼らの予想は外れた。ナヌチュカ型6隻が一斉に砲撃を開始。AK-176から放たれる76mm砲弾が、艦隊の目の前に着水。巨大な水柱を立たせ、船全体を大きく揺らした。

 

「うわぁぁぁ!?」

 

「あ、あいつら!?こっちには人質が乗っているんだぞ!?」

 

続いて「タカオ」のAK-130が火を噴き、砲弾が帝国軍の先頭の戦列艦に向かって飛んでいく。

砲弾は戦列艦のマストに命中し、真っ二つに折れた。

帆が海に落ちて大きな水しぶきが立ち、戦列艦は航行能力を失った。

 

それに続いてソヴレメンヌイ級やウダロイ級も攻撃を開始。130mm主砲が次々と火を噴いて、別の戦列艦のマストが破壊される。

続々と帝国軍の船のマストと帆が折れ、帝国軍の艦隊は航行能力を失い、その場で漂流し始めた。

 

「敵艦はマストのみを破壊してます!!」

 

「そんなもの見ればわかる!」

 

「な…なんて命中精度だ…」

 

「くそっ!反撃しろ!」

 

帝国海軍の指揮官が叫ぶと、戦列艦が反撃を開始。カノン砲が火を噴いた。

しかし圧倒的に射程が足りず、砲弾は次々と海に落ち水しぶきを上げることしかできない。

 

戦列艦の32ポンド砲の有効射程は400m~500m強程度しかないが、ナヌチュカ型は5kmの地点から、その他の艦艇は10kmの距離から砲撃している。当たるわけがない。

 

「艦長!!敵に届きません!」

 

「くそっ!どうすれば…!」

 

そうしている間にも次々と船のマストは破壊されていく。

その時「タカオ」の130mm主砲がまた火を噴き、砲弾がマストに直撃。折れたマストが音を立てて甲板に向かって落ちてくる。

 

「に、逃げろぉ!」

 

艦長が叫んだ。その声を聞いて水兵たちは慌てて逃げようとするも間に合わず、巨大なマストが甲板に倒れ、その下にいた水兵約10名が下敷きになった。

 

「ぐあああああっ!」

 

海の上で悲鳴が響いた。

マストの重さで水兵たちの体が押し潰され、血と内臓が甲板に広がった。

 

別の船でも同様の光景が起きている。

 

「うわああああっ!」

 

「助けてくれ!」

 

こうして港を出航した約20隻のうち15隻が航行能力を失い、進めなくなった船が湾の入り口を塞いでいく。豪華な装飾が施された戦列艦は、今や海の上を漂う置物と化していた。

残りの約5隻はその様子を見て逃げられないと判断し、慌てて港の方へと引き返した。

 

 

 

 

同時刻 シサフィール港

 

港に残っていた帝国軍の兵士たちは、湾の入り口で起きている光景を目撃して驚愕していた。

次々と仲間の船のマストが折れて帆が海に落ちていく。

 

「な、何が起きているんだ!?」

 

「我が軍の船が…!」

 

兵士たちは狼狽した。自分たちの脱出手段が次々と壊され、航行不能になっていく様子をただ見つめることしかできない。

 

「どうすれば…!」

 

「これじゃ逃げ場がない!」

 

兵士たちは、パニックに陥った。

 

その頃、港の倉庫では約200人の捕虜たちが脱出の機会を伺っていた。

倉庫の中で、一人の若い女性エルフが、他の捕虜たちに囁いた。

 

「…今がチャンスよ」

 

倉庫の中にいた捕虜たちは、幸運にも性的暴行や激しい暴力を受けていなかった為、体力や気力が残っていた。

帝国軍はシサフィール半島の攻略に集中していたため、ネレシア島の捕虜と違って彼らを痛めつける時間的余裕が無かったからだ。

 

「外では帝国軍の船が攻撃されて、連中は狼狽えているわ。今、反乱を起こせれば連中は瓦解するはず…」

 

