私のたった一つの望み、ドゥー・ムラサメ救済 作:黙っている一般将校
おゝ、これは現実には存在せぬ話。
それでもやはり────────
彼女は、たしかに存在していた。
けれど、すぐにいなくなってしまった。
しかし、それでも人々は彼女を愛したから、純粋な願いが生まれた。
人々はいつも余白を残しておいた。
そしてその透明な、取っておかれた可能性は、ほとんど存在する必要さえもなかった。
人々は、いつも存在の可能性を育てた。
可能性こそ、人々に大いに力をあたえた。
ひとりの
◆
サイド1『30バンチ』コロニーには、一人の少年がいた。
名を『カミル・リンクス』という。
彼はまだ、17歳の少年だ。
全寮制のハイスクールに通い、懸命にエレクトロニクスとかコンピューター関係の学科を学んでいる。
そして放課後になると、生活費の為にプチ・モビルスーツを操ってスペースデブリ回収のアルバイトをしている。
彼は独りだった。
地球連邦軍の
彼は、少年でありながら天涯孤独の身となってしまったのだ。
父親が戦死している為、カミルは遺族年金を得ていた。
だから、ハイスクールに通う事はできる。
学費や寮費を支払う事はできる。
明日のご飯も食べられるし、ベッドで眠る事もできる。
しかし、
カミルは両親から愛されていた。
確かに愛されていた。
人一倍繊細な性分で、性根が真っ直ぐ過ぎるあまりに、何度かトラブルを起こしてしまう事があっても、彼の両親はカミルを責めなかった。
だが、もう彼を慰める者はいない。
彼の部屋には、古ぼけた工具箱があった。
かつて、
毎日必死にエレクトロニクスなどの学科を勉強しているのは、もう居なくなってしまった両親の影を追っているから、と思いながら、彼は日々を懸命に生きていた。
◆
ここから遥か遠く彼方の
人々は願った。
『私たちのたった一つの望み』
『
あまりにも、あまりにも小さな望み。
あまりにも小さな思念。
その、この
けれど、『奇跡』というものは、案外預かり知らぬ所で起こるものだ。
蝶が羽ばたく程度の非常に小さな撹乱でも、どこか、ここから遥か遠くの
◆
◆
(俺……泣いてるのか?………どうして………)
ある日の授業中、カミル・リンクスは涙を流しながら机に突っ伏した。
彼は、何故自分が泣いているのか、どうしても分からなかった。
けれど、何か『とても大切な事』の為に泣いているような気がした。
彼は、自分が度々直感に優れている、と思う事があった。
そう確信していた。
しかし、これほどまでに強い直感を感じた事は、この時が初めてだった。
教室の後ろの方の席、廊下側の席。
誰の目にもとまらない席。
退屈そうに、憂鬱そうに、授業を聞き流しながら、
カミルは、そんな教室から一刻も早く逃げ出すべきだと思った。
それは、クラスメートたちのせいではない。
ましてや教師のせいでもない。
それでも、彼は居ても立っても居られなくなってしまったのだ。
「………病欠します!」
「なにっ……誰がだ!?」
「はい、自分がです!失礼します!」
カミルは、鞄を抱えて走り出した。
うわの空だったクラスメートたちは、目を丸くして、走り去る彼の背中を目で追った。
「………それで病欠かよっ」
クラスメートの誰かが、小さくボヤいた。
突如ハイスクールを抜け出したカミルは、ポケットの中のカードキーを取り出して、近くにある
そして、カードをインプットして、スターターを押して、何処に向かうべきかさえ分からないまま、走り出した。
「こんなことしちゃって……俺、どうするんだ?」
カミルは、そう小さく呟いたが、その声は道路を突っ走るエレカの駆動音に掻き消された。
◆
カミルがエレカを走らせている頃………
サイド1『30バンチ』コロニーの港に、一隻の『船』がやってきた。
それは強襲用宇宙巡洋艦だった。
名を『アーガマ』という。
アーガマは、かつてのジオン公国軍の英雄『シャア・アズナブル』が鹵獲した強襲揚陸艦『ペガサス』を参考に建造された。
2層式のMSデッキを持ち、開放型のカタパルトデッキを両舷に1基ずつ有している。
艦内デッキにおいて本格的な分解整備なども可能で、巡洋艦としては異例ともいえる高いMS運用能力を持っていた。
その全長は323m。
上部に単装砲を前後に一基ずつ、下部に前向きに並列で二基装備、艦側面には円盤型のシャッターがあり、内部には無砲身タイプのメガ粒子砲が装備されている。
そしてアーガマには、ジオン公国軍の特殊部隊………
『対反スペースノイド過激派組織鎮圧作戦部隊エゥーゴ』の面々が乗っていた。
ジオン公国が地球連邦に勝利してから一年後………
ジオン公国は、スペースノイドたちに憎悪を燃やし、終わった筈の戦争の続きを望む者たちの『対処』をする為に、エゥーゴという組織を立ち上げた。
アーガマに乗っている者たちは、かつて一年戦争で活躍した猛者ばかりだ。
アーガマの艦長の名は『スベロア・ジンネマン』。
ジオン公国軍大佐である彼は、一年戦争中、アフリカ戦線の最前線で『指揮官』として戦い続けた。
故郷、サイド3『グローブ』コロニーに残した家族の為に、彼は様々な作戦を成功に導いた。
エゥーゴ隊のパイロットたちもまた、彼と同じく一年戦争を生き残った者ばかり。
中には、かつて『シャア・アズナブル』直属の部下だったという、『アポリー大尉』や『ロベルト大尉』などといった、ベテランパイロットも配属されている。
ジンネマンは、港にアーガマを停めた後、エゥーゴ隊のパイロットたちをブリーフィング・ルームに集め、こう言った。
「では改めて、もう一度今回の『作戦』について振り返るぞ……サイド6担当の
「もはやテロリストじゃないか」
「その通りだアポリー、ヤツら正気じゃあない」
「では、今回は極秘基地に潜入して破壊工作するおつもりで?」
真剣な表情でジンネマンを見つめていた『マハディ中尉』は、組んでいた腕を解きながら、そう発言した。
「それが最善策だ、もし、このコロニー内で
「そりゃあ……穏やかじゃありませんな」
「仮に向こうがメチャクチャやりだしても、パイロット諸君は出来るだけビーム・サーベルだけでやるんだ!クレイ・バズーカもビーム・ライフルも、絶対に使わせんようにな!」
「「「はっ!」」」
「よし、ではパイロットの諸君は次の指示があるまで待機だ、いざという時のためにな」
こうして、ブリーフィング・ルームを後にしたジンネマンは、館長室に戻っていく途中、艦内デッキに寄っていく事にした。
アーガマの艦内デッキには『6機』の『
その
型式番号『RMS-099』。
ジオン公国軍が
「さて、折角エゥーゴに回してくれた所悪いが……できればコイツらが動く姿を見せんでくれよ……」
ジンネマンは、それだけ呟いてから、館長室に戻った。