side:ミヨ
様々なことが一気に起きた夏の季節が過ぎ去り、肌寒い季節がやってきた。
『Luna』でも最近ではアイスティーではなく、暖かいお茶を提供することが増えてきた。
…昆布茶を頼む常連の高橋さんは、どんなに炎天下でも毎回熱い昆布茶を飲んで帰るけども。
今は土曜日の15時くらいでちょうどお客さんもおらず、暇な時間だ。というかいつもならこの時間、というより14時から16時の間は店を閉めており、この合間に料理(スイーツとお茶)教室でかぐやが来たり、バイトで1日入っているいろはが休憩や勉強をしている。16時ごろからまた店を開けるのだが、今日は2人ともおやつにふわふわのパンケーキを作る配信をするらしく、珍しく来ていない。
ちなみにヤチヨはさすが登録者億越えの歌姫というべきか、休日は特に忙しそうにしており、今日も黒鬼さんたちとのコラボ配信や、案件配信、<ツクヨミ>の管理があるそうで、朝から「ひ~ん!」と泣きながら配信の準備をしていた。
あまりにも忙しすぎて「もういっそのこと2年くらい活動を休止して『Luna』の若女将になろうかな…」と世迷言を言っていたので、丁重にお断りしておいた。
…そのあと「乙女の純情を断ったのはこの口かな~?」と言って頬をつねられたが。
「それにしても暇だな…。でもなあ、さすがに営業している店でかぐやとかヤチヨの配信を流すわけにもいかないしなぁ…<ピロン!>お?」
俺が暇を持て余して半分くらい本気でかぐやかヤチヨの配信を閲覧しようかと考えていた時、チャットアプリの通知が鳴った。
誰からだろうかとスマホを開いてみると、予定では今まさにヤチヨとコラボ配信を終えたばかりの黒鬼こと「BlackonyX」リーダーの帝アキラさんーーーではなく、現実の姿である酒寄朝日さんからだった。
「朝日さんから…?俺、また朝日さんの逆鱗に触れるようなことをしちゃったか…?」
つい2,3か月前のちょっとトラウマになってしまった、あの朝日さんを激怒させてしまった日のことを思い出し、戦々恐々としながらチャットアプリを開くと、そこにはこう書かれてあった。
朝日さん:ミヨさん、ヤバいです!ミヨさんがネットで大炎上してます!!
「……………………………………はい?」
思考が止まった。
え、なんで?
急いでSNSを開くと、まず目に飛び込んだのは
[悲報]葦原ミヨ、我らが歌姫かぐやと同衾!?という文字だった。
「!?!?!?!?」
あまりの文字列の強さに大困惑していると、ピリリリリリ!!!と朝日さんから電話がかかってきた。すぐに出ると『ミヨさん!大丈夫ですか!』という、朝日さんの焦った声が聞こえてきた。
「あ、朝日さん!これどういうことなんですか!?」
「今、炎上の原因になった動画送るんで、ちょっと待っててください!」
と言うが早いか、朝日さんから動画が送られてきた。
俺は無意識にゴクリ、とつばを飲み込みながら、動画の再生ボタンを押した。
『いや~、今日のふわふわパンケーキもうまく作れたね!いろは!』
『うん、さすがはミヨさん直伝のレシピで作ったパンケーキ。過去一の美味しさだったよ…」
「む~!確かにミヨのレシピはすごいけど、かぐやも頑張ったんですけど~?こっちの腕もほめてほしいな~?』
『…そんなの、褒めるまでもないでしょ。料理の腕が良くなかったら完食なんてしないし、美味しいなんてもっと言わないよ。…だから、その。お、おいしかった、よ…?』
『~~~!!!いろはがほめなれてなくて顔を赤くするところ、萌え~~なんだけど!』
『あっちょ、こら、抱き着くな!…ほら、配信閉じて、このままだとお皿が落ちそうだし、わたし置いてくるから』
『は~い!ではではリスナーのみんな、次回もよろしく!それじゃまたね~~~。
…いろはー配信閉じてきたよー。今日は夜どうする?みんなでミヨと一緒に寝る?
