私のたった一つの望み、ドゥー・ムラサメ救済   作:黙っている一般将校

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第3話 ルビコン作戦

サイド1『30バンチ』コロニーに『アーガマ』がやってきた理由。

『対反スペースノイド過激派組織鎮圧部隊エゥーゴ』が6機もの『新型MS(モビルスーツ)』を携えてやってきた理由。

 

それは『ルビコン作戦』の為であった。

 

宇宙世紀(U.C.)0083(ダブルオー・エイティスリー)

 

サイド1を担当していたジオン公国軍の諜報員(スパイ)たちは、一年戦争が終わっても尚、闇の中で蠢き続ける反スペースノイド過激派組織の動向を、彼らは命を懸けて探った。

特に彼らが諜報活動していたのは『サイコミュ兵器開発』についての情報。

地球連邦は、ジオン公国のフラナガン機関に対抗するべく、地球各地にニュータイプ研究所の設立を開始し、それらを傘下とした。

多くの研究者たちは、『条約』というルールに縛られていたが、彼らの中には、『非人道的』な手段さえ厭わない研究者たちもいた。

彼らは、表向きには出来ない実験をする為に、地球各地に、更にはコロニーの中にさえ、ニュータイプ研究の『極秘基地』を密かに建造した。

 

極秘基地では主に、人工ニュータイプ『強化人間(ブーステッドマン)』を作り出す実験、そして条約で禁止されている筈の『サイコミュ兵器』開発という、二つの禁忌を侵していた。

 

ジオンの諜報員たちは、『強化人間』と『サイコミュ兵器』という二つの爆弾を反スペースノイド過激派組織が振り翳す事を恐れた。

そうすれば、地球もジオンもコロニーも、メチャクチャとなってしまうと確信したからだった。

 

彼らは、どんなに眉唾な情報であろうとも、徹底的に洗った。

地球に潜入した潜入員だけでなく、各サイドに潜り込んだ諜報員たちも、皆血眼となった。

 

そうして彼らは、とうとう見つけた。

恐らく反スペースノイド過激派組織と繋がっている、ニュータイプ研究の極秘基地を。

 

ルビコン作戦』は、サイド1『30バンチ』コロニーの極秘基地に『エゥーゴ』を派遣し、そこで密造されている『サイコミュ兵器』の破壊と研究データの押収を目的とする特殊作戦。

 

宇宙世紀(U.C.)0084(ダブルオー・エイティフォー)

一年戦争の終戦から4年。

『ルビコン作戦』は開始された。

 

 

 

 

『宇宙巡洋艦アーガマ』。

 

潜り込ませていた諜報員から、極秘基地の在処と、その近くに不自然に停められている『大型輸送船』の存在を知らされたジンネマン艦長は、エゥーゴの全隊員をブリーフィングルームに招集した。

 

「只今より『ルビコン作戦』を開始する」

 

エゥーゴ全隊員は、合計5名。

アポリー、ロベルト、ギルボア、マハディ、バッチ。

彼らは皆、ジオン公国軍のMS(モビルスーツ)パイロットであり、一年戦争を生き延びたベテラン軍人であった。

 

「諜報員からの情報によると、かつて旧市街地に建造された合成食品製造工場跡地地下に、サイコミュ兵器開発をしている反スペースノイド組織の極秘基地がある!そして、その近辺にはサイコミュ兵器の搬入先である大型民間輸送船に偽装された航宙貨物船『ガランシエル』が停められている!恐らく中には地球連邦軍から横流しされたりしたMS(モビルスーツ)などの兵器が格納されているだろう…!アポリー大尉、ロベルト大尉、ギルボア大尉はガランシエルの鎮圧を、マハディ中尉とバッチ少尉はMSで極秘基地を鎮圧し、研究データの押収を担当してもらう!」

 

「やっぱりこうなっちまいますか……」

 

「ガランシエルが横付けされている以上、もはやサイコミュ兵器の搬入は秒読み段階だ、今更潜入による破壊工作は不可能だと断定した」

 

「…………飛び道具はどうすんです?」

 

「クレイ・バズーカにする…流石にビーム・ライフルよりはマシだ」

 

「了解」

 

「他に意見あるヤツはいないか!?」

 

「……………………」

 

ブリーフィングルームは、一瞬沈黙した。

エゥーゴ全隊員は皆、既に覚悟を完了していた。

 

「では現時刻を以て、『ルビコン作戦』を開始する!パイロット諸君の健闘を祈る!」

 

「「「はっ!」」」

 

 

 

 

まだ朝にもなっていないのに、目が覚めてしまった。

 

夢を見ていたからだ。

 

まだ幼い頃の夢を…………

 

まだ、父さんが生きていた頃の夢……

父さんは…貴重な休日だってのに、俺を構ってくれた。

ガキのくせに超小型飛行機(ホモ・アビス)なんか乗り回しちゃって、だというのに父さんは付き合ってくれた。

お袋は……母さんは、そんな俺たちを眺めながら微笑んでいた。

 

きっと、嬉しかったんだ。

俺たちがはしゃいでいるのが……

 

明日も学校がある。

今日みたいな非日常なんかじゃなく、いつも通りの明日が来る。

俺は……どうしたいんだ……?

