黄昏の姫と緑の勇者: RTA Any%怪異譚~ミドナが語る『世界線物理学』のミステリー 作:nocomimi
『虚空への落下』
私たちは、気が付くと雪山の廃墟の入り口付近にいた。
リンクが言うところの『セーブリセット』の効果らしい。
リンクはそこで、鎖と鉄球を振り回し周囲にあるものを片端から破壊した。
すると、またもや高額ルピーが転がり出てきた。
さらに、壁際に隠された箱からもルピーを回収すると、彼は扉を開けて外に出た。
「やはり随分な金持ちが住んでいたみたいだな」
私が呟くとリンクは応じた。
「ああ。壁に紋章もあったしね。鳥の翼の紋章ということは空から降りてきた古のハイリア人の子孫と言う可能性がある」
「お前は物知りなんだな。本当にただの農夫なのか?」
私は驚いた。だが彼は涼しい顔だった。
「どっちだっていいじゃないか。さあ、次はハイリア湖にワープだ」
彼は言った。私は首を傾げながらも彼を狼に変身させ、ワープを開始した。
数秒後、私たちはハイリア湖湖畔のポータルの下の広場に降り立った。
リンクが私に合図したので、私は彼を人間に戻した。彼は広場から木の橋を渡ると、崖にかけられた梯子を上った。その途中で草むらを剣で払っては、飛び出してきたルピーを収納していた。
「どうした、リンク。金策が必要になったのか?」
「まあね。ちょっとした用事で三百ルピー必要なんだ。だがもう少しだよ」
彼は剣を納めると、湖畔を走り始めた。しばらく走ると、背の高い塔が見えてきた。
リンクは塔の足元に辿り着くと梯子を登った。頂上に着くと、既に先客がいた。頭にフードを被った大柄な男だ。
「リンク殿...ですな?」
男は振り向いて言った。初老の逞しい男だ。
「老輩はラフレルと申す。貴殿のご活躍のほど、テルマから聞きましたぞ.....貴殿のような勇猛な若者なら必ず砂漠の異変の話を聞いてここに来られると私は思っておったのです」
慇懃な口のききかただったが、私には胡散臭いと思えた。
「かつてあのゲルド砂漠にはある大罪人を処刑した処刑場があったのです」
男は遥か東の方角に広がる砂漠を指すと続けた。どうやら、リンクを『砂漠の処刑場』というダンジョンに誘導しているようだ。ひとしきり説明すると彼は言った。
「リンク殿、もしや、あの砂漠に赴き自らの目で確かめに行かれると申されるか?」
リンクは頷いた。すると男は、相好を崩した。
「おお、そうですか。ではこのラフレル微力ながらお手伝いいたしましょう」
彼は書きつけのようなものをリンクに渡してこう付け加えた。
「湖上で遊戯屋を営んでおりますトビーという男にこれをお渡しくだされ。実は昔その男を助けたことがありましてな。それ以来何かと頼み事も引き受けてもらっておるのです。その男に任せておけばうまくやってくれるでしょう」
リンクは男に礼を言うと、踵を返して塔から飛び降りた。
「お.....おいリンク!」
またしてものムチャな行動に、私は思わず叫んだ。
だが彼は地面に着地すると同時に前転して衝撃を緩和し、走り始めた。
「ま....まったくムチャばかりする奴だなお前も」
「平気さ。慣れてるからね」
私は文句を言ったが彼は涼しい顔だ。
「しかし、あの爺い....怪しいな。私は気に喰わない」
「まあ気持ちはわかるけどね」
私が感想を漏らすとリンクは走りながら答えた。
「ラフレルは僕を利用してダンジョンを調査させようとしているんだ。でも利害が一致したから乗っているだけさ。僕は名誉とか財宝を求めてるわけじゃあない。ただこの冒険を完遂したいだけさ」
「お...お前なんでそんなに老成してるんだ?本当に十六歳なのか?」
私たちはそんな話しをしながら、道のりを進んでいき、やがて縦に尖った小屋の手前にまで辿り着いた。ここ一帯が影の領域だったときに一度訪れた場所だ。
小屋の前では、主らしき老人が手を後ろに組んで暇そうに立っていた。
リンクは老人に近づき、塔の上の男からもらったメモを見せた。
「ゲッ....ラフレルの爺さんからじゃねえか」
メモを見た老人は頭を掻くと呟いた。
「参ったなあ。あの爺さんには頭が上がんねえんだよ」
老人は顔を上げてリンクを見た。
「しょうがねえ。今回特別に裏メニュー用意してやる。オアシスコース、な?代金も一回限りタダだ。んじゃ、今すぐ行くか?それとも後にしとく?」
リンクはすぐに出発すると答えた。老人は彼を小屋の扉に案内し、中に入れるとバタンと扉を閉めてしまった。
「おいリンク、ちょっと疑問なんだがな」
真っ暗な中、私は言った。
「なんだいミドナ?」
