side:ミヨ
俺は今、珍しく緊張していた。
なぜならこの生において初めて、自分から誰かをデートに誘うためだ。誰とも付き合っていない俺がデートとはおかしな話だと思うが、かぐやたちと動物園へ出かけた時に「デート楽しみだね!」とかぐやから言われたため、今から俺が誘うこともデートなのだろう、きっと。
とにかく、誰かと遊びに行く際や出かけるときには常に受け身だった俺は、初めて誰かを自分の意思で誘うという行為自体にとてつもない緊張をしているのである。
緊張から現実逃避気味にいろいろと考えていると、いつの間にか同居人の部屋の前へ着いていた。
…着いてしまった。
「…すぅー、はぁー…。…よし」
深呼吸を一つして部屋のドアにノックを3回。一拍置いて部屋の中から「はぁーい」と返答がある。
「ヤチヨ、入ってもいいか?」
「うん♪もちろんいいよ。入って入ってー☆」
部屋の主の了承を得たので中に入る。すると中にはーーー俺の同居人の月見ヤチヨがいた。
どうやら今はプライベートの時間だったようで、ベッドの上で雑誌を読んでいる。
ヤチヨは俺が入ってきたのを確認すると、ベッドの上で座りなおした。
「ミヨが私が仕事してるかもしれない時間に来るなんて珍しいねー?どうかしたの?」
「いや、その、だな…」
ヤチヨに返答しようとして口ごもる俺にヤチヨはからかうような表情で
「なにかななにかなー?もしかしてデートのお誘い?…なーんちゃっーーー」
「そ、そう!そのとおりだ!」
「ってーーーて、え?…でーと?ほんとに?」
まさか本当にデートだというと思わなかったのだろう、半ば呆然としながら聞き返してくるヤチヨに、俺は自身の顔が熱くなるのを感じながら言った。
「ああ、本当だ。ヤチヨ、キミを水族館デートに誘いに来たんだ。…その。どう、かな?」
語尾が自信なさげに小さくなるのを自覚しながらなんとか誘いの言葉を言いきり、返答を待つ。
ヤチヨは初めこちらの顔をぽかーんとした表情で見ていて、俺の言葉の意味を遅れて理解したのか、その綺麗な顔が段々と喜びで咲き誇っていった。
「~~~~~!!!やったぁ~~~!!!」
ヤチヨの興奮が頂点に達したのだろう、ベッドの上で飛び跳ねながら喜びの舞を踊りだした。
「うわぁ、すっごい綺麗に踊ってる…。確かに俺から誘うのは初めてだけど、そんなに喜ぶようなことか?」
「ミヨから初めて私を誘ってくれたことも嬉しいけど!ミヨの口から自覚ありでデートのお誘いをされるなんて、嬉しいに決まってるよ!」
疑問を口にすると、「何言ってんの!」とヤチヨに顔を近づけられながら言い切られた。
…確かに、これまではデートと言っても文字のみで、デートと言う言葉の意味にまでは考えが及んでいなかった気がする。
なるほど、誰かを誘うことだけじゃなく、デートという言葉自体にも緊張していたのか。
「そんなに喜んでもらえたのなら、頑張って誘った甲斐があるよ。…それで、お誘いの返事を聞かせてもらえるかな?」
「…もちろん、お受けするよ。…ふふ、今日から楽しみで夜眠れなくなっちゃいそう。ところで、かぐやといろはは誘わなくていいの?」
「…あー、いや。動物園に行けていないヤチヨには申し訳ないと思ったんだが一応誘ったんだ。でも二人とも「「ヤチヨと二人で楽しんできて(下さい)」」って言われてな。」
「なるほどね~。…あの二人、わたしに花を持たせてくれた感じかな~?」
かぐや達を誘ったことを正直に話すと、ヤチヨは何かを考える顔をしながら何かをつぶやいたが俺の耳には届かなかった。
「…?何か言ったか?」
「ん~ん、なんでも。それよりさ、水族館で何見たいかお話しようよ!私はね~…」
そうして、水族館の話をしながらその日は過ぎていくのであった。
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水族館デート…デートって言葉をちゃんと使うと気恥ずかしいな。
…コホン、気を取り直して水族館デート当日。
俺はヤチヨと一緒に家を出ようとしていた。
ヤチヨが朝食を食べた後慌ただしく外出の用意をしていたので、俺は手早く準備を済ませ、しばしの間ヤチヨを待っていた。
待ち始めてから十数分後、パタパタという足音が聞こえ、ヤチヨが来たことを悟り足音の方を向くとーーー普段とは違うヤチヨがいた。
「ごめーん、ちょっと服選びに迷っちゃって。ね、どうかな?今日のコーデ。水族館だから動きや
すい服装にしてみたんだけど」
こちらに向かってきたヤチヨは青のジーンズに白色のニット、その上からクリーム色のブルゾンを着ている。先ほど言った通り水族館ということで動きやすい恰好にしてくれたのだろう、スニーカーを履いていた。
