黄昏の姫と緑の勇者: RTA Any%怪異譚~ミドナが語る『世界線物理学』のミステリー   作:nocomimi

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『水中呼吸の秘密』

「本当?助かるわ~!じゃあ爆弾矢であの岩を片付けてくれる?」

 

そう叫んだ貸舟屋の女主人が爆弾袋をリンクに渡した、ちょうどその瞬間のことだった。

 

リンクは懐から、あの『おばちゃん』という生き物の息子を取り出したのだ。

 

「ママのところにもどりまちゅか?」

 

そう問われたリンクは頷いた。すると、『おばちゃん』の息子は私たちの周囲を飛び回り始めた。リンクの身体がクルクル回転したかと思うと、私たちはいつの間にか湖底の神殿の一室に戻っていた。

 

「あら、お帰りなさい。さ、行きましょ」

 

私たちを待っていた母鳥が言う。私は彼らを魔法空間に収納した。

 

「なあリンク....お前...」

 

私は驚きの目で彼を見つめた。

 

「お前、あの女から岩をどけるという仕事を頼まれて引き受けたんじゃあないのか?」

 

すると彼は澄ました顔で言った。

 

「最初からそんな面倒な仕事をする気はないよ。あの女が貸してくれる爆弾袋が目当てだったのさ」

 

私は首を振って呟いた。

 

「やれやれ....お前というやつは恐ろしい男だな。私はてっきり、あの女が気のあるようなそぶりを見せたから、お前はそれに引っ掛けられて小屋に入っていったのだとばっかり...」

 

「まぁ僕も何も知らないわけじゃあないからね。気がある振りをして女が男を利用するなんてよくある話じゃないか?」

 

リンクは答える。

 

「引っ掛けられた振りをしたお前のほうが、一枚うわ手だったというわけだな。まったくマセた十六歳だな、お前も」

 

私は言った。だがこれは半ば誉め言葉だった。

 

「悪いが彼女は僕の趣味じゃあないしね。さあ、行こう」

 

リンクはそう言うと、部屋の中央部分に顔を向けた。

 

いまいる円筒形の部屋の上方は、中央に立った柱の上に乗った巨大な歯車のようなもので塞がれている。また、歯車から何か所か鎖がぶら下がっていて、その先には円形の小さなプラットフォームのようなものがついていた。

 

また、今いる階層の北側の壁に扉がついている。

 

だが、フロアの中ほどは数メートル下がった窪みになっている。北側の扉まで進むには、巨大歯車を回す必要がありそうだ。

 

「なるほど。水力でこの歯車が動き、あの円盤に乗って扉の場所まで移動するというわけだろう。そのためにはこの神殿の動力源を復活させる必要があるな」

 

私は自分の見立てを言った。

 

「ご名答だよ、ミドナ。だが僕はそんな手間は取らないけどね」

 

そう言うと、リンクは踵を返し、部屋の入り口付近に無造作に置いてあった壺を集め始めた。

 

「どうするんだ?プラットフォームまでの距離は三メートルはあるぞ。それに飛び移れたとしてもそこから先だって結構な距離じゃないか」

 

「まあ見ててくれよ」

 

私は注意を促したが、リンクは笑いながら答えると、フロア中央の窪みを見下ろす床の縁に壺をひとつ置いた。さらに別の壺をそのやや手前に置く。次いでリンクはブーメランで遠くにあった壺も手元に引き寄せ、それらを一列に並べた。

 

「よし、準備は整った」

 

彼はそう言うと、入ってきた入口の側の壁を見据えてブーメランを放った。

 

そしてすぐに前方に向き直り、フロアの一番端に置いた壺を持ち上げ、縁に立つ。

 

私は息を呑んで彼を見つめた。

 

ブーメランが戻ってきた。旋風を巻き起こす音が近づいてくる。

 

その刹那、リンクは円形プラットフォームのほうに飛び出した。

 

するとブーメランに巻き上げられた壺が彼を背後から押した。次の瞬間、飛距離を稼いだリンクはプラットフォームの端にしがみついた。

 

「す....凄いな、リンク。まさか壺に押されて飛距離を伸ばすとは...」

 

「まだまだ。目指すはあの扉さ」

 

プラットフォームに這い上がると、リンクは北側の壁にある扉を指さした。

 

だが、そこに到達するまでの間隙も広い。普通に飛び移るのは困難だ。

 

だがリンクはやや後じさりすると、天井からプラットフォームを吊っている鎖の後ろに爆弾を二個ほど置いて点火した。 

 

数秒すると、爆弾が爆発し、その衝撃でプラットフォームが後ろに大きく傾いた。

 

リンクはその機を逃さず、傾いて位置が高くなったプラットフォームの端から大きく跳躍し、見事向こう岸に着地した。

 

「簡単だろ?」

 

「...簡単には見えんが、お前の実力は認めざるを得ないな」

 

