黄昏の姫と緑の勇者: RTA Any%怪異譚~ミドナが語る『世界線物理学』のミステリー   作:nocomimi

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『物体内部への侵入』

私とリンクは処刑場の入り口をくぐると長い階段を降りていった。

 

二人とも言葉少なだった。特に私は、リンクが先ほど告げた信じがたい事実の余韻がまだ頭の中で鳴り響いていて、目の前の冒険に集中することもできないほどだった。

 

だが、やがて私たちは広い部屋に出た。

 

部屋の床はあらかた崩壊し、流砂に覆われている。到底普通の方法では渡ることはできなさそうだ。

 

しかし、リンクは勝手知ったる様子で腕にクローショットを装着すると、壁に設えられた灯篭を狙い撃って飛びついた。そしてそこから流砂の上に点在する石材の残骸の上を身軽に飛び移り、向こう側にあった戸口の前に辿り着いた。

 

だが、戸口には頑丈そうな門がかけられている。

 

「門を開ける仕掛けを探す必要があるな...」

 

やっと気を取り直した私は呟いた。

 

「戸口の横さ。ここの仕掛けはそれほど難しくないんだ」

 

するとリンクは言った。そして彼は流砂の上を身軽に前転し、戸口の横に残っていた床材の上に移った。

 

「ほら、そこさ」

 

リンクは建物側の壁を指さした。壁から伸びる鎖につながれた巨大なハンドルスイッチが砂の上に置いてある。

 

「なんだ、こんな単純な仕掛けだったのか」

 

私は安堵したが、いっぽうで不審に思った。

 

リンクの言いぶりが、まるで以前もこのダンジョンに来たことがあるかのような口調だったからだ。

 

「なあリンク...お前はこのダンジョンに来たことがあるのか?」

 

リンクは腕に再びクローショットを装着してハンドルスイッチを狙い撃ち、手元に引き寄せる。私は、ハンドルスイッチを引っ張り始めた彼に尋ねた。

 

だがその瞬間だった。周囲の砂地からザワザワと音がしたかと思うと、小柄な骸骨の魔物たちが大量に湧き出てきた。皆、手に小槍を持っている。スタルベビーと呼ばれる連中だ。

 

「おいリンク!魔物どもだぞ!」

 

私は警告した。だがリンクは平然と答えた。

 

「大丈夫さ。すぐ門が開くから。戦う必要はないよ」

 

彼がそう言った瞬間に、ガチャリと金属音がした。同時に、戸口を塞いでいた門が重々しい音をたてて開き始める。

 

「さあ行こう」

 

リンクはハンドルスイッチから手を離した。骸骨どもが槍を突き出してきたが、リンクは流砂の上をヒラリと前転して身を躱すと、戸口の前に移動した。

 

戸口の先は石造りの階段だ。それを駆け登っていくと、正面に扉が見えた。だが鎖がかけられ錠前で封じられている。リンクはその扉には向かわず、脇にあった通路に飛び込んだ。その内部も流砂だらけだったが、リンクは前転でその上を渡り、突き当たりにあった木箱を開けて中から鍵を取り出した。

 

鍵を手にしたリンクは再び身軽に流砂を渡り、先ほどの封じられた戸口の前に戻った。彼が鍵を差し込むと、錠前は見事に開いて鎖が落ちた。

 

「お前、ずいぶん慣れた様子だな...」

 

私はますます怪訝に思ってそう言った。だがリンクは謎めいた微笑みを浮かべるだけで、何も答えない。

 

扉を開けると、向こう側は薄暗い部屋だ。だが、リンクは迷う様子もなく前進しながらカンテラを取り出して点灯した。

 

私が暗がりに目を凝らすと、部屋の奥の突き当たりには扉があったが、そこには格子がかけられているのが見えた。

 

またもや謎解きだ。だが、私が口を開いて何かを言う前に、リンクは扉の近くに進むと横に置いてあった篝火の台にカンテラの火を移し始めた。

 

だが、そうしているうちにまたも部屋のあちこちからザワザワという音がして、砂の中から小型骸骨兵士(スタルベビー)どもが顔を出す。

 

「おいリン....!」

 

「大丈夫。戦う必要はないよ」

 

