黄昏の姫と緑の勇者: RTA Any%怪異譚~ミドナが語る『世界線物理学』のミステリー   作:nocomimi

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『トワイライト不正侵入』

―トワイライトへの不正侵入―

 

私はリンクの言ったことの意味がいまだに飲み込めなかった。

 

だが彼はそもそも、オルディンのトワイライトに入るときも、正式の手順を踏んでいない。

 

すなわち、本来ならば私のような「影の者」の助力がなければ光の者は影の領域に入ることさえできない。なのに、彼は何の苦も無くオルディンのトワイライトに入ったのだ。

 

そして今回も。

 

それも、門をすり抜けるという馬鹿馬鹿しいほど単純な方法で。

 

このリンクはいったい何者なのか?

 

それとも、この世界には本当は私が知っているものとは違う法則が存在するのだろうか?

 

起きたことを頭で整理しようと格闘していると、

 

狼リンクはそんな私を背に乗せたまま湖の上を泳ぎ岸に近づいた。

 

「それにしても水が少ないな。地図と全く違う」

 

私は気を取り直して言った。

 

「まあいい。精霊の泉はこの周辺にあるはずだ。探してみよう」

 

このトワイライトを晴らすには、まず精霊に会って「光のしずく」の器を受け取らなければならないからだ。

 

狼リンクは岸に上がると、体を振って水を飛ばした。岸とはいっても最近まで湖底だったのだろう。草一本生えてはいない。

 

目を上げると、前方遠くに建造物のようなものが見える。

 

リンクが走って近づくと、その建物は縦に尖った形をした小屋だった。その戸口の前に白い光が浮いていた。魂だ。それをよく見ると、背の曲がった老人だった。

 

彼は湖を眺めながら自棄気味に足元の土を蹴って独り言を言っていた。

 

「湖の水がこんなに低くなっちまった日にはこちとら商売あがったりだぜ全く」

 

彼はそう言うと北のほうを見上げた。

 

「上流のゾーラどもがなんかやらかしたか?それとも精霊の祟りか何かか?ま、精霊の洞窟もあんな高い場所になっちまったら文句も言いにいけねえわな。夏はかきいれどきだってのにまったくツイてねえったらありゃしねえぞ。ああ客がせめて一人でも来りゃあなあ..」

 

その時、老人が湖の残滓の北側の岸に目を向けた。

 

「お...客か?」

 

私たちもその方向に目を向けた。人影が岸にある。だが雰囲気でわかった。あれは人ではない。鬼だ。

 

老人もどうやら同じ印象を受けたらしい。

 

「やべえ...ありゃ化け物じゃねえか...」

 

怯えた老人は、両手で自分の頭を抱えて震え出した。

 

リンクは老人を後にして、鬼のほうに走り始めた。

 

だが上空を見上げると、巨大な黒い鳥が悠々と飛んでいる。

 

あれもどう考えても魔物だ。

 

「おいリンク、あいつと戦おうとしたら空からあの鳥が襲ってくるぞ」

 

それを聞いたのか、リンクは立ち止まると私に合図した。

 

「人間に戻りたいのか?」

 

私が尋ねると彼は頷いた。

 

私が人間に戻してやると、リンクは装備を整えてからこう言った。

 

「ミドナ、僕が合図したらアイアンブーツを装着してくれ」

 

「アイアンブーツ?」

 

「ああ。インベントリにあるはずだ」

 

彼がそう言うので私が自分の魔法空間を調べると、確かにいつの間にか金属製の重そうなブーツが入っていた。

 

「これをお前の脚に履かせればいいんだな?」

 

「ああ。頼む」

 

彼はそういうと、再び鬼に向かって走っていった。

 

鬼の姿が近づいてくる。白仮面の弓兵だ。

 

だが鬼はリンクの姿に気づくと、何かを口に当てて吹き鳴らした。その瞬間、上空から羽音がして黒い巨大な影が近づいてきた。

 

あの怪鳥だ。

 

その大きさは群を抜いていた。遠くから見ただけではわからなかったが、翼の幅だけでも十メートルはありそうだ。

 

巨大怪鳥は旋回したあと地面をかすめるように低空飛行してきた。鬼は器用にそいつに飛び乗った。

 

