芹澤菜々子と三宅川愛梨のお話   作:藍沢カナリヤ

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2 酔、秘め事

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 わしちゃんの名前は『三宅川愛梨』!

 明るく社交的、天真爛漫なJD! そして、両親が作ったサーカス団の一員で、見習いピエロさんでもあるのだ! 担当は空中ブランコとジャグリング! 夢はお父さんのような立派で皆を楽しませるピエロになること!

 

 というのは、作り物のウチ。ウチの性格も、感情も、夢も、すべて親が望んでいるもの。自分の意思はどこにもない。周りが求める自分や期待される自分を演じる、そんな生活をずーっと続けてきた。それは、ななこせんせのお家に預けられたあの時も同じ。中学3年生の冬に、少しだけひび割れた感じはしたけれど、私生活はずーっと仮面をつけてきた。『灰色』の世界の中で。

 ただ、ななこせんせとやりとりをしている間だけは、胸の奥の方がじんわりとあったかい気持ちになっていたけど。だから、7年ぶりに、ななこせんせに会えるその日はとっても楽しみにしていたのにーー

 

「あいりちゃんが元気でよかったよぉぉぉ」

「ああ、よしよし。元気だよ~」

 

 居酒屋にて。ウチはなぜか大泣きするななこせんせの頭を撫でていた。どうやらせんせは泣き上戸というやつらしい。でも、これ、まだ5杯目だよ?

「あのねぇ、私はあいりちゃんが心配でねぇ」

「うんうん、そうだねぇ」

 思わず苦笑いしてしまう。今日はあいりちゃんにお酒の飲み方を教えてあげるね、なんて言っていたのに。まぁ、反面教師にはなってるけどさ。

「だってさ、だってさぁ……お別れの時の顔が忘れられなくてぇ」

「うっ」

 ウチの仮面が剥がれた時の話をされて、さらに表情が歪むのを自覚した。あれ以来、それなりに取り繕ってきた。無理に笑わなくていいよ、と言ってくれた言葉は嬉しかったけれど、でも、ウチはこれしか生き方を知らないから。

「ななこせんせ。でもね、あの時言ってくれた言葉は忘れてないよ」

「……………………うん」

「だから、せんせの前では少しだけーー」

「ーーうっ」

「え?」

「おろろろろろろろ」

「わぁぁぁぁ!?!? ななこせんせ!?!?」

 

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 ごめんねごめんねと言いながら、ななこせんせは謝り続けた。ビックリはしたけれど、そこまで気にしてはいない。むしろウチから見て立派な大人だったせんせが見せてくれただらしない一面を見て、少しだけほっとした、から。

 けれど、流石にこの状態で帰りの電車に乗るわけにもいかない。だから、どうしようかと悩んでいると。

「あいりちゃ~ん、ここ! ここで服洗えるよ~」

「え、あの、ななこせんせ……?」

「ほら、はやくはやく~!」

「ち、ちょっとぉぉ!?」

 ななこせんせはこうしてウチをホテルに連れ込んだ。まぁ、確かになぜか洗濯乾燥機はあるようで、目的は果たせたけどさ。

「気持ち悪いでしょ~、シャワー浴びておいでよぉ」

「!?!?」

 ウチも大学生だ。そういうことの知識も多少はある。だから、嫌が応でも想像してしまう。この後のことを。

「…………まぁ、そんなことないだろうけどね」

 相手はななこせんせだもん。

「……いや、別に嫌いじゃないけど……あっ」

 ポツリとそうこぼれる。それは作っていない本音、だったんだと思う。高校での3年間の勉強も、受験も、サーカスでの練習も、心を殺しつつも限界を迎えなかったのは、きっとウチの話を聞いてくれたななこせんせのおかげだったから。悪感情なんて1つもない。それどころか、ななこせんせにだったら、襲われてしまってもいいと思っている。

「…………うぅぅぅ」

 身体の芯が熱い。せんせの目、見れないよぉ……。

 

「あ、あがりました……」

 備え付けのバスローブを着たウチは、ベッドに横になっていたななこせんせに声をかけた。せんせはむくっと身体を起こす。

「じゃあ、私も浴びてくるね~」

「う、うん」

 まだ酔いは全然抜けてないみたいで、ふわふわとした返事をして、ななこせんせは浴室へと消えていった。

「……………………ふぅ」

 息を吐く。少し手が震えてる。ええと、体は隅々まで洗って手入れしたし、お酒の匂いもしないように、歯磨きも念入りにした。マウスウォッシュもした。これで、大丈夫なはず!

「よしっ! って、ちがうちがう」

 なんだかこんなにして、ウチ、期待してるみたいじゃん! もうっ、それもこれも全部、せんせのせいだ!

 しばらくして、ななこせんせがシャワーを浴びて出てきた。タオル1枚だけの姿で。

「へ!?」

「ん~、あつーい」

 そう言って、せんせはボフッとベッドに座るウチの横に、寝そべる。目のやり場に困る。せんせ、結構脱いだらあるんだなとか、タオル巻くの緩いよとか色々なことが頭を過る。

「ん~?」

 そんなウチの様子を見て勘違いしたのか、ななこせんせはウチの頭を撫でてくる。

「わわっ、ど、どど、どうしたの……?」

 

「……おいで」

 

 ななこせんせはポンポンと自分の隣を軽く叩く。

「へ!?」

「ほーら」

「……いや、その……」

「あいりちゃん」

「……は、はい」

 この時のななこせんせはとっても、とっても色っぽくて。そのせいでウチは抗えなかった。そーっとベッドに横になると、

「ぎゅー」

「っ」

 ななこせんせがウチの頭を抱えるように、抱きしめてくれた。そのまま無言でそうしていると、少しずつ体に入っていた力が抜けていく。初めての感覚……ううん、これをウチは知っている。これは『安心』って感情だ。そうだ、お別れの日、ななこせんせにこうしてもらって、ウチは安心、したんだった。

「あいりちゃんは……えらいね」

「……えらくないよ」

「あいりちゃんは、かわいいね」

「……かわいくない、もん」

「ねぇ、あいりちゃん。私ね、あいりちゃんのことがとっても大切だよ」

「………………うん」

「だからねーー」

 そこでウチはななこせんせの胸から顔を上げる。そうして見たせんせの顔はとっても優しくて、熱を帯びていた。

「これからたくさん、こうしよ?」

「うん…………ななこ、さん」

 ウチはそのまま、ななこさんの唇に口づけをした。

 

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「いやぁ、その、ね? 本当にごめんなさいっ!!」

 

 ななこさんと『そういう』関係になった次の週の土曜日のこと。喫茶店に呼び出されたウチに向かって、勢いよくななこさんは謝った。曰く、あの夜のことを覚えていないらしい。

「しょうがないよ、お酒入ってたんだし」

「うぅぅ、強くないのにかっこつけなければよかったぁ」

「…………」

 涙目になりながら、嘆くななこさん。そんな表情もかわいいと思ってしまうのは、きっと関係性が変わったからなのかな、なんて思ったりして。

「百合は好きだけど、それはそれとして元教え子と一線を超えるなんてぇ……うぅぅぅ、罪悪感がぁぁぁ……」

「………………ふへへ」

「あいり、ちゃん……?」

「ね、ななこさん」

「な、なんでしょう?」

 ちょいちょいとななこさんを呼び、ウチはななこさんの耳元で囁く。

 

「責任、とってね」

 

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 こうして、ななこさんとウチとの一歩進んだ関係性は始まったのだった。

 

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