ロシア連邦、異世界にて飛躍する   作:兎の助

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第二十一話:作戦前夜 ☆

2032年12月4日 午後4時 オゼラ シサフィール港

 

帝国海軍による苛烈な艦砲射撃の名残が痛々しく残るシサフィール港。攻撃によって半壊した石造りの倉庫やひび割れた建物は、今やコンクリートブロックやブルーシートで一時的に補強され、膨大な軍需物資を保管する臨時の物資集積所や、兵士たちの簡易宿舎として稼働していた。

 

かつて穏やかな潮風が吹き抜けていた港町周辺の野原には、見渡す限りの鉄の巨獣たちがずらりと並べられていた。

 

重厚な車体を誇るロシア軍のT-80BVMやアサヒノ国軍のT-62MV-1。その周囲を固めるように、BTR-82AやBTR-60PB、BMP-2といった数々の装甲車がエンジンを静かに休めている。

 

その隣ではロシア軍のMi-8やアサヒノ国軍のMi-17といった輸送ヘリがずらりと駐機しており、機体の左右に80mmロケット弾ポッドを三つずつ取り付けた状態で、戦車たちと同じくその羽を下ろして休んでいた。

 

さらにそれらの巨体へ燃料や弾薬を途切れることなく供給するため、ウラル-4320大型トラックの車列が泥濘を踏み鳴らしながらひっきりなしに行き交っていた。

 

破壊された旧時代の港町に現代の機械化部隊が陣取るその光景は、これから始まる圧倒的な破壊と侵攻の予兆を静かに物語っていた。

 

ロシアから輸送されてきた軍需物資や兵器の点検と確認が完了すると、それらはタピール級やロプーチャ級揚陸艦、さらにセルナ級やジュゴン級揚陸艇へと次々に積み込まれていった。

 

膨大な量の弾薬、銃火器、食料、そして医療用品がシサフィール港の岸壁に並べられ、慌ただしく兵士たちへと分配されていく。

 

一方、前方のバウ・ドア(艦首ハッチ)を大きく開放した揚陸艦の腹へ、先ほどまで野原で休んでいたT-80BVMやBTR-80がエンジン音と地響きを立てながら乗り込んでいく。その光景は、まるで大口を開けて獲物を捕食するクジラのようだった。

 

各軍の兵士たちは手際よくマガジンに弾薬を押し込んでいく。カチャリ…カチャリ…と弾を込める無機質な音が、港の建物のあちこちで鳴っている。フル装填されたそれは、弾薬ポーチへ次々に収められていく。PKPペチェネグのボックスマガジンには、ベルトリンクで繋がれた7.62x54mmR弾が蛇腹状に折りたたまれ、重く詰め込まれていく。

 

AKのダストカバーを外し、機関部に砂塵や汚れがないかを入念に点検する者もいれば、チャージングハンドルを二度三度引いて作動の滑らかさを確かめる者もいる。

 

隣では、SVDのPSO-1スコープのレンズを慎重に拭き上げながら倍率やゼロインを再確認するロシア軍の狙撃兵や、バックパックへ予備弾薬や医療品を力強く押し込むアサヒノ国軍の兵士の姿があった。

 

港全体がまるで一つの生き物のように慌ただしく脈打ち、平時のそれとは異なる、殺気立った活気に満ちあふれていた。

 

島の奪還作戦が着々と準備される一方で、エルフたちへの過酷な訓練も一通り終わりを迎えていた。

 

ロシア軍の教官たちにしごき込まれた基礎的な射撃訓練やAKMの操作方法は、彼らの身体に確かな筋肉の記憶として刻み込まれている。

 

最初はその異質な銃器に戸惑っていた者たちも、今では自分の手足のように自然に扱い、その命を預けられるほどの信頼を寄せていた。かつて弓を引いていたその指で、今は冷たいスチールのアサルトライフルをしっかりと握り締めている。

 

訓練を終えた戦士たちがそれぞれの装備を入念に点検し、出撃への決意を新たにする頃――。

 

広場のすぐ隣にある教会――かつては港町の穏やかな信仰の場だった石造りの聖堂は、今では三カ国軍の頭脳がうごめく冷徹な臨時指揮所へと変貌している。

 

