side:ミヨ
『最高の卒業ライブでした!いっぱいお土産もらっちゃった!みんな、ありがとぉーーっ!
……えへへへ。名残惜しいけど、これでおしまい!…………ばいばーい!!!』
「……ああ、ごめんな。かぐや」
結局、俺はかぐやを月に帰らせることにした。それが、ヤチヨに聞いたかぐやの結末だったからだ。
この世界でもかぐやはいろはの歌を聞いて地球にもう一度来て、そしてヤチヨになる。
それが何千、何万回と続いてきた、この輪廻なんだ。それなら最後にヤチヨがいろはと再会して終わる、そんな最後に報われるような終わり方でもいいじゃないか。
ーーー本当に?ーーー
「うるさいぞ、俺。…いいんだ、八千年の地獄に耐えたヤチヨには、これくらいの報酬があるべきなんだよ」
ーーーそれとかぐやが月に帰るのは関係ないだろう?ーーー
「それは…」
ーーー怖くなったんだろう?本当に自分の終わりがここなのか、自分は今死ぬべきなのだろうか、と。中途半端に未来が見えるからそんな及び腰になるんだーーー
「うるさい、わかってんだよそんなことは!……だから今、幻聴が聞こえるくらいには後悔してるんだろうがっ…!」
ーーーそう思うならあの終わりに辿り着け、次の機会を逃すな。…そうでなければ、今
「…ああ、わかってる」
俺は幻聴にそう答えながら、いろはたちへの罪悪感から彼らに会うことなくログアウトするのだった。
ーーー
そうして、しばらくの時間がたった。その間にいろはとヤチヨは俺と会うことが減り、いろはは家に、ヤチヨは<ツクヨミ>のヤチヨ自身のプライベートルームに引きこもるようになった。
…朝日さんからも、いろはの様子を聞かれるが、いかんせん『Luna』に来ていないので分からない、と返すことしかできなかった。
芦花さんや真実さんも、一度『Luna』に来ていろはの様子を聞かれたが、朝日さんの時と同様に返すことしかできず、芦花さんからは「あなたが、かぐやちゃん以外でいろはの心に踏み込めたあなたが動かないんですね…。心底軽蔑します」と言われてしまったが。
…この数日間、俺は罪悪感で胸がいっぱいだった。俺がかぐやを救わなかったせいで、いろはは悲しみ、そのいろはを想う家族や友人から何か言われてもあえて何もしないスタンスを取って、意図的にいろはを孤立させている。何とかできたかもしれないのに自分のエゴで何もしなかった俺に、そんな感傷に浸る真似など許されないのに。
ーーー
また数日たち、いろはからバイトを休ませてほしいことについてのメールが来た。俺は「力にはなれないかもしれないが、何か手伝えることがあれば遠慮なく行ってほしい」とどの口が言ってるんだ、と自分でも思うことを返信として送った。
ふと、ヤチヨの様子を見に<ツクヨミ>に入った。しかし、ヤチヨはどうも俺にも会いたく無いようで、FUSHIに止められてしまった。そして、FUSHIからいろはをここに連れてくるという話をされ、俺はついに二人が本当の意味で再会するときが来たのかと感じた。
ーーー
そして運命の日が来た。
俺が静かに待っているとーーーその時は来た。
ガチャリ…
「な、なんでミヨさんがここに…!?」
「やあ…。いらっしゃい、いろは。…立ち話もなんだ、早速本題に入ろう…FUSHI、ヤチヨのところに案内してやってくれ。…俺はキミたちの輪にはさすがに入ることはできないから」
『…わかった。小娘、ついてこい』
驚くいろはに、俺は挨拶をして間髪入れずにFUSHIにいろはをヤチヨの元に連れて行くよう頼んだ。FUSHIは、俺の方を見て少し悲しい顔をした後に表情を戻していろはを呼んだ。
「み、ミヨさん…」
「俺がここにいることとかは、ヤチヨが話すか、ヤチヨとの話が終わった後に話すよ」
そう言ってひらひらと手を振って、いろはを見送った。
「…さて、俺も行くか」
俺も、ヤチヨの全てが報われる日が来たことを、ヤチヨの作った<ツクヨミ>で実感したいという思いがあった。俺は<ツクヨミ>に入り、ヤチヨが作った「みんなが好きなことをして、殺し合うこともなく、誰も孤独にならず、いつでも返事をもらえる場所」を眺めていた。
