メイプルストーリー デスゲーム   作:†闇空†

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詐欺師キリト

サウスペリの港は、潮風と人の喧騒で満ちていた。

リス港からやってくる船が、ようやく到着したばかり。

 

船着き場には、LV7以上になったプレイヤーたちが殺到し、

互いに押し合いながら乗船を待っている。

 

キリトとクラインは、息を切らして港に辿り着いた。

 

HPはまだ赤く点滅したまま。

棍棒を握る手が、微かに震えていた。

 

「はあ……はあ……間に合った……」

 

クラインが額の汗を拭う。

現実の顔は、疲労と安堵で歪んでいる。

 

周囲を見回すと――

 

数人の男達が、桟橋の端で固まっていた。

 

「あ……あいつら……」

 

クラインの目が、すぐに彼たちに向く。

 

「待ってくれ、キリト。

俺……ここに残る」

 

キリトが振り返る。

 

「は?」

 

「あいつら、昔からのゲーム仲間なんだ。

まだLV7に届いてない奴がいる。

俺が手伝って、なんとか船に乗せないと……死ぬかもしれない」

 

クラインの声は、震えながらも確かだった。

軽いノリはもうない。

ただ、生き残らせるために、という覚悟だけ。

 

キリトは一瞬、黙った。

 

「……わかった」

 

「悪いな。

お前は先に行け。

ビクトリアアイランドで、強くなってくれよ。

あとで合流するから」

 

クラインが、ぎこちなく笑う。

 

現実の顔で笑うと、妙に幼く見えた。

 

「……生き残れよ、クライン」

 

「ああ。お前もな」

 

二人は拳を軽く合わせる。

 

固い感触。

 

クラインは振り返らず、仲間たちの元へ走っていった。

 

キリトは一人、船に乗り込む。

 

船がゆっくりと動き出す。

 

港が遠ざかる。

 

――別れの瞬間は、こんなにも静かだった。

 

***

 

ビクトリアアイランド。

 

カニングシティの路地裏。

 

暗い路地に、黒い影が立っていた。

 

キリトは、すでに転職を済ませていた。

 

職業:盗賊(ローグ)LV10

 

狩りを続け、なんとか到達した。

 

盗賊のアジトで、ダークロードに話しかけ転職を選択した瞬間――

装備した籠手の感触が、身体に馴染んだ。

 

「目指すはアサシンだ」

 

遠距離攻撃と手数の多さで敵を仕留めるスタイル。

ダークサイトでのヘイト解除、

ヘイストで移動速度とジャンプ力をあげられるのも魅力的だ。

デスゲームと化した現在では、生存するために最も適した職であるとベータの経験から判断した。

 

だが、今の装備はまだ貧弱。

手裏剣すら、ろくに持っていない。

 

――ここで必要なのは、装備を整えるための資金。

 

キリトは、ヘネシスの狩場1へ向かった。

ビギナーたちが、まだLV10前後でたむろしている。

彼らのチャットが、飛び交う。

 

「やった!鍋ふたゲットしたぜ!」

 

「嘘だろ!? 超低確率ドロップだぞ!」

 

「いいなぁ……」

 

鍋ふた

 

緑キノコが低確率でドロップするゲーム唯一の盾装備。

 

今この段階で持っている人間など、ほとんどいない。

 

――だからこそ、使える。

 

キリトは、自慢しているヤツに近づいた。

 

「よお。鍋蓋ゲットしたのか? すげえな!」

 

少年が目を輝かせる。

 

「そんなにレアなのか!? マジラッキーだったぜ!」

 

こいつ、初心者だな。

価値を理解していない。

 

キリトは、静かに微笑む。

 

「ちょっと……スクショ撮らせてくれ」

 

「スクショ?」

 

「ああ。

俺のフレンドに自慢したいんだ。

『こんな序盤で鍋ふたゲットしたぜ』って。

だから、すこしの間だけ貸してくれないか?」

 

少年は少し迷ったが、興奮が勝った。

 

「わかった! じゃあ渡すね!」

 

少年が、インベントリから――

鍋ふたを取り出し、キリトに渡す。

 

キリトの心臓が、早鐘のように鳴る。

 

「よし、撮るぞ。 映らないように少しだけ離れてくれ」

 

少年が、距離を置く。

 

その瞬間――

 

キリトが、素早く動く。

 

「え……?」

 

キリトは、すでに走り出していた。

 

「悪いな。 これで俺は生き残る」

 

背後で、少年の絶叫。

 

「返せぇぇぇ!! 詐欺師!!」

 

だが、キリトの足は速い。

ダークサイトを起動し、影のように路地へ消える。

 

手の中の冷たい金属の感触。

 

これで、当面の資金繰りでは苦労しないな。

 

アサシンへの道が、開けた。

だが、同時に――

 

この世界で、自分が何をしたのかを、はっきりと理解した。

生き残るために、誰かを殺すようなものだ。

 

キリトは、息を吐く。

 

「……これでいい」

 

 

 

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