見ていない人でも大丈夫なようにマイルドなあらすじのようなものが初めにある上、トラウマに対する描写など、人によってはキツイと感じる描写があります。ご注意ください。
『あの羽虫を引きちぎった時にヤツに関する記録の一部が関係する酒寄彩葉、そして私と葦原見世と同一存在である葦原ミヨに植え付けられてしまいました…。取り除くのには時間がかかるので、その間の対応をお願いします、葦原ミヨ。』
「はあ!?」
side:彩葉
段々と紅葉も枯れ葉になって地面に落ち、冬の到来を予感させる寒さがやってきていたある夜。
ーーーー夢を見た。何時か、何処かの私が辿った、辿り着いてしまった結末を、私は見た。
かぐやは月へ帰り、ミヨさんは存在しなかったことにされ、ヤチヨは突如現れた男に連れ去られた。
そして私は狂い果てーーー幻覚と現実が混在する視界の中、その旅を終わらせた。
ーーーその時にはもう、あの二人の顔は黒く塗りつぶされていて、顔なんて見えてすらいなかったのに。
「いやあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
「いろは!ねえ、どうしたのいろは!?いろはぁ!」
かぐやの声と、私自身の叫び声で目を覚ました。
「はっ、はっ、はっ……なに、あの記憶…!?」
「ねえ、いろは大丈夫!?すごい叫び声が聞こえてきたんだけどーーーって、わわっ、…いろは?」
「かぐや、かぐやぁ…」
「…うん、うん。わたしは、かぐやはここにいるよ?だから安心して、ね?」
あの記憶の結末が思い起こされて、私は思わずかぐやに抱き着いた。その存在を確かめるように。…もう、二度と離さないように。
そんなわけもわからず震えながら抱き着く私をかぐやは落ち着かせるように優しく抱きしめ返してくれた。
「そろそろ落ち着いたかな?」とかぐやが体を離そうとすると、またあの光景がフラッシュバックして、思わずかぐやに抱き着いた。
「ありゃりゃ…。う~ん、どうしよ…。このままだと「ピン…ポーン」って、え?誰だろ、こんな夜中に…いろははここで待ってられーー「ブンブン!」…無理かぁ…。じゃあ、一緒に行くしかない、か」
かぐやが震えながら離れない私を見ながら、どうするか悩んでいると、家のチャイムが鳴った。
かぐやは私にここにいるように言うが、とんでもない。今の私は誰かに触れていないとフラッシュバックで過呼吸になりそうになっている。
だから、首を全力で振ることで精一杯の意思表示をする私を見たかぐやは、私をゆっくりと立たせ、インターフォンへ向かった。
「さーて、こんな夜中にピンポンしてきたのは誰かなー?…え?ミヨ?…おーい、ミヨ?なんでこんな夜中に、しかもそんな汗だくでウチに来たの?」
『かぐやか!すまないこんな夜中に。…いきなりこんなことを聞くのは変かもしれないんだが、いろはに何かおかしなこととか起きなかったか?たとえばいきなり叫んで起きるとか』
「え、ミヨすごい!まさしくおんなじことが起きてるよ!いろは、よほど怖い夢を見たのか震えて私にしがみついちゃってる」
『そうか…無理もないな。あんな記憶、本当なら見なくてよかったものだ。…不躾ですまないんだが、家に上がらせてもらってもいいか?いろはの状態を確認したい』
「わかった、今鍵開けるね!」
かぐやはタッチパネルを操作し、鍵を開けた。ミヨさんはガチャリ、と玄関のドアを開けて深刻な表情をしてリビングに入ってきた。
「いろは、大丈夫か?」
「み、みよっ、ミヨさんっ。わ、わたしおち、落ちてぇ…!?かお、顔が、顔がまっくろで…っ!?」
「ああ、大丈夫。わかってる、俺も同じものを見た。だから無理に言わなくていいから、な?
