side:百
私には、好きな人がいる。
その人は、私が迫害されていたところを救ってくれ、その後も、想い人のところに帰るまで私に生きる術を教えてくれた。
私にとってはあの人と過ごす時間は文字通り夢のような時間で、特別だった。
けれど、あの人の心の中にはいつも想い人がいた。その人の話をするときは本当に幸せそうに、でも同じくらい苦しそうに話してくれて、漠然と「ああ、私は多分この人の一番にはなれない」と思ってしまった。
そう思ったままあの人と別れることになり、私は最後まで自分の想いを伝えることができなかった。
だから私は誓ったのだ。あの人に次に会う時までに、私はあなたにふさわしいものになる、あなたの隣に立つにふさわしい、あなたの初恋に負けないほどの一番星に。
…そしてあなたに、臆病な私がついぞ伝えられなかったこの
その後再会するまで約千年、私も色々なことを経験した。私の不老を聞きつけた貴族の方が私を狙って方々を逃げながら生活する羽目になったことや、様々な場所に行って世界の広さを実感したこと。
…そして、それでもあの人への想いは消えないくらいに大きかったこと。
私はどうやら、相当愛が重い人間であったらしい。
たった数年の初恋を、千年たった今でも熱量をそのままに持ち続けているのだ。
あの人に知られてしまったらきっと引かれてしまうに違いない。
でも、もし万が一にでもこの思いを受け入れてくれたら…という淡い期待があった。
…その希望も、再会したときに砕け散ったのだけれど。
再会したあの人ーーーミヨさまの周りには、魅力的な女性が三人いた。
その人たちはみな一様にミヨさまを愛しているのが一目で見て取れた。
そして、ミヨさまも三人に対して強い想いを抱いているのもまた、わかってしまった。
幸せそうなあの空間を見て「ああ、私はまた遅かったのだ」と理解するのは早かった。
だから、私は身を引いた。あの人が幸せならそれでよかった。あの「自分が一番嫌いなんだ」と言っていたあの人が、柔らかく笑っていられたらそれでよかった。
…そう、思ったのだ、本当に。でも、やっぱり失恋の痛みは辛くて、苦しくて。
私はミヨさまのお店から帰った後、布団の上で泣いた。次の日が学校が休みでよかった。きっと、取り繕う余裕すらもなかっただろうから。
そうして、散々泣いて、千年越しの初恋が終わったことを自覚して。
何とか表面上は取り繕うことができるようになって、学校へ行って彩葉ちゃんたちとお話するときは少し身構えたけど、胸の奥がチクッと痛むくらいで済んで密かに安堵したりして。
ミヨさまに似た少年と出会って。その子と一緒におやつを食べたりして、そのたびにミヨさまへの想いを思い出してまた胸の奥がチクッとして。でもこうやって初恋って終わっていくものなんだろうな、と感慨深く思っていたある時。
私は友人から猫カフェの優待券を二枚もらった。どうやら母親と二人で行くはずだったのだが、その親の用事で行けなくなったらしい。
そこで私は、つい考えてしまった。こういうところにミヨさまと一緒に行けたら、きっとすごく幸せなんだろうな、と。
考えだしたら止まらなかった。
だから私は、その日の放課後にミヨさまのお店ーーー『Luna』へ向かって、ミヨさまがこちらに柔らかい笑みを向けて「やあ、百ちゃん。いらっしゃい」と言ってくれたことに頬が赤くなっていくことを自覚しながら、こう言ったのです。
「み、ミヨしゃま!私と一緒に、お、お出かけしてくれましぇんか!?」
……さすがに嚙みすぎて恥ずかしくなりました…。
でも、ミヨさまは笑顔で
「お、いいのかい俺で?…ならご一緒させてもらおうかな」
と快く頷いてくださいました。…まあ、たぶん姪っ子とか、友人が遊びに誘ってくれたような感覚なのでしょうけれど。
