黄昏の姫と緑の勇者: RTA Any%怪異譚~ミドナが語る『世界線物理学』のミステリー   作:nocomimi

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『おあずけ』

巨大な獣の骨と戦った部屋から出た私たちは、螺旋階段に出た。

 

周りを囲む柵から砂漠の夜景が見える。もはや時刻は遅い。

 

リンクはスピナーを乗り捨て、階段を駆け登った。途中で階段が欠けている場所があったが、彼は慣れた様子で跳躍して向こう岸に飛びつき、階段の終端まで登り詰めていった。

 

すると、屋上の野外空間に出た。広大な砂地の広場が円形の石壁で囲まれている。砂地の中央には、蛇の絡みついた女神の巨大な立像が立てられていた。

 

「いよいよだな」

 

彼に追いついた私はゴクリと唾を飲み込んだ。だがリンクは首を振った。

 

「まだだ。強制バトルがある」

 

「なんだって?...ボスを倒したのにか?」

 

私は驚いて尋ねた。その瞬間、上空から巨大な管楽器が鳴るような不気味な音が響いた。

 

上を見上げると、黒い渦巻が出現している。ポータルだ。そしてその中心から黒い気味の悪い形の塊が押し出されるように次々と出てきた。

 

一体、二体、三体、四体、そして五体。影の使者たちだ。

 

着地した使者どもは、メイン部隊なのか、まず三体が横並びでこちらに向かってきた。

 

だが、リンクはヒラリと身を躱すと、砂地の中を走り始めた。

 

私にはすぐわかった。保険として本体から離されている個体を先に狩るつもりだ。

 

案の定、リンクは女神像の裏手にいた一体、さらに広場の端にいた一体をそれぞれ一撃で屠ると、元の場所に戻って三匹編成の本隊を回転斬りで片付けた。

 

やはり呆気ない戦いだった。

 

「よし。リンク....陰りの鏡はもうすぐだな!」

 

私は剣を納めた彼に言った。ところがリンクは答えた。

 

「いや、ミドナ。カカリコ村に行こう」

 

「....な...なぜだ?陰りの鏡はもうすぐだろ?早く行こう!」

 

「いや、カカリコ村だ」

 

リンクはそう静かに言って私を見た。その目が光った。

 

途端に私は悟った。

 

私は、抗うことはできない。言うことを聞くしかない、ということを。

 

私は彼を変身させると、カカリコ村のポータルへワープを開始した。

 

* * * * * * * * * * * * 

 

カカリコ村の泉の前に降り立つと、私は彼を人間に戻した。

 

心の中はずっとモヤモヤしていた。

 

陰りの鏡は目の前にあったはずなのに、リンクは私の要求を却下した。

 

そして、何よりも解せなかったのが、私が彼に唯々諾々と従ったことだった。

 

確かに、リンクは驚くほどの能力と知識を持った勇者だ。

 

だが、一国の王女である私が、まるで侍女のように彼に従い、雑用係のように彼の言いつけに従っているとはどうしたわけだろう?

 

そう―――まるで自分の意志を持たない者のように。

 

だが、そんな私をしり目に、リンクはさっさと歩いて礼拝所に入っていった。私は慌ててついていった。

 

すると、礼拝所の中には、祭司の服を着たやせた男と、若い娘が立っていた。

 

男のほうは以前見たことがある。以前この地域のトワイライトを晴らした直後に子供たちと一緒にいた祭司だ。

 

だが、娘のほうを見て私はピンと来るものがあった。

 

田舎風の服装と、うぶな雰囲気。金色の髪に色白の美しい顔立ち。この地方の出身ではない。

 

その時、祭司風の男がリンクに声を掛けようとした。

 

だがリンクは無視すると、礼拝所の床の中央に開いていた穴に飛び込んで下に降りていった。

 

* * * * * * * * * * * 

 

「なあリンク....さっきの娘なんだが....」

 

「ああ...彼女がどうしたんだい?」

 

私が尋ねると、彼は通路を進みながら気のない返事をした。礼拝所の床の穴は、以前闇の蟲を狩っていたときに通った地下空間に繋がっていたようだ。

 

「もしかして...お前の村の出身者なんじゃないのか?」

 

「さすがミドナだな。勘が鋭いね」

 

私が言うと彼は笑った。私たちは地下通路に繋がった円形の広間に行き着いていた。

 

