side:ミヨ
段々と日が落ちる時間が短くなってきて、テレビでは紅葉の特集が組まれるようになってきた頃。
「ミヨさん、一つお願いがあるんですが…」
定休日の『Luna』で勉強していたいろはが、深刻そうな顔でこう言ってきた。
「ん?内容によるけど、なんだい?」
「実は、今度の休みに私とかぐや、BlackonyXでキャンプでのコラボが予定されているんですが」
いきなりよくわからない単語のオンパレードだった。
「ちょっと待って、まずなんだその謎なコラボ」
「ええと、まず兄のところになぜかキャンプ用品のメーカーから案件の依頼が来たそうなんです。それで、せっかく実の兄妹と言う強みがあるから、ということで私にもお誘いをいただいたんですが、さすがに最近会って話す機会が増えたとはいえ、何年も会っていなかった兄妹といきなりキャンプは厳しい、ということにお互いなったんです。」
「確かに、たまに朝日さんがウチに来た時も少し会話するくらいだもんな」
「ええ、だから黒鬼に掛け合ってかぐやと兄以外の黒鬼のメンバーも入れた5人でコラボをしようと計画していたんですが、ここで問題が発生しまして…」
おっと?少し雲行きが怪しくなってきたな?
「実は、日程自体は決まったんですが、キャンプ用品の会社のスタッフさんが雷さんと乃依くんに間違えた日程を伝えちゃったみたいで、キャンプの日にちょうど雷さんと乃依くんに別の取材の予定が入ってしまって、来れなくなってしまったそうなんです」
「ん?それだとなんで朝日さんにはその話が行ってないんだ?」
「どうやら兄弟でプロゲーマー、それも同じチームでという希少性での取材のようで、兄には別で後日にインタビューが入るらしいです」
なるほど、つまりは綺麗にすれ違ってしまったということか。
「それで、なんで俺にそのキャンプ企画に参加してほしいんだ?三人で出ればいいんじゃないか?」
俺がそう聞くと、いろはは遠い目をして
「いや、それが今回の企画、料理対決なんですよ…。それで、兄一人だとミヨさんに教えてもらっているかぐやのいる私たちが勝つことが決まっているので…」
「ああ、なるほど…。確かにかぐや、最近俺と同じくらい美味い料理を何種類か作れるようになってたしなぁ…。というか洋食以外だと俺を超えてるのがちらほらあるな。」
そう、かぐやは初めて店に来た時よりも遥かに料理が美味くなっており、特に和食に関しては俺を超えるほどに上手くなっているのである。鯖の味噌煮のレシピを今度教えてもらうことになっているので、今から楽しみでしょうがない。…おっと、いろはの話に集中せねば。
「それで、女性人気の高い帝アキラと現実で組むって時点で男性が推奨されて、その中で身近なかぐや位料理の上手い人となると、もう私と兄の満場一致でミヨさんしかいない!ってなりまして…」
「あー、確かにその条件だと俺になるのか」
「そ、それと…」
「うん?」
「わ、私とかぐやで、初めてキャンプに行くならミヨさんと行きたいな、ってなったのもあって…」
俺が選ばれた理由がわかってすっきりしていると、いろはが不意に顔を赤くして落ち着かなさそうに体を揺らし、照れながら言ってきた。
「そ、そうか。そう思ってくれるのは嬉しいな!それで、撮影日はいつなんだ?」
「この日ですね。この日は確か『Luna』もお休みでしたよね?」
「ああ、確かにこの日は休みだったな。…うん、他の予定もないし、行けるよ。この日はそのまま泊まっていくのか?」
「あ、はい。そうですね、かぐやがせっかくなら泊まりたいと言うので、撮影が終わった後は次の日の朝までフリーになっていますね。兄もちょうど予定が空いているそうですし」
「そうか…じゃあ暖かい恰好とか風邪をひかないようにいろいろと準備しないとな」
流石にこの言葉の意味が分かるようになってきた俺も、自分の顔に熱が集まってきたのを感じつつ、その日は日程などを確認して解散するのだった。
ーーー
そして、コラボ撮影当日。
「本っ当に!受けてくださってありがとうございます!」
「いやいや。私もキャンプをしてみたかったのもありますし、料理上手として呼ばれるっていうのは嬉しいことですから」
全力で頭を下げてくるキャンプ用品のスタッフさんに俺は笑顔で大丈夫だと伝えながら、撮影菓子を待っていた。
「ねーねーミヨ、見てコレ!スキレットとか初めて使うんだけど!」
「おお、ちゃんとシーズニングもされていてすぐ使えるようになっているのか…。なに作ろうかなあ。」
「ねー!悩んじゃうよねー!」
かぐやと二人でそれぞれ腕を組んで同じ方向に首をかしげていると、パシャリ、と写真を撮る音がして、そちらの方を向くと前方からスマホを構えたいろはと朝日さんがやってきた。
「???なんで撮ったの?」