だがリンクは戦うのかと思いきや、湖の水面に向けて後じさりし始めた。

 

怪鳥を駆った鬼が、火矢を放ちながら追ってくる。リンクはとうとう水面近くまで追い詰められた。

 

ところが、リンクはそのまま水に飛びこみ、湖の水面を泳いで鬼から逃げ始めた。

 

鬼に操られた怪鳥がその上に押し迫るように降下してきた。

 

「今だ!」

 

リンクが合図する。私が彼の脚にアイアンブーツを装着すると、彼の身体は急激に水面に沈んでいった。

 

それを見た鬼が、反射的に追いかけるかたちで怪鳥を降下させ、水面に突っ込んでしまった。

 

水に触れた途端、鬼は悲鳴を上げて怪鳥の背から転げ落ち、絶命した。その死骸が水面の上で崩壊していく。

 

私はリンクの脚のアイアンブーツを元に戻してやった。彼は浮上してくると、岸まで泳いだ。

 

「なるほど、水に弱いボコブリンの性質を利用したというわけだな」

 

私は感心しながら言った。

 

「まあね。戦う必要がないときは戦わない。そのほうが効率がいいからね。さあミドナ、オオカミに戻してくれ」

 

彼は水から上がりながらそう答えた。私は彼を狼に戻すと、主を失った怪鳥を魔法で手なづけた。

 

湖の水が異常に減っている原因を調べるため、上流まで飛ぶのだ。

 

私は怪鳥の背に乗ると、リンクの身体を怪鳥に足でつかませ、飛び立った。

 

* * * * * * * * * * * * * * * * * 

 

巨大な怪鳥に乗った私たちはゾーラの里の水源から続く川の流れる洞窟に入っていった。

 

本来ならば轟々たる水の流れを支えていたであろう洞窟は、今は底の方に細々とした流れがあるのみだ。

 

そこかしこに鬼どもがいる。壁のあちこちに足場が組まれており、そこに立って彼らは何事か作業をしていた。

 

時折、矢が風を切る音がする。その途端に爆発音がして、天井から下がった巨大な鍾乳石が落下した。鬼どもは矢の先端に爆弾を仕込んで片端から洞窟の壁や天井を爆破しているようだ。

 

私たちは危険を避けながら洞窟内部を北上していった。やがて出口に到達すると私は怪鳥の高度を下げさせ、地上に降り立った。

 

ゾーラ川の上流だ。

 

だが、奇妙なことに、川が凍り付いてしまっている。背の高い氷の柱が川床のそこここに立っている。

 

リンクはさらに上流に向かって走り始めた。川床を走っていくと、それはやがてかつては滔々と水をたたえていたであろう広い窪地に出た。

 

そして、正面には高い崖の上から巨大なつららがいくつも下がっていた。どうやら滝が丸ごと凍り付いてしまっているようだ。

 

その光景を見た私は呟いた。

 

「どうなってるんだ?ここにはゾーラの集落があるんじゃないのか?一人の姿も見えないぞ」  

 

だがリンクは私をジロリと見ると、そのまま前進した。何一つ予想外のことはない、といった風情だ。

 

彼は滝の手前まで来ると、私に合図した。私はすぐ彼の意図を察して、魔法の力でリンクの跳躍を助け、凍てついた滝をふたりで登っていった。

 

やがて私たちは滝の上に出た。凍った水路を前進すると、私たちは円形の広間に出た。天井は開いており空の淡い光が差し込んでいる。

 

だが先客もいた。あの影の使者たちが三体。

 

彼らに近づくと、たちまち魔法柵が発動して私たちは閉じ込められた。

 

だがリンクは慣れた様子だった。魔法柵に隔離された一匹を瞬時に屠ると、残りの二匹の間に立って私に合図し、結界攻撃で手際よく葬った。

 

そしてリンクは私を見て唸った。

 

「ワープしたいのか?」

 

私が気を聞かせて尋ねると彼は頷く。

 

「どこのポータルだ?」

 

私が重ねて尋ねると、彼は西の方向を向いて吼えた。私は、カカリコの鉱山の中途で影の使者たちを倒して手に入れたいわゆる「デスマウンテン」のポータルだと直感で分かった。

 

私はワープを開始した。 

 

