黄昏の姫と緑の勇者: RTA Any%怪異譚~ミドナが語る『世界線物理学』のミステリー   作:nocomimi

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『怪盗勇者』

「これくらいの落下ダメージは大丈夫さ。もうすぐ必須アイテムを取れるよ」

 

「そういう問題じゃないだろーーーーーーーーー!」

 

飛び降りつつのジャンプ斬りで到達した足場の上で、私とリンクはひとしきり痴話喧嘩のような会話をしていた。すると彼はやがて言った。

 

「ミドナ。信頼してくれ。僕は死ぬようなヘマはしない。必ずザントを倒し、君の国を取り戻す。約束するよ」

 

「ほ....ほんとか?」

 

私は尋ねた。彼は力強く頷く。私は彼の襟首から手を離した。

 

私は、逃れようのない厳然たる事実に気づいていた。

 

―私は、この男を信頼する以外に、選択肢がない。

 

―私ひとりの力では、到底ザントと戦うことはできない。

 

「じゃ.....じゃあ...信頼してやるよ...」

 

私は小さな声で呟いた。だが顔を上げると、彼は既に立ち上がって壁際の扉を開こうとしていた。

 

「お....おい!こういう大事な台詞はちゃんと聞け!」

 

私は慌てて追いかけた。私たちが扉を開けて中に入ると、そこは狭い部屋だった。

 

目の前は壁ではないが、柵で塞がれている。隙間から覗くと、その先には広い空間があるようだったが、柵は頑丈な造りで到底通れそうにない。

 

「まったく....変な場所に出ちゃったじゃないか。どうするんだ?」

 

私は文句を言った。だがリンクは腕にクローショットを嵌めると、柵に向かって狙いをつける。私は呆れて言った。

 

「おいリンク....一体どこに向かって撃つっていうんだ?」

 

「この世界では、見えているものは見えている通りとは限らないんだ」

 

リンクはそう言うと、鉤爪を発射した。鉤爪が柵をすり抜け、向こう側にある何かに引っ掛かったかと思うと、リンクの身体は引っ張られて柵を『通過』した。

 

「おい!」

 

私が彼を追いかけていくと、リンクは柵の向こうの空間の足場に降り立っていた。

 

そこは円筒形の広大な吹き抜けだった。あちこちで強風が吹いている。

 

壁のそこここに紋章がついている。クローショットの爪はこの紋章に引っ掛かったのだ。

 

リンクは再びクローショットを発射して隣の足場に飛び移ると、そこにいた鳥人間の脚を無造作に捕まえた。

 

鳥人間はパニックになり、喚きながら羽をバタつかせたが、リンクは構わず床を蹴って飛び出した。

 

鳥人間の揚力により、リンクは進みつつもゆっくりと落下し、すぐ下の階層に設えられた扉の前に降り立った。リンクは鳥人間を放り捨てると扉を開けて先に進んだ。

 

* * * * * * * * * * * * * * * 

 

「さあ、必須アイテムを取ろう。今回は戦わないよ」

 

部屋に入るとリンクは言った。そこは円形の部屋で、床の真ん中に穴が空いており、その中で巨大なプロペラが回転して風を起こしていた。

 

だが、次の瞬間背後で作動音がした。扉に鉄格子がかかったのだ。

 

「おいおい、強制バトルの雰囲気たっぷりじゃないか。そんな余裕かましていていいのか?」

 

私は意地悪い口調で言った。

 

だが、あることを思い出して、私の笑顔が凍りついた。

 

砂漠の処刑場でもそうだった。

 

彼は、必須アイテムを取るだけ取って、戦闘を回避して脱出したのだ。

 

リンクは答えずに、クローショットを腕に嵌めると、プロペラの上にぶら下がっていた鳥かごのようなものを狙い撃った。たちまち引き寄せられてぶら下がると、彼は私に指示した。

 

「ミドナ、アイアンブーツを履かせてくれ」

 

私がブーツを入れ替えてやると、重みで鳥かごのようなものが引っ張られた。ガチャリと作動音がすると、足の下のプロペラの回転が次第に遅くなり、やがて止まった。

 

私は穴に近づいて覗き込んでみた。どうやら大きな部屋があるようだ。

 

「よし。ブーツを戻してくれ」

 

リンクが言う。指示どおりにしてやると、リンクはいきなりクローショットの鉤爪を開いて飛び降りていった。

 

「おいリンク!」

 

