芹澤菜々子と三宅川愛梨のお話   作:藍沢カナリヤ

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クトゥルフ神話TRPG『思い立って5分で回せるデートシナリオ第4弾!温泉旅館編 秋』のネタバレを一部含みます。
通過者及び視聴済みの方のみお読みください。


4 温泉、追憶(菜々子視点)

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「はぁぁぁ、よかったなぁぁ」

 

 とある休日。私は心の底からそんな声を出した。今週は部活動の大会があったから、余計に思う。先週の温泉旅行は本当によかったなぁ、と。

 事の発端は、あいりちゃんのところに『温泉旅館ペア』が届いたこと。あいりちゃんは忘れていたみたいだけど、なにかの懸賞とかアンケートの抽選で当たったみたい。朝起きが苦手な私だけど、せっかくの旅行ということで、朝から電車に乗って向かうことになった。

 ローカル線を乗り継ぐこと3時間ほど。道中、駅弁も買いつつ、2人でお話をしながら、会話を楽しむ。そして、着いたのが終点のーー

 

ーーーーーーーー

 

『まもなく終点黒羊村、終点黒羊村です。お降りのかたはドア付近までお進みください。どなた様も、落とし物お忘れ物ございませんよう、ご注意ください。本日もご利用くださいまして、ありがとうございました』

 

「あいりちゃん、起きて。降りる駅だよ」

 ゆさゆさとあいりちゃんの体を揺すると、あいりちゃんはゆっくりと目を開けた。

「ななこせんせぇ? んー?」

「もう、寝ぼけちゃって」

 かわいいなぁ、あいりちゃん。とそれどころじゃなかった。降りる駅だともう一度告げて、少し眠そうなあいりちゃんと電車を降りようとする。そこで聞こえてきたのが、

「えー?それほんとー?」

「ほんとなんだって!若返りの妙薬?があるとか……」

「何それオカルトじゃーん!」

「えー、でもあるなら絶対欲しい!」

「無理だよ。だって、超超超高級旅館の『黒羊旅館』でしか売ってないらしいよ?」

「えー、いつか泊まりたーい!」

 なんていう若い女の子たちの会話。

「超超超高級旅館って……言ってたよね。『黒羊旅館』ってウチらが泊まるとこだ」

「うん。若返りの妙薬…………はっ!!」

「どうしたの? ななこせんせ?」

「え、えーーー、ななな、なんでもないよぉ?」

「え、せんせ、それ信じてるの? せんせは年上だからこその魅力があると思うな、えへへ」

「え、あっ、えっとぉ…………んへへ」

 そんなやりとりを交わしながらも、頭の中はアンチエイジングに支配されている菜々子さんです。

 駅のホームに降り立つと、空気が澄んでいるのが分かった。肌に当たる風が心地よい。それに、鮮やかな紅葉も目を惹いた。駅を出れば、古き良き温泉街が広がっていて、『蒸したて温泉饅頭』というのぼりも見える。

「わあああ、素敵な温泉街だね!! せんせはなにしたい?」

「……うーん、そうだなぁ。とりあえず旅館に行ってみて、それから散策もいいかもしれないかなって思うよ。あいりちゃんはどう?」

「じゃあそうしよっか……ななこさん」

 あいりちゃんはそう言って、腕を絡めてくる。それに彼女が私を『さん』付けで呼ぶ時は、つまり、そういうことなのだ。

「っ…………あ、そ、そうだねっ」

「あっ、いや、控えめだったよね……! ななこせんせ、ゆっくりしよ?」

「え、あ、えっと………………」

 確かに今回の温泉旅行は、ゆっくりしたいと事前に言っていた。けれど、まぁ…………ねぇ?