「いったいどうやって砂漠まで行くんだ?何かの飛行装置か?」
私が尋ねるとリンクは言った。
「大砲さ。それで打ち上げてもらうんだ」
「た..........大砲?」
私は目を丸くした。
「じょ....冗談はよせ。そんなもので移動できるわけないだろ!」
「できるさ。僕は何度もやったよ。心配はいらない。君もすぐ慣れる」
リンクの言葉に私は抵抗した。
「慣れる慣れる言うな!慣れるわけないだろ!」
だが私がそう言った途端、陽気な音楽が流れ、部屋がガタガタと振動し始めた。
「おい、リンク。中止だ、中止.....」
* * * * * * * * * * * * * * *
気が付いたときには私たちは太陽の照り付ける砂漠の上に立っていた。
最悪の気分だった。大砲で空に打ち上げられてここまで飛ばされたのだろう。車酔いを酷くしたような吐き気がする。
リンクは既に立ち上がって、遠方に目を向け、歩き始めている。
だが私は、居住まいを正すと、リンクに何かを話さなければならないような気がして、口を開いた。
私の本当のアイデンティティ。そして、影の一族の由来。
「リンク.....待ってくれ。ちょっと話を聞いてほしいんだ」
だがリンクが私を見て、その目が光ると、私は口を閉ざした。
私の頭の中には、『その会話が終えられた』という記憶がハッキリと浮かび上がってきた。
...あの時と同じだ。地下牢で狼姿のリンクと初めて出会ったときと。
『全て知っている。何も話す必要はない。スキップさせてくれ』
彼の目はそう語っていた。
私は、あえてそれ以上口を開くことができなかった。
私は困惑を感じた。そして、私が口を開こうとするたび、そうやって黙らせる彼のやり方に、苛立ちと悔しさを覚えていた。
だが実に奇妙なことに、私は形容しがたい安心感も覚えていたのだ。
....そう。
私が何を話さなくとも、リンクは全て知っている。全てを理解している。
本当に、おかしな奴だ。
だが、私はこうも思った。
彼とならば、冒険していても何も怖くはない。
どんな危険な冒険であろうとも。
......いかんいかん、話を戻そう。
会話が唐突に終わると、リンクは私に狼に変身させるよう指示した。
変身した彼は走り始めた。砂漠の隅にある、高い櫓やバリケードが設けられた一角に向かっている。
だが、櫓の上にいたブルブリンがそれを見咎め警告の喚き声を上げた。
櫓から矢が飛んでくると同時に、猪に乗った騎兵たちが出動してきた。
だが、リンクは砂漠の奥にあったバリケードの前に辿り着くと私に唸った。私はすぐに彼を人間に変身させた。
「ミドナ、鎖と鉄球を!」
リンクは言った。私がそれを渡すと、彼は鉄球を振り回しバリケードを叩き壊した。
先に進むと、もう一つのバリケードがある。だがリンクはバリケードの端と岩壁の間に身体をねじ込んで前転し、強引に突破していった。
背後では、ブルブリンどもが悔し気に喚いている。
だがリンクは足早に前進すると、前方にあった段差を乗り越え先に進んだ。
道を進んでいくと、短いトンネルになっている。トンネルの向こうの開けた場所が見えるところまで来るとリンクは足を止めた。
前方を眺めると、広大な敷地を覆う石造りの壁が横たわっている。その背後には恐しく巨大な建造物が聳え立っていた。
その途端、敷地内部の櫓の上にいた鬼の弓兵が警戒の声を上げた。処刑場の敷地内からもあちこちから鬼の喚き声が聞こえる。敵は手ぐすねを引いて待ち構えていたようだ。
「このまま突っ込んで行く気か?」
私はリンクに声をかけた。
「それでもいいけどね。でもそれじゃあ面白くない」
リンクはそう答え、剣を抜いて立った。
見ると、精神を集中している様子だ。
もしかすると、あの『マップ』なんとかという技を発動しようとしているのだろうか?
数秒後、リンクは呟いた。
「ミドナ....」
「どうした、リンク?」
私が返事をすると、彼はやおら後ろにバックフリップした。一回。二回。三回。四回。そして、次は右へサイドホップを繰り返す。最後に、またバックフリップしたあと、リンクはわずかに後じさりした。
その途端に、リンクの身体は砂地をすり抜け落下した。それと同時に彼はジャンプ斬りを放った。
だが、私は周囲の光景に驚愕した。
夕暮れどきの空の色に包まれ、砂漠の処刑場の建物の全てが『宙に浮いて』いたのだ。
リンクはといえば、ジャンプ斬りの慣性力で先に進みつつも、落下を続けている。
下方を見ると、何一つ見えない『虚空』なのだ。
私は絶句し、そして絶望を感じ、そしてリンクにしがみついた。
(次回に続く)