私の警告に被せるようにして彼が言う。まるで私が発する言葉さえも予知しているかのようだ。

 

戸口の左右にひとつづつ置いてあった篝火に点火されると、扉にかけられた格子が自動的に引き上げられた。

 

小型骸骨兵士(スタルベビー)どもが迫ってきて槍を突き出す。だがリンクは構わずに扉を開き、向こう側に出た、

 

* * * * * * * * * * * * * * * * 

 

「お前さぁ...普通ダンジョンの謎解きってまず魔物を片づけてからやるもんだろ?」

 

私は二度もハラハラさせられたことで、やや腹立ちまぎれに文句をぶつけた。だがリンクは笑って取り合わない。

 

「どうしてさ?謎さえ解ければ先に進めるんだ。無駄な時間を使うことはないじゃないか」

 

私たちは、ひときわ広い部屋にいた。向こうの正面には幅の広い階段の上に巨大な戸口の開口部が見える。

 

その前には四本の燭台があり、そこには青白い炎が点されている。いかにも不気味な雰囲気だ。 

 

すると、正面に開いた開口部から何者かが近づいてくる物音がした。

 

人のざわめく声のようではあったが、明らかに雰囲気がおかしい。

 

苦しみ呻くような、何かを呪うような暗い声の群れだ。

 

また、その声とともに、開口部の奥から不気味なカンテラが浮遊しながら次々と部屋に入ってくるのが見えた。

 

「ヒ...ヒイイ!幽霊だ!」

 

私は思わず叫んでリンクにしがみついた。だがリンクは、驚いていなかった。いや、驚いていないどころか、むしろ退屈そうな顔をして、そのつま先でトントンと床を叩いている。まるで「早くこのシーンを終わらせてくれ」と念じているかのようだ。

 

浮遊してきたカンテラは、燭台に近づくと、その上の炎を奪い取るようにして自らの中に吸い込んでしまった。

 

すると、奥の開口部の上から格子が降りてきて、みるみるうちにそれをすっかり塞いでしまった。

 

そして、幽霊カンテラたちは今度はこちらに向かって飛んできた。

 

「リンク!あ...あいつらこっちに来るぞ!」

 

「大丈夫さ。害はないから」

 

私が慌てて叫んでもリンクは退屈そうな顔のまま答える。

 

青白いカンテラは、私たちの周囲に来るとぐるぐると回った。私は正直な話、生きた心地がしなかった。しかも、肝心のリンクはそいつらと戦おうとさえしていないのだ。

 

だが、やがてカンテラどもは、ひとつを除いてどこかに飛び去ってしまった。

 

それでも、残り一つが目の前を浮遊している。

 

「やれやれ、やっと終わった。これだけはスキップできないのが難点だね」

 

リンクは誰にともなくそう言うと歩き始めた。浮遊するカンテラの脇を通り抜け、いまや塞がれた正面の戸口に向かって階段を登ってゆく。

 

「お...おいリンク!あの幽霊みたいなやつと戦わないのか?」

 

「必要ない。時間の無駄さ」

 

私が尋ねると彼はそう答えた。リンクは階段を登り切ると、側面にあった手すりの上に乗った。

 

「な...何をしてるんだ?」

 

だが、私は雰囲気から察し始めていた。リンクはまた、私には到底理解できないような奇怪な技を実行しようとしている。

 

「ちょっとした仕込みさ」

 

彼はそう答えると、手すりの下を注視した。見ると、そこには頭蓋骨だけで動き回るバブルと呼ばれる魔物が二匹ほどいる。

 

すると、バブルどものうちの一匹がリンクの姿を見とがめ、頭から生えた羽を羽ばたかせて浮上してきた。リンクは素早く手すりから床の上に戻ると、戸口を塞ぐ格子の端あたりに移動し、クローショットを腕に嵌めた。

 

私は、リンクがやっと魔物と戦う気を起こしたと思って安堵した。

 

だが、それは間違いだった。

 

リンクは魔物に狙いをつけて撃ち、手元に引き寄せると、今度は戸口のもう片方の端に移動し、そこで再びクローショットを放って敵を引き寄せた。

 

「お...お前....何をやっている?遊んでるのか?」

 