私は苦笑いしながらも彼を誉めた。

 

リンクはすぐ扉に向かい、手をかけてそれを持ち上げた。

 

* * * * * * * * * * * * * * * * * *  

 

そこは薄暗い廊下だ。正面の突き当たったところに扉がある。

 

またその扉の前に、兜を被ったずんぐりした化け物がウロついていた。

 

化け物がこちらに気づいて突進してきたが、リンクは例のごとく身軽にそれを回避し、前方に進んだ。

 

扉を開き、向こう側に出る。その先には戸口があった。

 

だが、その戸口はガッチリとした門によって塞がれている。

 

だが、リンクはそこに立ったまま上方を見上げた。

 

「リンク、ここは通れないから迂回したほうが....」

 

私は言った。だが彼は答えた。

 

「大丈夫さ。フラグを変更したからね」

 

「フラグ?」

 

私は戸惑った。

 

「なあリンク、私はいまだにわからないんだが、その『フラグ』というのは....」

 

だが、その瞬間だった。私たちはいつの間にか、違う部屋に『転移』していた。

 

広く丸い部屋だ。床の上には数センチほど水が張っている。

 

目の前には、家ほどもあろうかという巨大な蛙がいる。蛙は醜い鳴き声を上げた。大きな口から木ほどの太さのありそうな舌を突き出している。

 

私は思わず悲鳴を上げた。

 

「な....なんなんだこいつは!気持ち悪い!」

 

「同感さ!だがこいつとは戦わなきゃならないんだ」

 

リンクは爆弾袋から爆弾を取り出し点火するとブーメランを掴んで飛ばした。

 

ブーメランの風に運ばれた爆弾が、蛙の口に飛び込んだ。そして蛙が口を閉じて数秒すると、鈍い爆発音が響く。

 

化け物蛙は白目を剥いたような顔になって気絶し、だらしない様相でベタンと床に伏した。口からは長い舌が垂れている。

 

リンクはすかさず剣を抜いて、相手の舌を滅多切りに斬った。

 

すると、化け物は体を大きく反らして悲鳴を上げた。しばらくのたうちまわっていたが、やがて力尽きバタンと床に伏した。地響きも収まらないうちに、その体がみるみる真っ黒になっていく。 

 

* * * * * * * * * * * * * * * 

 

「お...終わったのか?」

 

意外にあっけない幕切れにやや安堵しながらも、私は恐る恐る顔を上げた。

 

「ああ。終わった」

 

リンクは血払いもせずに剣を鞘に納めた。そして、化け物の崩れた遺骸の中に分け入り始めた。

 

「な...何をしているんだリンク?」

 

「必要なアイテムがあるんだ」

 

彼は化け物の遺骸の中から現れた大きな木の箱に近づいて蓋を開けた。

 

中には籠手のような道具が入っていた。その先端に、鉤爪が三つ向かい合わせについている。

 

「なんだこれは?」

 

私が尋ねると彼は勝手知ったる様子でその道具を腕に嵌めながら言った。

 

「クローショットさ」

 

リンクは、部屋のひと隅にある階段に近づいた。その上には門で塞がれた通路がある。先ほど私たちが行き当たった場所だ。

 

その天井部分に、大きな紋章がついていた。リンクはその紋章に向けてその道具の狙いをつけた。すると、先端の鉤爪が飛び出し、紋章に引っ掛かると、たちまちリンクの体が引っ張り上げられた。

 

次の瞬間、紋章そのものがリンクの体重によって引き下げられ、ガチャンという作動音とがした。

 

すると通路を塞いでいた門がガラガラと音を立てて開いた。

 

「便利な道具だな」

 

私が漏らすとリンクは微笑んだ。

 

「ああ。これからの冒険で必須なんだ。気持ち悪い敵と戦った甲斐はあるよ」

 

リンクは床に飛び降りて階段を登り、通路を先に進むと突き当りの扉を開いた。以前に通った薄暗い廊下だ。

 

廊下を進み、また兜付化け物がイキって突進してくるのを避けると、突き当たりの扉を開いて向こうに出た。巨大歯車の下にある部屋だ。

 

ここでリンクはゴロリと横になった。私は尋ねた。

 

「....また、その........『セーブリセット』というのをやるのか?」

 

「ああ。ここでちょっと寄り道するんだ」

 

リンクは言った。

 

* * * * * * * * * * * * * * * *

 

しばらくすると、私たちはいつの間にかこのダンジョンの最初の部屋に戻っていた。リンクはそこで『おばちゃん』を呼び出し、外に出たい旨告げた。すると息子が登場し頭上で飛び始めた。

 

数秒経つと、私たちはハイリア湖畔に立っていた。リンクはそこで私に対してゾーラ川上流にワープするよう指示した。

 

「おい.......まさかあの女のところへ?」

 

「ああ」

 