「いやあ、かぐやちゃんとミヨさんが全く同じ体勢してるのが面白くってさ。あ、ミヨさん今回はよろしくお願いします。」
「ええ、よろしくお願いします。朝日さん」
「いろはーっ!防寒着姿のいろはもかわいいよ~!」
「はいはい。…そっちもいいじゃん、似合ってる「いろは~!」ちょっ、くっつくな~!」
俺と朝日さんは軽く挨拶を交わした。…女子の方は微笑ましい光景が広がっている。
ちなみに今回の撮影での俺たちの体は撮影後にアバターの姿に返還されるとのことで、身バレの心配はないそうだ。
「え~、ご歓談中申し訳ありませんが、そろそろ撮影を始めさせていただきたいと思います」
「お、三人とも、撮影始まるってさ」「「「はーい」」」
朝日さんが俺たちに呼びかけてくれ、俺たちは撮影する場所に向かった。
ーーー
「それでは撮影始めます!3・2・1ーーーどうぞ!」
「よお、お前ら!BlackonyX所属の帝アキラだ!今日はキャンプ用品メーカー様からの案件動画に呼んでもらったぜ!そしてこの動画を盛り上げるために、今日の企画は豪華ゲスト三人を呼んで料理対決だ!…早速、ゲストに登場してもらおう!まずは…いろP!」
「帝アキラの妹、いろPでーす。今日は兄をぼっこぼこに負かしたいと思いまーす!」
「ほほう、言うじゃねーの…。絶対に負かしてやっからな!続きまして、俺の最推し、かぐやちゃん!」
「かぐやっほー!月からやってきたかぐやだよー!今日はいろPと一緒にこの前のKASSENの借りを返しに来たよ!ぜ~っったいに、勝ぁーーーつ!」
「今日も気合入っててかわい~。たしかに俺一人だけだと負けそうだけど、今日は俺にも超強力な助っ人が来てるからな!最後はこの人だ!頼むぜミヨさん!」
「はい。こんにちは。今回は料理系配信者の枠で呼ばれました、葦原ミヨです。曲がりなりにもかぐやの料理の先生なので、情けない姿を見せないよう頑張ります」
「みんな気合十分でいいね~!それじゃあみんな、企画説明するぞ~。…よし、それじゃあ今回は、メーカー様が出しているキャンプ用の調理器具を必ず使って何か一品作ってもらいます。それを審査員のメーカー様の社員さんにジャッジしてもらう、って感じだな!余った食材は料理対決が終わった後みんなでBBQして食べるから、フードロスも問題ないぜ!何か質問ある人いるか~?」
「ない。早くやろ」「いろはに同じく~」「大丈夫です」
「よし、それじゃあ早速、勝負開始と行こうか!社員さん、銅鑼を鳴らしてくれ!」
「あ、はい!それじゃあ行きますよ、3・2・1ーーー調理開始ぃ!」
ジャーン!
「よ~っし!何作ろっか、いろは!」「うーーん、なにがいいかな…」
いよいよ調理が始まった。俺と朝日さんもいろはたちと同じく二人で何を作るか考える。
「それでミヨさん、こっちは何作りますか?」
「う~ん、寒いので暖かいものがいいと思うんですが、何があるかな…」
「あっ!そういえば以前動画でこんなのがあったんですけど…」
俺が頭を悩ませていると、朝日さんがある料理を提案をしてくれた。…ふむふむ、なるほど。
「いいですね、それ。暖かいですし、キャンプ飯って感じで」
「よっしゃ、じゃあそれで行きます?」
「はい、ソレで行きましょう」
俺と朝日さんは頷いて料理を作るために、食材を取りに行くのだった。
ーーー
「いやあ、白熱しましたね!料理対決!」
「ええ、まさかかぐやが牡丹&桜鍋を作るとは。これまでジビエなんて扱ったこともないのによく作ったな。と思いましたよ」
「しかも臭みもなくてめっちゃおいしかったですし、あれは負けてもしょうがなかったですね!」
「うーん、普通のアヒージョじゃあチャレンジ精神が足りなかったか…俺もかぐやに教わろうかな…」
「あはは!師弟逆転か、それも面白いですね!」
料理対決が終わり、ものの見事に負けた俺と朝日さんは皿洗いなど雑用をしていた。
向こうではかぐやが鉄板でステーキを焼いてスタッフさんに歓声をあげられている。
「あの、葦原さん、今少しいいですか…?」
「え?ああ、はい。大丈夫ですよ?…朝日さん、ちょっとここお願いしてもいいですか?」
「全然大丈夫なんで言って来てください~。…これは、からかうネタができたか?」
ふと、今朝謝ってきたスタッフさんがこちらに来て俺に用があるらしく、様子をうかがってきたため、一度洗い場を離れてスタッフさんの元に向かった。
「なにか御用ですか?」
「ちょっとここでは話せないので、離れたところでお話しできますか…?」
「わかりました。それじゃあ向こうに行きましょうか」
そう言って、みんなから離れた車の方へ向かうのだった。
ーーー
side:かぐや
「ミヨ!…とついでに朝日!ステーキ焼けたよー…ってあれ?ミヨがいない」
「おいおい、俺はついでかよ…。」
ん~。せっかく美味しくステーキが焼けたのになー。ミヨ、どこ行ったんだろ?
