この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。
雄英体育祭 決勝トーナメント
プロローグ:不甲斐なさと喝
「辞退……だと?」
私の声は、低く、重い。前世から引き継いだこの「渋みのある男性のような声」は、自分でも気に入っているが、今は怒気を含んでさらに深く響いていた。転生前の記憶にある「誰か」のような、あるいはどこかの海賊を思わせるような、威圧感と包容力を併せ持つ声。
目の前で俯く尾白猿夫。彼は心操人使の“個性”に操られたまま予選を突破したことを「不甲斐ない」と恥じ、自ら舞台を降りようとしていた。その誠実さは尊いが、勝負の世界においては時に致命的な弱さとなる。
「尾白……チャンスがあるなら、泥を啜ってでも掴みに行くべきではないか? ヒーローを目指す者が、一度掴んだ勝利を『不透明だから』と手放すなど、滑稽の極みだ」
「校倉さん、でも……おれは心操にあやつられて、何が起きたかも覚えていない。これじゃあ、おれの実力じゃない……」
「馬鹿を言え。心操の術中に落ちたのはお前の落ち度だが、それでも【お前なら】勝ちに行けると、予選の結果は示している。ならば逆に誇れ、お前の積み上げた基礎体力が無意識下で実を結んだことを。お前の『武』は、意識を失った程度で揺らぐほど軟なものか?」
私は彼の肩に、ずっしりと重い掌を置いた。鎧を纏わずとも、私の身体には転生以来鍛え上げた厚みがある。
「それに――私は、お前のような不器用なまでに『武』を貫く男と、この大舞台で闘いたいのだ。私の個性を相手に、お前がどう立ち向かうのか見せてみろ。逃げるな、尾白」
私の真っ直ぐな、そしてどこか枯れた渋みを持つ瞳に射抜かれ、尾白の瞳に再び青い火が灯る. 彼は一度深く息を吐き、静かに頷いた。掲示板が更新され、巨大なトーナメント表がスタジアムの四方に映し出される。
【第一回戦:尾白 猿夫 vs 校倉 必】
序盤:不落の城塞と蹂躙
「……くっ! 物理型相手に、その“個性”は反則じゃないかな!」
試合開始の合図と共に、スタジアムは熱狂の渦に飲み込まれた。尾白は開始直後から、防戦を強いられていた。私の“個性”【賊刀「鎧」】は、210センチを超える巨躯の西洋甲冑となって私を包み込む。その装甲は、継ぎ目のすべてが鋭利な「刃」であり、動く要塞そのものだ。
左肩からの重戦車のようなタックル。右腕に備わった巨大なブレードによる、空間を断ち切るような薙ぎ払い。そして、鋼の拳による粉砕。コンクリートのリングが悲鳴を上げ、踏みしめるたびに蜘蛛の巣状に砕け散る。
「そう言いながらよく避ける。自分より大きい相手とのやり取りには、相当慣れているようじゃないか。その尻尾の使い方も含めてな」
面頬の奥から響く私の声は、空気を振動させる重低音となって尾白を威圧する。しかし、彼は鋭い動きでバックステップを踏み、空中でも尻尾をバネのように使って軌道を修正しながら応えた。
「まぁね、おれはあまり体が大きいほうじゃないからね。だからこそ――格上と闘うための【武】を、寝る間を惜しんで磨いてきたんだ!」
中盤:見抜かれた弱点
尾白の動きが、ある瞬間を境に変化した。ただ回避に専念するのではなく、私の攻撃を最小限の動きでいなし、その合間に執拗に私の足元――地面との接地点を観察している。
「……打撃を打ち込むたび、校倉さんの足元から砂ぼこりが……? 衝撃を逃がすための仕組み。もしかして!」
尾白の攻撃が、直線的な正拳突きから、下から突き上げるような、あるいは横へと重心を揺さぶるようなコンビネーションへと変化した。私の賊刀「鎧」は最強の防御力を誇るが、それは衝撃を「地面へ逃がす」ことで成立している。もし、地面との接点を断たれたら?