「しかし、武器がないぞ」

 

別の捕虜――シグニー村の村長が言うと、彼女はニヤリと笑った。

 

「武器なら作れるわ。それこそ剣や槍じゃなくても、人は殺せる…」

 

彼女が倉庫の中を見回すと、倉庫には様々な物が置かれていた。

倉庫の奥を探し始めると、そこには様々な道具が山積みになっていた。

 

草刈り鎌や(くわ)(すき)や斧、ピッチフォークといった各種農具に木の板や角材、レンガなどの建築資材。

 

「これよ!これらを使いましょう!」

 

彼女が草刈り鎌を手に取ると、他の者たちも各々手に馴染むものを手に取る。

 

「ピッチフォークなら、槍の代わりとして十分だ…」

 

「この斧で連中の頭をかち割ってやる…」

 

「こん棒の代わりだ」

 

「火かき棒で目を貫いてやるわ」

 

「投げつければ、レンガだって十分武器になる」

 

約200人の捕虜たちが、手当たり次第に武器になりそうな物をかき集めた。

武装は雑多。しかし彼らの目には強い決意が宿っていた。

 

「倉庫の扉を壊して一気に外に出た後、帝国軍に反撃を開始する」

 

「このまま何もしなければ我々は殺されるか、奴隷として連れて行かれる。そうなるくらいなら戦って一矢報いてから死ぬ方がマシだ」

 

「…分かった。よし、やろう」

 

約200人の捕虜たちが、武器を持って扉の前に向かった。

そして、斧を持った男性が一気にドアノブに向かってそれを振り下ろし、扉を破壊。それを合図に、その場の全員が一斉に扉から飛び出した。

 

 

 

 

午後5時00分 シサフィール港

 

倉庫の扉が内側から破られ、そこから約200名の捕虜たちが武器を持って一斉に飛び出してきた。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

「帝国に死を!!」

 

エルフの捕虜達は叫びながら、港にいた帝国兵に襲いかかった。

帝国兵たちは、突然の反乱に驚愕する。

 

「何だ!?ほ、捕虜が!」

 

「反乱だ!」

 

エルフ達は手持ちの武器を振るって帝国兵に斬りかかる。

男性が振るう斧が兵士の腕を切り飛ばし、帝国兵は悲鳴を上げながら地面を転がり、やがて痛みと出血多量でショック死した。

 

他のエルフ達もピッチフォークで腹を貫き、鍬で頭をかち割る。

 

自分たちの脱出手段を失ってただでさえ混乱している帝国兵たちは、この攻撃に更に狼狽した。

 

そして同じ頃、マストを破壊され航行不能になっている船でも、反乱が起ころうとしていた。

船倉に詰め込まれていた捕虜たちも今が好機と、偶然にも同じタイミングで反乱を開始しようとしていた。

 

暗く狭い空間に、無数の捕虜が押し込まれている。その中の一人、若いエルフの男性が立ち上がった。

 

「外の騒ぎを聞いた限り、どうやらマストが壊れて動けないらしい。今がチャンスだ!」

 

彼は船倉の扉を見た。扉には鍵がかかっているものの、扉自体は木製。壊すことは可能だった。

 

「扉を壊すぞ!みんな、力を合わせろ!」

 

数名の捕虜が、肩を組んで一斉に扉に体当たりした。

衝撃で扉が軋む。

 

「いいぞ!もう一度だ!!」

 

二回、三回と体当たりを続け、四度目の体当たりでようやく扉が壊れた。

 

それを皮切りに捕虜たちが、一斉に船倉から飛び出した。

船内には帝国兵が多数いるものの、彼らの多くは未だ無駄な砲撃を続けている。そこへ突然現れた捕虜たちに、彼らは咄嗟に反応できなかった。

 

「な、何だ!?」

 

