私のたった一つの望み、ドゥー・ムラサメ救済   作:黙っている一般将校

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僕には誤字脱字報告してくれる人がいるんだ。
こんなに嬉しい事はない。


第6話 クワトロ・バジーナ

まず初めに言っておく事がある。

 

クワトロ・バジーナはシャア・アズナブルではない

 

彼は地球連邦軍大尉にして、バスク・オム少佐の軍閥でMS(モビルスーツ)パイロットをしている男。

それ以上でもそれ以下でもない。

 

故に彼に『思想』などはなかった。

地球環境の汚染、変わる事のない官僚主義、腐敗する上層部、愚かな大衆、スペースノイドたちの自治権、戦争、紛争、内乱、貧困、飢餓。

上記のこれらを解決しようだとか、或いは変革しようなどとは考えていなかった。

 

彼は唯、命令に従うだけの軍人。

そこの私情はなく、況してや我欲(エゴ)もない。

 

ならば、彼は冷酷な男なのか……?

別にそんな事はない。

プライベートでは気さくな男だ。

妻や恋人はいないが、友人や知人はそれなりに多くいる。

部下のパイロットと食事をしたり、喫煙所で整備士と雑談したりもする。

 

子どもには親切にしたいし、困っている人がいれば手助けもしたくなる。

望んで喧嘩や諍いする者は唾棄すべきだと思っているし、騒がしい場所には寄りつかない。

 

つまり、彼は所謂『良識』というものを持っていた。

 

けれど、それと同時に彼は『大人』でもあった。

人が持つべき『良心』と『常識』を持っていながら、任務や命令などの『名分』があるのなら、冷徹で機械的な判断ができた。

 

クワトロはティターンズの中では、比較的『怨念』を抱えていなかった。

彼にとって『戦争』は『戦争』のままで終わった。

だからスペースノイドを憎んだりはしていないし、アースノイドを特権階級にするべきとも思っていない。

 

しかし、それでもクワトロはバスク・オム少佐の軍閥の一人となった。

 

何故か…?

 

クワトロは自身を戦場でしか生きていけない男だ、という自認があったからだ。

別に『殺し』を心底から愉しんでいる訳ではない。

ただMS(モビルスーツ)パイロットとしての才覚があり、高給取りになれるから軍人になった。

『地球を守りたい』だとか『弱き者の盾』だとかに成りたい訳ではない。

今更ホワイトカラーとして背広を着たり、ブルーカラーとなって作業服を汚す気にもならないから………

たったそれだけの事。

軍閥同士の政治に興味もない。

 

ただ誘われるがままにティターンズとなった。

たったそれだけの男。

それ以上でもそれ以下でもない。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

ガランシエルは宇宙(そら)を飛んでいた。

コロニーの入り口を抉じ開け、ミノフスキー粒子が散布された場所から飛び立った。

クワトロとゲーツは、整備士(メカニック・マン)たちがMS(モビルスーツ)の補給と修理をしている間に、艦長室でバスク・オム少佐に通信を飛ばして結果を報告した。

 

そしてサイコ・ガンダムの搬入には成功したが、黒いガンダムこと『プロトタイプ・サイコガンダム』の搬入は失敗した事を告げた。

 

するとバスク少佐は暫し考え込んだ後に、口を開いた。

 

「ジオンの連中の手に『プロトタイプ・サイコガンダム』が渡るのは不味いな」

 

「申し訳ございません」

 

「だがまだ手は打てるのだよ大尉……『30バンチ』に『G3ガス』を注入したまえ」

 

「……………なんですって?」

 

クワトロは己の耳を疑った。

『G3ガス』……それは猛毒だ。

勿論、条約で禁止されている兵器。

だと言うのにも関わらず、バスクは平然とした顔で命令を下した。

 

「ヤツらの手にプロトタイプ・サイコガンダムが渡り、さらに極秘基地の存在を知られれば、連中は間違いなく研究成果を横取りし、更なる力を身につける!その前にヤツらを根絶やしにするのだ」

 

クワトロは目眩がした。

ゲーツの了解の意を示す声が、くぐもって聞こえた。

 

「スペースノイドの連中など死に値する者しかおらんのだ、頼んだぞクワトロ大尉、ゲーツ中尉」

 

通信はその一言を最後に途絶えた。

艦長室が静寂に包まれる。

ゲーツ中尉は、クワトロ大尉の様子を見て不思議そうに首を傾げた。

 

「………大尉?どうなされました?」

 

「中尉、君はこの作戦についてどう思う?」

 

「どう、とは一体……」

 

「いいから話してみたまえ」

 

「?……命令は命令なのです、私がどうのこうの言えるものではありません、ただ命じられた事を遂行するのが軍人の(さが)ではありませんか」

 

ゲーツは心底不思議そうにしていた。

クワトロは思った………

 

(冗談ではないっ!)

