私のたった一つの望み、ドゥー・ムラサメ救済 作:黙っている一般将校
それは所謂『怨念返し』だ。
かつての一年戦争でジオン公国軍の捕虜となり、拷問され、虐げられ、スペースノイドへの憎しみを募らせた『バスク・オム』は、地球連邦が敗北しても尚、内なる怨念を肥え太らせ続けた。
彼には、地球連邦軍少佐という身分があった。
故に彼には『力』があった。
地球に住む人々の中で、スペースノイドたちに恨みを持つ者たちや、或いは『戦争』の中でしか生きていられない人々を集める力があった。
『バスク』は彼らを集めて『極右の特殊部隊』を創ろうとした。
それが今、コロニー内で『エゥーゴ』と交戦している者たち。
すなわち……………
『ティターンズ小隊』である。
『怨念返し』の為に戦う者たち…………
或いは戦う事を命じられた者たち………
彼らには、全く正義などはなかった。
◆
ロベルト大尉が撃墜された事でマヴを失ったアポリー大尉は、それでも尚取り乱す事なく、油断なく距離を空けた。
そして状況は混乱した。
格納庫を護衛していた『2機のハイザック』の片方は、『ゲーツ・キャパ中尉』である。
彼はこの状況に動揺していた。
そもそも、彼ら『ティターンズ小隊』の目的は、30バンチ内の極秘基地にある『二つのサイコミュ兵器』の搬入なのだ。
つまり、コロニー内で『エゥーゴ』を撃墜させる事ではない。
今現在、『サイコ・ガンダム』に乗ってロベルト大尉を撃墜させた『ドゥー・ムラサメ少尉』は、本来であれば交戦中にさっさと『ガランシエル』に格納しなければならなったのだ。
それは命令違反。
しかし、ゲーツ中尉は開き直った。
もはやこの状況では、サイコ・ガンダムの力を以てエゥーゴ全隊員を撃墜させた方が、目的を遂行できると考えた。
彼は『強化人間』でありながらも、ある程度は常識というものを知っていて、マトモな思考ができるのだが、それはそれとして、軍人として冷酷な計算ができる男。
彼は『時間稼ぎ』ではなく『戦闘』をする事にした。
「『大尉』!だったらですよ!いっそ!!」
「ええい……やるしかあるまい…!」
アポリーたちと交戦していた2機のハイザック。
片方は小破しており、そのパイロットはゲーツ中尉。
では、もう片方……未だ被弾せず、マシンガンを失っただけの……つまり、それだけ技量があるパイロットは、大尉であった。
彼の名は『クワトロ・バジーナ』。
一年戦争のソロモン会戦で、数多のジオン軍パイロットたちを撃墜させたエース・パイロット。
あのジオンの『赤い彗星』さえも凌ぐ…
彼は『ティターンズ小隊』のパイロットとして、この『30バンチ』に居た。
「ロベルトがやられた…!」
ミノフスキー粒子が散布された戦場であるが故に、通信でコロニー外の軍警たちには連絡できない。
そして30バンチ内の軍警たちは、皆旧式ザクで練度も高くない。
ガランシエルに攻撃を仕掛けたギルボアたちも、ビーム・ライフルなどを装備していなかったが故に、ガランシエルを破壊できていない。
エゥーゴにとって、状況は最悪だった。
アポリー大尉は決断を迫られた。
このまま撤退し、飛び立つガランシエルをアーガマで追跡するか………
或いはこの場で、決死の覚悟でテロリストたちを撃墜させるのか。
どちらもリスクとリターンがある。
ジンネマンから作戦の指揮権を任されているアポリーは、どちらの選択を選ぶのか。
彼が判断を決めかねている内に、2機のハイザックは、サイコ・ガンダムを盾にガランシエルの方へ向かっていった。
「クソっ!やはり撤退するしか…!」
アポリーは『リック・ディアス』のマニピュレーターの指基部から『撤退』を意味する『信号弾』を上空に放とうとした。
ここで全滅するよりも、
如何に相手が少数であっても、もはやエゥーゴたちだけでは解決できないと思ったのだ。
例え、援軍に来た軍警たちが、どれだけ撃墜されようとも、数の暴力という圧倒的な力を以て、テロリストたちを沈めようという魂胆。
アポリー大尉は、現状を冷静に分析した上で、その判断をした。
そして、リック・ディアスのマニピュレーターを操作しようとした……その瞬間!
「ひ、人なのか!?
彼は、空を駆ける『小さな影』を見た。
◆
俺は、死ぬのかもしれない。
「ハァーッ……ハァーッ……ハァーッ……!」
呼吸が荒い。
肺が氷のように冷たい。
火薬と硝煙の臭い。
爆撃音と銃声。
俺は、死にたいのか…?