数秒後、地上に降り立つと、光の世界の太陽の光が差し込んでくる。すると、地響きがして、頭上から次々と噴石が降ってくる。 

 

リンクは走り回って何個かの噴石を回避した。だが、やがて空全体を包むような轟音が聞こえてきた。

 

今までよりはるかに巨大な噴石が降ってくるようだ。

 

凄まじい衝撃音がして、見上げるような高さの噴石が広場の真ん中に突き刺さった。 

 

リンクはその噴石に近づいていく。

 

私はその意図がすぐに分かった。この噴石を使って、ゾーラの里の凍り付いた水源を溶かすのだ。 

 

「まだ熱を持ってるな。運んでみるか」

 

私が言うと彼は頷いた。私は魔法の力を溜め、気合の声を発しながらその噴石を持ち上げた。そしてゾーラの里のポータルにワープした。

 

* * * * * * * * * * * * * * * * * * 

 

運んだ噴石が広間に落下していくと、たちまち氷が溶けていった。その広間自体が凍りついた泉だったのだ。

 

私たちは泉の脇の通路に立ってそれを眺めていたが、やがてリンクは私に唸りかけてきた。私は彼の意図を察して人間に戻してやった。

 

「ミドナ、僕が合図したらまたアイアンブーツを履かせてくれ」

 

彼は装備を整えながら言った。

 

「それはいいが、一体何のためだ?あんなものを履いていたら水中でおぼれてしまうぞ」

 

私は言った。泉を覗き込むと、相当な水深だったからだ。

 

「一瞬だけさ。ここを通るときゾーラの女王ルテラの亡霊に話しかけられてしまう。だから水中を潜りながら行きたいんだ。二度目の合図で元のブーツに戻してくれ」

 

私の質問に彼はそう答えた。だが私は心に浮かんだ疑問を口にした。

 

「待てリンク。ゾーラの女王の亡霊だと?.....普通、そういった連中は重要な冒険のヒントをくれるものなんじゃないのか?話しておかなくていいのか?」

 

「いや、必要ない。時間の無駄だ」

 

彼は簡潔に言い、すっかり氷の溶けた泉に飛び込むと、南に向かって伸びる水路に入り、すぐさま私に合図した。鉄のブーツが装着され、彼は水中に沈んでいった。

 

そして彼はもう一度私に合図した。ブーツが元に戻される。彼は水没したまま水路を泳いでいった。

 

リンクは水路を進むと、滝を落ちていった。そして、元通りに流れ始めた川を流されるままに流れていった。轟轟と流れる豊かな水に押し流された彼を私は追いかけていった。

 

* * * * * * * * * * * * * * * 

 

私たちは、いつしかハイリア湖まで戻っていた。丁度、目の前にはラネールの精霊の泉に通じる洞窟がある。

 

リンクは気を失っていたらしいが、意識を取り戻して起き上がった。大したタフさだ。

 

「ッたくやっと気づいたか。ほら、予想通りハイリア湖まで流されてきたみたいだぜ?おまけに精霊の泉は目の前だ。ツイてるねえ....さあ、早くしな!」

 

私は彼に言った。そしてまた違和感に驚いた。

 

この出来事も、本来ならば「冒険が初期の段階」の世界線の出来事だったのだろう。だから突然私の口調が高飛車になったのだ。

 

だが、彼は涼しい顔で言った。

 

「いや、その前にやることがある。湖底の神殿への経路を開こう」

 

「..................................................はあ?」

 

私はひどく戸惑い、そして言った。

 

「おいリンク、まずは精霊から『光のしずくの器』を受け取って闇の蟲を狩らなければトワイライトを晴らすことはできないんだぞ?それをしなければ湖底の神殿の冒険なんて...」

 

私はフィローネ地方での冒険を思い出して言った。まずは影の領域を晴らし、それからダンジョンを探索する。その順番は必須だ。しかも私は根本的なことに気づいた。

 

「第一お前、普通の勇者の装備では湖底まで潜ることさえできないじゃないか」

 

湖底まで潜水するならそれなりの装備が必要だ。だが彼は緑のチュニックにズボンの姿。到底水中を冒険できる恰好ではない。

 

「できるさ。まあ、ついてきてくれ」

 

彼はそう言うと目の前の湖に飛び込んで泳ぎ始めた。

 

(次回に続く)

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