「……うん、そ、そうだよねっ」

 どうせ無理なんだろうなぁ、と自分の流されやすい性格と意思の弱さに想いを馳せながら、腕を組んだまま、散策しつつ旅館に向かうのだった。

 

 旅館に着くと、とてつもなく美人な従業員の方々のお出迎えを受けた。特に女将さんなんか年齢の割に異様に若々しく、『若返りの妙薬』の噂が一気に信憑性が増した。案内された客室はまさに高級旅館に相応しくて、少し尻込みもしてしまう。そして、飲み放題のカフェコーナーも併設しており、

「あ、お酒……」

「お酒だね、ふふふ」

「あ……えっとぉ……あ、あとで! あとでのもうね」

「はーい」

 飲んだらアウトだと思ってます、はい。それからさらにお部屋探索を続ける私たち。定番の温泉饅頭や地域限定のお菓子がおいてあったり、内風呂もとっても広かったり、驚くばかりだ。何よりすごいのは、部屋から直接出ることができるバルコニーにあるーー

「露天風呂だぁぁ!! しかも、ヒノキ!!」

「ね! すごーい」

 客室に露天風呂が着いている。休憩もお泊まりもできるとある施設では経験あるけど、ここまで立派なヒノキ風呂が独占できるのはすごい、すごすぎる!

「ねぇ、ななこせんせ」

「なあに?」

「入っちゃう?」

「……まだまだ夕食まで時間もあるし……はいっちゃおっか」

「うん! えへへへへぇ」

 あいりちゃんのお誘いをもちろん快諾して、私たちは露天風呂を楽しむことにした。

 

 準備を整えてお湯につかる。足先からじんわりと伝わるお湯の温度が心地いい。お湯は乳白色で、肌にまったりとまとわりつくような感触だ。さらに、隣接している川から心地いい風が吹いて、湯気が揺らめく。川のせせらぎと熱すぎないお湯のおかげで、体も心もほぐれていく気がする。

「あったかいね、せんせ」

「……………うん……ほぉぉぉ……」

 とても人に聞かせられない呆けた声が思わず出てしまう。

「せんせ、ちょっと寝る?」

「うーーーーん、それもありだけど……お風呂で寝るのはちゃんと危ないからなぁ」

「お風呂で寝るのって一番『幸せ』に近いからさ、せんせは気を付けてよね」

「……………またそういう……」

 あいりちゃんは希死念慮が強い。そうなることを『幸せ』と形容する。その度に私は窘めるけれど、なかなか治らない。だから、そんなときは実力行使で黙らせることにしてる。

「えいっ!!」

「わぁ……!? せんせ、え、せんせ!?」

 後ろから抱きしめれば、彼女は困惑してしまう。けれど、やがて体からは力が抜けて。

「……ん、ありがと」

 彼女は身を任せてくれた。

「うん……あいりちゃんとこうして温泉来れて、うれしいな」

「ウチも多分嬉しいよ、ななこせんせ」

「……あいりちゃん、さびしくない?」

「んー? さみしくないよ?」

 こうして、たくさん一緒にいるようにしてから気づいたことがある。あいりちゃんは自分の感情に鈍感だ。たぶんサーカス団でたくさん練習しなきゃとか、ご両親の期待に応えなきゃとか、そういうので自分を抑圧してしまってるんだろう。だから、私がするべきはそれを解放してあげること。

「…………ぎゅーーーー!」

「わわ!? ん、ふふ……えへへ。ありがと、せんせ」

「…………うん」

 愛おしさが、彼女への感情が、むくむくと膨れていく。

「……………んっ」

 耳にキスをする。

「ひゃあ……せ、せんせ?」

「あいりちゃん……んっ」

 今度は首もとに、口づけを落とす。かわいい声で鳴くあいりちゃん。

「……ななこさん、えっち」

「……………………いや?」

「キスしてきたってことは……『そういうこと』だよね?」

「…………うん。って、あはは、自分からゆっくりしようって言ったのに、ごめんね?」

「……ななこさん、その、えっと、正面からぎゅーしてもいい?」

「ん、もちろん。おいで、あいりちゃん」

「ありがと、ななこさん…………ぎゅーっ」

「うん、ぎゅーーーー」

 強く、でも、優しく抱きしめる。けど、どうやらあいりちゃんはこの期に及んでまだ遠慮してるみたい。

「あいりちゃん、もっと強くしなくて、いいの?」

「……いいの?」

「いいよ、おいで」

「ありがと、ななこさん。ぎゅーーっ」

 今度は力一杯、抱きしめてくる。ああ、かわいい。本当に愛おしい。

「あいりちゃん」

「なあに、ななこさん」

「いい?」

「………………うん」

 

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