確かに、今の俺は小さな的だ。
直撃はしないかもしれない。
けれど、もし流れ弾が来たのなら。
それが掠ったのなら……俺は必ず死ぬ。
ちっぽけな唯の人間なんだ。
それだけで俺は死ぬ。
「ハァーッ!ハァーッ!ハァーッ…!」
息がうるさい。
訳がわからなくなってきた。
直感は感じている。
寧ろ益々感じ始めた。
あの機体……あの『デカいヤツ』だ。
あそこに『ドゥー』がいる。
きっと『ドゥー』が乗っている。
分かってしまったんだ。
だから俺は此処まで来た。
「やめてくれ……そんなのは…!」
あの『デカいヤツ』は、ビームを放った。
それは拡散して放たれて、幾つもの光の束が、コロニーの何処かに直進していく。
そのビームは、無茶苦茶な狙いで、デタラメな方向に放たれていて……戦っているであろう『赤いMS』とは全く別の方向に突き進んでいる。
人が死んだ。
或いはこれから死ぬ。
俺には分かってしまう。
コロニーは上に地面がある。
あのビームは、高出力なエネルギーは、空気との摩擦なんかでは消えない。
きっと、俺の頭上の何処かの街とか、家とか、土地に直撃する。
そして人が死ぬのだ。
「ここはコロニーだぞっ……コロニーなんだぞっ!」
喉が張り裂けるように痛い。
心臓がバクバクと五月蝿い。
手汗が滝のように溢れ出て、脂汗が止まらない。
頭も割れるように痛い。
ズキズキとして、やけに痛くて、まるで脳みそに針が刺さっているような感覚。
そして、この
ゲッソリとするような感覚……!
(……なんだ?……導かれているのか…!)
視線が誘導された。
誰かがなんとかしたとは思えない。
けれど、俺に向かうべき場所が現れた。
それは『光』のようなもの。
または『思念』なのかもしれないが、兎に角、何かが俺を
「………こっちか!」
あの『デカいヤツ』の直ぐ近く。
つまりそこは、大きな倉庫だった。
ここは確か、元々は合成食品製造工場だった。
けれど不景気だとかなんかの理由で、昔に閉鎖してしまった場所。
中は誰も寄りつかない不気味な廃墟みたいで、まるで亡霊たちの棲み家だ。
だけど、そんな倉庫の中に………
一つ、不釣り合いな『ヤツ』があった。
「こ、これは……『黒いガンダム』だと!?」
それは、ガンダムだった……!
俺はそれを知っている。
ジオンの英雄『赤い彗星のシャア』が乗っていたとされる
特徴的な頭をしているし、教科書にも載ってる。
博物館にはレプリカだってある。
だからこれはガンダムだ…!
「これなら………!」
ハッキリ言って…………名前すら知らないレバーやらスイッチばかりで、ロクに動かせる気がしない。
だけど、これは凄まじいエネルギーゲインをしているというのは
「………ペダルは!?……ここかっ!」
毎日プチモビを動かしてバイトしてたんだ。
勿論おんなじな訳じゃないが…!
「動かせてやるっ!」
俺にだって、
◆
【
| 機体名:プロトタイプ・サイコガンダム |
|---|
| 型式番号『MRX-007』 |
| 頭頂高:19m |
| 本体重量:77t |
| 全備重量:130t |
| 装甲材質:チタン合金セラミック複合材 |
| 出力:3,700kW |
| 武装:拡散メガ粒子砲×1、ビーム砲×2 |
【概要】
ムラサメ研究所がガンダムをベースに開発したニュータイプ専用試作型モビルスーツ『7番目』の試作機。
型式番号の "M" はムラサメ研究所をあらわす。
開発場所はサイド1『30バンチ』コロニー極秘基地。
一年戦争後、ニュータイプが搭乗したMSに関する調査団が結成され、シャア・アズナブルが搭乗したガンダムタイプにサイコミュの搭載が確認されたことが、開発の起点とされる。
終戦後、元々フラナガン期間に所属していた研究員たちは、多額の研究資金や研究施設、実験に於ける倫理問題などを理由にムラサメ研究所に転属、彼らは
機体制御や火器管制は全てサイコミュによって制御されるが、マニュアル操作への切り替えも可能。
ビーム兵器を搭載するジェネレーターを搭載する関係上、サイコミュは胴体部に収まりきらず、バックパックに搭載されている。
しかし『バックパックそのもの』の大型化と重量増により、機動性は著しく低下してしまっている。
武装として胴体部にメガ粒子砲、腕部にビーム砲を装備。
腕部ビーム砲はサイコミュによってオールレンジ攻撃が可能となっている。
メガ粒子砲はジェネレーター直結式で威力は高かったが、サイコミュへの出力割り当てもあって出力不足により発射後10秒間のリチャージを要するなど、運用上の問題があった。
上記の通り機体の完成度は低く、サイコ・ガンダムでは機体の大型化を余儀なくされた。
しかし、ムラサメ研究所には、莫大な資金と時間を浪費して開発されたプロトタイプ・サイコガンダムを簡単に廃棄できる研究員はいなかった。
◆
黒いガンダム。
それは『プロトタイプ・サイコガンダム』だった。
本来それは、ガランシエルに搬入するべき
けれど、無謀にも戦場に突撃した『カミル・リンクス』によって奪われた黒いガンダムは、こうして戦場に君臨したのだ。
状況は益々混乱した。
(バカな!あれはドゥーにしか動かせないはず…!)
