黄昏の姫と緑の勇者: RTA Any%怪異譚~ミドナが語る『世界線物理学』のミステリー   作:nocomimi

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『ダンジョン逆走』

リンクは額の汗を拭き、剣を納めると私に言った。

 

「さあミドナ、先に進もう。狼に変えてくれ」

 

私は頷き、彼を変身させた。私は彼の能力に対し、感嘆するしかなかった。

 

私にも薄っすらと分かってきた彼の『技』の仕組みはこうだ。

 

彼はまずバブルを格子の向こうに送り込んだ。そして石材の隙間からその『内部』に入りこみ、そして向こう側にいるバブルに狙いをつけて跳躍し攻撃することで、格子の先に『転移』することができたのだ。

 

おそらく、格子の魔法を解くために複数の幽霊カンテラたちを探し出して戦っていたら、かなりの時間を費やしただろう。彼はその手順すべてをスキップしたのだ。

 

だが、私が感嘆の念に浸る間もなく、狼姿のリンクはダッシュし始めた。

 

廊下をまっしぐらに進むと、突き当りで横に折れる。

 

だが、その先は流砂だった。しかも、床の中央に大穴が開いていて、砂がそこに吸い込まれている。対岸までの距離はそれほどでもないが、この蟻地獄のような穴に落ちたらひとたまりもない。

 

「おいバカ!リンク!足元をよく見ろ!」

 

私は思わず叫んだ。

 

だがリンクにとってそんなことは先刻承知のようだった。

 

彼は流砂の上に降り立つと、壁際の柱の裏に回り込み、部屋の縁を通って難なく対岸まで辿り着いた。そして彼は前足を石の床にかけて這い登った。

 

私は思わず安堵の溜め息をついて胸をなでおろした。するとリンクは私に合図を送ってくる。

 

私が彼を人間に戻してやると、彼は床の上に置いてあった木箱を開けた。

 

中には巨大な黒い鍵が入っている。

 

「なんだろうこれは?」

 

「ボス部屋の鍵さ」

 

私が尋ねると彼は答え、鍵を預かるよう私に指示した。私はそれを持つと言った。

 

「ずいぶん物々しい鍵だな。ということはこのダンジョンのボスも相当な大物......」

 

「いや、大したことはないよ。さあ、オオカミに変えてくれ。これから逆走する」

 

リンクはすげなく答える。

 

「逆走?」

 

「ああ。まずはアイテム取得だ。サクッと終わらせよう」

 

私は肩をすくめると彼を変身させた。

 

リンクが狼姿になると、私がその背中に腰を下ろすが早いが、彼は前方突き当りの扉に向かった。そして私に向かって唸った。

 

彼は狼姿だから、扉を開けることができない。そのことに気づいた私は、慌てて魔法の力で髪の毛を手の形にして扉を引き上げた。

 

向こう側は、広い空間だ。巨大なレールが設えられていて、横には背の高い壁がある。だが壁の一部は欠けていて向こう側に出られるようだ。

 

リンクが進んでいくと、床に散らばっていた骨が音を立てて動き始めた。

 

スタルフォスと呼ばれる骸骨戦士だ。先ほど見た小型のより手ごわい。

 

だがリンクは気にもせずその脇を通り過ぎると、壁の欠けた部分から先に抜け出した。

 

砂地に点在する石材の上を巧みに渡っていくと、やがて私たちは扉の前に出た。私が扉を開けてやり、私たちは向こう側に出た。

 

* * * * * * * * * * * * * * * 

 

扉の向こうは細長い砂地だった。だが狼の脚は強い。リンクは躊躇わず前進すると、やがて砂地の対岸にあった広場に辿り着いた。

 

彼はそこで私に合図した。だが彼を人間に戻してやっているうちに、周囲に散らばっていた骨がカラカラと音を立てて立ち上がり始めた。

 

骸骨戦士(スタルフォス)だ。それも複数いる。だがリンクはそれに目もくれず、手近の壺を抱え上げると壁際に歩いていった。

 

「おいリンク...戦わなくていいのか?」

 

「必要ないってば。君も心配症だなぁ」

 

私が尋ねてもリンクは興味さえ示さない。彼は壁際に流れる流砂の上に立った。その身体がみるみるうちに沈んでいく。

 

骸骨戦士(スタルフォス)たちが武器を構え迫ってくる。私はハラハラしながら見守っていた。

 

だが、リンクが壺を取り落とした瞬間、その身体が壁の向こう側に『抜け』た。

 

リンクは素早くクローショットを腕に嵌めると、狙いを上げて撃った。すると、鉤爪がどこかに引っ掛かり、彼の身体は流砂から引き上げられた。

 

リンクは鉤爪を開いて床に飛び降りた。わけもわからずついてきた私が周囲を見回すと、どうやら狭い廊下の中にいるようだ。

 

「アイテム部屋はすぐそこだ。行こう」

 

彼はそう言うと歩き始めた。少し進むと、廊下が途中で切れていて間隙になっている。リンクはそこを身軽に跳躍して越えた。

 

ふと横を見ると、壁が切れて先ほど通ってきた広場が見えた。そこには骸骨戦士(スタルフォス)たちが悔しそうに立ち尽くしている。だがリンクは意にも介さず前進し、廊下の突き当りにあった扉に近づいてそれを引き上げた。

 

* * * * * * * * * * * * * * 

 

