私のたった一つの望み、ドゥー・ムラサメ救済 作:黙っている一般将校
アーガマのブリーフィングルームには、ジンネマンとクワトロ、エゥーゴ全隊員(アポリー、ギルボア、マハディ、バッチの計4人)、そしてカミルが集合していた。
「只今より『ティターンズ鎮圧作戦』について説明する!我々に残された時間は僅かしかないから手早く言わせてもらうぞ!……まず、クワトロからの密告によると『ガランシエル』の連中は『G3ガス』をコロニー内に注入し極秘基地の存在の隠蔽を図ろうとしている!……その為にはコロニーの外側から
「…………っ」
「だが、報告にあった巨大な『
「はいっ!」
「ただし何度でも言わせて貰うが、戦場での作戦指揮を担うのは『アポリー大尉』だ……もし彼がお前に『命令』を下したのなら、その『命令』には何がなんでも従え…!」
「…………………っ」
「いいか?例えお前が天涯孤独の身であっても、お前には帰るべき場所と学校というやらねばならない事がある……我々軍人には例えお前に一生涯憎まれ続ける事になったとしても、お前の『
カミルはまた、涙ぐみそうになった。
ジンネマンは、少年の理屈と意思を信じて、軍人とは思えない判断をしたのだ。
彼は自身がどれだけ目の前の『大人』に救われているのか、理解している。
目の前の大人が、自分の為にどれだけの困難を背負おうとしているのか理解している。
そして、もし『それでも成し遂げられなかった』時の事さえ想定している。
そう………………………
もし、カミル・リンクスが『
ジンネマン艦長は、事件とは何の関係もない民間人を『重大な安全管理違反』で犠牲にし、挙句の果てには押収しなければならない『証拠品』すらも失うという大失態を犯す事になるのだ。
まず間違いなく『軍法会議』にかけられるだろう。
そして裁かれ、一生涯『罪』を背負うのだ。
なのに、ジンネマンはカミルの言葉を信じた。
その上で『責任』を背負う決断をした。
カミルとは、まだ出逢って一日だというのに………
「了解しましたジンネマン艦長っ!必ずドゥーを説得してみせます!そして俺は……何がなんでもアーガマに生きて帰りますっ!」
「その言葉、嘘にするな」
カミルは『敬礼』をした。
見様見真似の不恰好な敬礼。
だが、ジンネマンは『それ』を見て眩しそうに目を細めた。
「クワトロ大尉はカミルの援護を頼む、ティターンズ小隊の相手はエゥーゴ全隊員で対処する」
「了解しました」
「お前は……ロベルトを堕としたんだ…!ならば今度は、この少年の命を守ってみせろ……」
「私の命に代えても」
クワトロは深く頷いて静かに『敬礼』をした。
その動作には一切の迷いがなかった。
「よし、では只今より『ティターンズ鎮圧作戦』を開始する!」
「「「はっ!」」」
ジンネマンの号令を聞いてエゥーゴ全隊員とクワトロ大尉は、
カミルもまた、駆け出そうとしたのだが、僅かに逡巡してから振り返った。
「最後に聞いてもよろしいでしょうか?」
「なんだ」
「なぜ俺を信じてくれたのですか」
ジンネマンは顎を撫で、一拍置いてから背筋を伸ばした。
「それらしい理屈は言える……お前が黒いガンダムに乗って、あのMAに触れて接触回線で話しかけた事でメガ粒子砲を撃たずに大人しくなった、だとか………あのMAのパイロットがまだ幼い少女であるのなら、説得に応じる可能性は高いだろう、だとかな……」
「……………………」
「だがあえて言わせて貰うぞ、俺はお前の『眼』を信じたんだ」
「眼、ですか………」
「今のお前は『正しい』と思う事の為なら、どんなに困難な現実にも立ち向かおうという強い『眼』をしている………まだ『子ども』であるというのにな」
「ジンネマンさん………………」
「話はそれだけだ!お前も戦闘準備を急げ」
「はい………ジンネマンさん!俺を信じてくれた事、絶対後悔させませんからっ!」
ジンネマンの激励に対し、精一杯張り上げた声で応えたカミルは、強い決意を漲らせながら駆け出して、『ノーマルスーツ』を着込み、『黒いガンダム』こと『プロトタイプ・サイコガンダム』のコックピットに乗り込んだ。
「カミル・リンクス、ガンダム出ます!」
少年は、そう吠えてみせた。
◆
そして
『アーガマ』から発進した
メンバーはそれぞれ、カミル、クワトロ、アポリー、ギルボア、マハディ、バッチ。
カミルが乗る『プロトタイプ・サイコガンダム』以外は、全て赤い『リック・ディアス』であった。
カミルを除いたパイロットたちは皆、『一年戦争』を生き延びた歴戦のパイロット、彼らは用心深く周囲を見回すと、スペース・デブリを盾にするように飛行している『ティターンズ小隊』の『ガランシエル』を容易く発見した。
「
アポリーが回線越しに叫んだ直後、
「ミノフスキー粒子か……!」
カミルはコロニーの外壁に降り立ち、周囲を見回しながら呟いた。
『ミノフスキー粒子』とは…………
ジオンの物理学者『トレノフ・Y・ミノフスキー』によって発見された粒子。
散布する事で『電波障害』を起こして無線機やレーダー等の電子機器を『無力化』するこの粒子は、持続性のある『レーダー撹乱幕』としての効果が認められている。