ゲーツ・キャパ中尉は驚愕した。
『プロトタイプ・サイコガンダム』は、ニュータイプ専用の
そして、それを起動できたのはドゥー・ムラサメだけ……
だがそのドゥーは今現在『サイコ・ガンダム』に乗っている。
ならば、あの『黒いガンダム』はパイロットは誰なのか…?
ギーツ中尉は動揺していた。
「………動くぞ!」
まず動いたのは、黒いガンダムだった。
あの紫色のMA…つまり『サイコ・ガンダム』に組み付いた。
如何にも我武者羅な動き。
まるで素人の喧嘩殺法。
ただ、誰もが状況を正確に把握できていない……混乱の場であったが為に、黒いガンダムは、容易くサイコ・ガンダムにしがみついた。
《な、なにを……!》
《ドゥー!ドゥーなんだな…!?……そこに!》
《!?……カ、カミルなの……?》
黒いガンダムのパイロット………即ちカミル・リンクスは、
《コロニー内で戦争すんじゃないっ!降りろっ》
《………………っ》
《聞けよドゥー!》
《聞けないよっ!》
暫くの押し問答。
カミルは言葉を尽くすが、ドゥーには響かなかった。
真っ先に状況を把握し始めた『クワトロ大尉』は、最早『それ』は搬入できないと判断し、躊躇なくゲーツ中尉に叫んだ。
「『黒いガンダム』は捨てる!私たちはガランシエルに『サイコ・ガンダム』だけ持ち帰るぞ!」
「………了解!」
「では……見せてもらおうか、黒いガンダムの戦いとやらを」
こうして、戦況は変わった。
◆
【5分で分かるルビコン作戦!】
サイド1の『30バンチ』コロニー内には、ムラサメ研究所がこっそり建造した『極秘基地』があったよ!
そこでは『サイコ・ガンダム』と『プロトタイプ・サイコガンダム』が密かに開発されてたよ!
そして、それを地球に持ち帰りたい『ティターンズ小隊』が、『ガランシエル』とかいう民間輸送船に偽装した宇宙巡洋艦で30バンチにまで、こっそりやってきた!
でも、それを事前に察知していた反スペースノイド過激派組織をブッ潰すジオンの特殊部隊『エゥーゴ』は、30バンチの中に『アーガマ』とかいう宇宙巡洋艦を
諜報員に頑張ってもらって極秘基地の場所とか諸々を突き止めたエゥーゴは、深夜になったら極秘基地にMS5機で速攻を仕掛ける作戦、『ルビコン作戦』を実行したよ!
だけど本来なら極秘基地からガランシエルにサイコ・ガンダムとプロトタイプ・サイコガンダムを運ばなきゃいけない『ドゥー・ムラサメ』が……
【サイコ・ガンダムで暴れまくって『エゥーゴ』壊滅させて、それからゆっくりとプロトタイプ・サイコガンダムをガランシエルに乗せよう】
というオリチャーを思いついて、サイコ・ガンダムに乗ってメガ粒子砲でエゥーゴのパイロットを1人撃墜しちゃった!
思った以上にヤバいマシンが出てきて状況がヤバくなったエゥーゴは、一回撤退して、たぶんコロニーの外に逃げ出すガランシエルをアーガマで追いかけながら、サイド1圏内の軍警と連携して、数の暴力でガランシエルをブッ潰そうと考えるよ!
だけど、エゥーゴが撤退しようとしたら、なんかいきなり『黒いガンダム』こと……
『プロトタイプ・サイコガンダム』が現れたよ!
パイロットは民間人のカミル・リンクス!
ドゥーを止める為に気合いで戦場を潜り抜けて、それから勢いに任せて乗っちゃった男の子!
カミルはドゥーを説得しようとするけど、話を聞いてもらえない!
しかもティターンズ小隊の『クワトロ大尉』って人が、プロトタイプ・サイコガンダムはもうブッ壊してもいいって言っちゃった!
これからどうなっちゃうのか!?
次回、第5話『カミルはキラキラを知らない』をお楽しみに!
大胆なガンダム強奪は主人公の特権。