「.....ということは、お前の村がブルブリンの襲撃を受けたとき、誘拐された者のひとりだろう?久しぶりの再会で、積もる話しもたくさんあるんじゃないのか?」

 

私はそう言った。だがリンクは聞いていない様子だ。彼は地下広間の壁の一角に設えられた、梟のような形をした奇妙な像に近づいていった。

 

「....ごめん。ミドナ。聞いてなかったよ」

 

「いや、余計なお世話かもしらんが....あの娘とは同郷の仲なんじゃないのか?」

 

私はもう一度言った。同時に、私の心の中ではある推測が急速に膨らんできた。

 

あの美しい娘は、リンクと親密な仲なのではないか?

 

田舎風とはいえ、服装の仕立てからすると、村長クラスの裕福な家庭の出身だろう。

 

そして、リンクほどの実力ならば、自然と村の将来を託されるべき剣士として注目を集めるだろう。だとしたら、ふたりがいい仲になるというのも不自然なことではない。

 

だが、気を揉み始めた私をよそに、リンクはその梟の像を一心に調べている。

 

梟の像は、ちょうど人間くらいの高さだったが、よく見ると壁に半ばはまり込んでいる。そして、壁と像の間には少し隙間があり、覗き込むとその向こうは狭い通路になっているようだった。

 

「ミドナ、狼に変えてくれ」

 

唐突にリンクは言った。

 

「わ...わかった」

 

私はリンクとあの娘の関係性に関するとめどない思索を中断し、彼を狼に変身させた。

 

すると驚くことに、彼の身体は像と壁の隙間にぴったりと嵌ってしまった。

 

彼の上半身は隙間の向こう側にあり、腹から後ろだけがこちらに突き出ている格好だ。

 

「リ....リンク!大丈夫か!」

 

私は思わず叫んだ。だがリンクは元気よく吠えると、隙間から身体を無理やりすり抜けさせてダッシュし始めた。

 

私は慌ててついていった。やはり像の先には狭い通路があったのだ。

 

通路を抜けると、そこはもう一つの地下広間だった。だが先ほどのものより広く天井も高い。

 

灯りもなく薄暗いが、天井には隙間があるのか、月明かりがうっすらと射し込んできている。

 

そして、部屋の中央には巨大なものがうずくまっていた。シルエットだけを見るとまるで脚の生えた生き物のようだ。

 

だが、近づくと明らかに機械物だった。

 

リンクはその機械の足元まで来ると、東の方に向かって吠えたあと、私に唸った。

 

私には、ワープの合図だとすぐに分かった。場所はハイリア湖湖畔だ。

 

「だけど...あいつが見てるからなぁ.........」

 

私は呟いた。そしてその後、いつもの違和感に背筋が冷たくなった。

 

まただ。世界線の混線だ。

 

今この場所にはリンクと私しかいない。だが、どこか別の世界線では、そうではないのだ。おそらくその世界線では、私がこの機械を運ぶさいに、誰かが近くにいるのだろう。

 

リンクは私を睨みつけ再び吠えた。

 

「わ...わかった。わかったよ」

 

私は言うと、機械に魔法をかけた。その周囲に赤い稲妻が走り、私が気合いの声を発すると、それは宙に浮いて吸い込まれていった。

 

数秒すると、私たちはハイリア湖畔のポータルの下に降り立っていた。

 

運んできた機械をよく見ると、大砲だ。だが、片方の脚が壊れて傾いた無残な姿だ。

 

リンクが私に唸ってきたので、私は彼を人間に戻した。

 

「こんな壊れた大砲なんてどうするんだ?」

 

「修理すれば使えるようになるさ」

 

私が尋ねると彼はそう答え、広場から桟橋に向かって走り始めた。

 

彼はあの縦長の尖った小屋に向かっていた。大砲屋だ。私には嫌な思い出しかなかったが、それでもついていくと、リンクは大砲屋の主人の老人と何事か交渉し始めた。

 

老人はリンクに伴われて、壊れた大砲を見にやってきた。

 

「こんなもんどこで手に入れたんだ?随分な年代物じゃねえか?」

 

老人が感心して呟く。リンクはは修理できるか尋ねた。すると老人は少し考えてから答えた。

 

「まあ起動装置がイカれちまってるがなんとかなりそうだな」

 

彼はリンクに向き直るとニヤリと笑った。

 

