Side:百
「―――それじゃあ、またどこかで。も…いや、八百(やお)比丘尼(びくに)ちゃん」
今は昔、千年以上も前。目の前の御方―――葦原ミヨさまは、そう言って私(わたくし)に別れを告げようとしていました。
―――この時、普段の臆病者の私であれば、そのまま想いに蓋をして見送っていたことでしょう。
けれど。この時の私は一味違ったのです。
「み、ミヨしゃま!」
「ん?なんだい?」
「わ、私も…私もつつっつ連れて行ってもらえましぇんか!?(ああああ噛んでしまいましたぁ~!?それにいきなり連れて行って欲しいだなんて、変な子だと思われてないでしょうか!?)」
「う、う~ん。彼女(・・)がなんて言うかにもよるけど…まあ、確かにキミも俺たちと同じ永い時間を生きるモノだし、一緒にいたほうが危険からも遠ざけられるかもしれない。…うん、よし。なら一緒に行こうか」
心の内で悶えていると、ミヨさまは少し困った顔で考えたのちに私が付いていく許可を出してくれました。
「ほ、本当ですか!?」
「うん。それに…やっぱり一人っていうのは心細いしね。今のところ世界に3人しかいない不老の生き物なんだ。助け合っていかないとね」
「……!ありがとうございます!誠心誠意、お供いたします!」
「あはは、そんなに気を張らなくてもいいよ。疲れてしまうからね。ゆっくり、一歩ずつ行こう」
そう冗談めかして言ってくれたミヨさまに、さらに想いが積み重なる私なのでした。
そうしてかぐや様―――のちのヤチヨ様と合流すべく、京(みやこ)を目指して何か月かミヨさまと二人きりで旅をしました。
その道中では様々なことがありましたが、そのお話はまたいずれ。
様々な道程を経て辿り着いた京で待っていたのは、私がミヨさまから話を聞いていた通りの、天真爛漫な―――ウミウシ様でした。
「浮気…?ねえ、浮気なの…ミヨ?
へぇー、そうなんだ。わたしの…かぐやのために、いろはのところに帰る方法を探してくれてたと思ってたのに、そーんなかわいい子と何年もイチャイチャしてたんだ。ふぅーん?
…ぜったいにユルサナイカラ」
「浮気…?何言って―――あ、まって。その目怖いからヤメテ。」
…まあ、そのほかにも愛が深い…重い?方でもありましたが。
初めは私を警戒されていたかぐや様でしたが、しぶしぶ私の動向を認めてくださいました。
そして、段々と年月を経ていったことで私を家族のように扱ってくださるようになりました。
そんなある時のこと。ふとかぐや様が私にこう言いました。
「ねえねえモモ?」
「はい、何でしょうかかぐや様?」
「モモってさー。ミヨのこと好きだよね?男の子として」
「…!―――は、はい。わ、私はミヨさまのことを、お慕い申し上げております…!」
「やっぱりー。そうなんじゃないかと思ったんだー」
「も、申し訳ありません!」
「へ?なんで謝るの?」
「はぇ…?」
「モモはもう家族みたいなものだし、それにめちゃいい子だしね。そろそろ意地張って認めないのダサいなって。
…だからさ、私たちでミヨのこと骨抜きにしちゃおうね!
他の子に目移りしないように!」
「は、はい!」
この時、私はかぐや様に認められてとても嬉しかったことを覚えています。
このままずっと3人で暮らすことができたら、なんて幸福なことだろう。そう思っていました。
―――しかし、そう簡単にはいかないのがこの世の常。
この後、私たちは困難に直面することになるのでした。
「―――さがせ!まだ近くにいるはずだ!」
「かの永遠の命、我らが殿のご執心だ!ひっ捕らえて御前に連れて行くぞ!」
「…なんで、どうして、こんなことに」
「私たちはただ、静かに暮らしていただけなのに…」
「…今はとにかく、ここから離れよう」
―――私たちの見た目が変わらないことをどこかから嗅ぎつけた、とある豪族が私たちのことを捕まえてその肉を喰らおうとしてきたのです。
彼の豪族の手はどれだけ逃げてもしつこく追って来ました。
…私たちは、限界に近づいていました。
そんな私たちを見たミヨさまは、「決着をつけに行ってくる」と書置きを残し、彼の豪族の居城まで私たちを置いて一人で向かってしまいました。
私たちは必死で追いかけましたが、城に着いた時にはもう遅く、火の手が上がり崩れ行く寸前でした。
私たちがミヨさまを探していると、城の方から虚ろな顔をしたミヨさまがやってきました。
その表情に無性に心配になった私たちは、ミヨさまの名を呼びながら近寄りました。
その声を聞いたミヨさまは、こちらを見ると絶望したような表情を浮かべた後、気を失って倒れてしまいました。