何度経験しても慣れられるものではない。私は叫びながら空中を浮遊して追いかけた。

 

下層に入っていくと、そこは広く四角い部屋で天井も高い。

 

リンクは平然とした顔で床の上に立っていた。

 

「平気だよ。ここでは飛び降りてもダメージを喰らわないことになってる」

 

「わかったよ........もう」

 

私は彼の傍まで来ると諦め顔で言い、周囲を見回した。

 

「で、リンク....必須アイテムってのはどこに?」

 

部屋の三方の壁には、高い所に大穴が空いていて、外に繋がっている。残りの一方の壁には穴は空いておらず、その代わり頑丈そうな柵のかかった小部屋がある。

 

「なるほど、あの小部屋か」

 

私はすぐに感づいた。だが、ふと気づいて彼に尋ねた。

 

「だが魔物はどこにいるんだろうか?」

 

「そこさ」

 

リンクは空中を指さした。

 

振り向いた私は驚いて息を飲んだ。

 

そこには、背中から翼が生え、なおかつ人間のような腕と脚を備えた奴がホバリングしているのが見えた。

 

片手に円盾、片手に剣を持っている。ガーナイルだ。

 

だがリンクは剣を抜くと、誰もいない目の前の空間に向かって四連続斬りを繰り出し、次いで素早く百八十度方向を変えた。そして剣を納めるとクローショットを腕に嵌めた。

 

「お....おいリンク!小部屋には柵がかかってるぞ!」

 

「わかってる」

 

リンクは集中した表情で、小部屋に狙いをつけている。

 

柵はがっしりした作りで、到底抜けられそうにない。

 

だが、私は思い出した。

 

この男は、さっきも柵を抜けた。

 

いや、今まで何度も彼はやってきたのだ。

 

抜けることのできない、いや、『通過を許されていない』場所を抜けることを。

 

私は振り向いて魔物のほうを見た。ガーナイルは舌なめずりしながら、羽ばたきの速度を速めている。

 

いかん。攻撃の前兆だ。

 

だが、リンクを見ると、彼はクローショットの狙いをつけつつも、動かない。目を上げると、小部屋の天井についた紋章の端っこがチラりと柵越しに見えた。

 

あんな小さな標的を狙うのか。ムチャだ。

 

「リ......リンク....!」

 

私は呟いた。だが彼は極度に集中していて私の言葉も聞こえないようだ。

 

ガーナイルの羽ばたきがいよいよ早くなってきた。

 

来る。すぐに。

 

私は魔物のほうを見、そしてリンクを見た。

 

「だ...ダメだ!一旦退避しろ!」

 

私がそう言った瞬間だった。

 

ガーナイルが高度を下げ、突進してきた。

 

それと同時に、リンクがクローショットを発射した。

 

飛び出した鉤爪が、標的に引っ掛かった。リンクはたちまち引っ張り上げられると、小部屋の中に転がり込んだ。

 

「やっ....やった!やったか!」

 

私は彼の傍に降り立つと、その顔を見つめた。彼も笑顔を浮かべて額の汗を拭いた。

 

「ああ。成功した。なんとかね」

 

次の瞬間、私は思わず彼に抱き着いていた。

 

* * * * * * * * * * * *

 

「あ.......いや、これはその...別に、意味はないからな。ただお前の成功を祝ってやっただけであって...」

 

私は我に返ると慌ててリンクから離れた。

 

「わかってるよ。僕は自分の身分くらいわきまえてるつもりさ」

 

リンクはそう言うと、小部屋にあった木箱を開けた。

 

中にはクローショットが入っている。

 

「なるほど、ダブルクローショットというわけだな」

 

「そういうことさ。これも必須アイテムだよ」

 

リンクはそれをインベントリに入れるよう私に指示すると、ゴロリと床に横たわった。

 

「ふう...ハラハラさせられっぱなしだな、今日は」

 

私は苦笑しながらこぼした。リンクは微笑むと、すぐに寝息を立て始めた。

 

私は、手を伸ばしてその頬に触れた。

 

だが、すぐに手を引っ込めた。

 

そんなバカバカしいことがあるだろうか。

 

私が一介の剣士に惹かれるなど、あるはずがない。

 

私は首を振ると、自分も床に横になった。

 

* * * * * * * * * * * * * * * 

 

気が付くと、私たちは『セーブリセット』の効果により別の部屋に『転移』していた。

 

周囲を見ると、どうやら鍵を手に入れるために立ち寄った部屋だ。私たちはその奥にある足場の上にいた。

 