「ね~朝日。ミヨがどこ行ったのか知らない?」
「ミヨさんなら、あっちの方に綺麗な女性スタッフさんと言ったけど?もしかしたら告白とかされたりしてな!まあじょうだーーー」
「は?」
「うえっ!?あ、あれ、かぐやちゃん、聞こえてる?冗談だよー?」
私の心がスッと冷えていくのがわかる。朝日が何か言っているが聞こえない。
私はステーキを朝日の前のテーブルに置き、早足でミヨたちが向かったほうに足を進める。
そしてミヨの背中が見えたのでそのまま呼びかけようとした時ーーー見えてしまった。
ミヨがきれいな女の人を抱きしめているところが。
「あは…」
ミヨ?なんでその女の人を抱きしめてるの?ダメだよ?ミヨにはもうわたしやいろは、ヤチヨがいるんだから。いろはやヤチヨを抱きしめているなら嫉妬しちゃうけど許せるよ?でも私たち以外の女の人はダメ、許せない。芦花と真実もダメ。だってミヨは私たちのために命を捨てられちゃうくらい私たちのことが大好きなんだもんね?それなら私たちしか見ちゃダメなんだから。それを今から教えてあげなくちゃね…?
ミヨミヨミヨミヨミヨミヨミヨミヨミヨミヨミヨミヨミヨミヨミヨミヨミヨミヨミヨミヨミヨミヨミヨミヨミヨミヨミヨミヨミヨミヨミヨミヨミヨミヨミヨミヨミヨミヨミヨミヨミヨミヨミヨミヨミヨーーーはやく、はなれて?
ーーー
side:ミヨ
スタッフさんとみんなから離れてから話を聞くと、用件は改めて今回のお礼を言いたいということだった。どうやらみんなの雰囲気を壊したくなくて、わざわざ離れたらしい。
それと、どうやら俺のファンの人だったようで、色紙にサインを頼まれたので、書いて渡すと「家宝にします!」と言われた。そのあとそろそろ戻ろうという話になり、みんなの元に向かおうとしたところで、スタッフさんが石につまずいてしまい、転びそうになった。…俺がとっさに受け止めなければ頭から激突コースだったな、この人。
そうしてまたお礼を受け止めているとーーー
「あは…」
前方から、なにかものすごい感情が込められている笑い声が聞こえた。
「っ!?…なんだ、かぐやか。どうしたんだ、そんなところにいて。」
「ーーーもう、せっかく美味しいステーキを焼いたのにいなかったから探したよ?ミヨ!それと、なんでそのスタッフさんを抱きしめてるの…?」
俺が驚きながら目を向けると、そこにはかぐやがいた。どうやら呼びに来てくれたらしい。
「ん?ああ、これはスタッフさんが転びそうになったから受け止めただけだよ。…立てますか?スタッフさん」
「あ、はい!もう大丈夫です!ってそうだ、私まだちょっと仕事があったんでした!ちょっと先行ってますね!…改めまして、今回は本当にありがとうございました!サインも大事にしますね~!」
と手を振りながら去っていくスタッフさんに手を振り返した。
「…ねえ、ミヨ」
「ん?なんだかぐーーーや?」
ふと名前を呼ばれたのでかぐやの方を向くと、そこには笑顔だが目が一切笑っていないかぐやがいた。
「多分いろはとヤチヨもおんなじ気持ちだと思うけど、私たち以外の女の人はダメ、だよ?もしもほかの女の人に目移りしちゃったらーーー私たち、どうなっちゃうかわからないから、ね?」
「あ、ああ…?了解した…」
有無を言わさぬその目に宿る闇に、俺は頷くことしかできないのであった…。
ーーーおまけ
キャンプから帰ってきた翌日。俺はキャンプに一人だけ呼ばれなかったヤチヨをなだめていた。
「いいなー、私抜きでキャンプに行くなんてズルいなー」
「まあまあ、案件だったから、な?今度埋め合わせするから許してくれ」
「ふ~ん…。じゃあ、かぐやから聞いた女の人を抱きしめてたことの説明が欲しいなー」
「へ?だからそれはーーーってこわっ!目、目がかぐやと同じ感じになってる!」
「誰が怖いって…?ふふふ…今日は女の子の扱い方も教えてあげないとね…?
……もう、私たち以外の女の人に目移りできないようにしてあげるから…」
「ひいっ!?ちょ、ちょっとまっ、あ、ああ、朝日さん、タスケテーーーー!!!」
どうも、ど素人ことあさらこです。
今回はかぐやのハイライトオフが見たいというリクエストにお応えするために書いてみたのですが…さすがにそれまでの流れが長すぎましたね。反省です。
というかかぐやがハイライトオフになるところがどうにも創造しにくくて、めっちゃ頭をひねりました。結局シンプルなところに落ち着いたんですけどね。
次の話題
いやあ、最近面白い超かぐや姫!の二次創作が多くて嬉しいですね!このままどんどん増えて行ってほしいです!
次の話題
お気に入り登録が800件を超えていました!ありがとうございます!
それでは今回はここまで、また気が向いたときにでも。
3/13からの特典付き上映楽しみですね!