私のたった一つの望み、ドゥー・ムラサメ救済   作:黙っている一般将校

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第1話 カミル・リンクス

おゝ、これは現実には存在せぬ話。

 

それでもやはり────────

 

彼女は、たしかに存在していた。

けれど、すぐにいなくなってしまった。

しかし、それでも人々は彼女を愛したから、純粋な願いが生まれた。

 

人々はいつも余白を残しておいた。

そしてその透明な、取っておかれた可能性は、ほとんど存在する必要さえもなかった。

 

人々は、いつも存在の可能性を育てた。

可能性こそ、人々に大いに力をあたえた。

 

ひとりの処女(おとめ)は、(しろがね)の鏡のなかに、まことの存在を得たのだ。

 

 

 

 

宇宙世紀(U.C.)0084(ダブルオー・エイティフォー)

サイド1『30バンチ』コロニーには、一人の少年がいた。

 

名を『カミル・リンクス』という。

 

彼はまだ、17歳の少年だ。

全寮制のハイスクールに通い、懸命にエレクトロニクスとかコンピューター関係の学科を学んでいる。

そして放課後になると、生活費の為にプチ・モビルスーツを操ってスペースデブリ回収のアルバイトをしている。

 

彼は独りだった。

 

地球連邦軍の整備士(メカニックマン)だった父は、一年戦争中に戦死。

酒場(サルーン)でウェイトレスをしていた母は、病弱な体質をしていたせいか、今から一年前に流行病で亡くなってしまった。

 

彼は、少年でありながら天涯孤独の身となってしまったのだ。

 

父親が戦死している為、カミルは遺族年金を得ていた。

だから、ハイスクールに通う事はできる。

学費や寮費を支払う事はできる。

明日のご飯も食べられるし、ベッドで眠る事もできる。

 

しかし、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()影響もあってか、遺族年金はそう多くはなかった。

 

カミルは両親から愛されていた。

確かに愛されていた。

人一倍繊細な性分で、性根が真っ直ぐ過ぎるあまりに、何度かトラブルを起こしてしまう事があっても、彼の両親はカミルを責めなかった。

 

だが、もう彼を慰める者はいない。

 

彼の部屋には、古ぼけた工具箱があった。

かつて、超小型飛行機(ホモ・アビス)を整備する為に、母に買ってもらった物だ。

毎日必死にエレクトロニクスなどの学科を勉強しているのは、もう居なくなってしまった両親の影を追っているから、と思いながら、彼は日々を懸命に生きていた。

 

 

 

 

ここから遥か遠く彼方の宇宙(そら)

人々は願った。

 

『私たちのたった一つの望み』

()()()()()の救済』

 

あまりにも、あまりにも小さな望み。

あまりにも小さな思念。

その、この宇宙(そら)と比べてしまえば、塵にもならない程の小さな願いは、確かに何にもならない。

けれど、『奇跡』というものは、案外預かり知らぬ所で起こるものだ。

 

蝶が羽ばたく程度の非常に小さな撹乱でも、どこか、ここから遥か遠くの宇宙(そら)で、大きな嵐が吹き荒れるかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─^\/\───────(テュルリリリリン!!)*1

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(俺……泣いてるのか?………どうして………)

 

ある日の授業中、カミル・リンクスは涙を流しながら机に突っ伏した。

彼は、何故自分が泣いているのか、どうしても分からなかった。

けれど、何か『とても大切な事』の為に泣いているような気がした。

 

彼は、自分が度々直感に優れている、と思う事があった。

そう確信していた。

 

しかし、これほどまでに強い直感を感じた事は、この時が初めてだった。

 

教室の後ろの方の席、廊下側の席。

誰の目にもとまらない席。

 

退屈そうに、憂鬱そうに、授業を聞き流しながら、頽廃(たいはい)を覚えているクラスメートたちは、机に突っ伏したカミルには目もくれず、うわの空だった。

 

カミルは、そんな教室から一刻も早く逃げ出すべきだと思った。

それは、クラスメートたちのせいではない。

ましてや教師のせいでもない。

それでも、彼は居ても立っても居られなくなってしまったのだ。

 

「………病欠します!」

 

「なにっ……誰がだ!?」

 

「はい、自分がです!失礼します!」

 

カミルは、鞄を抱えて走り出した。

うわの空だったクラスメートたちは、目を丸くして、走り去る彼の背中を目で追った。

 

「………それで病欠かよっ」

 

クラスメートの誰かが、小さくボヤいた。

 