本来ならば巨大な祭壇が据えられていた場所には、無数のデジタル端末とネレシア島の詳細な海図が広げられた大型のマップテーブルが鎮座している。かつて祈りの声が響いた吹き抜けの天井の下ではロシア軍、アサヒノ国軍、そしてオゼラ軍の将校たちが、冷厳な面持ちで最終的な作戦協議に臨んでいた。

 

そのマップテーブルを囲むように立っているのは、ロシア軍のセルゲイ・ミハイロフ大佐、アサヒノ国軍のヒロシ・タカハシ少将、そしてオゼラ軍の軍事参謀ヴァルミス・エレンウィールの三人。そして彼らの背後には各部隊の部隊長たちが、静かに作戦内容を聞こうと集結している。ネレシア島の詳細な地図が広げられたテーブルの中心を、ミハイロフ大佐の鋭い視線が射抜く。

 

「それでは、ネレシア島奪還作戦の最終ブリーフィングを開始する」

 

その声には、統率者としての厳格な威厳が満ちていていた。

 

「初めに、本作戦に投じられるロシア連邦軍の地上戦力は以下の通りだ。T-80BVM主力戦車が8両、BTR-82A装甲車が12両、BTR-80装甲車が8両、BMP-2装甲車が12両。そして歩兵約5,000人」

 

その規模の大きさに、教会内の面々が静かに頷く。

 

「海軍戦力はキーロフ級ミサイル巡洋艦『ピョートル・ヴェリーキイ』を旗艦に1隻、スラヴァ級ミサイル巡洋艦1隻、ウダロイ級駆逐艦2隻、ゴルシコフ級フリゲート4隻。揚陸・支援戦力としてロプーチャ級揚陸艦3隻、タピール級揚陸艦4隻、セルナ級揚陸艇6隻、ジュゴン級揚陸艇5隻。空軍からはSu-35戦闘機8機、Mi-8輸送攻撃ヘリ12機を投入する」

 

読み上げられる重厚な艦船の名が、石造りの教会内に反響していく。セルゲイ大佐は説明を区切ると、アサヒノ国軍のタカハシ少将へと視線を向けた。

 

合図を受けたタカハシ少将は、冷徹かつ効率的な口調で自軍の戦力を告げる。

 

「アサヒノ国軍の地上戦力は、T-62MV-1主力戦車12両、BTR-60PB装甲車12両、歩兵約7,000人。海軍はソヴレメンヌイ級駆逐艦1隻、ウダロイ級駆逐艦2隻、ナヌチュカ型コルベット6隻。空軍はMiG-29SMT戦闘機12機とMi-17輸送ヘリ10機をこれに加える」

 

続いて、ヴァルミスがオゼラ軍の戦力について静かに語った。

 

「我がオゼラ軍の投入戦力は歩兵3,000名です。訓練を無事に終え、戦闘への支障はありません。士気は非常に高く、現在は戦意高揚のための儀式を執り行っている最中です」

 

その言葉には、自国の戦士たちへの揺るぎない信頼が込められていた。一通り味方の戦力が確認された後、セルゲイ大佐は敵戦力の分析へと移る。

 

「衛星とUAVによる偵察結果から判明した敵の全容だ。海軍戦力は、戦列艦の一等艦が4隻、二等艦が8隻、三等艦が10隻。加えてガレオン船30隻、投石船5隻。そして最警戒すべき脅威として、竜母が4隻。搭載されるワイバーン搭乗騎兵は1,200騎にのぼる」

 

敵の戦力規模に場の空気が一段と張り詰める。

 

「また島にいる守備隊は約4万人と推測される。数でこちらは圧倒的に劣る、油断できる戦いではない」

 

1万5千対4万、現実的に見れば絶望的な戦力差ではある。だがその差を埋めるだけの技術と練度が、今の彼らにはあった。

 

「そこで敵の戦意を出来る限りそぎ落とし、作戦遂行を容易にするため竜母を最優先目標に、艦隊を対艦ミサイルで攻撃し、破壊する」

 

現実的で容赦のない評価のあとに説明される対艦作戦を聞いて、タカハシ少将が挙手して疑問を投げかけた。

 

「大佐、一つ確認したい。木造の帆船が相手であれば、わざわざ高価な対艦ミサイルを浪費せずとも、艦砲や機関砲の掃射で十分ではないか?」

 