「……っ!」
これまで無視していた彼の打撃に、私は思わず身構えた。突き上げられるような衝撃が、鎧の内部をわずかに揺らす。
「やっぱり、その“個性”の弱点がわかったよ! 地面に足がついていない瞬間、その防御力はただの重りになる! 校倉さん!」 「ふっ、わかったところで!! 私の巨体を、武術だけで浮かせられるか尾白! 重量はそれ自体が武器なのだ!」
終盤:激突の果て、限定奥義の咆哮
「限定奥義:刀賊鷗(とうぞくかもめ)ぇぇぇ!!!」
私は両手を打ち合わせ、天に向かって吠えた。鎧の各部がプシュッという蒸気を吹き出しながらわずかに変形し、排熱と同時により強固なロックがかかる。重心を極限まで下げる、アメフトのラインマンのような突進態勢. それは、一切の技巧を排した、純粋な質量と速度による暴力。
次の瞬間、コンクリートの床を爆砕し、一歩で数メートルを跳ぶ音速に近いタックルが尾白に迫る。
「カウンターや逃げの態勢じゃ、校倉さんを浮かせられない! 耐えて、渾身の一撃を放つ……おれのすべてを、この一瞬に!!」
尾白は逃げなかった。逃げれば、その瞬間に鎧の刃に切り裂かれると悟ったのだろう。彼は右肩の肩当てに両手を添え、歯を食いしばる。強靭な尻尾をコンクリートに深く、深く突き立て、自らを地面に固定するアンカーにする。
「ぐ、あああああ!!!」
リングアウトギリギリ。尾白の足元が深く削れ、摩擦熱で火花が散る。鼓膜を劈くような金属音が響き渡る。だが、彼は止めた。150kgの質量と加速がぶつかり、私の右肩にある巻貝状の飾りの先端が、彼の鼻先数センチで静止する。
「……っうう、殺す気か校倉さん!」
「……やるじゃないか、尾白! これを止めるとはな……!」
会場が、一瞬の静寂ののちに爆発的な歓声に包まれた。
渾身のタックルを止められ、私の動きに一瞬の停滞が生じる。尾白はそのコンマ数秒の隙を逃さなかった。彼は瞬時に屈み込み、全身のバネ、そして太い尻尾の全筋力を爆発させた、魂のダブルアッパー。
「これでおしまいだぁぁぁ!!!」
私の巨体が、ついに宙を舞った。足が地を離れ、衝撃を逃がす術を失った「鎧」は、ただの密室へと変貌する。逃げ場のなくなった衝撃波が、物理法則のままに内部の私を直接襲う。
「……がはっ」
重苦しい金属音と共に、私は膝をつき、そのまま前のめりに倒れ伏した。鎧の隙間から、わずかな熱気が漏れ出す。
エピローグ:判定と継承される熱量
「校倉さんノックアウト! 尾白君の勝ち!」
審判のミッドナイトが、扇情的なポーズでムチを振るいながら高らかに宣言する。スタジアムの観客は総立ちになり、誰もが予想だにしなかったジャイアントキリングに酔いしれていた。
「すげぇぇー! 尾白の奴、あの校倉の鎧を……正面から打ち破りやがった!」
峰田実が鼻水を垂らし、震えながら叫ぶ。
「くぅー熱いぜ! 尾白! 校倉! お互いに一歩も引かねぇ、あいつら、最高に『漢』だぜ!」
切島鋭児郎が涙を流して拳を振り上げる。
「必ちゃんは女の子よ、切島ちゃん。でも、その魂の熱さは……確かに性別を超えているわね」
蛙吹梅雨が冷静に、しかしその指先を微かに震わせながら付け加えた。
(……ああ、いい試合だった……)
意識が遠のく中で、私は満足げに微笑んだ。転生してこの世界に来て、「個性の強さ」ばかりが持て囃される現状にどこか冷めていた自分。だが、地道な努力で個性を武へと昇華させた尾白の拳は、私の冷めた心を焼き尽くすほど熱かった。
尾白の上げた勝利の咆哮を、最高の賞賛として聞きながら、私は心地よい疲労感と共に深い闇へと落ちていった。
アニメ刀語 鑢 七花 対 校倉 必のオマージュです
尾白猿夫くんどうして辞退してしまうん?
賊刀「鎧」大好き!
僕のヒーローアカデミアと刀語両方面白いので見てみてね。
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