そうして、<ツクヨミ>に入っては休んでを繰り返して、いろはの身体的に大丈夫なのかと心配になる時間がたったころ。
そろそろ一回現実でいろはの様子を見に行こうか、とログアウトしようとした時、普段なら周りにたくさんの人がいるはずなのに、誰もいないことに気が付いた。
「誰もいない…?珍しいな「ほう、これがこの星の我の同胞か」…っ!?」
訝しんでいると、とてつもない違和感とともに圧力のある声が届いた。
バッ!!と声の方を振り向くと、そこには銀髪碧眼の、改造された狩衣を着た男がいた。
「ふむ、まあこの星の生命ではない我がここにいても気づかぬのは道理か。しかし随分と出力が弱いではないか、同胞?まさか八千年ごときの旅路で弱くなるほど脆い魂と器ではあるまい」
「…そもそも同胞とお前は言うが、俺はお前のことなど知らない。そもそもなぜ俺の正体と旅を知っている?」
「そこまで知りたいというのであれば「言ってないが」教えてやろう!我は月の魂の模造品!貴様旅路を知っているのは大本からの知識ゆえよ。」
「月にも俺のような存在がいるんだな…。で、そんな奴がここにどんな用だ。かぐやは帰ったはずだが」
「かぐや…、ああ、あの者か。いや、帰ってきたはいいがあの後また出奔してな。だからまた連れ戻しに来た、というわけよ。そう、貴様と八千年を共にした同一存在を、我の妃にするためにな」
「…は?妃?急に話が飛んだな、なぜそんな話になる」
「貴様も見ていたであろう。八千年もの間異星で旅をし、絶望してなおただ一人と再会するためだけに走りぬいたその強く気高き魂を。我はあの魂を見て、あの者こそを妃としたい、そう決めたのよ。…月に持ち帰り、その魂を穢し、そしてすべての希望を絶たれたあやつが、それでもなお気高き魂であれるのかを永劫に見続けるためになぁ!」
「そうか、去ね」
ドゴンッッ!!!
その言葉を聞いた瞬間、俺は拳を振りぬいていた。普通なら現実と<ツクヨミ>関係なく一撃で終わる一撃なのだが…
「フン、話している最中にいきなり殴ってくるとは行儀がなっていないな」
「悪いな、外敵には容赦せずっていうのがウチの家訓なモンでね!」
「ははは!まあ、姫を救うに試練は多いほうがいいと言うしな!貴様を殺し、その生首を見せつけながらかの姫を迎えに行くとしよう!」
「はは、やらせると思うか?…
俺たちは同時に駆け出し、お互いを殺さんと拳を振りかぶった。
そしてーーー打ち負けたのは、俺の方だった。
ーーー
side:彩葉
FUSHIに連れられてとある一軒家に辿り着き、扉を開けるとそこにはミヨさんがいた。困惑しているうちにあれよあれよという間にたくさんのコードが張り巡らされ、真ん中に水槽に浮かぶ筍みたいなモノがある部屋に通され、そこから<ツクヨミ>に入ると、そこにはヤチヨがーーーかぐやがいた。
そうして私はヤチヨが事故で八千年前に時間遡行してしまったかぐやであり、これまでどんな旅を送ってきたのかをヤチヨの口とFUSHIの力によって体感したのだった。…それにしてもミヨさんがヤチヨの旅に付き添っていたとは、これでなんでコラボ配信の時に妙に親しそうだったのかの真実が分かった。
そして、全部見終わってヤチヨに…いや、かぐやにホントのハッピーエンドまで付き合ってもらうと宣言したところで、空間中にアラートが鳴りだした。
「え!?なになに、何があったのヤチヨ!?」
「これは…みんなのアバターが強制ログアウトされて、誰かが戦ってる…?これは…ミヨ!?…ミヨの反応がおかしい…まるで生身のような…?それに…こっちは誰?何か月人と似てるようで、もっとすさまじい何か…?ううん、考えるのはあと!ミヨが危ない、行かなきゃ!…いろははーーー」
「私も行く!」
「…うん、わかった!じゃあ行くよ!そーーーれっ!」
私たちはミヨさんがいるところに移動した。
そして、目の前に映ったのはーーー
お腹を相手の手で貫かれている、ミヨさんの姿だった。
ーーー
side:ミヨ
あの時、お互いに拳をぶつけ合った瞬間ーーー
ゴガッッ!!!