私は戸惑って尋ねた。だがリンクは答えない。彼はブーメランを取り出し、ゼロ距離で魔物に狙いをつけ、放った。

 

すると不思議なことが起こった。魔物の姿が消えたのだ。

 

リンクはもう一度手すりの上に立ち、もう一匹のバブルをおびき寄せると、同様のやり方でそいつを『消した』。

 

見ていた私は、すっかりお手上げだった。リンクが意図していることが、まるでわからない。

 

しかし、私にはもうわかっていた。

 

口出ししても仕方がない。

 

リンクは、自分が何をしているかを完全に把握している。

 

信頼するしかない、ということを。

 

* * * * * * * * * * * * * * * * 

 

魔物を二匹『消し』てしまうと、リンクは階段から降りて手近にあった壺を持ち上げ、階段の基部をなしている石材の前に立った。

 

私は息を呑んでその姿を見守った。

 

おそらく、彼は不思議な技をこれから繰り出す。私が見たこともないような技を。

 

リンクは壺を持ったまま、石材にジリジリとにじり寄る。だが途中で壺を取り落とし、彼は舌打ちをした。そしてもう一度同じことを繰り返す。極度に集中しているのか、その額には汗が浮かんでいた。

 

不毛と思える時間が続いた。だがある瞬間のことだった。

 

リンクは壺を取り落とし、剣を抜いて構えた。

 

そして、その身体がいつの間にか、目の前の石材に『半分だけメリ込んで』いたのだ。

 

私は驚愕した。

 

リンクはそのまま前進していく。私は慌ててついていった。

 

だが、中途まで進むと、足元が流砂になっていた。

 

「ミドナ!狼に変えてくれ!」

 

リンクが叫んだ。私は素早く彼を変身させた。リンクはさらに数歩前進した。狼の姿だと、四本足だけあって流砂に飲み込まれる速度が遅いのだ。

 

だがそれでも、少しづつその足が砂に取られていく。

 

するとリンクは私に合図を送った。

 

何の合図だろう?私は一瞬戸惑った。

 

だが、すぐに頭に閃くものがあった。結界攻撃だ。

 

私は結界を張り、それを広げた。周囲のどこにも敵はいないが、それしかないと思ったのだ。

 

結界が最大に広がった瞬間、リンクは跳躍した。だが敵を捕らえていない状態での攻撃だ。リンクはジャンプして一回転すると、元の砂地に降り立った。

 

だが、これはおそらく流砂に飲まれないための時間稼ぎだったのだろう。

 

リンクは再び前進した。ようやくしっかりとした床材の上に乗ると、彼は私の顔を見た。

 

私は意図を察し、彼を人間に戻した。

 

「ありがとうミドナ。もう少しだ」

 

彼は言うと、上方を見上げた。私も彼の視線を追った。それは異様な光景だった。

 

私たちは今、階段を成す石材の『内部』にいるのだ。

 

そして、上方を見ると、階段の上の戸口の先にある廊下が『裏から』見える。

 

そこには、先ほどリンクが『消した』二匹のバブルどもが羽を広げて飛び回っていた。

 

リンクはブーメランを取り出し、そいつらに狙いをつけて放った。すると、風に巻き込まれて魔物どもの羽が吹き飛び、彼らは地面を這いずり始めた。

 

リンクは剣を構えた。いよいよ総仕上げだということは雰囲気でわかった。

 

彼は息を潜め、タイミングを計っていたが、やおら気合いの声を発して跳躍した。

 

標的は、床を這いずる回るバブルどものうちの一匹だった。剣を逆手に持って飛び上がったリンクは、見事に魔物の上に降り立った。剣を突き立て、とどめの一撃を加える。

 

魔物が爆発するように破裂して消滅すると、リンクは額の汗を拭きながら剣を納めた。

 

「成功したよ」

 

彼は私に微笑みかけた。私も、覚えず彼に拍手を送っていた。

 

私には理解できた。

 

本来なら、戸口の格子を抜けるには、あの幽霊のようなカンテラどもを倒す必要があったのだろう。

 

だが、リンクはそれらと一度も戦わずして、前進することに成功したのだ。

 

(次回に続く)

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