私が尋ねるとリンクは言った。

 

「戻ってどうするんだ?さっきあの女の爆弾袋を盗んだばっかりじゃないか」

 

「もう一度盗むのさ」

 

「なッ..........」

 

私は彼の返事を聞いて絶句した。

 

「盗んだ爆弾袋はセーブリセットすると消えるんだ。さあ、やってくれ」

 

私はすぐに彼を狼に変身させワープを開始した。数秒後、私たちはゾーラ川上流の小屋の前に立っていた。

 

私が人間に戻してやると、リンクは小屋に入った。

 

すると、女はさっき見たときと同じ様子で中に立っている。

 

リンクは彼女に近づき、男前の顔で言った。

 

「....僕がなんとかするよ」

 

「えっ、本当?助かるわ~!じゃあ爆弾矢であの岩を片付けてくれる?」

 

そう叫んだ女が爆弾袋を取り出してリンクに渡したちょうどその瞬間、彼は懐からおばちゃんの息子を取り出した。

 

「ママのところにもどりまちゅか?」

 

そう問われたリンクは頷いた。すると、息子鳥が私たちの周囲を飛び回り始め、リンクの身体がクルクル回転し、私たちは湖底の神殿に舞い戻っていた。

 

「あら、お帰りなさい。さ、行きましょ」

 

私たちを待っていた母鳥が言う。

 

私は彼らを収納しながらも、内心呆れ果てていた。

 

このリンクという若者には、道徳観念というものがないのだろうか。

 

だが、彼は何を思ったか、入手したばかりの爆弾袋から爆弾を取り出し、入り口水路の開口部に次々と捨て始めた。恐ろしい速さで爆弾を処分すると、彼は振り向いて背後の壁の近くにあった箱を開けた。

 

中にあったのは、青い塗装がしてある、それまでと違う種類の爆弾だ。

 

「これは何だ?」

 

「水中爆弾さ。水中で使えるんだ。これも冒険には必須さ」

 

彼はそう言って『おばちゃん』を取り出すと、またダンジョンの外に出してくれるよう頼んだ。

 

私たちは再びハイリア湖湖畔に出た。そこでリンクは、私にゾーラの里にワープするよう指示した。

 

「忙しいな。今度は何だ?」

 

「もう一つのアイテムさ。頼むよ」

 

私は文句を言いながらも言われたとおりワープを開始した。ほどなく、私たちはゾーラの里の泉の上に降り立った。

 

水の中に飛び込むと、彼は泳いで岸に這い上がり、泉を取り巻く柵の陰に立つと私に合図した。私は彼を人間に戻した。

 

「ミドナ、合図でアイアンブーツを履かせてくれ」

 

彼はそう言うと目の前の泉に飛び込んだ。泉の中ほどで彼が合図を出し、私は鉄のブーツを履かせた。

 

たちまちリンクの身体が沈み水深が下がる。泉の水底の中央には、かつて私たちが運んだ火山噴石が屹立している。

 

リンクは水底に降りて噴石の足元に立つと、水中爆弾を点火して途中まで取り出しつつ、私に合図してきた。

 

私がブーツを元に戻してやると、彼は浮上し始めた。そこで彼は水中爆弾を手離すと、もう一度合図してきた。再び鉄のブーツを履かせる。彼はまた水底に沈んだ。

 

私はまた心配になった。いくらなんでも、息継ぎせずに水中にいる時間が長すぎる。

 

一方、彼の手から離れた水中爆弾は、噴石の前で爆発した。

 

その中から何者かが飛び出てきた。

 

ゴロンだ。

 

リンクは水底で重い鉄のブーツを引き摺りながら相手に近づいた。

 

「やっと出られたゴロ~! ありがとな~~! 昼寝してたらあの溶岩に閉じ込められちゃって、大変だったゴロよ!」

 

水中であるにも関わらずゴロンの男は平気でしゃべった。

 

「そんなことよりお礼ゴロ!手持ち、こんなのしかないけどこれでいいゴロ?」

 

ゴロンはリンクに爆弾袋を差し出した。リンクはありがたそうにそれを頂くと、元の爆弾袋から水中爆弾を取り出しながら私に合図した。ブーツが元に戻り、彼は浮上した。

 

水面に上がると、岸辺で一息ついているリンクに私は尋ねた。

 

「リンク......お前、水中にあんなに長時間いて平気なのか?」

 

「秘訣があるんだ。水中で浮上している状態で水中爆弾を手から離すと、呼吸がリセットされるんだ」

 

「水中爆弾を.....?手から離すと.....?呼吸が.......?リセット?なんだそれは?」

 

私はまた面食らった。だがリンクは笑うと、『おばちゃん』の息子を取り出し、ダンジョンに戻るよう言った。

 

私には、リンクの言ったことが最後まで分からなかった。私たちは再び湖底の神殿に戻った。

 

(次回に続く)

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