 

彼もまた軍人ではある。

故に人を殺す事への抵抗は皆無に近い。

だがそれは、任務の性質上仕方のない事である、という『論理(ロジック)』に基づかれた考えなのであって、自ら望んで『殺しをしたくて殺す』という訳ではなかった。

 

「中尉、他のパイロットをブリーフィングルームに集めたまえ、私は少し『お手洗い』に行ってくる」

 

「了解しましたっ!」

 

「さらばだ」

 

クワトロは努めて平然な顔をして艦長室を後にした。

だが、周りに人がいないと見ると、額の汗を拭いながら、何かに取り憑かれたように一心不乱に『ノーマルスーツ』を着込み、まだ修理中のMS(モビルスーツ)……片腕が破損したハイザックに乗り込んだ。

 

「あっちょっと大尉!何してんですっ」

 

《今ハッチを開けなければ君たちを皆殺しにする》

 

「はぁっ!?何言って…!」

 

《早くしないかっ!!》

 

クワトロが一喝した。

その声は艦内に大きく響き渡った。

整備士たちが顔を真っ青にしながらハッチを開けると、まだ整備中であったが為にロクな兵装もなく、更には片腕しかないハイザックがガランシエルから飛び出した。

 

「これが考えを放棄した報いだというのか…」

 

クワトロはコックピットの中で、苦々しい表情をしながら独り呟いた。

 

 

 

 

港に停まっているアーガマ。

 

そこでカミルは、MS(モビルスーツ)である『リック・ディアス』の仕様書を必死に読みながら、シュミレーターを稼働してMS操縦の練習をしていた。

 

彼が強奪した黒いガンダムこと『プロトタイプ・サイコガンダム』にはシュミレーターが無かった。

それどころか、他のパイロットでは『起動』すらできない特殊な構造をしていた。

つまり、この少年は『ぶっつけ本番』で乗らなければならないのだ。

正直言って異常事態そのもの。

正気の沙汰ではない。

だが、それでもカミルは自身ができる事を精一杯やりたかった。

少しでもMSの操作がスムーズになるように、カミルは血眼となって特訓していた。

 

ジンネマンは、カミルの『青さ』を尊いものだと思った。

それと同時に『危うさ』も感じた。

あの少年が持つ『爆発的な何か』には、世界を動かす力があるという確信さえあった。

故にジンネマンは、それに賭けてみる事にした。

その為に大きな責任を背負う事になったとしても。

 

そうしてジンネマンが艦長室で『ガランシエル』への追撃作戦を考えていると、突如『通信士』が叫んだ。

 

「艦長!敵MS(モビルスーツ)が一体近づいてきます!ですがソイツは『白旗』を掲げているようです!」

 

「なにっ!いや待て、自爆特攻かもしれん」

 

「こちらから『警告』をします!」

 

《止まれ、そこのMS(モビルスーツ)!貴様の目的と所属を明らかにしろっ!》

 

アーガマに近づいてきたMSは、先程までエゥーゴと交戦していた『ハイザック』だった。

だがそれは片腕を破損しており、マシンガンや手斧(ヒート・ホーク)などの武装をしていなかった。

 

《私は地球連邦軍のクワトロ・バジーナ大尉だ!諸君らに投降しに来た!》

 

《ならばMSから降りろっ!》

 

《了解したっ!》

 

ジンネマンは眉を顰めて顎を撫でた。

 

(何が目的だ…自爆特攻ならMSから降りない筈……ならば本当に我々に投降を…?)

 

『ハイザック』は静かに動きを止め、コックピットを開いた。

中から青を基調とした『ノーマルスーツ』を着た男が、ゆっくりと這い出て来る。

彼は両手を上げて『降伏』の意を示しながら、ゆっくりと『アーガマ』の前まで近づき、そのまま動きを止めた。

 

《アポリーとギルボア!迎えに行ってやれ、油断するなよ》

 

ジンネマンは内線でパイロット二人に指示を飛ばす。

その際にも彼はカメラ越しにクワトロを観察し、油断なく身構えた。

 

「殊勝じゃないかクワトロとやら」

 

「艦長と話をさせてくれ」

 

「なんだと?」

 

「私があなた方に降伏しに来たのは命が惜しいからではないのだっ!」

 

油断なく『ピストル』を構えながらクワトロを迎えに来たアポリーとギルボアは、切羽詰まった顔をしながら叫ぶクワトロの様子に、何か大きな事情がある事を悟った。

 

「全てを話して貰うぞ」

 