「さあ、行こう」

 

リンクは早くも立ち上がると、サイドホップして木箱の開いた蓋の上に器用に乗り、跳躍して手すりに立つと、そこからジャンプ斬りを繰り出して吹き抜けの縁に降り立った。

 

「なあリンク、さっき言ってた『二割違う』ってこれのことだったのか?」

 

扉を開けるリンクに声を掛けると、彼は答えた。

 

「その通りさ。このダンジョンだけ、セーブリセットで戻される地点が変わることがある。さっきトリガーを回避した影響でね」

 

向こう側に出ると、リンクは渡り廊下をダッシュして通過し、今度はそのままバルコニーに入った。間隙の手前でクローショットを発射して、出窓の下に飛び付くと、彼は建物の中に潜り込んだ。

 

* * * * * * * * * * * * * * 

 

出窓から飛び降りると、リンクはあちこちが崩れ落ちた床の上を疾走し始めた。

 

もはや、文句を言っても仕方がないと理解し始めていた私は、何も言わずついていった。

 

やがてリンクは床の硬いフロアの中央あたりに辿りついた。

 

そこには、兜豚の大型版がまだ徘徊していた。リンクを見咎めると、向きを変えて威嚇の声を上げる。豚のような声であまり怖くはなかったが。

 

だが、リンクはクローショットを手近の円柱に向けて発射した。豚が攻撃してくる頃には、彼は円柱の蔦に飛び付いていた。

 

その円柱は、上の部分が崩落して平らになっている。リンクは円柱をよじ登ってその上に立つと、天井に開いた穴にクローショットの狙いを付けて撃った。

 

穴の中にわずかに生えていた蔦に、鉤爪が引っ掛かる。たちまちリンクは引っ張り上げられた。そこをよじ登ると、上層階に到着した。

 

停止したプロペラの穴を囲むように狭い通路がしつらえられている。だが兜豚もそこに放たれていた。

 

リンクは敵が襲ってくる前に、天井に向けてクローショットを撃った。その部屋の天井は金網でできており、鉤爪がかかるとすぐにリンクは引き上げられた。

 

リンクはクローショットの鎖を伸ばすと私に言った。

 

「ミドナ、ダブルクローショットを。ここが使いどころさ」

 

「わかった」

 

私はもう一つのクローショットを取り出して彼の左手に嵌めた。リンクは集中した様子でそのクローショットの狙いを付け始めた。

 

狙っている箇所は、金網に開いた小さな四角い穴だ。

 

「おい...こんなところを抜けるつもりか?」

 

私は尋ねたが、言ってみて愚問だと気づいた。

 

この男はどんな小さな穴も抜ける。

 

いや、なんなら穴がなくたって抜けるくらいなのだから。

 

リンクはダブルクローショットを発射した。飛び出した鉤爪が、四角い穴を抜け、その先にあった何かに引っ掛かり、たちまち引き上げられたリンクが視界から消えた。

 

「おおい、待ってくれ」

 

私は慌てて浮上し、追いかけた。見ると、リンクはさらに上の階層の天井についた金網からぶら下がっていた。

 

「クローショットを預かってくれ。ジャンプ斬りで降りるから」

 

彼はそう言った。私がダブルクローショットを預かると、彼は飛び降りながら剣を抜いて振り、足元の穴の少し先に着地した。

 

「見事なものだな、リンク」

 

「おほめに預かって光栄だよ。まともに攻略すると一日仕事だからね、ここは」

 

思わず私が言うとリンクは軽く会釈して答えた。

 

だが、周囲を見回すと二匹ほど兜豚の巨大版がうろついている。そいつらが見咎めて襲ってきたが、リンクは身軽に回避し、部屋の隅にあった木箱を開けて中身を回収すると、金網の穴から下に飛び降りた。

 

「ボス部屋の鍵さ」

 

着地した彼はクローショットで天井の金網に狙いをつけながら言った。

 

「ボスか.....ここも大物なのか?」

 

「ああ。かなりの大物だよ」

 

私が聞くと、リンクはクローショットを撃って天井に飛び付きながら答えた。

 

「だけど、お前だったらチョロいもんだろ?」

 

「まあね」

 

リンクはクローショットの鎖を伸ばして下に降りていく。おしゃべりしながら下の部屋に降り立つと、兜豚の巨大版が襲ってきたが、リンクはそれを身軽に躱して北の扉に向かっていった。

 