俺も、かぐやもここにいる。だから今は寝よう?ほら、カモミールティーを淹れてきたんだ。これを飲んだらすぐに悪夢を見ずに寝られるよ」
「あ…はい…。こくっ、こくっ…。ーーーふあ、あ…」
「うん、眠くなってきたね。このまま俺の服をつかんでいていいから、ゆっくりお休み」
私はかぐやから離れ、ミヨさんに寄り掛かるような体勢になりながら何を見たのか話そうとした。でも、あの記憶を思い起こそうとするだけで声も体も震えてちゃんと話せなくなる。
それを見かねたミヨさんが、私をなだめながら髪を梳くように頭を撫で、カモミールティーの入ったコップを渡してくれた。そのまま数口飲むとリンゴのような香りが口の中に満ちて、自然と肩の力が抜けてきた。すると段々と眠気とともに力が抜けて行ってーーー。
ーーー
side:ミヨ
「ふう…寝たか」
「あ~、良かった~。ミヨ、来てくれてありがとうね!」
「いや、むしろ遅すぎたくらいだなこれは…」
俺の服をつかみながら寝たいろはに安堵の息を漏らす。
かぐやが小声で礼を言ってくるが、かぐやに言ったように遅すぎた。
あの悍ましいいろはの記憶を夢という形で見た俺は、飛び起きた後情報を整理するのに思った後に時間がかかってしまった。
何とか落ち着いたとき、
「結局、いろはとミヨは何を見たの?」
「知らない方がいい。あれは、俺たちには本来関係のないものだ」
そうだ、あんな悲劇しかない世界のことなんて聞いて得することなんて彼女たちにはない。
「う、うん。ミヨがそう言うなら、もう聞かない」
「うん、いい子だ」
「えへへ~…ってミヨ、わたしを子ども扱いしてない?」
「シテナイ、シテナイヨ」
「ふ~ん、ならいいけど。…それより、いろはのこと、どうするの?」
「多分、しばらくはこのままの状態が続くと思う。でも、かぐやもヤチヨもこの後は撮影やらコラボやらがあるだろう?…しかも、時間と日数がとられる感じの」
かぐやのジトっとした目を何とかごまかした俺は、いろはのことについて聞かれ、かぐや達のスケジュールについて聞いた。
「う、うん。結構忙しいね。でもいろはのためならそんなの何とでもするよ!」
「いや、そんなことしたらいろはが余計に気を病む。だから…俺がかぐや達が帰ってくるまで、傍にいるよ」
「で、でもミヨもお店とかで忙しいんじゃ…?」
「そもそもが俺の店だし、数年前は良く旅にも出てたから常連さんも1か月休むくらいなら慣れてるよ。だから、大丈夫。かぐや達はお仕事頑張ってくれ」
「そ、そう?ミヨがそう言うなら…ごめん、お願いするね?」
「すぅ…すぅ…」
そう言うことで、ヤチヨにも事情を話し、朝・夜はヤチヨかかぐや、日中と夕方は俺がいろはのそばにいることになったのだった。
ーーー
・1日目
「み、ミヨさん。すみません私のためにわざわざ泊ってまでくれたのに悲鳴なんて上げてしまって…」
「いや、大丈夫。むしろこうなることがわかっていたのに何も対策しなかった俺が悪いから」
と、いうことで翌日。寝起きのいろはと対面し、無事に悲鳴を上げられました。
手は!手は上げられなかったから!
「す、すみませんミヨさん、寝起きの顔を見られるのはちょっと…」
「あ、すまん気が回らなくて、じゃあ俺上を見ているから、着替えとかするならかぐやに変わってもらうからすぐにいってくれな。「ミヨ、よんだー?」ああ、いやきがえのはなーーー」
「か、顔、かおがくろーーー」
「おおっと!俺の顔は黒くないぞー?ほら、よく見て」
「ーーーっは!…ひゅー、ひゅー」
「よしよし、ゆっくり深呼吸しような」
危なかった、今のは俺の顔が見えなくなったからか…?
どんな条件で何が起きるのか、できるだけいろはの負担にならないように確かめねば。
その後は特に発作が起きることは無く、かぐやが撮影で部屋にこもり、俺といろはは邪魔にならないよう『Luna』へと向かうのであった。
カランコロン…
「…こ、この匂いは…ラベンダー?」
「ああ、落ち着くかと思ってな。昨日のうちにアロマディフューザーを持ってきておいたんだ。」
「あ…た、確かに落ち着きます」
「…」
いろはの返答の前にいったん助走が入っている…?いつフラッシュバックするかわからないから緊張しているのか。
…確か
それまでは何とかいろはの発作が起きないようにせねば。
「いろは」
「は、はい!」
「これから一週間、俺と一緒にいるときは俺のことをどんなことがあっても見ているんだ。いいね?」
「へっ!?」
「?…何か変なこと言ったか?俺」
「い、いいいいえ、とってもかっこよかったでしゅ!……!///」
???急に真っ赤になってどうしたんだろうか?あ、噛んで恥ずかしくなったのか。
「???…まあ、いいか。それじゃあ早速、何がしたい?」
「あ、じゃ、じゃあ勉強を…」
「ん、わかった。教科書や参考書のページは俺がいろはの片腕の代わりになって抑えるから安心してくれ」
「わ、わかりました!」
そうして、今日の夜~朝の当番のかぐやが迎えに来るまで、俺といろはは一緒に過ごしたのだった。