捕虜たちは、帝国兵たちが事態を把握する前に襲いかかった。

彼らは両手で帝国兵に掴みかかると、そのまま押し倒し何度も殴りつける。

 

「ぐっ…がはっ!」

 

拳が顔に当たり、口から血が飛び散る。

他のエルフ達も次々と帝国兵を制圧していく。

 

殴り、蹴り、掴みかかって締め上げる。

腕や首に噛みつき、目や耳を潰す。

 

捕虜たちは倒した帝国兵から剣やサーベルを奪い取ると、そのまま甲板へと駆け上がっていく。

 

騒ぎを聞きつけた艦長は副官に怒鳴りつける。

 

「今度は何の騒ぎだ!?」

 

「か、艦長!!船倉の捕虜たちが脱走して反乱を起こしております!!」

 

「な、なにぃ!?」

 

騒ぎは他の船にも広がり、次々と反乱が起こり始める。

 

「おい、別の船で仲間が反乱を起こしているらしいぞ!」

 

「俺たちも戦おう!!」

 

湾の入り口に漂う船の群れの中で、続々と繰り広げられる激戦。

甲板上は海賊映画さながらの光景が広がっている。

 

一人の若い女性エルフはその光景に恐怖し、樽の裏側に隠れた。だが、その時――

 

「このクソエルフがぁ!!」

 

「いやぁ!!」

 

水兵の一人に見つかり、彼女は首を掴まれ押し倒されてしまった。

 

「このまま絞め殺してやる!!」

 

「がっ!!かはっ…や、やめて…」

 

首を絞められ徐々に薄れゆく意識の中、手探りで何か武器になりそうなものを探す女性。その時、彼女の指に何かが当たった。

彼女はがむしゃらにそれを掴み、勢いよく水兵の太ももに突き刺した。

 

それは鋭く尖った船の木片だった。

勢いよく振るわれたそれは、水兵の太ももをたやすく貫く。

 

「ギャァァァァァ!!」

 

悲鳴を上げ、太ももを押さえながら甲板に横たわる水兵。一方エルフの女性はその隙に、息を整える。そして近くにあった砲弾を見つけるとそれを拾い上げ、両手で上へと持ち上げる。

 

「ま、待て!?――」

 

「ふんっ!!」

 

ゴシャア!!

 

水兵が次の言葉を言う前に、彼女は頭に向かってそれを振り下ろした。

砲弾は帝国兵の頭に当たり、鈍い音が響く。

 

首を絞められた恐怖から恐慌状態に陥った彼女は、何度も何度もそれを叩きつけた。やがて水兵の頭蓋骨が砕け、脳が飛び散る。

目も鼻も口も完全に潰れ、もはや誰だったのかすら分からない状態になってようやく彼女は砲弾を振り下ろすのをやめた。

 

女性は手から砲弾を落とし、血塗れの震える手で自分の顔を覆った。しかし震えを止めることはできなかった。

隙間から血と共に涙が流れ落ち、すすり泣く声は喧騒によって掻き消される。

 

他の捕虜たちも懸命に戦い、次々と水兵を船から海へ叩き落としていく。

 

「うわああああっ!」

 

「助けてくれぇ!!」

 

同様の光景が、他の船で次々と発生。

帝国軍は逃げることも隠れることも、最早できなかった。

 

 

 

 

午後5時15分 シサフィール港 5キロメートル地点

 

タカハシ少将は、港から上がる煙と共に聞こえてくる叫び声を聞いた。

 

「…一体港で何が起きている?」

 

「海軍からの報告では、どうやら港で捕虜たちが反乱を起こしているようです!」

 

通信士官の報告に、タカハシの目が輝いた。

 

「今だ!全軍、港に突入せよ!突撃!戦車、前へ!!」

 

「「「ウオオオオオオオッ!!」」」

 

アサヒノ国軍の兵士たちが一斉に雄たけびを上げ、T-62戦車と共に全速力で港に向かって走り始めた。

エンジンの轟音に交じって彼らの叫び声が港全体に響き渡る。

 