費用対効果を考慮した妥当な戦術的質問に、セルゲイ大佐は冷静に答える。

 

「通常の帆船であればその通りだ。だが問題は、敵の主力が擁する竜母にある。あそこからワイバーン部隊が空へ発進すれば、我が方の揚陸部隊は致命的な脅威にさらされる。敵が察知するよりも早く、一撃で竜母を沈黙させなければならない。それに今回の作戦の目的は、単に敵を沈めることだけではない。敵に我々の技術力の差を見せつけることだ」

 

ミハイロフ大佐の目が、鋭くなった。

 

「連中(帝国軍)は、まだ我々の本当の力を理解していない。今回の作戦で、それを骨身に染み込ませてやる」

 

地図上のポイントを指し示しながらの解説に、タカハシ少将は納得したように深く頷いた。

 

「作戦の流れはこうだ。我が艦隊は敵の視認範囲外、約50キロメートルの距離から対艦ミサイル攻撃を実施する。使用するのは3M-54カリブル長距離巡航ミサイルだ。射程は約300km――敵が我々を視認する前に、艦隊を壊滅させる。深夜、その飽和攻撃で敵艦隊、とりわけ竜母を先制攻撃し、完膚なきまでに叩き潰す。その後、夜明けとともに揚陸艦艇で島へと上陸する」

 

そう言うと彼は地図上の二点を指し示した。

 

「上陸地点は二手に分かれる。海岸線にはロシア・アサヒノ連合部隊が、リグロイ港にはロシア・オゼラ連合部隊が突入する。機甲戦力を盾に敵の防衛線を切り崩していく。島の上陸地点の安全が確保され次第、追加の歩兵部隊をヘリにて輸送する」

 

「上陸後の具体的な展開については?」

 

ヴァルミスの問いかけに、セルゲイ大佐は力強く答える。

 

「上陸後はドローンによる索敵と人海戦術で島全域を包囲しつつ、孤立した部隊を各個撃破していく。島を完全に包囲すれば、敵は逃げ場を失い抵抗力も次第に弱まるはずだ。そして、本作戦の真の目的――要塞の収容所に囚われた、約3,000人のエルフ住民の解放を完遂する」

 

その最終目標が共有された瞬間、教会の外から儀式の準備完了を告げる伝令がもたらされた。

 

「では、本会議はこれにて終了とする。各自、配下の兵士たちへ最終通達を行え」

 

三人の将軍たちは席を立ち、部隊長らはそれぞれの兵士たちが待つ持ち場へと歩み出していった。

 

そして、その日の夜。シサフィール港の広場では、最後にして最も重要な儀式が行われようとしていた。

 

 

 

 

同日 午後7時 オゼラ シサフィール港の中央広場

 

その広場はかつて、街の人々にとっての穏やかな憩いの場だった。休日には子供たちが駆け回り、祭りの日には色とりどりの屋台が威勢よく立ち並んでいた場所だ。だが今やその広場は、故郷の奪還を誓う戦士たちの集結拠点へと変貌している。

 

広場の中央に設えられた即席の演壇の周囲には、魔法によって生み出された無数の光の玉がぼんやりと浮かび、周囲を幻想的に照らし出していた。

 

訓練を終えたエルフの兵士たちが続々と集まるにつれ、その熱気を聞きつけたロシア軍やアサヒノ軍の兵士たちも次々と足を運び、広場は国籍や種族を超えた独特の活気に包まれていった。

 

これから戦いに赴くエルフの戦士たちの周囲には、伝統的な民族衣装に身を包んだ精霊巫女たちの姿があった。

 

白い麻布を下地にした衣装には美しい青色の文様が走り、彼女たちの顔や肌にも同じく神秘的な魔法の紋様が描かれている。長い髪は金色の糸で美しく編み込まれ、その毛先には歩くたびに微かな音を奏でる鈴が結ばれていた。

 

精霊巫女たちは塗料の入った乳鉢を手に持ち、屈強な戦士たちの顔へと戦化粧を施していく。

 

【挿絵表示】

 

 

繊細な直線や幾何学的な記号、そして複雑な魔法文字。それらを一つひとつ丁寧に描きながら、巫女たちは小声で途切れることなく神聖な祈りを唱え続けていた。

 