俺の拳が吹き飛ばされ、ヤツの拳が俺を吹き飛ばした。
「ぐあぁぁぁ!?」
「ほう、俺と戦う前に生身の肉体になるよう、「改変」しておったか。…しかし、その出力ではどのみち我には勝てんぞ!この羽虫になぁ?」
「くそっ…。」
「ほれほれ、どんどんいくぞ?受けられるかぁ?」
「ちぃっ!」
そこから先は、防戦一方だった。幸い、動きは素人そのものだったため、何とか相手の動きを読みながら避けたり、受け流すことはできていた。しかし、ヤツの強みはこちらが一撃でもまともに受けてしまえば致命傷になりかねないほどの膂力だったため、攻勢に転じることができなかった。
俺はどうすればこの不倶戴天の敵に勝てるのかを避けながら考えーーーついに答えを導き出した。
「ははははは!いつまでも避けているばかりでは我には勝てんぞ!」
そう言いながらヤツは俺の心臓に向かって拳を振りぬいてきた。そして俺はヤツの攻撃を避ける…ことはせず、そのままーーー
ズドンッッ!
と貫かれた。
「ゴボッッ」
と声の代わりに血が口からあふれ出す。血を運ぶ心臓はもうないのに不思議だと俺は他人事のように考えた。
と、その時ーーー
「ミヨ…?」
後ろから、声がした。振り向くとそこにはヤチヨと、そしていろはがいた。
「ほう、まさか姫の方から来てくれるとは…。これはーーー」
まずい、このままだと死に体の俺を無視してヤチヨの方に行ってしまう!
そう考えた俺は、とっさにヤツの首をつかみ、さっき思いついた答えを使用した。
ドクンッ…!
ソレを受けた月の魂の模造品は、体から白い光を吹き出しながら苦しみだした。
「が、あああぁぁぁ!?!?!?き、貴様、一体何を…!?」
「ゴボッ…。はあ…。はは、やったこと?お前なら簡単だろ?」
「なにぃ…?……!?まさか、貴様「現実改変」を…!?」
「大正解!お前を「今回の輪廻には存在しないモノ」として定義させてもらった…!「楔」もギリギリ間に合った…!これで俺も、お前も!この世界からは消え去る!はは、ははっはははは!…ゴブッ、ゲホッゲホッ!あははははははは!!!」
「貴様ああぁぁぁ!!!」
いっそ狂気的に笑う俺を憎々しげに睨みながら、ヤツは吠える。
「先に逝っとけ!続きはまたいつか、別の輪廻でやろう!」
「あ、ああ、あああああああああああああ!!!!!」
ヤツの断末魔が引き金になったのか、光の柱が生まれ、世界が白く光っていく。
俺もこの光が収まるころには世界の俺の記録ごと消えるんだろうな…と考えていると
「ミヨ、ねえ、ミヨお…!」
とこちらに近づいてこようとするヤチヨといろはがいた。
ヤチヨは俺がどうなるかがわかったのだろう、こちらに手を伸ばしながら俺の名前を呼んでいる。
「ミヨ、待ってよ…私を置いていかないで、一人にしないでよ」
その懇願に、俺はーーー
「大丈夫、もう一人じゃないだろう?いろはと再会できたんだから。…それに、俺の記憶はあと少しで無くなるから、悲しむ必要もなくなるよ」
そう、笑いながら返した。
「そんな、じゃあ私は!あなたのことも忘れて、のうのうと作られた幸せの中で生きて行けって、そう言うの…?」
「そう、だな。そうなるな。…でも、俺のことなんか忘れて、いろはと幸せになったほうが万倍良いと思うよ。だから、いろは。ヤチヨのこと、よろしくな?」