「「「オォォォォォォォォォッ!!」」」

 

雄たけびとエンジン音で空気が震える。

オゼラ軍とアサヒノ国軍、両軍合わせて約4,500名の兵士たちが、雄たけびを上げながら港に向かって突撃を開始。

その光景は、まるで雪崩のようだった。

 

 

 

 

午後5時30分 シサフィール港

 

港は既に混乱(カオス)の極みに達していた。

倉庫から飛び出した約200名の捕虜たちは、死に物狂いで帝国兵に襲いかかっている。

 

本来は農耕や草木を刈るための道具。それが今では命を刈り取る武器へと変貌を遂げている。

 

エルフの女性が振るう草刈り鎌が帝国兵の腕に突き刺さり、血が飛び散る。

帝国兵の叫び声を無視するかのように、腕から引き抜き、更に鎌を振るう。

 

しかし、帝国兵も殺されない為に必死に抵抗を続ける。振るわれた鎌を剣で防ぎ、彼女を突き飛ばす。

 

「調子に乗るなぁ!!」

 

「くっ…!」

 

突き飛ばされた勢いで彼女は地面に倒れ、手から鎌が離れて地面を滑る。

その好機を逃さぬよう、兵士が剣を上に掲げ、今まさに振り下ろそうとしたその時…

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

「ぐあっ!」

 

村長が、ピッチフォークで帝国兵の脇腹を突いた。

ピッチフォークの先が深々と突き刺さり、帝国兵が倒れる。

 

エルフの女性は急いで鎌を取り直し、止めを刺すために首に刃を突き刺した。

 

必死にもがいて逃れようとする兵士だが、脇腹にピッチフォークが刺さっている上、女性が馬乗りになっている状態では碌な抵抗もできず、最期は情けない声を挙げながら首を掻っ切られて絶命した。

 

「ありがとう、村長。助かったわ…」

 

「良いってことよ…さぁ、まだまだ行くぞぉ!!」

 

他の捕虜たちも必死に戦っている。

 

斧で帝国兵の頭をかち割り、角材でぶん殴る。

 

火かき棒で目を突き、レンガを投げつける。

 

鍬で足を払い、シャベルで頭を叩き潰す。

 

目を見開き、歯茎が見える程の雄たけびを上げながら襲い掛かってくるエルフ達は、帝国兵たちにとって恐ろしい悪魔の軍勢のように見えた。

捕虜たちは、今まで戦ったことのない一般市民だ。

 

武器は雑多で、戦闘技術も殆どない。戦闘技術や経験においては訓練を重ねた帝国兵に負けるだろう。

しかし、そんなことは今を生き抜くために必死に戦う彼らにとっては些事であった。

 

そんな帝国軍は、もはや組織的な抵抗ができなくなっていた。

兵士たちは孤立し、バラバラに戦っている状態だ。

 

ある者は逃げ、ある者は抵抗し、ある者は降伏しようとしていた。

またある者達はまだ出航していない戦列艦に乗り込み、大砲の発射準備をしている。

 

まさしく風前の灯火。そんな消えかけの火を吹き消すか如く、港に突風が飛び込んできた。

 

「「「ウオオオオオオオッ!!」」」

 

「「「アアアアアアアアッ!!」」」

 

港の入口にある門を突き破ってT-62戦車が街中に突入。その後ろからけたたましい雄たけびが聞こえてくる。

アサヒノ国軍とオゼラ軍が、ついに港に到着したのだ。

 

「援軍だ!」

 

誰かが叫ぶと、捕虜たちは歓声を上げた。

 

その時、戦列艦から一発の砲弾が発射された。

幸いにも、慌てて発射された砲弾は戦車に当たらず、頭上を飛び越えて後ろにある民家の壁に穴を作るだけで終わった。

 

「おい!あの船に主砲を向けろ!!榴弾装填!!」

 