このまま勉強して、それから工科大学とか行くのか?

工科大学で何を学ぼうというんだ。

 

親父は整備士をやっていたから死んだというのに。

 

でも、生きていくには働かなくちゃならない。

俺たちスペースノイドは、金持ちの家に生まれなかった連中は、汗水垂らして働くしかないんだ。

 

眠ろう。

今日は疲れたんだ。

もう一度眠れる筈さ…………

 

 

 

 

《BEEP!! BEEP!! BEEP!!》

 

 

警報だ…………『警報』だと!?

バカな……!

何かが起こったっていうのか!?ここで!?

 

「なんだってんだよ……っ」

 

廊下から寮の連中の声も聴こえる…

みんな、地下シェルターに避難するんだ……

俺も早く、行かなくちゃ。

死にたくなんてない。

死んでたまるもんかよ。

親父もお袋もきっと生きたかったんだ。

もっと生きていたかった筈。

なのに死んでしまったんだ。

だから俺は生きなきゃならないんだ…!

 

(…………………!?)

 

なんだ……?

き、気分が悪くなってきた……

気持ちが悪い…吐き気だとか、胃痛だとか、頭痛だとか……そんなんじゃない。

そういった肉体的な『何か』じゃないぞ……もっと、内面的な…精神的にゲッソリとするような……!

 

「ぅ…ぉえっ!」

 

ダメだ。

吐き気なのかこれは!?

肉体が……精神に引っ張られている…?

そしてこれは……俺の感覚だというのか……!

 

 

 

─^\/\───────(テュルリリリリン!!)*1

 

 

 

時刻0時。

サイド1『30バンチ』コロニー旧市街、合成食品製造工場跡地に建造された、倉庫に偽装された格納庫。

僕は、其処に居る。

 

『ドゥー・ムラサメ少尉』として……任務を遂行するべき『強化人間』として。

 

僕の本当の身体……『サイコ・ガンダム』。

それを夜明けまでに、『ガランシエル』とかいう船に乗せる。

それが僕の最優先任務。

 

今日はきっと、()()()()しない。

ただ本当の身体に戻って、船に乗るだけ。

そしてまた、僕は『心臓』だけになる。

たったそれだけの事。

 

「ドゥー、『サイコ・ガンダム』を『ガランシエル』に格納した後は、『()()』も頼む」

 

「………これもかぁ」

 

「文句言わずにやれよ、時間ないんだ」

 

ゲーツがなんか言ってる。

だけど僕よりも偉いから言う事を聞かなくちゃならない。

地球連邦だとかティターンズだとか……

僕には難しい事はわからない。

 

けれど、それでもいいと思う。

僕は『サイコ・ガンダム』で、『サイコ・ガンダム』の心臓。

そして、ニュータイプのパイロット。

 

僕にはそれだけでいいんだ。

それ以外、必要ないんだ。

 

「……ギーツ中尉!ジオンの『一つ目(モノアイ)』共がこちらにやってきます!」

 

「なんだと!?…バレたというのか…!迎撃は!?」

 

「『大尉』が発進されました!中尉、ご命令を!」

 

「ええい…カクリコンも発進させろ!そして俺も出撃()る!」

 

「はっ!」

 

「………やっぱり、今日は()()()()するかも」

 

「ドゥー、聞いていたな?お前は『サイコ・ガンダム』を格納したら、すぐに『それ』も格納するんだ!我々の目的はあくまで『それら』を地球まで持ち帰る事だ!コロニーで人殺しするんじゃなくて!」

 

「………………はぁ」

 

ダメかぁ……………

こんなんじゃ『キラキラ』しないよ。

まったくもう……『あんなの』置いてっちゃえばいいのに。

お上の人たちは分からないな。

いつまでもここに置きっぱなしでさ。

貴重な研究対象だとか、サンプルだとか……

 

ロクに動かない『身体』なんて、いらないのに。

 

「…………………キラキラしたいな」

 

じゃあ、やっちゃうか。

ゆっくり運びたいもんね。

 

 

 

 

直感だ…………

俺はまた、あの直感を感じている…!

きっと乗っているんだ…………

あの子が……『ドゥー』が!!

 

()()()()()()()()()!!

 

()()()()()って……俺は今、一体何が分かった…)

 

……今、窓から見たけど、戦闘は遠くで、旧市街地付近で起こってる。

ひょっとしたら、何かの間違いでこっちに流れ弾がやってくるかもしれない。

今暴れ回ってるMS(モビルスーツ)とかなら、きっと…そういう事さえやってのける力がある。

その為の地下シェルター。

寮の地下に設けられた部屋。

そこで皆と一緒に蹲っていれば、俺は確かに生き残れる。

きっと生き残れる筈だ。

 

けど……………本当にそれでいいのか?