突如ハイスクールを抜け出したカミルは、ポケットの中のカードキーを取り出して、近くにあるエレカ(電気自動車)の駐車場に向かった。

そして、カードをインプットして、スターターを押して、何処に向かうべきかさえ分からないまま、走り出した。

 

「こんなことしちゃって……俺、どうするんだ?」

 

カミルは、そう小さく呟いたが、その声は道路を突っ走るエレカの駆動音に掻き消された。

 

 

 

 

カミルがエレカを走らせている頃………

サイド1『30バンチ』コロニーの港に、一隻の『船』がやってきた。

それは強襲用宇宙巡洋艦だった。

 

名を『アーガマ』という。

 

アーガマは、かつてのジオン公国軍の英雄『シャア・アズナブル』が鹵獲した強襲揚陸艦『ペガサス』を参考に建造された。

MS(モビルスーツ)は6機運用を基本に最大10機搭載可能。

2層式のMSデッキを持ち、開放型のカタパルトデッキを両舷に1基ずつ有している。

艦内デッキにおいて本格的な分解整備なども可能で、巡洋艦としては異例ともいえる高いMS運用能力を持っていた。

その全長は323m。

上部に単装砲を前後に一基ずつ、下部に前向きに並列で二基装備、艦側面には円盤型のシャッターがあり、内部には無砲身タイプのメガ粒子砲が装備されている。

 

そしてアーガマには、ジオン公国軍の特殊部隊………

『対反スペースノイド過激派組織鎮圧作戦部隊エゥーゴ』の面々が乗っていた。

 

宇宙世紀(U.C.)0081(ダブルオー・エイティワン)

ジオン公国が地球連邦に勝利してから一年後………

ジオン公国は、スペースノイドたちに憎悪を燃やし、終わった筈の戦争の続きを望む者たちの『対処』をする為に、エゥーゴという組織を立ち上げた。

 

アーガマに乗っている者たちは、かつて一年戦争で活躍した猛者ばかりだ。

 

アーガマの艦長の名は『スベロア・ジンネマン』。

ジオン公国軍大佐である彼は、一年戦争中、アフリカ戦線の最前線で『指揮官』として戦い続けた。

故郷、サイド3『グローブ』コロニーに残した家族の為に、彼は様々な作戦を成功に導いた。

 

エゥーゴ隊のパイロットたちもまた、彼と同じく一年戦争を生き残った者ばかり。

中には、かつて『シャア・アズナブル』直属の部下だったという、『アポリー大尉』や『ロベルト大尉』などといった、ベテランパイロットも配属されている。

 

ジンネマンは、港にアーガマを停めた後、エゥーゴ隊のパイロットたちをブリーフィング・ルームに集め、こう言った。

 

「では改めて、もう一度今回の『作戦』について振り返るぞ……サイド6担当の諜報員(スパイ)によると、どうやら、ここ『30バンチ』に反スペースノイド過激派組織のものと思われる極秘基地があるらしい……彼らは『条約禁止兵器』…つまり『サイコミュ兵器』を秘密裏に開発していて、恐らく近日中に『それ』を何処かに運び出そうって魂胆だ」

 

「もはやテロリストじゃないか」

 

「その通りだアポリー、ヤツら正気じゃあない」

 

「では、今回は極秘基地に潜入して破壊工作するおつもりで?」

 

真剣な表情でジンネマンを見つめていた『マハディ中尉』は、組んでいた腕を解きながら、そう発言した。

 

「それが最善策だ、もし、このコロニー内でMS(モビルスーツ)戦になってみろ……大勢の民間人が死ぬ事になるぞ」

 

「そりゃあ……穏やかじゃありませんな」

 

「仮に向こうがメチャクチャやりだしても、パイロット諸君は出来るだけビーム・サーベルだけでやるんだ!クレイ・バズーカもビーム・ライフルも、絶対に使わせんようにな!」

 

「「「はっ!」」」

 

「よし、ではパイロットの諸君は次の指示があるまで待機だ、いざという時のためにな」

 

こうして、ブリーフィング・ルームを後にしたジンネマンは、館長室に戻っていく途中、艦内デッキに寄っていく事にした。

 

アーガマの艦内デッキには『6機』の『MS(モビルスーツ)』が格納されていた。

 

そのMS(モビルスーツ)の名は『リック・ディアス』という。

型式番号『RMS-099』。

ジオン公国軍がAE(アナハイム・エレクトロニクス)社と共同開発した『()()()()()()()()』だ。

 

「さて、折角エゥーゴに回してくれた所悪いが……できればコイツらが動く姿を見せんでくれよ……」

 

ジンネマンは、それだけ呟いてから、館長室に戻った。

*1
ニュータイプの音。

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