ミ「一体、どこから間違えたんだろう.....。」
何もない天井を見上げながら、ミカちゃんはそう呟いた。
ミ「何を見誤ったのかな....。ハナコちゃんのことを、見くびったから?」
ハ「......。」
ミ「ううん、『浦和ハナコ』がとんでもない存在だってことは知ってた。でも、いつの間に無害な存在になってた。変数として計算する必要がないくらいに。アズサちゃんが、裏切ったから?」
ア「.....。」
ミ「ううん、アズサちゃんはただの操り人形。裏切ろうと裏切らなかろうと、私の望む結果には何も関係なかった.....ヒフミちゃんはただの普通の子で、コハルちゃんはただのおバカさんでしょ?変数になるような存在じゃなかった。」
ミカちゃんは、そう自問自答をしながら、何かに気づいたように聖哉の方を見た。
ミ「.....そういえば、一番大きい変数は先生だったね。先生が居なければ、あの時点でエデン条約を破綻させることが出来たし、私が負けることもなかった。」
「ミカ、あの時点というのは、ダーム事件の事か?」
ダーム事件.....あのドリンクによる、ゲヘナとトリニティの騒動って、そういう呼び方になったんだ.....
「そのことを知ってるという事は......あれは、アリウスの仕業。首謀者を教えろ。」
聖哉は、ミカちゃんに冷たい目線を向けた。
ミ「.....! そんな怖い顔をしないでよ.....ごめん、先生。私も詳しくは知らない。アリウスの子に教えてもらっただけ.....」
ミカちゃんの言葉を聞き、聖哉はフンと鼻を鳴らした。
「これだけのことをしておきながら、何も情報を持ってないとは.....全く、無駄な時間だ。」
「ちょっと聖哉!そんな言い方....。」
ミ「大丈夫、リスタ。事実だから.....。」
ハ「ミカさん、セイアさんは......」
ハナコちゃんの言葉を聞き、ミカちゃんは、俯いた。
ミ「本当に、殺すつもりじゃなかったの。今の私が何を言っても言い訳になるけど.....。多分、事故だった。セイアちゃん、元々体が弱かったし.....それに.....」
ハ「セイアちゃんは無事です。」
ミ「.....!?」
ハナコちゃんの言葉に、ミカちゃんは目を見開いた。
ハ「ずっと、偽装していたんです。襲撃の犯人が見つからなかったので、安全のためというのもあって.....トリニティの外で身を隠しています。」
ミ「セイアちゃんが.....無事?」
ハ「はい、傷が治らなくて、まだ目が覚めていないのですが.....救護騎士団の団長が、今もすぐそばで守ってくれています。そしてあの時、セイアちゃんを助けてくれたのは....いえ、これは直接、ご本人の口からがいいでしょう。」
ミ「....そっか。生きてたんだ....良かった....」
ミカちゃんは、安堵したように座り込み、聖哉の方を見た。
ミ「先生は凄いね。あれだけ、いろんな人から言われても、ハナコちゃんたちを信じた....信じ続けた。私の負けだよ。」
「ミカちゃん.....。」
ミカちゃんの言葉に、聖哉は首を傾げていた。
「お前は何を言っている? 俺は、こいつらの事を完全に信用してるわけではない。」
全「!?」
衝撃の発言をした聖哉に、この場にいるみんなが、驚愕した。
「あ、あんたは、何を言ってるのよ!?」
ヒ「せ、先生、どういうことですか?」
ヒフミちゃんの言葉に、聖哉は、フンと鼻を鳴らした。
「他人を信じるなんて、軽々しい言葉は言えない。もしかしたら、ヒフミは本当に犯罪組織のリーダーなのかもしれないし。」
ヒ「!?」
「コハルは、本当は賢いが、馬鹿のようにふるまっているだけなのかもしれないし。」
コ「は!?」
「ハナコが手を抜いていた理由はほかにあるのかもしれないし。」
ハ「......。」
「アズサは、本当にアリウスと繋がっていて、俺たちを騙しているだけなのかもしれない。」
ア「!?」
「そして、リスタは、アリウスと繋がっている可能性もある。ましてや、黒幕の可能性もある。」
「!? 私もかい!!!」
何だか、やばいことを言ってる聖哉に、皆は、黙ってしまった。
「信じれば救われる?仲間なら分かり合える?そんな希望的観測で世界が回るなら、誰も死なない、傷つかない。」
聖哉は、吐き捨てるようにそう言った。
「人間は間違える。恐怖で逃げるし、焦れば判断を見誤る。善人でも裏切る可能性もある....それが現実だ。」
ミ「......。」
「だから、こそ”それでも信じる価値があるか``を考える。俺にとって信頼は感情じゃない。願望でも綺麗ごとでもない。観察して、確認して、失敗も見て、それでもなお『共に戦える』と判断することだ」
聖哉はそう言い、私の方を一瞥した。
「信用は一瞬で崩れる。だから維持するには、覚悟がいる。」
聖哉は少しの間、間を置き、低く続けた。
「本当に信頼してる相手には、むしろ依存しない。相手が倒れても動けるように備える。裏切られても立て直せるよう準備する。死なれても目的を遂行できるようにする。」
聖哉はそう言い、生徒たちを見た。
「それが、相手の弱さを理解した上で信じるってことだ。無条件に信じ続けるのは、ただの甘えだ。『この人は自分を傷つけない』と期待しているだけだからな。」
「せ、聖哉.....」
「本当の信頼は違う。傷つく可能性を知っていて、なお相手を選ぶことだ。だから、俺はこうして、こいつらに背中を向けている。」
聖哉の言葉に、沈黙が流れた。少しの間、静寂が流れたが、ミカちゃんが、口を開いた。
ミ「あはは.....この先生に勝てるわけなかったね.....慎重すぎる勇者か......。」
ミカちゃんはそう言って、正義実現委員会に連れていかれた。
こうして、ミカちゃん率いるアリウスの生徒が起こした騒動は幕を閉じた。
「いや、まだだ。やることがあるだろう。」
「やること?」
.....そういえば、私たち、何のためにここに.....