「ああ、ただ動きやすいだけじゃなくて、色合いがシンプルだがとてもヤチヨにあっていると思う。思わず見とれて声が出なかったよ」
「えへへ、そう?ミヨが気にってくれたなら良かった!…さて、それじゃあエスコートしてもらってもいいかな、王子様?」
「はは、俺に王子様役が務まるとも思えないけど、精一杯務めさせてもらうよ。…お手をどうぞ、お姫様?」
そう言って差し出した手に、ヤチヨは満面の笑みで「うん!」と言って俺の手を取った。
そのまま俺たちは手を繋いだまま水族案へ向かうのだった。
ーーー
「わぁー…!すごいすごい、海の生き物でいっぱいだ~!…わ!ねえねえ、こっち来てミヨ!カニ!おっきいカニがいるよ!」
「はは、昔からヤチヨはカニが好きだな。…お、あっちはウミガメか。いろんな生き物がいるんだな」
「おおー、ウミガメ…!そういえば、昔ウミガメの背中に乗りたいって言ってミヨと海に潜ったっけ」
「あー、あったなそんなこと。結局つかまるところが無くてカメの背中から落ちそうになったんだっけ」
「そうそう!あの時は行けると思ったんだけどねー」
俺もヤチヨも昔は様々な情報を得るために海の近くを旅することも少なくなかったため、海のエピソードに事欠くことが無く、様々な海の生き物を見ながら思い出話をしていった。
例えばシュモクザメなどがいるサメのエリアでは
「そういえば昔、ミヨがサメと大乱闘したことがあったよねー」
「魚を捕った時の血の匂いに引き寄せられて襲ってきたやつな。しかもあれヤチヨを狙って来てもいたから割と本気で殴ったんだよなー」
「あれの衝撃が強すぎてわたしも海の彼方に吹き飛ばされそうになったんだからね!?」
「はい、猛省しております…」
また、イルカたちのいるエリアでは
「ミヨミヨ、イルカだよ!かわいいねー」
「ああ、そうだな…ん?イルカ二匹がこっち来たそ…?」
「わー、ほんとだ!こんにちはー…って二匹でハートマーク作った!?すごい、すごいよイルカさんたち!」
「ん?なになに…『お二人の行く末が永らく幸福でありますようにと願いを込めました』だって」
「え、ミヨ動物の言葉が分かるの!?」
「ある程度の知能を持ったやつで、相当こちらに伝えようっていう意思があるやつだけな。全部ってわけじゃないよ」
「え~、なんでもっと早く言ってくれなかったの!あの時の犬の花子とかとおしゃべりできたかもしれないのに~!」
「そうか?隠してたつもりもなかったんだが」
「次におしゃべりできそうな子がいたら教えてね?」
「ああ、次はちゃんと教えるな?」
「ならよし!…それじゃ、気を取り直して次に行こっか!」
はたまたクラゲの大水槽を見たり
「クラゲがライトアップされてぷかぷか浮いてる!」
「おおー、これヤチヨのライブのときっぽいな」
「あー、ミニマムなやっちょを出すときの演出ね!あれも結構こだわってるんだよ?例えばねーーー」
北の海に住む生き物のゾーンを見たりした。
「わあ~~!アザラシだ~~~!ぷよぷよしててめっちゃ可愛い~~♡」
「ウミウシのヤチヨも手触り良くてかわいかったけどな?」
「えへへ、そう?でも今はFUSHIの体だから、それはFUSHIに言ってあげて?最近ミヨが全然構ってくれないって拗ねてたから」
「そうなのか。じゃあ<ツクヨミ>に行ったときに嫌になるくらい構ってやらないとな」
「多分嫌になることは無いだろうけどねー」
ーーー
展示を一通り回りきり、今は併設されていたカフェで休憩している。
「…ふぅー。いっぱい回ったねー。あ、そうだ。ミヨに一つ聞きたいことがあったんだ」
温かい紅茶を飲んでいたヤチヨがふと思いついたかのように俺に尋ねてきた。
「ん?なんだ?」
「なんで今日はデートなんて言い方をしたの?普段のミヨだったら自分からは言わないよね?」
「あー、そこか。そこは、まあ。一つは水族館にお互いに好意を持った男女二人で行くのはデートなんじゃないか?と思ったことだな。」
「…お互いにってことはミヨも私を好きってことになるけど?」
「そこはもう一目惚れだったって俺の黒歴史を見られた時点で知ってるんだから今更取り繕う必要はないだろ?」
そう言うと、ヤチヨはニヨニヨしながら
「とか言って顔が赤いですぞ~?」
とこちらをからかってきた。
「いいだろ、恥ずかしいんだから。…それで、実はもう一つ理由がある」
「うん、なになに?」
俺は言い訳しながらもう一つの理由を話す。
「それはーーーこの八千年、お互いによく頑張ったの会だ」
「ーーーへ?」
唖然とするヤチヨに対して言葉を重ねる。