…え~、いいじゃーん。きっと許してくれるってー…って、あ。やべ』
<配信は終了しました>
「……………」
『…あの、ミヨさん?大丈夫ですか?』
「あーーーー……。おそらきれい」
『ダメだ、壊れてる…。み、ミヨさん!しっかりしてください!』
いやいや、あさひさん、おれこわれてないよ?だってあんなにおそらがきれいなんだよ?
『くっ、全っ然ダメだ…!な、なら…!ミヨさん!あ、あんなところにヤチヨちゃんが!』
「え?ヤチヨ?どこに?…って、あれ、さっきまでの綺麗な空はどこに…?」
『この人のうわさで聞いたヤチヨが最推しなのは本当だったのか……。とりあえず我に返ってよかったです。これからどうします、ミヨさん?ていうか本当に一緒に寝たことあるんですか?』
「いや、あるわけないでしょう!?さすがにそれは許したことありませんよ!」
『ほっ、ですよね。良かった!これであるとか言われたらまたキレちゃうところでしたよー。あはは』
俺が否定すると、朝日さんは心底ほっとしたような声で怖いことを言っていた。…聞かなかったことにしておこう。
「それで、どうするか、ですか…。うーん…」
『何かに置き換えるとかどうですか?ぬいぐるみみたいな』
「いや、それはそれで俺と同じ名前なのがどうなんだってなるのでは?」
『あー、たしかに…。うーん、やっぱりあんなにはっきり言われてるときついですね』
「そうなんですよねー。せめて同名の何かがいれば…あ。それだ」
俺と朝日さんであーでもないこーでもないと解決策を考えていたが、朝日さんの一言によってある思い付きが生まれた。
『なにか思いつきましたか?』
「ええ、さっそくいろはたちに連絡を取ってきます」
『それならよかった。じゃあ、後はお任せします!…あと、ちょっとポカをするのも魅力の一つだけど、さすがに今回のはヤバいからかぐやちゃんにもう少しちゃんとしてくれと伝えておいてください』
「…ご忠告、痛み入ります」
『はい、それではまた今度』
そう言って通話が切れた。
…いやあ、いいお兄ちゃんしてるな、朝日さん。この電話も主目的はいろはの安全の確保のためだったんだろうと思うと、なおさらそう思う。
続いて、かぐやに電話をかけると1コールででた。
「もしもーーー『ミヨぉ!ごべんなざい~~!!ぎらいにならないで~~!』おお、大号泣だな。…まあ、次から気を付けてくれたらいい。」
『次からって、で、でもミヨさん、ここからどう挽回するんですか?』
「俺に考えがある。いいか?ーーー」
泣いて謝るかぐやと不安そうにするいろはに、俺はある考えを話すのだった。
『だから、わたしが一緒に寝ようって言ったのはこの<みお>っていう犬のことなの!人間のミヨじゃないよ~。そもそもミヨの家とか知らないし、それにいろはに男の人に一人でついて行っちゃいけません!って言われてるし。あの時やべって言ったのもこの子が友達の家の子だからウチがペット可なのかわからなかったから、オーナーの人にバレたらまずいと思って…。でもウチはペット可でよかったー!
…今回は、わたしの不用意な発言でたくさんの人に迷惑をかけてごめんなさい!ミヨは、わたしのお父さんみたいな人でそういう関係じゃないです!だからみんな、もうミヨを燃やすのはやめてね!かぐやとの約束だよ!』
この配信の後、見事に情報は拡散され、俺の炎上は徐々に沈静化していった。
…冷静に考えると、なんで俺だけ燃やされたんだ?
