side:ミヨ
大吾郎が生まれてもう六十年近く経った。大吾郎ももう立派なおじいさんで、数年に一回『Luna』でお茶を飲みながら近況報告をするような仲だ。「あの俺が絵に描いたかぐやを見て一目惚れしていた大吾郎がな~」というと「昔の話です。それに、かぐや様にはもうお相手がいるではありませんか」とひらりとかわされるようになっていた。昔は顔を真っ赤にしてうつむいていた大吾郎が…時の流れは早いな。
それに、時の流れが早いと言えば、かぐやの魂の姿がここ数十年で急激に変わっていっていた。きっかけは、インターネットが普及してきて、かぐやがなにやら考え事に耽る時間が増えていたころだった。ふとある時にかぐやがはっとした様子で「ああ、そっか。ヤチヨがどこにもいないわけだよ。…だって私がそのヤチヨ本人だったんだから」とつぶやいてからだった。どんどんかぐやがあの終わりで見たヤチヨの姿に変質していっていた。
かぐやは俺に、「正倉院にある『もと光る竹』を盗み出してほしい」と言い、俺はその時経営していた『三日月』という店で知り合ったCIA職員だと名乗った男に協力してもらい、無事に盗み出すことができた。あの男は最後に「君のような男にそこまで想われている人に一目会いたかった」とニヒルに笑って母国に帰っていった。
そうして、かぐやが<ツクヨミ>を生み出す環境が整い、ついにプロトタイプが出来上がった。「初めてはミヨに体感してほしい」という言葉に頷き、俺は<ツクヨミ>に入った。
初めて入った感想としては、かぐやの心象風景なのか下は水面、上は朝焼けのような穏やかな空で、とてもきれいな風景だった。
俺が景色に見とれていると、
「ーーーミヨおっ!」
という声とともに前からかぐやが抱き着いてきた。
そのまま「やっと、やっとウミウシの姿じゃない私で触れる…!」と涙ながらにつぶやいているのを聞いて、やっとかぐやの八千年に及ぶ地獄がほんの少し報われた気がした。
ただ、入った瞬間に俺の現実での反応速度がガクンと落ちた。おそらく月の住人であるかぐやが作った空間であることと、地球ではない新しい世界であるという概念が、今の俺の出力低下の原因なのだろう。そしてこの後判明するのだが、なぜか<ツクヨミ>で行うゲームのアバターのステータスもちょうどほかのプレイヤーの十二分の一になっていた。まあ、人間と同じ目線に立てたと感じて嬉しかったのだが。
その後はいよいよいろはとかぐやが現れるのを待つだけになり、俺はかぐやーーーこの時にはもうヤチヨと呼んでいたがーーーに指定された場所で『Luna』という洋食屋を始めた。常連さんもでき、<ツクヨミ>でもヤチヨに勧められて配信をし始めた。
そうして数年が経った頃、俺は酒寄彩葉と出会った。ヤチヨから報告されていたから知ってはいたが、まさか偶然あんな場所で会うとは思いもしなかった。そしてその魂を見たことで分かった。ああ、かぐやといろは、この二人は地球と月の運命によって出会いと別れ、そして再開が決定づけられているのだと。だから、いつ運命の始まる"その時"が来てもいいように苦学生をしているいろはのことを店で働かないかと誘うことで、環境の変化にいち早く勘づくことができるようにした。…いろはを店に誘った理由はそれだけではなく、どちらかというとヤチヨにしてくれたことへの恩返しと、あまりにも生活が苦しそうだったからということのほうが大きかったのだが。
そうしていろはがウチで働き始めて一年近く経とうとしていたころ、ふといろはの運命を見る機会が生まれた。運命を見ると言っても、未来視を使うだけなのだが。しかし、俺の未来視はどうやら未来のその人の視界を盗み見るものらしく、他人の未来を見るためには俺のもう一つの能力である「他人の視界を盗み見る」目と併用して使わなければならなかった。二つの能力を併用すると、未来視の能力が落ちて、自分の未来ならば自分の終わりまで見ることができるのだが、せいぜい1ヵ月先くらいまでしか見られず、それ以降はその人のターニングポイントしか見ることができなくなる。そんな微妙な能力でいろはの未来を見てみると、かぐやと出会ういろはが見えた。だから俺はぼかしながら「何かが近いうちに起こる」といろはに予言した。いろはは「怪しい占い師みたいですね」と疑っていた様子だったが。
そして、かぐやが地球に来ていろはと出会い、ヤチヨカップを優勝した後のコラボライブで月人がきてかぐやが月に帰る日が分かったとき、俺は本当にあのままかぐやを月に返してよいのかと思ったのだ。あんな地獄をあの楽しそうに生きていたかぐやが体験するなんて、一目惚れしたあの魂が段々と陰っていく様を見ていた俺にはどうしても耐えられなかった。
どうも、ど素人ことあさらこです。
ミヨ君の地獄付き添い編、これにて完結です!
お付き合いいただきありがとうございました!本編はもう少しだけ続きますが、どうか最後までお付き合いください。
また、本編終了後には期限なしのリクエスト募集を活動報告のほうで上げておくので、もしリクエストありましたら送ってください。
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お気に入り件数が300件を超えていました!日間ランキングにも載っていたこともたまにあって、緊張で手が震えましたね。
本当に読んでくださっている皆さんのおかげです。ありがとうございます!
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ミヨ君の3つの目の仕掛けの最後の一つは、「他人の視界を盗み見ることができる能力」でした。この目に関しては地球君がミヨ君の視界を見るために着けたものです。遠隔操作ができます。しかも、ミヨ君には一切気づかれないようになっています。これをミヨ君にも使えるようにしていたわけなんですね。
ミヨ君があの終わり以降の未来を視えないのは、物理的に自分の目が消滅していたからです。新しい自分の体が生み出されていても、ソレはもともとの体とは別なので一度未来は断絶されたという設定にしました。
それでは今回はここまで、また気が向いたときにでも。