「三百ルピー一括払いでどうだ、兄ちゃん?」

 

するとリンクは財布を取り出して、全財産を老人に渡した。額はピッタリだったようだ。

 

「ずいぶん景気がいいんだな。そんじゃ、明日の朝から取り掛かるとするか」

 

老人はホクホク顔だ。私は、老人が小屋に引っ込んでしまうとリンクに話しかけた。

 

「お....おい。無一文になっちまったじゃないか。大丈夫なのか?」

 

「大丈夫さ。そもそもルピーなんて持っていたって、この世界ではこの大砲修理以外には使わないからね」

 

「つ...使わない?」

 

彼が事も無げに言うのを聞いて私は目を白黒させた。

 

確かに、リンクの出身は田舎の農村だから、貨幣経済より物々交換が多いというのはわかる。だが、勇者として地方を股にかけて活動するのに、ルピーを使わないなどということが本当にあるのだろうか?

 

だが、リンクは安心したように草地に座り込んだ。

 

「また『セーブリセット』か?」

 

「いや、今回は違う。このイベントはスキップもできないから見てるしかないんだ」

 

私が尋ねると彼は答えた。

 

* * * * * * * * * * * *

 

作業は三日ほどで済んだ。私たちが見ている前で、老人は手際よく足場を組み、大砲を立て直すと、脚を修理し、さらに細かい配線やら回路やらを弄っていたが、とうとうリンクの方を向いて言った。

 

「ま、こんなもんだな。直ったぜ」

 

そう言った後、老人は肩をすくめて付け加えた。

 

「‥‥たぶんな」

 

私は顔をしかめた。結構な対価を取っておいて、いい加減なことを言う業者もあるものだ。だがリンクは心配している様子もなく、小屋に引っ込んでいく老人を見送った。

 

「さあ、出発だ」

 

リンクはそう言うと、クローショットを腕に嵌めて私を見た。

 

「出発って....どこへだ?」

 

私は当惑して尋ねた。すると彼は言った。

 

「天空都市さ」

 

「天空都市...........?」

 

言われたことの意味がわからず私はおうむ返しした。

 

「天空....都市....って....。リンク、天空に....都市があるのか?」

 

「ああ」

 

私はまだ信じられなかった。頭の中が完全に置いてけぼりになっている。

 

「それで...リンク、この大砲は....何のために?」

 

「この大砲でそこに行くのさ」

 

リンクは平然と答える。

 

数秒して、私にもようやく事態が呑み込めてきた。

 

私の大嫌いな、『大砲で打ち上げられて飛ぶ』移動。

 

それで、見たこともない天空都市とやらに、行くというのだ。

 

「....い...いや。ちょっと待て。ちょっと待て」

 

私は首を振った。

 

「待て。ちょっと考え直そう。陰りの鏡は処刑場にあるんだろ?だったらわざわざそんなことをしなくても......」

 

「どうしても手に入れないとならない破片が天空にある。だからこれはスキップできないよ」

 

リンクは言うと、こう付け加えた。

 

「.....Any%でもね」

 

私にはよく分からない話しだったが、私はそれでも首を横に振り続けた。

 

「ダメだ。私はそんなの.....無理だ。大砲に打ち上げられて空を飛ぶなんて....そんな....そんなこと」

 

「ダメも何もないよ。行かなきゃならないんだ」

 

リンクはそう言って私をむんずと掴むと、片手のクローショットを大砲の後尾部に狙って撃った。

 

鉤爪が引っ掛かると、私たちは大砲の装填口に引き寄せられて自動的に中に転がり込む形になった。

 

「待て!....ちょっと待て!.....タンマ!タンマ!タンマ!」

 

「時間が勿体ない。出発するよ」

 

リンクが冷たい声で告げる。

 

扉が開閉したことで自動的に大砲が起動したのか、下の方からガタガタと振動が響いてき始めている。

 

やがて大砲がガタンと動いた。両脚で立ち上がったのだろうか。

 

大砲はまるで独立した生物のように何歩かを歩くと、砲口を持ち上げて角度を調整した。

 

そして振動と轟音が耐え難いほど大きくなってきたかと思うと、私たちは背中側から信じがたいほどの力で押し出された。

 

自分の悲鳴が響くのが聞こえる。

 

私たちは、そうして空中に飛び出した。

 

(次回に続く)

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