…さて、明日の準備をしないとな。
ーーー
2日目は1日目と特に変わりはなく、せいぜいいろはが勉強する科目が変わったくらいだった。
「あ、あの、ミヨさん。お店開けなくて本当に大丈夫なんですか…?」
いろはが自分もつらいはずなのに気遣ってくれるが、本当に大丈夫なのだ。
なんせこっちは数百年にわたり働いたりしてお金だけはあるのだ。1か月くらい休もうと支障はない。
そのようなことを伝えると、いろはは安心した様子だったが、かぐやと出会う前の自分の生活を思い出したのか「……」と遠い目になっていた。
ーーー
3日目、4日目では顔の緊張が減ってきて、笑顔が見られるようになってきた。
しかし、依然として顔を見続けていなければいけないのと体に触れていなければならない状態は変わらない。なので、今日は互いの指を絡めたりほどいたりなどの指遊びをしたり、同じ本を一緒に読むなどしていた。迎えに来たヤチヨからは「ものすごいイチャイチャしてる…!?」とむくれられ、逆の手で同じことをしなければならなかったのが中々に大変だった。
「んもう、ミヨってば仕方がないとはいえ、いろはとばっかりイチャイチャするのはダメなんだからね!だから今度やっちょとかぐやにも埋め合わせすること。いい?」
「もちろん。あとで必ずお礼はするよ」
「ならばよしっ♪…それでー、この真っ赤になって固まってるいろは、どうする?」
「……回復するまでしばらくそっとしておこうか…」
ーーー
5日目、6日目になると、身体的接触は必要であるものの、顔は見ていなくてもよくなるくらいに回復し、<ツクヨミ>に入ることができ、6日目にはいろはのことを心配していた芦花さんや真実さんと会わせることもできた。
「いろは、大丈夫?スマホも出ないし心配したよ~」
「何にも言わずに学校休むと心配しちゃうから、大丈夫そうだったら連絡してね」
「ご、ごめん、ちょっと色々ありすぎて完全に忘れてた」
いろははこう言っているが、メッセージを返せなかったのは単純にスマホに集中しすぎると俺の顔が見えなくなって1分後くらいに発作が起きるからである。
「それにしても、ずーっと手を繋いでるねえ。ラブラブだぁ」
「ねー。羨ましいくらいべたべたじゃん。いろはってこんなに人前でべたべたしてたっけ?」
「あー、まあちょっと事情があってね。明日には普通のいろはに戻ってると思うから心配しないで」
真実さんと芦花さんにからかわれたりしながら、<ツクヨミ>でのひと時を過ごすのだった。
ーーー
さて、<ツクヨミ>から帰ってきた6日目の夜。俺は再びいろはとかぐやの家に来ていた。
あの後、
「さて、それじゃあいろは。おやすみ」
「ふあい…。おやすみなさい…。すぅ…すぅ…」
初めの夜と同じく、効果を強めたカモミールティーをいろはに飲んでもらった。効果はてきめんで、すぐに眠くなったいろはは夢の世界へと旅立っていった。
「…ふぅ。さて、じゃあ後は任せたぞ、『俺』」
『ええ、任せてください、「私」』
そう言うと『俺』は俺の体を使っていろはの頭に手を乗せ、記憶の消却を始めるのだった。
ーーー
翌朝。
「うう、ん…。」
「おはよう、いろは。…調子はどうかな?」
「わっ、ミヨさん。お、おはようございます。調子…あっ。今のところ、触っていなくてもあの光景が出てくるとかは、ない、ですね…。…よかったぁ…。」
いろははもうあの記憶が出てくることが無くて心底安堵しているようだ。
「それはよかった。『俺』が言うには、あの記憶自体へアクセスできないようにしたから、何か怖いものを見た、という記憶だけは残るが具体的な内容は思い起こせないようにした、ってことだったよ」
「そう、ですか…」
「うん。…さて、何はともあれ解決したんだ、あんなことは忘れてそろそろ行こう。今日はリビングにかぐやとヤチヨもいるから、にぎやかな朝食になりそうだよ?」
「…はい!ミヨさん!」
そうして俺といろははかぐやとヤチヨが待つリビングへと足を進めるのだった。
………このあと、俺たちは無意識に手を繋いだままリビングに行き、二人から「「もう終わったんだからそんなに熱烈に指を絡めた恋人つなぎをしなくてもいいんじゃないかなぁ…?」」と目に光のない状態で詰め寄られるのだが、それはまた別のお話。
どうも、ど素人ことあさらこです。
今回は、「バッドエンドの記憶がいろはに流れ込んでしまった」というテーマで書きました。
いうなれば、いろはイチャイチャ(SAN値回復)回と言ったところでしょうか。
引き続き閲覧注意ではありますが、次回からは普通のお話に戻ります。
次の話題
バッドエンドのお話は、「事前にとことんあさらこのテンションを下げて書こう!」と思って何をとち狂ったのか某文豪のめっちゃ気分の下がる小説を呼んで書きました。さすがは「受験期に呼んじゃダメな本」と言われるだけありますね。テンションが下がりに下がってものの見事にえげつないものに仕上がってしまいました…
それでは今回はここまで、また気が向いたときにでも。