T-62の砲塔がゆっくりと回頭し、115mm滑腔砲を戦列艦に向ける。そして――

 

「お返しだ!!痛いのをぶっ食らわせてやれ!!」

 

主砲から火が噴いた。

 

砲弾は戦列艦の横っ腹に向かって真っすぐ飛んでいき、船体に着弾。

爆発によって船の壁に巨大な穴が開き、帝国兵と共にカノン砲が吹き飛ばされた。

 

戦車の後ろに続いていたBTR-60PB装甲車から、アサヒノ国の兵士たちが続々と降車。

彼らは、雄たけびを上げながら、AKMを構えて帝国兵たちを撃ち殺していく。

 

「「「ウオオオオオオオッ!!」」」

 

7.62mm弾による裁きによって、帝国兵たちは次々と射殺という名の判決を下されていく。

 

AKMSで武装したアサヒノ国兵が、弓矢や剣で武装したオゼラ兵が、農具で武装した民間人が、帝国兵に束になって襲い掛かる。

戦車の砲音、装甲車の機銃、兵士たちの叫び声、捕虜たちの怒号、帝国兵の悲鳴と断末魔。

 

【挿絵表示】

 

 

全てがパレットの上の絵の具のように入り混じり、港はまさしく地獄さながらの光景が広がっている。

約10分ものあいだ混乱は続き、そしてついに――

 

「降伏する!降伏する!」

 

「投降するから殺さないでくれ!」

 

「我々の負けだ!だからやめてくれ!!」

 

帝国軍の兵士たちが次々と武器を捨て始め、カール准将も絶望の表情で白旗を掲げた。

 

「…もう終わりだ。全軍に通達せよ、我々は降伏する」

 

帝国軍の兵士たちは次々と地面に膝をつき、ようやく戦闘が終了した。

 

 

 

 

午後6時30分 シサフィール港

 

港は激闘の末、奪還された。夕焼けの空が港全体を赤く照らしている。

帝国軍の兵士は約2万人のうち、戦死者が約5千人。負傷者約6千人を含む残りの約1万5千人はそのまま捕虜となった。

 

アサヒノ国軍とオゼラ軍、そして民間人の損害は、すべて合わせて戦死者が約100人、負傷者は約400名程度だった。

 

タカハシ少将は、港の中央に立って辺りを見渡していた。

港にはアサヒノ国海軍の駆逐艦やコルベットが曳航してきた戦列艦と一緒に停泊しており、船からは投降してきた水兵たちと共に解放された捕虜たちが続々と降りてくる。

 

【挿絵表示】

 

 

解放された約3千人の捕虜たちは、喜びの涙を流しながら喜んでいた。

 

「…助かった」

 

「生きて帰れる…」

 

タカハシは旗艦「ツルギ」から降りてきた艦隊司令のヒロタ少将と握手を交わした。

 

「救援、感謝します。貴艦隊の援護がなければ、我々は今でも港に入ることすらできなかったでしょう」

 

「仲間を助けるのは当然の事。それが民間人の命がかかっている状況なら尚のことです」

 

両者は互いに敬礼をすると、タカハシは無線機を手に取って司令部に作戦完了の報告を告げる。

 

「こちら、陸軍司令官タカハシ少将だ。シサフィール港の奪還成功。繰り返す、港は奪還された。帝国軍は降伏し、捕虜約3千人を解放した」

 

「こちら司令部。了解、よくやった」

 

タカハシは再度、港を見渡した。

オゼラとアサヒノの旗が、港の建物に掲げられている。

 

この作戦によってシサフィール半島は、完全にオゼラの手に戻った。

 

 

 

 

*1
シシ(獅子)

*2
セキレイ(鶺鴒)エナガ(柄長)

*3
ライメイ(雷鳴)シンライ(神雷)ジンライ(迅雷)オオナミ(大波)アラシ()タイフウ(台風)

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