芹澤菜々子と三宅川愛梨のお話   作:藍沢カナリヤ

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クトゥルフ神話TRPG『Bless Your Destiny』のネタバレを含みます。
通過者及び視聴済みの方のみお読みください。


6 Bless Your Destiny【列車に揺られて】

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 傘に雪の重みが加わり、ストっと落ちる。雪が降っている。そんな中を、私とあいりちゃんは2人で歩いていた。今日は雪の降る夜の街を走る蒸気機関車『銀河鉄道』に乗ってお出かけをする予定だ。

「知り合いが友人と出かけてきたら?ってくれたの。ななこさんの予定が空いててよかった、えへへ。」

「あいりちゃんのお誘いだもん、断るわけないよ。ふふふ、楽しみだなぁ……『銀河鉄道』って名前なんだっけ、今日乗る蒸気機関車」

「そうだね、すっごく楽しみ~」

「……そう、だね」

 『銀河鉄道』という名前でふと思い出してしまう。この間の夢のこと。思い出して、

「わわ! どうしたの、ななこさん。お手々、ぎゅーってして」

「…………ううん。ただ寒くなっちゃって。あいりちゃんは? 大丈夫、寒くない?」

「うん。ふへへ、ななこさんのおててはいつもあったかいなぁ」

「私の手はあいりちゃんのお手々をあっためるためにあるからね……なんちゃって、んへへ」

「えへへぇ、いっぱいあっためてね?」

「うん」

 しばらく歩いて、傘の上の雪が少し重くなり始めた頃、目の前に建物が見えた。ここが私達が『銀河鉄道』に乗る駅。駅舎には『銀河駅』と書いてある。それにふさわしい名前の駅だな、と思った。

 

『蒸気機関車『銀河鉄道』、発車5分前となりました。ご乗車になってお待ち下さい』

 

 駅舎に入るとすぐにアナウンスが流れる。少し慌てて改札を通り、もうホームに来ていた蒸気機関車に乗り込む。中は暖房がしっかり効いていて、上着もいらないくらい。2人、まだ冷たい手を擦りながら自分たちの席を探す。

「ええと……『A10』と『A11』……あった」

 星空をモチーフとされた座席に腰掛けて、窓の外を見れば、雪はまだしんしんと降り続けていた。

『蒸気機関車『銀河鉄道』にご乗車してくださり、誠にありがとうございます。まもなく、発車時刻となります。お席にお座りになってお待ち下さい』

 発車のアラームが鳴り響き、『銀河鉄道』は動き始めた。

「なんだか、久しぶりにななこさんと出かけるなぁ…」

 あいりちゃんは私の顔を見ながら呟く。たしかに、最近、あいりちゃんは公演やその練習で多忙だったみたいで、デートどころか会う頻度が減っていた。少しそのことを気にしていたようで、申し訳なさそうにしているあいりちゃん。まぁ、私もちょうど忙しくて予定が合わなかったのはあったし。

「そうだねぇ、どうしてもこの時期は私も忙しいから。あいりちゃんも忙しそうだったもんね?」

「うん。でも、こうやってまた二人で過ごせて嬉しいな」

「うん、今日はゆ~っくりしようね?」

「そうだね、ななこさん」

 おしゃべりをしながら、『銀河鉄道』に揺られる。あいりちゃんの公演のことや私のお仕事のこと。もちろん、守秘義務は守った上で、いろんなことを話す。話をしていると、不意に他の席の乗客から歓声があがった。その声につられて窓の外を見れば、そこには満天の星空が広がっていた。紺と紫のグラデーションの中と暗闇だからこそ瞬く星の光、そして、真っ白な雪の地面が窓に映えていて。

キャンパス一面に広がる絵画みたいだった。

「綺麗だね、ななこさん」

 隣の席のあいりちゃんがそう呟く。なんとなく振り返れば、あいりちゃんの視線は窓の外じゃなくて、私を捉えていた。

「……あの、あいりちゃん、あんまり見られると……恥ずかしい、よ?」

「わ、えっと……えへへ」

 照れ隠しをするように窓に視線を移すあいりちゃんとしばらくそうして、星空を眺めていた。

 

『次は星咲駅、星咲駅。15分間停車致します。発車の2分前までには車内にお戻りくださいませ』

 

 アナウンスが流れ、列車は停まる。それを合図に、他の乗客はどんどんと満天の星空の下へと向かっていった。どうやらここで星空を直接見ることができるみたいだ。

「行ってみよ、ななこさん」

「うん、そうだね」

 せっかくだしと、あいりちゃんと手を繋ぎ、ホームへ降り立つ。改札には誰もいない。他の乗客の人たちは勝手にここから出ていっているようで、私たちもそれに倣う。駅を出て、すぐの場所には展望台があった。展望台にはたくさんの人がいて、ただその視線は上へ向けられている。私たちも邪魔が入らないように、人が少ない場所で空を眺める。

