芹澤菜々子と三宅川愛梨のお話   作:藍沢カナリヤ

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幕間 休日のななこさん

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「はっ!? 遅刻!?」

 スマホの画面を見て飛び起きる。時刻は8時。既に出勤時間であった。慌てて飛び起き、バタバタと身支度を整える。歯を磨き、顔を洗おうと、洗面所に駆け込んだことで気づく。洗面所に飾ってあるカレンダーには✕がついていた。それは部活動がお休みな土曜日の印。つまり、

「き、今日、休みだぁぁぁ」

 盛大に項垂れながら、大きなため息を吐く。同時に、力が抜けた。そんな休日の始まりだった。

 

「ふぅ…………」

 リビングでテレビを見ながら、珈琲をすする。ソファに身を預ければ、お疲れ様と言わんばかりに、彼は身体を包んでくれた。ありがとう、ソファくん。そのままぼーっとテレビを流し見る。ワイドショーでは、ここ最近の海外の情勢やら、都心で起きた事件について、コメンテーターがああでもないこうでもないと議論を交わしていた。

「………………大変だなぁ」

 他人事のように独り、呟く。教員ともあろう者が世間に関心が薄くていいのか、と言われればよくはないのだけれど、今、私の頭の内を占めるのは……。

「…………あいりちゃん」

 恋人である彼女のことだ。今、なにしてるかなぁとか、練習で怪我してないかなぁとか。恋愛脳だと言われてもおかしくはない。生徒のこと言えないなぁ、なんて感じてしまう。

「…………よしっ」

 今日は珍しく土曜日のお休みなのだ。普段、いろんな我慢をさせているであろうあいりちゃんのためになることをしてみよう。そんな風に考え、私は身支度を再開したのだった。

 

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 雪もすっかり溶けて、もうすぐ春。5月4日があいりちゃんの誕生日だから、それに向けていろいろプレゼントも考えたいなぁと思っていた。というわけで、やってきたのは自宅から車を走らせて40分くらいの雑貨屋さん。紅茶、クッキー、水彩模様のハンカチ、ハンドマッサージャーもある。

「何がいいかなぁ」

 どんなものなら喜んでくれるだろうか、あいりちゃんがもらってにこにことしてくれる姿を想像しながら選ぶ。ふと目についたのは、オルゴールつきの小さな小物入れだ。木目調で、あいりちゃんのお部屋にもきっと合うだろう。価格もそれなり。あいりちゃんが遠慮することもないはず。

「うん、これにしよ」

 それを手に取り、レジへ向かう。プレゼント用ですか、という店員さんの問いに頷き、ラッピングもしてもらう。

「恋人、さん用ですか?」

「へ!?」

 不意にそんな風に若い女の店員さんが聞いてくる。

「あ、すみません。とても嬉しそうな顔をしていたので」

「……え、あ、その」

「これは失礼しました。それでは10分ほど店内でお待ちください」

「あ、分かりました」

 ペコリと礼を交わし、レジを後にする。ラッピングが終わるまで、ゆっくり店内を見て回り、呼び出し番号のアナウンスが店内に流れた。レジに戻ると、さっきの店員さんがラッピングをした商品を持ってきてくれて。

「お待たせしました。こちらで、よろしかったでしょうか」

 可愛くラッピングしてもらった小物入れを手に取り、頷く。いい買い物ができた。あ、そうだ。

「……あの」

「?」

「かわいい恋人さん用です」

 去り際に、そんな風に返すと、店員さんはにこりと笑ってくれたのだった。

 

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 その後、とある目的があって、いろいろなお店が並ぶ複合施設にも足を伸ばした。眼鏡屋さん、チェーン店じゃないアパレル、その並びで、ふと足を止める。

「あ……」

 ショーケースの中には、シルバーのリングとそこに小さくも輝くダイヤモンド。

「婚約指輪、かぁ」

 私とあいりちゃんは恋人。けれど、制度的には『結婚』できないのは分かってる。パートナーにはなれても、家族にはなれないのは少し辛い。幸いなことに少しずつ制度整備は進んでいる。だから、形だけでもいい。

「『結婚』…………したいな」

 2人、ウェディングドレスを着て、並んでバージンロードを歩いて、指輪を交換して、みんなから祝福されながらキスをする。そんな結婚式に憧れはする。年下で、元教え子で、同性。正直、世間に好奇の目を向けられてもおかしくないと自覚はしてる。それでも……。

「なにかお探しですか?」

「あ、いえっ!! すみませんっ!!」

 不意に声をかけられたことで、私は逃げるようにその場を立ち去ってしまった。それは今は買わないことへの罪悪感かそれとも……ううん、なんでもない。

 

 そのまま駆け込んだのは、目的の場所。複合施設の通路を抜けて外へ。そのまま裏手にある古本屋。そこが私の目的の場所だった。紛いなりにも私は国語教師だ。本を読むのは好きだし、なによりこういう場所に掘り出し物があったりするんだよね。

「………………」

 目につくのは、好きな小説家さんの本。もちろんほぼすべてハードカバーで持っているし、好きな本は文庫本も買ってある。それでも手に取っちゃうよね。

「……あ、これ初版だ」

 やっぱりいいなぁ、ここの本屋さん。独特の匂いが好き。直射日光を防ぐため、少し暗めなのも落ち着く。それに、

「あら、菜々子ちゃん。また来たのかい」

「ああ、おばあちゃん。こんにちは」

 私に声をかけてきたのは、優しそうなおばあちゃん。上品で穏やかな雰囲気のその人こそ、この古本屋の店主だ。

「今日は?」

「探し物です」

「ああ、そういえばこの間も何か探してたね」

「はい」

「見つかったかい?」

「…………珍しいものなので、なかなか」

 苦笑いを返す。私の方で探しておこうかと聞いてくれるも、それは申し訳なくて断る。それに、

「そうねぇ。本を自分で見つけるのも楽しみだものね」

「ふふ、はい」

 流石はおばあちゃん、分かってるなぁ。

「じゃあ、ゆっくりしといでね」

「はい、ありがとうございます」

 彼女にそう返し、私はまた本漁りに夢中になったのだった。

 

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「んーーーーっ!! ふぅぅ」

 時刻は22時。私は寝室に入るとひとつ伸びをして、脱力。一気に力が抜け、1日が終わったのを肌で感じる。少しずつあったかくなってきて、明日の朝もそこまで寒くないみたいだから、暖房のタイマーもつけずに、そのままベッドに入る。そのまま電気を消して、手元の間接照明だけオンに。

「さて、早速読もうかな」

 手元に照らされるのは、やっと今日見つけ、買った目的の本。だいぶ古いもので、文字もかなり小さい。買うときに軽く中を見たら、使われている言語も日本語以外だったから、辞書とスマホを近くに置き、表紙を撫でる。

 ペラ、ペラと紙がめくれる音が耳に心地いい。穏やかで、静かな自分だけの時間に浸る。ああ、いい時間だ。それにーー

 

「……生贄、宇宙……んー、ここは、邪なる神、かな?」

 

 ひとつずつ近づいているのを実感する。いつ、『あれ』が私達を……あいりちゃんを脅かすか分からないんだ。早く『あれ』に対抗できる知識と、滅ぼせるくらいの何かを手に入れなきゃ。

 すべては……あいりちゃんとハッピーエンドを迎えられるように。

 

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