「Deus Belli, hunc bellatorem protege. Iram eius erga inimicos in iustitiae potentiam converte. Et desiderium patriae in fidem inconcussam converte.」

 

その儀式の様子をセルゲイ大佐は静かに見守っていた。そんな彼に、タカハシ少将が静かに語りかける。

 

「興味深いといった表情をしていますね。私も間近でエルフの儀式を見るのはこれが初めてですが……」

 

彼の呟きに、セルゲイ大佐は淡々と答えた。

 

「我々の国には、このような儀式はもう存在していません。現代の戦争は冷徹な戦術と兵力計算の産物ですからね。神頼みのような非科学的なものはとっくに過去の遺物です。まぁ、個人的に教会へ足を運ぶ者はいるでしょうが……」

 

「そうでしょうな。しかし、彼らの場合は話が別だ。戦争とは、物理的な戦闘であると同時に、精神的な試練でもあるということでしょう。我々にとっては形式的なものに映ろうとも、エルフたちにとっては戦士の心を一つに結び、共通の目的に向けて意識を集中させるための確かな意味を持っている」

 

するとここで、予想外の出来事が起きた。広場の外側で儀式を見守っていたロシアやアサヒノ国の兵士たちの姿を見て、オゼラの巫女や神官たちが顔を見合わせ、何かを話し合い始めたのだ。

その中には、エルロン議長老の姿もあった。

 

「長老、彼らもまた、我らの故郷奪還のために戦う戦士です。ならば、彼らにも同じ加護を授けてもいいのではないでしょうか」

 

「うむ……」

 

しばらくの協議の後、彼らは一つの決定を下した。

 

なんと、ロシア軍やアサヒノ国軍の兵士たちにも、精霊の加護を与えるというのだ。

 

セルゲイ大佐たちは演壇へと招かれ、各軍の兵士たちもその周囲に静かに集結した。

 

神官長たちが、三つの軍隊の兵士たちに向かってゆっくりと両手をかざす。

 

再び、聖なる祈りの言葉が夜の広場に響き渡った。

 

「Deus Belli, hunc bellatorem protege. Iram eius erga inimicos in iustitiae potentiam converte. Et desiderium patriae in fidem inconcussam converte.」

 

その祈りの声はすべての兵士たちを優しく包み込み、広場全体が淡い光の粒子に満たされていく。

 

ロシア軍の歴戦の兵士たちは、その温かな光に身を委ねながら、どこか奇妙で、しかし心地よい感覚を覚えていた。

 

それは、冷徹な殺伐さに満ちた戦場へ赴く者たちの荒ぶる心を、不思議と和らげてくれるような――そんな優しい奇跡のようだった。

 

一通り儀式が終わると、広場にいた全員の視線が、演壇の上の一点に集中した。

 

エルロン最高議長老が、演壇の中央へと進み出ていた。

 

彼の白い髭は魔法による光に照らされて銀色に輝き、その表情は極めて厳粛だった。

 

四百五十年を生きた者にしか出せない、重みのある表情。

 

彼はゆっくりと広場全体を見渡し、そして深い息をついた。

 

「我が民よ、我が戦士たちよ」

 

彼の重い声は広場全体に響き渡り、その場に居た者全員の耳へと届いた。

 

「我々はネレシア島を失い、そしてそこに囚われた者たちは今でも帝国の悪逆と残酷な所業の犠牲となっている。ここにいる者の中にも、家族や大切な人を奪われた者が少なくないはずだ……」

 

彼の言葉に、その場にいる者たちは皆、静かに聞き入っている。

 

「だが……我々は決して一人ではない。我々のために力を貸し、共に立ち上がってくれる者たちがいる! 我々はここで、決して涙を呑み、諦めてはならない!!」

 

その言葉を聞くエルフたちの中には、涙を流す者もいた。だが、彼らは決してうつむいていなかった。むしろ顔を上げ、しっかりと現実に向き合おうとしていた。

 

「我々はこれ以上、失うわけにはいかぬ!! 我らエルフはこれまで奪われてばかりであった。帝国の奴隷商に売り飛ばされ、二度と肉親と会えぬまま死んだ者がどれだけいたことか! 我が同胞の中には、かつてルカタニア王国に住んでいた者もいよう……。かの国は、今でもバリアーゼ王国の支配下に置かれている。だからこそ、我々は今ここに立っているのだ!!」