一年戦争時、『ジオン公国軍』はこの粒子を用いて情報能力を駆使した長距離からのビーム兵器による艦砲射撃や誘導兵器を主な戦術とした『地球連邦艦隊』の攻撃手段を封殺し、ここに高い運動性と対艦兵器による火力を両立させた『
ティターンズ小隊の
恐らく彼が独自のルートで手に入れたのだろう。
「そんなに戦争がしたいのかよ………」
カミルは、怒りと悲しみが入り混じった顔をして……そう小さく呟いた。
その直後、カミルはまるで流星群のような軌跡を見た。
『ティターンズ小隊』の『
その数は4機。
ティターンズ小隊は現在、全員で5人いる。
ゲーツ中尉、ドゥー少尉、カクリコン中尉、マトッシュ少尉、マルガリータ少尉だ。
ドゥー・ムラサメ少尉以外の全パイロットは、深緑色の『ハイザック』に搭乗し、スラスターを用いて高速機動を行いながら『G3ガス』のボンベを囲うようにして編隊を組んでいた。
そして、少し遠くで……ガランシエルから、ゆっくりと『巨大な
《カミル君、エゥーゴ全隊員はティターンズ小隊を抑え、私はあの
《了解しましたっ!》
カミルの直ぐ近くに控えていたクワトロは、接触回線を用いて素早く指示を飛ばした。
そして『リック・ディアス』たちが散開する。
カミルは、クワトロからの指示を頭の中で何度も反芻しながらレバーを動かし、ゆっくりとペダルを踏みつける。
「ドゥー……俺は……俺は知りたいよっ…君がなんであんなマシンに乗っているのか、君が本当に戦争なんかをやりたいのか…!」
以前とは違う着実で堅実な挙動。
コロニーの外壁に足を着けず、何処から『攻撃』がやって来ても回避運動ができるような状態。
規格外なエネルギーゲインと核熱融合炉による高い出力。
プロトタイプ・サイコガンダムの機動性が高くないからこそ、こうして直ぐにでもスラスター移動ができるように、カミルは意識して身構えた。
「まだ君のこと、殆ど何も知らないけどさっ……全く何にもわかんないけれどっ!俺はもっと君のことが知りたいんだ…!」
この戦況が動く数秒前………
「そして君の事……『ドゥー・ムラサメ』の事を好きになりたいんだよ……!」
カミルは叫びながら、レバーを強く握りしめた。
◆
【
| 機体名:ハイザック |
|---|
| 型式番号『MS-20』 |
| 頭頂高:18m |
| 本体重量:39t |
| 全備重量:60t |
| 装甲材質:チタン合金セラミック複合材 |
| 出力:1,428kW |
| 武装:120mmマシンガン、ヒート・ホークなど |
【概要】
地球連邦軍が、ジオン公国軍の名機ザクとほぼ同じ基本コンセプトで、ザク連邦鹵獲機を解析した情報をベースに作った量産型MS。
連邦軍規格の各種部材が組み込まれており、一年戦争後に量産された初の機体でもある。
ザクの発展型というよりはザクに『軽キャノン』の設計を強引に組み合わせたハイブリッド機というべき機体とされる。
一年戦争後の連邦軍は、事実上敗戦した影響で経済状況が芳しくなかったため、運用する機体は新規開発よりも既存機のマイナーチェンジを主流としていた。
しかし、主にサイド6のコロニー内で『クランバトル』という
更には民間人がMSを用いて『犯罪』を行うようにもなり、各サイドのコロニー軍警には、民間人のザクに対処する為の新たなMS開発が必要になった。
MSの適正配備はU.C.0081年10月に『連邦軍再建計画』が可決されて以来の懸案となっていたが、U.C.0082年12月にバスク・オム少佐の軍閥である『ティターンズ小隊』が結成されると、MS開発は再び活発化。
こうした中で、連邦軍は
U.C.0083年7月にロールアウト。
翌年0084年にハイザックが制式採用され、ティターンズから優先的に配備されていった。
メインジェネレーターは連邦軍規格のものだが、動力系統は公国由来の流体パルス駆動と、連邦由来のフィールド・モーター駆動を併用する方式を採用している。
しかし、この動力系統の混合からエネルギー経路のスペースは圧迫され、ビーム兵器のエネルギー供給用サプライケーブルは機体各部に露出することとなった。
コクピットには、AE社の後押しで同社製普及型全天周モニターつきリニアシート『JTS-17F』が導入された。
燃料の積載量やスラスター技術の発展もあり、無重力空間における機動性は向上。
こうして、ハイザックは生産性と操縦性の高さからティターンズ小隊の主力機として配備された。
◆
ガランシエルから出撃したドゥー・ムラサメは、コロニーの外壁にいる『プロトタイプ・サイコガンダム』の姿を見て、言いようのない感覚に襲われた。
「そこにいる……カミル……!」
ドゥーは、自分でも何の感情を抱いているのか、全く分からなくなっていた。
ただ、彼女は『命令』をされている。
上の人間からの『命令』は絶対。
それは『ムラサメ研究所』で教わった。
だからドゥーは、自身の感情を無視した。
コックピットで澱みなく操縦する手から、一切の震えが消える。
「僕にはキラキラさえ……
彼女がそうやって
その形相は、まるで悪魔が如く異形の姿をしていた。
頭部のデザインは一見『ガンダム』のようであったが、赤いシャッターで覆われた………『蜘蛛の目』を彷彿とさせる大小11のセンサーレンズには、見る者を威圧させる『不気味さ』があった。
それは
言われなくてもぉっ……!(感想欲しい)