「この前かぐやといろはと一緒に動物園に行って二人が動物と戯れている姿を見て、「ああ、ここまで頑張ってきてよかった」って心の底から思ったんだ。
そう考えて、それならこれまでの八千年間散々未来に辿り着くために頑張って、耐えて、乗り越えてきて、一番頑張ったのはヤチヨなんだから、キミが少しくらい羽を伸ばしたって罰は当たらないんじゃないかと思ってな。
あと旅の中で海に潜ったりはあったけど、海の生物を鑑賞する目的で作られた水族館には来たことが無かっただろう?だから海が好きなヤチヨにはぜひ来てみてほしかったっていうのもある」
「…!そんなにわたしのことを考えてくれてたなんて、嬉しいなあ…。ミヨがそう考えてくれたことも嬉しいし、生まれて初めて水族館に来たことも嬉しいしでダブルで幸せな気持ちになれちゃった!ありがとね、ミヨ!」
笑顔で感謝してくれたヤチヨの顔を見ながら、俺は誘って良かったと心の底から思った。
しかし、笑顔だったヤチヨは急に不安そうな顔になり
「…でも、これだけ幸せだとなんだか逆に不安になるねぇ。…贅沢な悩みってやつかな?」
「いやいや、幸せなのはいいことなんだから、あんまり不安がることもないと思うぞ。不幸も不安がってたら来やすくなっちゃうんじゃないか?」
「そっか、そうだよね!幸せなのはいいこと、だよね!…それにやっとハッピーエンドに辿り着いたんだから、不安がってちゃあもったいないよね。ありがとうミヨ、おかげで不安が吹き飛びました☆」
不安そうなヤチヨにフォローをすると、解消されたのかまた笑顔になった。…よかった。
「それならよかったよ。…おっと、もうこんな時間か。そろそろ夕飯時だし、帰るか」
ふと時計を見ると、閉演時間近くなっていた。
「え~、もうそんな時間!ん~、でも帰ってミヨの料理も食べたいし…うん、わかった!それじゃあ帰ろっか!よいしょっ、と……?」
「おっと!大丈夫か?ヤチヨ」
「あ、うん。大丈夫。…久々に外ではしゃいだから疲れちゃったかな?」
ヤチヨが帰ろうと席を立とうとしたところで、急にふらついてそのまま倒れかけた。
俺が慌てて受け止めると、ヤチヨはすぐに自分の力で立ち上がった。
どうやらはしゃぎすぎて疲れてしまったらしい。
「もしきつそうならタクシーを呼んで帰るけど、どうする?」
「ううん、もうふらつきも収まったし大丈夫!…それに、せっかくのデートなんだもん。タクシーですぐ帰っちゃもったいないでしょ?ゆっくり電車に揺られて帰ろうよ、ね?」
「ヤチヨがそれでいいなら、そうしようか」
「うん、じゃあ決定ね!…昔は急いでいろはのところに帰らなくちゃって焦ってて、こんなにゆったりできるなんて考えたこともなかったなぁ。…そう考えると、今まで頑張ってきてよかったって思えるねぇ。ね、ミヨもそう思うでしょ?」
「ああ、本当に、そう思うよ」
「ずうっと今日みたいな、幸せだなあって言えるような毎日が続くといいな」
「続くさ、きっと」
「…うん、そうだよね!それじゃあ今からお夕飯に何を食べたいか決めよう?まずはやっちょからね!う~んと、やっちょはね~」
八千年を共に過ごした俺たちは、あの地獄を乗り越えられて良かったと、このなんて事のない日常を噛みしめながら、明日に向かってゆっくりと歩を進めていくのであった。
祝☆50話~~~!!!
どうも、ど素人ことあさらこです。なんとこのお話で50話になりました!
ここまで続いたことにあさらこ自身も驚きです。
もちろんここまで続けてこられたのは読んでくださっている皆さんのおかげです。
いつも本当にありがとうございます!
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原点に立ち返り、ヤチヨとの一対一でお話を作ってみましたが、いかがだったでしょうか?
ミヨ君は若干恋愛感情が成長しましたかね?…でも、やっぱり最初にその感情が湧くのはヤチヨなんだなあ。
次の話題
ここで謎の裏設定ですが、復活後のミヨ君は目の能力に関して、実はKASSEN時に使っている瞬間的な未来視以外(長期間の未来視、魂を見る目、他人の視界を盗み見る目)は使っていません。というより、目的が果たされたため使う必要が無いので使う機会自体が無いと言ったところでしょうか。この裏設定がどこで活きてくるのかはこのお話にちょっとだけ匂わせました。ぜひ探してみてくださいね~。
次の話題
また2・3日後に小話のところにちょっとしたおまけを入れたりするので、良ければ見てみてください。
それでは今回はここまで、また気が向いたときにでも。
実はここだけの話、小話にある「葦原見世の現世探訪記」シリーズは今後のお話に結構関係してくる前日譚みたいなものなんですよね。