でも、私にとっては夢のような時間となるに違いない。そう思いながらミヨさまと日時などの予定をすり合わせていくのでした。
「…くくく」
ーーー
side:ミヨ
今日は百ちゃんと猫カフェに行く日だ。
現在時刻を見てみると、30分前。
俺としては友人を作ることがあまりないため、古なじみである百ちゃんとどこかに出かけるということがとても新鮮で年甲斐もなくそわそわとしてしまい、少し早めに来てしまった。
しかも、「~~~♪」と、つい下手ながらもヤチヨの曲を口ずさんでしまうほどに、今の俺は舞い上がっていた。
そして、待つことしばし。
「お待たせいたしました!ミヨさま!」
こちらに駆けてくる音が聞こえたため、そちらの方を見てみると小走りで向かってくる百ちゃんが見えた。
「いやいや、友人と遊ぶなんてなかったから、舞い上がって俺が早く来すぎただけだよ。気にしなくていい。」
「そう言っていただけてありがたいですが、それでは私の気が収まりませんので。猫カフェに着きましたら飲み物をご馳走いたしますね!」
「そうかい?…それじゃあお言葉に甘えて。」
「ええ!…そろそろ向かいましょうか?」
「ああ、そうだね」
百ちゃんに促され、俺たちは猫カフェへと向かった。
ーーー
「わぁ~~~♪かわいい猫ちゃんたちがいっぱいですねえ」
そう、百ちゃんが猫たちを驚かせないように小声でこちらに言う。
俺も様々な種類がいることに少し興奮しながら「そうだね」と返した。
「ふむふむ、ルールが結構ありますねえ。まあこれも猫ちゃんの健康のためですし、しっかり守りましょうね!」
「そうだね、この子たちはあくまで人間の都合でここにいるんだ。せめて人間側はこの子たちが健康でいてもらうために努力しよう」
「はい!…ええと、それでは手指消毒をしまして。猫ちゃんたちのおやつと私たちの飲み物を持ちまして、行きましょうか」
「お~」
ーーー
「ミヨさま、猫ちゃんにモテモテですねえ」
パシャリとカメラの音がする。
現在俺は、猫たちに膝や頭、肩などに乗られてさながら人間キャットタワー状態になっていた。
「ん~。まあこれでも一応星の魂(模造品)だからなあ。
「そう仰るということは、好かれない動物もいるのですか?」
「好かれない、というか好感度がフラットになる感じかな。例を挙げると地球外の生物。あとは人間の手が加わって遺伝子を変えられた人工的な動物は対象外って感じかな。人工的な方は人間の変えようとする意志が積み重なって自然のサイクルから離れて行くのが原因かな?猫でいうとヒマラヤンとかがそれに当たるな」
「なるほど、だから一番人気のヒマラヤンの子がこちらに来ないのですね」
「まあこれ以上来られてもどこにも場所が無いから困ってしまうけどね」
そんなことを話しながら猫カフェで猫を愛でる時間は過ぎて行った。
ーーー
「はぁ~~~。癒されましたあ~♪ミヨさまはいかがでしたか?」
猫カフェを堪能した俺たちは、百ちゃんが「行きたい場所がある」ということで、とある高台に来ていた。
「そうだね、俺も癒されたね。やっぱり動物はいい…もちろん人間もだけど」
「喜んでくださったのなら私も嬉しいです!…あ、あの、ミヨさま!」
「ん?なんだいなんだい?」
「ええと、ですね…!?」
「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。ちゃんと聞くから、ね?」
高台からの少し冷たい風を浴びながら、百ちゃんがこちらに緊張した面持ちで呼びかけてくる。
その緊張をほぐそうと、ヤチヨのマネをしてみたが、あまり効果はなかったみたいだ。
「は、はい…すぅー、はぁー。…ミヨさま。私、実はミヨさまに一つ隠していたことがあるんです。…聞いて、くださいますか?」
「うん、もちろん」
隠し事…何だろうか?