扉の先は、薄暗かった。円形の広い部屋だ。

 

だが、背後でガシャンという音がした。扉に格子が降りたのだ。

 

私は部屋の中を見回した。ちょうど入り口から見て反対側にも戸口があるようだが、今は柵で塞がれている。

 

「閉じ込められたな....強制バトルか?」

 

いかにも不穏な雰囲気に、私は呟いた。だがリンクは平静な表情だった。

 

「リンク....重要アイテムを守る敵って手ごわいって相場が決まってるよな。お前は緊張しないのか?」

 

「ミドナ、見てくれ」

 

リンクは指をさした。そちらを見ると、柵で塞がれた戸口の上に隙間があるのが見えた。

 

「そもそも戦う必要はないんだ。アイテムだけもらえばいい」

 

彼はそう言いながら部屋の中央に向かって歩いていった。

 

見ると、部屋の中心には巨大な刀が突き立てられている。そして剣の柄からロープが四方八方に伸びていた。

 

「おまえさっきから『戦う必要はない』ってそればっかだなぁ。勇者が平和主義者だなんて聞いたこともないぞ」

 

私はふざけ気味に言った。するとリンクはやおら剣を抜き、手近のロープを無造作に切った。

 

するとその途端、不気味な声がどこからか聞こえてきた。多数の人間が呻き苦しむような音だ。その音は次第に大きくなってきた。

 

「おい...リンク!なんかヤバそうだぞ....大丈夫なのか?」

 

私は慌てて言った。これは、確実に幽霊が出てくるやつだ。だがリンクは言った。

 

「大丈夫だよ。大した相手じゃない」

 

だが次の瞬間だった。目の前に白い光の塊が浮いていた。

 

幽霊だ。確実に幽霊た。

 

それも、入り口で見たカンテラ幽霊とはレベルが違う。もっと巨大なヤツだ。しかも、幽霊のクセして、さっきまで床に刺さっていた刀を手に持っている。

 

「で.....出た!」

 

私は思わず怖気を振るった。だがリンクは落ち着いて私に指示した。

 

「ミドナ、オオカミに変えてくれ。そして攻撃をしたら、次は人間だ」

 

彼のあまりの落ち着きように、私は現実感覚を失いそうになっていたが、それでも言われたとおりに彼を変身させた。

 

すると幽霊もリンクを見とがめたのか、近づいてきて刀を振り上げた。

 

だが一瞬早くリンクが飛び掛かり、連続して噛みつき攻撃を加えた。

 

幽霊が苦悶の声を上げながら身体を捩る。振り払われたリンクは着地し、私に合図した。

 

私は素早く彼を人間に戻した。だが、敵のほうを見た私はその気色の悪さにドン引きした。

 

実体化したその姿が克明に見えたのだ。

 

恐ろしく背が高く、祭司のような黒い寛衣をまとっている。その両手は尖った長い爪を持つ骨で、その頭は巨大な水牛の骸骨だ。

 

そいつは恐ろしい金切り声を上げながら立ち上がり、私たちをねめつけた。 

 

「リンク...こ...こいつ強そうだぞ!大丈夫なのか?」

 

「見かけだけさ。そもそも倒す必要もないけどね」

 

リンクは手にクローショットを嵌めると、無造作にそいつを撃った。すると、幽霊は急に速度を上げて飛び始め、攪乱するように部屋の中をぐるぐる回り始めた。

 

リンクはやおらダッシュして部屋の奥まで行くと、後ろを振り向いて部屋の内側のほうを向いた。

 

すると、幽霊も飛ぶのをやめ、こちらに近づいてきて刀を振り上げた。

 

だが、リンクは前転して敵の攻撃をギリギリで回避した。その背後で刀が床材に激突し、派手な金属音を立てた。

 

「ミドナ、狼だ。結界攻撃をするぞ!」

 

合図を聞いた私はすぐに彼を変身させ、彼の背中の上に乗って結界を広げた。

 

広がった結界が敵を包み、赤い稲妻がその身体を覆う。

 

だがリンクはなかなか攻撃をしかけない。

 

そうしているうちに、幽霊は態勢を立て直してフワリと浮き上がった。

 

だがリンクは動かない。私はハラハラし始めた。

 

浮上した幽霊が横に移動を始めた。

 

その瞬間、リンクは力を解放した。

 

すると、リンクの身体は大きく跳躍し、敵の横をかすめて通り過ぎると、柵で塞がれた戸口の上の隙間に見事着地した。

 

リンクはそこから奥にダッシュし、床に飛び降りると、突き当りの壁まで進んだ。そこには木製の大きな箱が置いてある。

 

私は彼の意図を察し、人間に戻してやった。

 

「大丈夫って言ったろ?」

 

彼は笑いながら私に言った。だが私はもはや感嘆半分、呆れ半分で苦笑するしかなかった。

 

箱を開けると、中には円形の機械装置が入っていた。金属製で、大きな独楽に歯車をつけたような形だ。

 

「なんだろうこれは?」

 

「スピナーさ。インベントリに入れといてくれ」

 

私が尋ねるとリンクが答える。そして彼は床に寝転ぶと目を閉じた。

 

向こうの部屋からは、幽霊の悔し気な叫び声が聞こえる。

 

だが、リンクはそれに意も介さない様子で寝息を立て始めた。

 

(次回に続く)

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