その言葉にクワトロは、深く頷いてから両手を差し出した。

 

 

 

 

サイド1『30バンチ』コロニー。

 

総人口1500万人。

 

サイド6の『イズマ・コロニー』が、地球の『日本』や『中国』をモチーフとして街づくりされたのに対し、30バンチは『西部開拓時代のアメリカ』がモチーフとされている。

 

街角には伝統的な建築様式の『酒場(サルーン)』や、ショッピング・アーケードがあり、郊外には農場や牧場などが広がる牧歌的な雰囲気を持つ。

 

サイド1のコロニーなだけあって建造されてからの歴史が長く、その分だけ社会の影の中に『(おり)』があった。

 

 

 

 

クワトロは全てを話した。

自らの所属である『ティターンズ小隊』の目的、極秘基地の研究内容、新型MS、ガランシエル、そして『上の人間』について…………

 

そして、上の人間が告げた『命令』さえも。

 

「なんて破廉恥なっ!」

 

ジンネマン艦長は目の前のテーブルに拳を叩きつけながら叫んだ。

 

「ですから私は、涼しい顔をしてパイロットをやれなくなりました、艦長には迅速に対応して頂きたい」

 

「了解した、それにしてもよく投降してくれた」

 

「私は『地球連邦軍』の大尉です、バスク・オム少佐の『私兵』に成り下がった記憶はありません」

 

クワトロは努めて平然な表情を作ろうとしていたが、眉間に寄った皺や、力が篭りすぎて震える手から『義憤』の感情が見てとれた。

ジンネマンはそんなクワトロの様子を見て『彼は信用に値する』と考えた。

 

「こうしている間にも、ガランシエルは『G3ガス』を用意している……ジンネマン艦長、後は頼みます」

 

「…………クワトロ・バジーナ大尉」

 

「なん「歯を食いしばれ」

 

言ったと同時に、クワトロ大尉の鼻柱に拳がメリ込んだ。

 

腰の入った重い一撃。

 

堪らずクワトロはたたらを踏んで、鼻を押さえながら狼狽いた。

 

「なにをするのです…!」

 

「貴様はそれでもいいのか」

 

「なんですって…………」

 

「俺たちに尻拭いを任せていいのか」

 

「ですが今の私に、独房以外の『居場所』などありましょうか!」

 

「予備の『リック・ディアス』がある」

 

「私に乗れと仰るのですか……!」

 

「それが貴様にできる『責任』の取り方だ」

 

「!」

 

「貴様は『虐殺』を黙って見過ごせるのか」

 

「それは………………」

 

「貴様も『大人』であるのならば!自らの過ちを自らの手で正してみせんかっ!」

 

クワトロ・バジーナ大尉の目が大きく見開く。

そして彼は刹那に逡巡した後、ヘルメットを脱いだ。

 

ヘルメットの下から()()()()()()()()()をした()()の男の顔が現れる。

 

彼はヘルメットを小脇に抱えると、ジンネマンの目を真っ直ぐと見つめながら、静かに『敬礼』をした。

 

 

 

 

MS(モビルスーツ)紹介】

 

機体名:リック・ディアス
型式番号『MSA-099
頭頂高:19m
本体重量:32t
全備重量:55t
装甲材質:ガンダリウムγ
出力:1,833kW
武装:クレイ・バズーカ、ビーム・サーベルなど

 

【概要】

AE(アナハイム・エレクトロニクス)社とジオン公国が共同開発した機体。

リニアシートとガンダリウムγを採用した初の第2世代MS(モビルスーツ)

宇宙世紀0082年、ジオン公国から新型MSの開発を依頼されたAE社はメラニー・ヒュー・カーバイン会長の陣頭指揮のもと、本機の開発を開始。

ドムシリーズが原型となっている。

 

ガンダムタイプの技術をフィードバックしており、本機はドムタイプにガンダム系の機能を掛け合わせた機体と言われる。

 

ガンダリウムγによる軽量化とブースター・バインダーによるAMBAC機能により、軽快な運動性を示す。

小型・高出力ジェネレーターも搭載しており、複数のビーム兵器のドライブも支障なくおこなえる。

また、センサーには連邦軍より高性能なものを使用しているため、ミノフスキー粒子の下では連邦軍の機体より遠距離から相手を捕捉できる。

 

マニピュレーターの指基部には『多目的ランチャー』が設けられており、トリモチや信号弾、照明弾などを射出できる。

 

高性能だが量産機としてはコストが高い為、エゥーゴなどの少数精鋭の特殊部隊に配備される事が殆ど。

 

メインカラーは『赤色』であり、シャア・アズナブルに肖っていると思われる。




ちなみに感想ほど嬉しい事も滅多にないです。
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