「私、尼子百は…ミヨさまのことを、あの時救っていただいた時から、
恋という意味でお慕いしております。
…もちろん、ミヨさまにはお三方がいることは存じ上げております。
…ですが、そのお心にまだ入る余地があるのであれば。
私を、そのお心の内に加えていただくことはできませんでしょうか…?」
「なる、ほど…」
とても驚いた。
百ちゃんにそんなふうに想われているとは思っていなかった。
正直、いつか話していた兄のように思われているものだと考えていた。
…そうか、千年以上も想ってくれていたのか。
…それでも。俺の答えは決まっている。
「…まずは、そこまで俺を想ってくれて、ありがとう。
…でもごめん。俺の心はもう埋まってしまっていて。
キミの想いを受け取ることはできない。
……本当に、ごめん」
「いえ、本当は、こうなることは分かっていたんです。
…これは、どうしても伝えたかった私のエゴですので、ミヨさまがお心を乱すことはありませんよ。
…もともとこの気持ちは伏せておくつもりだったのに、なぜでしょうね?」
そう言いながら静かに涙を流す彼女を見て思わず後悔してしまいそうになるのをグッとこらえる。
それは、百ちゃんにも、三人にも失礼だ。
「…ふふっ。長年の想いを伝えられて、私は満足です。…本当ですよ?
でも、どうしても罪悪感が湧くのであれば。隣に来て、一緒にこの景色を見てくれませんか?」
「…ああ、わかった」
そう言って百ちゃんの隣に立つ。そして高台からの景色を見ようとしてーーー
トスッ
「…え?」
瞬間、背中に痛みが走る。まさか…刺された?
「百、ちゃん…?なんで…」
「は、はは、はははっはははははは!!!ようやく隙を見せたな、
違う。
彼女ーーーいや、コイツは百ちゃんじゃない!
「お前…誰だ!百ちゃんはどうした!?」
「はは、お前の言う百とやらはお前がこやつを振った瞬間に我と入れ替わったのだよ。
いやあ、こやつの心が弱った隙を伺って取り付き、認識をゆがませて欲望に忠実にさせ、刃物を潜り込ませることができたのも貴様のおかげだ。ありがとうなぁ…?
そして誰かというのであれば…む?」
「ーーーやっとみつけた」
そう言って空間を渡って現れたのは、
「なんで始まりの俺がここに…!?」
「もちろん、このおねえさんにとりついているはむしをつかまえるためだよ、りんねをおわらせたぼく」
「…!ならこいつの正体を知ってるんだな!?こいつは一体、何なんだ!?」
俺が問うと、見世はあっさりとあいつの正体を開示した。
「あれはつきからやってきた、いんべーだー。
ぼくらとおなじそんざい。
…つまり、つきのたましいのこぴーだよ」
どうも、ど素人ことあさらこです。
今回は百ちゃん回…に見せかけた、羽虫再登場回です。
そして、ここから後日談最終回へのカウントダウンが始まります。
どうかあと数話、お付き合いいただければ幸いです。
あ、書いていないリクエストや各キャラの誕生日回などは番外編で書く予定ですので、お待ちください。
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小話であれだけ我慢していた百ちゃんがミヨ君を猫カフェに誘ったのは、アレの洗脳があったためでした。それが無ければ彩葉と行ったことでしょう。
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ショタミヨがなぜ百ちゃんにとりついた後に見つけられなかったかと言うと、百ちゃんに宿る人魚の能力の存在に比べて、アレの魂の総量があまりにも小さく、陰に隠れてしまっていたからです。
本来ならば百ちゃんにそんな小さな存在の洗脳は効かないのですが、百ちゃんの心が弱っていたことが原因で、付け込まれてしまいました。
百ちゃんの攻撃が通ったのは、ミヨ君が身内認定して相手が怪我してしまってはいけないと常人まで体の耐久性を下げていたからです。
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ショタミヨと百ちゃんの出会いは、小話置き場にある「葦原見世の現世探訪記」を読んでみてください。
それでは今回はここまで、また気が向いたときにでも。