―――のちに聞いた話によると、ミヨさまは初め豪族を説得しようと試みたようですが、既に不老不死に狂っており、兵を差し向けて殺そうとしてきたため、兵もろともその手にかけてしまい、私たちに合わせる顔が無いほどの殺戮を犯したと考えてしまったそうです。そんな中急に私たちが現れてしまい、感情が閾値を超え、気絶してしまったとのことでした。
そんなミヨさまに私たちは「頑張ってくれてありがとう。あなたのおかげで私たちは今ここにいられる」と何度も根気強く伝えました。そんな私たちの言葉を聞き、嘘ではなく本心で感謝する私たちを見て、ミヨさまは何とか心を持ち直し、旅を再開することができたのでした。
その後も私たちを多くの困難が襲い掛かりましたが、3人で励まし合いながら何とかかぐや様の目的の年代まで到達することができました。
ミヨさまは店を開いて酒寄彩葉様を助けようとしたり、ヤチヨ様となったかぐや様はツクヨミで再会の時を待ち続けていました。
そうしてある年の夏、運命が巡り始めました。
かぐや様がやってきたのです。
これでヤチヨ様の悲願が達成される。そう思っていました。
―――あの運命の日、ミヨさまがその身を犠牲にしてかぐや様を救おうとするまでは。
「イヤ!やめて…私を置いてかないでぇ…!!!」
「ごめんな、ヤチヨ。俺にはかぐやを見捨てる選択肢は取れないらしい。…これも、惚れた弱みってやつかな。
―――さよなら。ずっと大好きだったよ、ヤチヨ、百ちゃん」
「「あ、あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」」
光の粒となって消えていくミヨさま。
その様を見ながら、そしてミヨさまの記憶が消えていくのを拒みながら、私とヤチヨ様は泣き叫ぶのでした。
そうしてミヨさまのことを忘れてのうのうと生きていた私たちに、地球の意思からミヨさまの記憶が渡され、私たち4人は『Luna』へ向かうこととなりました。
道中懐かしい(大吾郎)方(様)とも話をし、いよいよミヨさまの体に取り憑いた地球の意思と対面。私たちはミヨさまの記憶とその想いに触れることとなりました。
“そして―――百ちゃん。彼女はこんな俺を慕ってくれて、いつもその笑顔で俺を元気にしてくれていた。…ああ、俺はあの笑顔に、二人きりの静かな空間に―――確かに救われていたんだ。“
その想いを見て、泣かずにはいられませんでした。あまりにも大きな慈しみの心。無償の愛ともいうべきモノを向けていてくれていたことと、嬉しさとミヨさまが自身を大切にできなかったことに。
そして記憶をすべて見た私たちは、ミヨさまを迎えに行き、ミヨさまを現世に戻すことができました。
その後も順風満帆とはいかず、大小さまざまな困難が私たちを襲いました。それでも全員で何とか乗り越え、そして―――
「百ちゃん、こんなみんなに支えてもらわないと生きていけない俺だけど―――どうか、結婚してくれないでしょうか」
「―――はいっ!喜んで!不束者ですが、よろしくお願いいたします…っ。う、うわあぁぁぁぁん…!」
私は、自らの想いを遂げることができました。
そして、現在。私は―――
「ねえねえ百かあ様―。あそんでー」
「えー!ボクとあそんでよ、かあさま!」
「えほんよんでー」
「はいはい、順番ですよ。みんな?
…ふふ。ああ、幸せですねぇ」
「百」
「あら、あなた様」
「あ、とうさま!」
「父様もあそぼー!」
「とうさま、えほん」
「おお、いいぞ。順番になー。でもその前に、おやつにしないかー?」
「「「するー!」」」
「おう、じゃああっちで楓を背負ってる彩葉お母さんのところに行くんだぞー。あ、手はちゃんと洗ってな?」
「「「はーい!」」」
元気に走っていく子供たちを見て、思わず笑みが溢れる。
「…なあ、百」
「はい、ミヨさま」
「その呼び方、久々だな?」
「ええ、子供たちがいない時くらいは…ね?」
「はは、百も強かになったなぁ」
「ええ、もうお母さんですもの。
…ここまで連れてきてくれて、ありがとうございます。
愛しています、ミヨさま」
「ああ、俺もだよ…百」
「あーっ!あそこでイチャイチャしてる!ずるい!」
「これはやっちょたちにも構ってもらわないとですなあ」
「ほらほら、二人とも。早くこっち来てください」
「「「とうさま、百かあさま、はやくはやく!」」」
「「はーい」」
私とミヨさまを呼ぶ声に返事をして。
二人で顔を見合わせて笑って。
私たちを待つ”しあわせ“の輪に混ざろうと、二人並んで歩を進めるのでした。
どうも、ど素人ことあさらこです。
更新がなかなかできず申し訳ありません。
本編は今しばらくお待ちください。
今回は、百ちゃんのハピエンを書いてみました。
久々に書いたので暖かい目で読んでくだされば幸いです。
それでは今回はここまで、また気が向いたときにでも。
本編エタらずに終わらせられるだろうか…