「そんな…」
いろはは目の前のことが理解できず、呆然としているようだ。…まあ、いきなり血みどろの男に託されても難しいか。どうせこの記憶もなくなるし、何でもいいか。
そうこうしているうちに、光の柱が消えてきた。同時に、俺の体も花弁となって散っていく。
「お、そろそろか。それじゃあいろは。そしてかぐや。…どうか、キミたちの未来が幸せに満ち溢れていますように!」
「待って、待ってよぉ…。私を置いていかないでよ、ミヨぉ…」
「ごめんな、かぐや。これでお別れだ。…キミとの旅、辛いことも多かったけど、すごく楽しかった!」
「あ、ああ、あああ、あああああああああああああああ!!!」
そんな絶叫を聞きながら、俺のいしき、はーーーー
side:第三者視点
二人しかいない<ツクヨミ>に絶叫が響き渡る。
それは永遠に続くかと思われたがーーー不意に止んだ。
絶叫していた女性ーーー月見ヤチヨは、不思議そうな声で
「…あれ、なんでわたし、泣いてるんだっけ…?」
そう、つぶやいた。
「ねえ、いろは。なんでわたし泣いてたんだっけ?」
「…?さあ?それよりかぐや、私のハッピーエンドまでしっかりついてきてもらうからね!」
「う~むむ…まあいっか!…了解、いろは!ハッピーエンドの先まで、よろしくね!」
…これから少女たちは二人で笑い合いながら、様々な障害を乗り越えてハッピーエンドに辿り着くだろう。
時折謎の感情の漏出や、強烈な違和感を感じるだろうが、それも時の流れとともに無くなり、その存在をもなくなるだろう。
そうやって、少女たちの物語は終わり、また始まる。
そこに確かにいた誰かを忘れ、誰かが思い描いた通りの、幸福な未来へーーー
『…ふむ、まあこんな感じでしょうかね』
『なるほどー。いつものりんねだとこうなるんだー』
『ええ…。ちなみにあなたならどうします?』
『ぼく?…のーこめんとで。けっきょくあのおわりになりそう』
『あら、そうですか。…それでは今回はここでお開きといたしましょう。お疲れさまでした』
『おつかれー』
どうも、ど素人ことあさらこです。
今回は、本編以前の輪廻では大体がこんな感じで終わるという感じで書いてみました。
今まで情報的には後日談やあとがきで書きましたが、実際には書いてなかったので。
サブタイトルにあるように、これがノーマルエンドです。
この後はミヨ君のことは忘れますが、おおむね原作のようなことが起きます。
だからミヨ君本人的にはハッピーエンド、いろはたちも時間経過で違和感などもなくなるので実質ハッピーエンド。ただ、私たちから見るとビターエンドよりのノーマルエンドかな?と言ったところが今回のエンドの基準です。
ミヨ君「ヤチヨが幸せなら、OKです」
また、ミヨ君が消えるときのセリフは大体どの輪廻も一緒です。
そこは未来視で見ていたので。
次の話題
今回少し書き方を変えて行間を多く取ったんですが、どうだったでしょうか?
見やすければいいのですが…。
今後どうするかは決めてませんので、ご意見あればお聞かせください。
それでは今回はここまで、また気が向いたときにでも。
一話、後日談を挟んでからバッドエンドを書きます(闇落ち)