 

そうだ……俺の『直感』だなんて、気の迷いかもしれないんだ。

本当にそれが真実であるかなんて、まだ分からないんだ。

人は疲れてたり緊張してたりしたら、変な妄想なんかに取り憑かれて、囚われてしまうんだ。

そう思って、皆と一緒に避難するべきなんだ。

俺は、そうするべきなんだ。

 

だけどさ………あそこに『ドゥー』もいるんだな。

 

この……親父(おやじ)の形見の『超小型飛行機(ホモ・アビス)』なら、俺はドゥーの下に行ける。

MS(モビルスーツ)なら、こんな小さな的に当てれない。

ドゥーは、何をやっているんだ。

それともやらされているのか。

ならば、俺はドゥーと話をしなくちゃいけない。

一緒に逃げないといけない。

あんな場所から離れて、どこか遠くの安全な場所まで。

 

だって、可哀想じゃないか…!

 

死ぬかもしれないんだ。

戦争なんかに巻き込まれて………

戦いなんかに巻き込まれて…!

まだあんなに細いのに……物も知らないのに……

 

「父さん…母さん…ごめん、おれは………行くよ」

 

わからない。

俺は其処に行って、何をすればいいのか。

ただ、それでも行くんだ。

 

行かなきゃならないんだ。

 

 

 

 

『旧市街地』にある合成食品製造工場跡地は、瞬く間に戦場と化した。

 

戦線は二つ、アポリーとロベルトのコンビは倉庫の破壊を目的に、残りのギルボア、マハディ、バッチのトリオはガランシエルの破壊を目標に、所謂『挟み撃ち』のような形で、戦線は形成されていた。

 

そして、現在………

ジオン公国軍特殊部隊エゥーゴの()()M()S()……

リック・ディアス』に乗るアポリー大尉とロベルト大尉は『紺色』に塗られた『()()()()()()M()S()2()()』と交戦していた。

 

その紺色はザクは『ハイザック』という、一年戦争終戦後に地球連邦軍がザク連邦鹵獲機を改良した、全く新たなMSであった。

何故かそれは、あのガランシエルに格納されていた。

 

それは明確な異常事態だ。

 

民間人がMSを所有するケースは自体はあるが、その殆どのMSは民間に払い下げられた旧式ザクだ。

であるならば、民間輸送船に新型MSを少なくとも『2機以上』所有しているのは、誰の目から見ても異常である事が明らかだった。

 

「あれはザクだがザクじゃない…!アナハイムか連邦どっちかの連中がやりやがったっ!」

 

アポリー大尉は叫んだ。

もはや彼らは唯のテロリスト集団ではない。

つまり彼らの背後には()()()()()があるという事。

この作戦が一筋縄ではいかないという事が、アポリー大尉には理解できてしまったのだ。

 

「落ち着けアポリー!」

 

ロベルト大尉は、そんな『相棒(マヴ)』の様子を見ても尚、冷静であった。

 

アポリーとロベルト……彼らは『マヴ』だ。

 

一年戦争の時、彼らは2機1組の連携により、互いの死角をカバーし片方を囮にもう片方が奇襲をかけるなどの形で補完しあう『M.A.V.戦術』を以て戦場を生き延びてきた。

 

その実力は確かな物。

彼らはコロニー内に被害を出さないように立ち回りながら、徐々に最新鋭のMSを相手に追い詰めていった。

2機1組の内、片方の『ハイザック』は小破し、もう片方は『マシンガン』を失った。

 

「片方のヤツは(じき)に堕とせるっ!」

 

「……待てアポリー!アレはなんだっ!?」

 

その時、ロベルト大尉は叫んだ。

 

2機のハイザックの背後にある……倉庫に偽装された格納庫から、巨大なマシーンが現れたのだ…!

 

その大きさは全長が『40m』もあった。

つまり、リック・ディアスの2倍以上の大きさ。

 

それの名は『サイコ・ガンダム』

 

ムラサメ研究所が開発した、サイコミュが搭載された可変式MA。

ドゥー・ムラサメのような『強化人間』にしか扱えない、悪魔の兵器(マシン)

 

「っ!……避けろロベルトォーっ!」

 

「……な、なんという規格外か!」

 

ロベルト大尉の遺言はそれだった。

 

『サイコ・ガンダム』の胴体部分……その真ん中から、メガ粒子砲が放たれたのだ。

それはコロニー内であるというのに無遠慮に放たれ、ロベルト大尉が操るリック・ディアスを貫いた。

 

こうして、一人のパイロットが死んだ。

*1
ニュータイプの音。

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