side:彩葉
つい先日バイトに励んでいたところ、店長がこちらに来て
「すまない、明日バイトを入れてくれていたところ申し訳ないんだが、急遽ここに古い知人を呼ぶ用事が出来てしまってな。明日を休みにしようと思うんだが、大丈夫か?」
と言ってきた。
私は内心かぐやの配信準備で使われたお金を何とか貯めなおしたくてしょうがなかったが、
店長があまりにも申し訳なさそうに言うものだから、
「大丈夫ですよ。その様子だと久々に会うんでしょう?
こちらに気兼ねなく、楽しんでください!」
と答えた。
店長はしばらく難しい顔をした後、はっとしたあとこう言ってきた。
「いや、それでは俺の気が済まない。良ければなんだが、次の定休日にここにきて勉強でもしたらどうだろうか」
「え、いやいや、悪いですよ」
「気にしなくていい。ちょうどその日は飲み物の研究をしようと考えていたんだ。このままだと酒寄のことを考えて罪悪感で研究が手につかなそうだしな。俺のことを助けると思って、な?」
「わ、私のことを考えてって変なことを言わないでください!…もう、わかりましたよぅ。
それじゃあ次の定休日、よろしくお願いします。」
「ああ、ありがとうな、酒寄」
ということがあり、私は朝から定休日の『Luna』のドアの前に立っているのであった。
ちなみに、いつもならこの状況だと「私も行く~~~!」と言ってついてきそうなかぐやは配信準備や動画を撮るだとかで家で忙しそうにしていた。
『Luna』に行くと伝えたら行きたそうにしていたが、午前中に終わらせないといけないものがあったようで、悔しそうにしていた。
「あいつ、いつの間にか店長に懐いてたなー」
思わず考えていたことが口をついて出た。
そうなのだ。初めて店に来て、空き時間に料理を店長に教えてもらえることになったかぐやはあの後、どうやら頻繁に店に来ているようで、バイトに来たらかぐやが店長と一緒に料理を作っている姿をよく見るようになったのだ。
しかも「ミヨ、ミヨ」と鳥の雛のようによく後ろを着いていくようにもなっていて、
正直ちょっと面白くない気持ちになっていた。家に住まわせてあげてるの私なんだからなー?
そこのところわかってるの?かぐやのやつ。
「っとと、店の前で考え事をしている場合じゃなかった!」
と店の扉を開けるとーーー
カランコロン…
「お、いらっしゃい、酒寄」
「今日はお邪魔します、店長」
「はいはい、とりあえず好きな席に座りな。飲み物持っていくから。」
いつものように挨拶を交わし、促されてテーブル席に座った私に、
店長が飲み物を持ってきてくれた。
「ほい、今日は新商品にと考えているアイスオレンジティーです。
良ければ感想を教えてくれ。それ次第でメニュー入りするか考えるから」
と言ってきた。
「ほんとですか!うわあ、早速いただきます!」
新メニューになるかもしれない紅茶と聞いて、私は思わずテンションが上がった。
店長は自分が味見したうえで言っているんだろうし、これは楽しみだと思いながらストローで一口吸う。
そして口の中に入ってきた瞬間、さわやかなオレンジの香りと甘酸っぱさ、そして茶葉の風味の豊かさを感じた。
「これ、すっごく美味しいです。ヒット間違いなしですよ!」
「そうか、それならよかった。何分初めて作るから、結構緊張してたんだ。
おかわりほしければ言ってくれ、俺は厨房でご飯作ってるから」
私はびっくりして思わず断った。
「飲み物だけじゃなくご飯まで!?だ、大丈夫ですよそこまでしてもらわなくても!」
「遠慮しないでいい、それにご飯も結局は研究で多く作るものだしな。むしろ食べてくれなきゃ困る」
しかし店長がこちらに遠慮させないようにこう言ってくれるので、
「それ、なら…」
とご飯も頂くことになったのだった。
リンゴーン…
そして、静かな環境で勉強することで大変勉強が捗りに捗っていた私は、時計が正午を知らせる音でようやくずいぶんと長い時間集中していたことに気がついた。
ぐううぅぅぅ~~!
そして腹の虫も…///
「お、おなかが空いたか、ならご飯持っていくな」
「あ、アリガトウゴザイマス…」
つい恥ずかしさで片言でお礼を言って縮こまっていると、店長がお皿に乗ったサンドイッチを持ってきてくれた。具は照り焼きチキンや卵、ハムとキュウリなど、おいしそうなものばかりだった。
「いただきます!はむっ…ん~~~!!!」
サンドイッチはとてもおいしかった。美味しすぎてすぐに食べきってしまったくらいだ。
「ごちそうさまでした!すっごく美味しかったです!」
「お粗末様。美味しく食べてくれたなら良かった。やっぱり料理人は美味しく食べている人の顔を見るのが一番だからな」という言葉を聞いて、私はつい、自分の悩みを絡めたことを聞いてしまった。
「あの…質問なんですけど、店長が料理人を目指すきっかけって何だったんですか?