「…ふう、なんとかなったな、かぐや」
「うん、…今回は本当にごめんね?」
「いやいや、次に気をつければいいよ。誰でも失敗はするから、2回目を起こさないことが大切なんだ…。でも朝日さんは今回はさすがにヤバかったから気を付けてくれとは言ってたが」
「はい、反省してます…。それにしても、まさかミヨが犬になるなんてねー」
先ほどまで謝っていたかぐやにツッコまれて、思わず自分の体を見る。
そう、俺は今柴犬になっていた。「俺は犬だった」とちょっと現実改変をすればこの通り、犬にも変化できるのだ。
そしてそんな俺にモフモフと触っている人物が一人。
「もふもふだあ…」
「おお、珍しくいろはがヤチヨのこと以外で脳みそが溶けてる…」
「今回のことでかなり気を張ってたみたいだからな。気が抜けたんだろう」
「そっかー…。いろはも、ごめんね」
「もふもふー…」
「…しばらくそっとしとこうか」
「そ、そうだね…あ、あと昔はお父さんみたいに思ってたけど、今は違うから!ね?」
「あー、うん。大丈夫だよ。さすがにわかってるから」
「そ、そう?ならいいんだけど…」
俺たちが照れながら見つめ合っていると、ピンポーンとチャイムが鳴った。
はっとしたかぐやが玄関へ向かい、やがてともに現れたのは
「お、来たな、ヤチヨ」
「うわー、すごい喋ってる…。本当にミヨが犬になってるんだー」
俺の同居人こと、月見ヤチヨだった。
ヤチヨはしばらく俺の犬の体を触った後、かぐやの方を向いて
「犬のミヨはもふもふだね~。…さて、かぐや。今回はどうにかなったし、多分ミヨは『次に気を付ければいいよ』とかしか言わなかったんだろうけど、この炎上で社会的な命が終わるかもしれなかったんだから、ちゃんと反省するよーに!」
「ハイ…」
「それじゃあ今から、配信で気を付けることとか、ばっちり叩き込むから、覚悟してね☆」
「う、うん。わたし、もう迷惑かけないように頑張る!」
「よろしい!ではビシビシいくよー!」
「押忍!よろしくお願いします!」
なにか、二人の間で熱いモノが始まろうとしていた。
「かぐやーがんばれー」
「ふふ…ミヨさん、もふもふ…」
その姿に応援を飛ばしながら、俺はいろはのアニマルセラピーに勤しむのであった。
どうも、ど素人ことあさらこです。
今回は、前話の予告のとおり、かどうかはちょっとわからないですが、かぐやが話したことによってミヨ君が炎上しました。現実でも起こりうるからとても怖いですね。あさらこも気を付けます。
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そしてミヨ君(柴犬フォーム)!これはある時にいただいた感想を見て思いついたものです。
設定としては、ごく短時間かつ出力弱めの現実改変を用い、さらにミヨ君の体が地球の内側で生まれた、簡単に言うと「地球上の自然由来のモノならどんなものにでもなれる」という特性を持ったものであることを概念的により強く出すことで実現できた、といったところです。一応、幕間でミヨ君を生み出すときになんの器で行くかを地球が悩んでいるシーンが伏線になっています。わかりづらかったですかね?
まあこれは本当に短時間(時間にして連続1日、一回変化を解くと1年間は使えない)しか使えないのでもう出てくることは多分ないですね。
次の話題
ウチのかぐやちゃんは割と最初から一人称が「かぐや」ではなく「わたし」になっています。これは個人的な考察になりますが、原作で一人称が名前だったのは「いろはに着けてもらった大事な名前だから」と言うのもあると思います。しかし、ひとりぼっちで地球に来て、記憶もない自分の存在を唯一決定づけるもの、つまりかぐやと言う名前を周りにアピールし、他者から見た自分と言う存在の確立、そして自身の内的なアイデンティティの確立のために行っていたのではないか、ということも考えられるのではないでしょうか?
いうなれば幼児が自分の名前を一人称にしていて、成長して自己が確立され始めると「おれ」「わたし」と変化していくのと似たような感じです。
ただ、かぐやの場合は小説版では会話では「かぐや」心の声は「私」となっているので、本来の一人称は「私」の方だと思います。なので先ほどの例えとは若干違いますが、今作ではいろはの他にミヨというもう一つの支えになってかぐやのことを見てくれていると実感できる人間がおり、他者、内的な存在の確立どちらも達成されたため一人称が元の「わたし」になったと脳内で考えていました。
わかりづらかったらすみません。このことについてなにかご質問や矛盾してね?おかしくね?と言う部分がありましたら感想欄に送ってください。もちろん普通の感想やほかのことに関する意見もお待ちしています。
それでは今回はここまで、また気が向いたときにでも。
柴犬ミヨ君、ちょっと見てみたいな…
追記:お気に入りが色々すっ飛ばして700件を超えました!
本当に読者の皆様のおかげです。本当にありがとうございます!