ヒ「あー、色んな事がありすぎて、忘れていました。試験ですね。」
ア「現在時刻は午前7時50分。試験会場まで1時間で着かないと、走ろう。」
ヒ「えぇっ!?走るんですか!?」
試験会場まで走ろうとするアズサちゃんを聖哉が制止した。
ア「先生?」
「リスタ、飛翔のスキルでこいつらを試験会場に連れてくぞ。俺は、ヒフミとアズサちゃんを乗せる。お前は、ハナコとコハルを乗せろ。」
「なんか、タクシーみたいだけど.....そうよね。その方が気分転換になるわ。」
私は、飛翔のスキルを使った。私と聖哉は、空を飛び、この子たちを試験会場まで連れてった。
ア「す、凄い....空を飛んでいる。」
ハ「ん~。気持ちいですね!?」
コ「そ、それ、どういう意味!? エッチなのはダメ!!」
ヒ「あはは、でも.....綺麗ですね。」
夜明けを迎える暁の太陽は、まるで、この子たちの合格を祈っているようだった。
ヒ「つ、着きましたね。」
ア「は、速い.....。」
コ「秒で着いたわね。」
ハ「早速、行きましょうか。」
そう言って、補習授業部の子たちは、会場内に入ろうとした時......。
「おい、待て。」
全「!?」
聖哉が突然、皆に声をかけた。
「お前たちは、言う事があるはずだ。」
聖哉の言葉に、皆が気づいた。補習授業部の子たちは、息を合わせて....。
ヒ・ハ・ア・コ「せーのっ!『
その言葉を聞いた聖哉は、フンと鼻を鳴らした。
「なら、行って来い。その言葉を言うという事は、合格しなきゃ許さん。」
「ちょっとは、頑張れの一つぐらい言ったら?」
相変わらず、不愛想な聖哉に、皆は一斉に笑った。
ヒ「それが先生ですからね。」
ア「行ってくる。」
コ「驚くぐらいの点数を取ってやるんだから。」
ハ「フフフ❤」
そう言って、補習授業部の子たちは第三次特別学力試験に挑んだ。私たちは、窓の外からその頑張りを見ていた。
後日、結果が届き......
ハナコー100点(合格)
アズサー97点(合格)
コハルー91点(合格)
ヒフミー94点(合格)
補習授業部ー全員合格
補習授業部の合格が発表された日。私は、一気に体の疲れが出たからなのか、ベットに入るとすぐに寝てしまった。
「はっ!?」
気が付くと、以前、セイアちゃんと会ったティーパーティーの部屋だった。
セ「気が付いたようだね、リスタルテ.....補習授業部の皆はしっかりと、自分たちの力で合格を勝ち取ったのだね。」
「セイアちゃん......?」
こちらの方を見て、微笑んだセイアちゃんは続けた
セ「流石だね、君の勇者は.....どうやら、私の危惧したことは、彼にとっては、取るに足らない事態だったようだ。」
「まぁ、聖哉は、『
私の言葉に、セイアちゃんは、一瞬、微笑んだが、すぐに険しい表情に戻った。
セ「.....だが、エンドロールには早すぎる。なにせ君たちが守るべき結末は、まだその全貌を現してはいない。この話がたとえどんな風に転がっていこうと.....全ては、破局へと収束していく。」
「!? どういう事?」
――は、破局!?
セ「.....暗雲。誰の手にも負えないような、二度と太陽を拝めるとは思えなくなるような....そんな暗雲が、今ゆっくりと押し寄せてきている。」
「暗雲......。」
その言葉を聞いた瞬間、私は背筋が凍った。
――そうだ....まだ終わってない。根本的なことが解決していないわ.....でも....
「セイアちゃん、安心して。」
セ「!?」
「貴方は、私たちが絶対助ける。そして、どんなことがあろうとも、絶対、諦めたりはしないわ!!! 」
私は一呼吸をし、声を大にして、言った。
「聖哉は、傍若無人だけど、ありえないほどに慎重な.....『慎重勇者』よ!!!」
その言葉を聞いたセイアちゃんは、微笑んでくれた
セ「また会えるだろう。その時は、彼とも一緒に....」
「えぇ。待ってて。」
そう言い放った瞬間、前回と同じように視界にぼやがかかった。気が付くと、シャーレの部屋にいた。
エデン条約 第一章「補習授業部」完結
「聖哉、あの子たちが合格してよかったね。」
「あぁ。これからの人生、更なる壁があいつらの人生に用意されているだろう。だが、もう安心だ。あいつらには、何事にも代替えが出来ない仲間が見つかったのだからな。仲間と一緒に、慎重に準備すれば、怖いことは何もないだろう。」
「そうね.....大丈夫よね。」
「次はエデン条約だ。これに本腰を入れていく。」
「エデン条約.....これにたどり着くまでに、色んな事があったね。」
「あぁ。だが、まだ起こらないとは限らない。俺たちはそれに慎重に準備するだけだ。」
「次回『ヒナちゃんと霊トレ』」
読んでくださり、ありがとうございます。次回から、第二章が始まります。