「わぁ……すごく綺麗」

「うん、そうだね」

 そう言いながらも、私の瞳に映るのはあいりちゃんの横顔。さっきのお返しに今度は私が星空を見上げる彼女を見ていてやろう。そんないたずら心だったのだけれど……。

「?」

 ふと違和感を感じる。言葉とは裏腹に、その表情が一瞬曇ったように見えて。

「あいりちゃん、どうかした?」

「ううん、なんでもないよ」

 そう言ったあいりちゃんは笑っていた。じゃあ、気のせいかもと思い直していると、

「それよりさ、ななこさん、寒いし……温かい物食べない?」

「え、あ、そうだね」

 見ればあいりちゃんの鼻の先は少し赤くなっている。

「ふふ、いいね。なにかお店あったりするかなぁ?」

「駅に売店があったし……行ってみる?」

「うん。そうだね」

 展望台から戻り、改札を通る。ホームには売店があり、入ると美味しそうな匂いが鼻をくすぐった。おでん、肉まん、あんまんなど体があったまりそうなものが売っていた。時計を見れば、まだ発車まで時間がありそうだ。少し悩める、かな。

「いろいろあるねぇ……うーん、どうしようかなぁ……」

「ウチははちみつ紅茶と肉まんにしようかな。ななこさんはどうする?」

「あ! あのさ、あいりちゃん」

「なあに、ななこさん」

「私、あんまん買うから肉まんと半分こしない?」

 それなら甘いのもしょっぱいのも堪能できるし。そう付け加えると、あいりちゃんはそうしようかと頷いてくれた。それを確認して、私はあんまんと肉まん、珈琲とはちみつ紅茶を店員に渡し、お金を払う。それに対して、あいりちゃんはむうっと膨れる。

「むぅ……今日はウチに払わせてよぉ」

「だーめ。たまには年上らしいことさせてよ? ね?」

「……ななこさんはいつも年上らしいことしかしてないよ?」

「えー? そうかなぁ?」

 そう言いつつ、会計をさっさと済ます。こうでもしないと、あいりちゃんは自分でぜーんぶ払いたがるからね。確かに公演でお金はもらっているのだろうけど、それでも払ってあげたくなるのが年上の恋人ってものなのです!

「次こそは……!」

「ふふ、期待してます」

 そんなやりとりをしながら、列車へと乗り込む。しばらくして、列車は動き出す。席につこうとして、

「あっ!」

 あいりちゃんが何かを見つけたのか、いきなりどこかへ向けて駆け出した。私も慌ててついていけば、そこには手を抑える女の人がいた。指の間から真っ赤な血が流れ、地面を赤く染めている。

「あ、あの、これ!」

 あいりちゃんが慌てたようにハンカチを取り出し、止血に使うように促していた。えっと、私は車掌さんを呼んできた方がいいかな。

「ええと、何が、あったんですか……!?」

 まずは状況確認を、と思い、そう問いかけると、女の人は少しばつの悪そうな顔で笑う。

「あら、ごめんなさいね。ぽんかん食べようと思ったら、間違えて手を切っちゃって。あんまり深くなさそうだし、心配かけちゃったみたいね」

 2人、ほっと胸を撫で下ろす。大事ないならなによりだ。

「ごめんなさいね。茶髪のあなたのハンカチ、私の血で汚しちゃったし」

「いえ、ちょうど新しいハンカチを買いたかったので、これは捨てて新しいのを買うことにしますよ」

 ななこさんに一緒に選んでほしいな、なんてあいりちゃんの可愛い提案にもちろん頷いて。

「本当に悪いわねぇ、うーん……あ、そうだ。止血のお礼とハンカチのお詫びといってはなんだけど」

 そう言って、女の人は自分の鞄から何かを取り出した。1冊の文庫本だ。タイトルは『銀河鉄道の夜』。恐らくこの列車のモチーフになってるであろう本だった。

「この銀河鉄道の夜、君たちにあげるわ。ちょっと通常版とは違うからさ!」

「え、あっ」

「……通常版とは違う……?」

「そうなのよ! あとで確認してみて頂戴!」

 戸惑うあいりちゃんと通常版と違うという言葉に反応してしまう少しオタクな私に、女の人はその本を持たせてきた。

「あ、ありがとうございます。ええと、そちらはどこの駅で降りられるんですか? 少し拝見したらお返ししますから。貴重なものでしょうし」

「いやいや、いいのよ! もらってちょうだい!」

「ええと……じゃあ、お言葉に甘えて」

「じゃあ、ありがとうね。君たち!」

 女の人はグイグイと私達の背中を押し、そして席に戻っていった。

「もらっちゃったね…」

「ええと……戻ろっか? そういえば、あいりちゃんは読んだことある? 銀河鉄道の夜」

「読んだことはないんだけど、なぜかなんとなく内容は覚えてるんだよね。どうしてなんだろ……」

「……………」

 もしかしたら、それは『あの記憶』がどこかに残っているからなのかなんて思う。あいりちゃんは困り笑顔を浮かべつつ、手元にある本をぺらぺらとめくっている。ふとその間からなにかがひらりと落ちた。拾ってみると落ちた紙には、達筆な文字で「君たちの運命に祝福があれ」と書かれていた。

「君たちの運命に祝福があれ、だって。きっとあるよね、ななこさん」

「ふふ、もちろんだよ」

「ふへへ、そうだよね」

 頭を撫でると、あいりちゃんは気持ち良さそうに表情を綻ばせる。

「じゃあ、席に戻って、読んでみよっか。通常とは違うっていうのも、国語の先生としては気になるし」

「そうだね。次の駅まで読んでみよっか」

 自分たちの席に戻り、ゴトンゴトンと列車の心地よい音と振動に揺られながら、本を朗読する。そんな穏やかな時間が確かにそこにはあった。

 

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