私はお母さんに認められたいっていう理由で東大を目指しているんですが、特にやりたいこともなく、こんな不純な動機で目指していて、他に東大を目指している人に失礼じゃないかって考えてしまって」
とこんな悩みをぶつけてどうするんだと言った直後に気づき、慌てて取り消す前に、店長が話し始めた。
「うん?目指してもいいと思うが」
「へ?…そう、ですかね?」
「ああ、正直やりたいことなんて後からでも見つかるし、そのやりたいことをかなえるために学力が高いところに行くのはありだと思う。
しかしちょっと言いたいのは、母親のことを自分の将来に組み込もうとするのは無しだ。
なぜかって?これは、お前の
それに、相手のせいにしてしまう可能性もある。そんな見苦しい自分なんて見たくないだろう?」
と言われ、私ははっと気づかされた。そして、情けなさやらなんやらで無性に泣きたくなってしまった。
私が泣くのを我慢してうつむいていると、ぽんと頭に手が置かれた。店長だった。
「いいんだ。ここには俺しかいないんだから存分に泣くといい。たまには泣かないと、心が渇いてしまうぞ?」
と優しい声で言われ、私はわんわんと泣いた。店長はゆっくりと、私が泣きやむまで頭を撫でてくれていた。
「すみませんでした。急に泣いちゃって。」
「いや、酒寄はいつも頑張っているんだ。たまには思いっきり泣くくらいがちょうどいいさ
それに、悩み事があれば聞くから、気軽に相談してきなさい。」
「はい!ありがとうございます!」
「うん、じゃあもういい時間だし、かぐやも待っているだろうからそろそろ帰りなさい。」
「はい、本当にありがとうございました!
…また、こうやって来てもいいですか?」
つい甘えるように聞いてしまった私に、店長は優しい笑顔で
「もちろん。待っているよ」
と言ってくれた。
「それじゃあおやすみなさい!」
「ああ、おやすみ」
そう挨拶を交わして家路につくと
「いーろはっ、おっかえりぃ!
…あれ?なんかいろは、顔が赤いよ?それになんだかうれしそう。
なんかあった?」
「へぇっ!?い、いや、なにもないけどっ?」
「あーやしいナー」
「もう、何でもいいでしょ!私お風呂入るからね!」
「あっ、まってよーいろはぁ!」
と騒がしく夜は更けていった。
…べ、べつに店長の優しい顔を思い出してたんじゃないんだから!本当だからね!?
ーーーおまけ
『おかえり、ミヨ!いろははどうだった?元気してた?』
「ああ、悩みとかも聞いたぞ、最後は頑張って耐えていたものが切れたみたいで泣いちゃったけどな」
『ふうーん、ねえミヨ』
「ん?なんだヤチーーー」
『いくらミヨでも、いろははダメ、だよ…?』
びくうっ「お、おう…?」
『ふふふふふ…』
「」(今日のヤチヨ、なんか怖いな…)
はい、どうも。続けてヤチヨが出ていたので、彩葉の話を書いてみました。
ど素人ことあさらこです。
って結局でてんじゃねーか!!!って突っ込みはよーくわかります。私もそうですから。
いや、ちがうんですよ、なんか勝手に出てたんですよ。本当なんです信じてください!
さて、彩葉の話でしたが、解釈違いだよって方は申し訳ありません。でも映画での前半の彩葉の孤立無援っぷりがかわいそうすぎて、俺の話の中でくらい甘えられる大人がいてもいいじゃねーか!と思って今回のお話を書きました。強引すぎたと感じたらすんません。
ミヨ君、なんかたらしみたいになってきてるな…
まあ実際のところはあくまでも「恩返し」なんですけどね、本人的には。
次の話題
前話のあとがきで書きそびれたミヨ君の<ツクヨミ>での戦闘力ですが、現実の12分の1になっています。正直詳細を本編で書くつもりはないのでここで説明しますが、原因は
・<ツクヨミ>は月に近いものであること
・仮想空間であること
です。
ならなぜ12分の1なのかと言えば、そう、月の重力が地球の6分の1だからです。
その概念的なものが仮想空間であることにも乗っかって12分の1の弱体化になっています。
さて、では今回はここらへんで終わりにします。
それじゃ、また気が向いたときにでも。
12分の1の力で『ブラックオニキスに』10回中3回は勝てるの…?