だが、私は扉の上方の天井に先ほど見かけた鳥かご型のスイッチがついているのを見つけた。

 

「リンク、あのスイッチを作動させなくていいのか?」

 

「よく気づいたねミドナ」

 

リンクは北側の扉を開けながら言った。

 

「本来なら必要さ。だがなくても行ける。説明するよ」

 

* * * * * * * * * * * * * * 

 

向こう側は狭いバルコニーだった。遠くにはもうひとつ別の棟が浮いている。

 

そして、今いる建物の上方からその棟に向けて細長い棒が渡されていて、その下に巨大な板がいくつもぶら下がっていた。

 

板の表面には金網が張ってあった。クローショットが引っ掛かるのだろう。

 

「本来なら、この巨大な板を回転させなければ、あの棟には移動できないんだ...だが...」

 

「だが...?」

 

「....僕には必要ない」

 

リンクはそう言って微笑んだ。彼は振り向くと、今いる建物の壁につけられた金網にクローショットを撃ち、そこに飛び付いた。

 

そして、上からぶら下がっている板を狙ってもう一つのクローショットを撃つ。飛び移ると、彼は狭い板の上にバランスをとって立った。だが眼下は雲海だ。

 

「またムチャを....」

 

私は溜め息をついた。しかも、周囲には狂暴なカーゴロックが何羽も飛び回っている。見つかったら確実に攻撃されるだろう。

 

だがもう文句を言う気にもなれない。浮遊しながらついていくと、彼はそうやって板を次々と飛び移っていき、とうとう対岸の棟のバルコニーに辿り着いた。

 

「ボスまでもうすぐさ」

 

彼は私にウィンクすると、扉を開けて中に入った。

 

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * 

 

そこは巨大な円筒形の部屋だった。だが内部に入った途端、聞き覚えのある羽音が聞こえてきた。

 

嫌な予感がして目を上げると、上空には先ほどアイテム部屋で遭遇した魔物がいる。

 

ガーナイルだ。 

 

しかも二匹いた。

 

「くそっ...まずいな。これは素通りってわけにいかないんじゃないのか?」

 

私は呟いた。

 

「いや、素通りしよう」

 

リンクは事も無げに言う。私は仰天して目を剥いた。

 

だがリンクは振り向くと、入り口扉の上の円形の金網を狙い撃って飛び付いた。

 

「お...おい!素通りって...相手が見逃してくれるわけないだろ!」

 

だがリンクは平然とした顔で、ダブルクローショットの狙いをつけていた。その視線の先を辿ると、先ほど渡ってきたのと同様の、金網を張った四角い板が天井からぶら下がっている。

 

リンクはその金網を狙って撃った。そうして四角い板に飛び移り、壁に設置されたクリスタルスイッチを撃つと、板がゆっくりと回転し始めた。

 

「彼らは紳士だよ。こちらから攻撃しなければ、向こうから攻撃してくることはないんだ」

 

リンクはさらに上方にあった板を狙いながら静かに言う。私は目を白黒させながら、彼の顔とガーナイルたちを見比べた。

 

そうこうしているうちに、リンクは回転する板を次々と飛び移りながら部屋の最上部に辿り着いた。そこには巨大な扉があった。

 

扉の前に降り立つと、彼はボス部屋の鍵を取り出して錠前にさし込んだ。するとロックが解除され、彼は扉を押し上げて向こう側に出た。

 

* * * * * * * * * * * * * 

 

そこはバルコニーだった。リンクは壁に生えていた蔦をクローショットで狙い撃ち、飛び移った。

 

蔦を掴んで登っていくと、やがて私たちは広大な屋上庭園に出た。

 

手入れされておらず一面に雑草が生えている中に、ところどころ奇妙な木の実が地面から顔を出して埋まっている。

 

「プラペロの実さ。雨が降ると発芽して空中を浮遊し始めるんだ」

 

リンクは庭園を見回す私に言った。

 

庭園の外縁近くには、四ヶ所に高い柱が立っている。その内側には一面に金網が張られている。

 

「で...ここのボスはどんな奴なんだ?」

 

「知りたいかい?聞いたら驚くぞ」

 

私が尋ねるとリンクはいたずらっぽく笑った。

 

「もったいぶらずに教えろ。私はもうちょっとのことじゃ驚かないぞ」

 

「じゃあ言うよ...」

 

リンクは一呼吸置くと言った。

 

「竜さ。それも巨大な奴だよ」

 

(次回に続く)

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