 

エルロンは、力強く手を高く掲げた。

 

「我が民よ。ロシアと手を組み、彼らがもたらした技術を手にした時、私は新しき時代に足を踏み入れたと感じた。それは我々の伝統の放棄などではない。我らエルフ民族の新たな夜明けと、生存を賭けた決断なのだ」

 

彼の白い髭が、夜の光に揺らいだ。

 

「ロシア連邦の兵士たちよ、汝らが遠き異国から来てくれたことに感謝する。アサヒノ国の兵士たちよ、隣国から来た盟友として、ワシは心から歓迎しよう。この戦いは、単なる国土奪還の戦いなどではない。これは、すべての自由と平和を求める者たちの戦いなのだ」

 

その言葉に、エルフたちのこぶしを握る力が一層強まる。

 

「明日の朝、我々はネレシア島に向かい、その土を踏む。その手に握る銃は、我々の怒りを代弁するだろう。我々の振るう拳は、我々の憎しみを表現するだろう。そして我々の血は、我々の民族の尊厳を示すのだ!!」

 

エルロンの声は次第に大きくなり、広場を超えて港全体へと響き渡る。

 

「我々は決して、負けてはならぬ。何故ならば、残された我が子らのために、我が国の未来のために、我々は戦い続けねばならぬからだ!」

 

広場全体が深い静寂に包まれ、やがてエルロンは最後の言葉を叩きつけた。

 

「我々は今宵、失われたものを取り戻す。我々は今まで踏みにじられた故郷の土地と尊厳を奪還する! そして、我々の手でワーザルクト帝国の野望に、終止符を打つのじゃ!!」

 

エルロンがこぶしを天高く突き上げた瞬間、広場全体から割れんばかりの雄叫びが爆発した。

 

「「「ウオォォォォォォォォ――ッ!!!」」」

 

「「「Ура!! Ура!! Ура!!」」」

 

「「「オォォォォォォォォォォ!!!」」」

 

その場にいた者たち全員が雄叫びを上げた。彼らの声は夜空を切り裂き、足元の大地を揺るがす。

 

それは単なる歓声ではない。彼らの魂の咆哮であった。

 

兵士たちは月と星が浮かぶ夜空に向かって、その手に握る銃を突き立てるように掲げた。

 

AKMが、AK-74Mが、RPDが、PKPが、SVDが――無数の現代火器の銃口が、漆黒の夜空へ向けて真っ直ぐに突き出される。

 

広場全体が熱い戦意に包まれ、民族も国も種族も関係なく、彼らは完全に一つとなった。

 

エルフたちは、失われたものを取り戻すという絶対的な決意を胸に抱き、高揚に打ち震えている。

 

エルロン長老は演壇の上から、その圧倒的な光景を見守っていた。彼の白い髭が潮風に揺らぎ、金色の瞳が夜空の星を受けて美しく輝く。

 

四百五十年の長い人生で、彼はこれほどの熱気と希望に満ちた光景を見たことがあっただろうか。

 

彼の胸のうちは今、筆舌に尽くしがたい高揚感で満たされていた。

 

 

 

 

2032年12月5日 午前4時 オゼラ シサフィール港

 

「分隊、整列!!」

 

「第一小隊はヘリに乗りこめ!! 急げ!!」

 

「第四中隊、集合完了!!」

 

「総員、船に乗り込め!! Давай! Давай! Давай!!」

 

翌日の早朝、まだ日も昇っていない薄暗い時間帯。冬の冷たい波音を切り裂くような怒号が港のあちこちから鳴り響き、大勢の兵士たちが揚陸艦や駐機場のヘリコプターへと次々に乗り込んでいく。

 

12月の身を切り裂くような冷たい海風など、兵士たちはもう気にしていない。彼らの胸にあるのは、決戦に臨む高い戦意のみだった。

 

セルゲイ大佐らはその慌ただしい様子を遠くで見据えながら、これから始まる激戦への最終調整を行っていた。

 

「セルゲイ殿……いよいよですね」

 

「えぇ……必ず奪還する」

 

短い言葉で返すと、大佐は重々しく頷き、指揮所である教会へと踵を返した。

 

ネレシア島奪還作戦が、ついにその幕を開けたのだった――。

 

 

 

 




エルフの精霊巫女


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