黄昏の姫と緑の勇者: RTA Any%怪異譚~ミドナが語る『世界線物理学』のミステリー   作:nocomimi

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『三度繰り返せば終了』

「リンク、ここのボスはどんな奴なんだ?」

 

私は広大な屋上庭園を見回しながら尋ねた。

 

「知りたいかい?聞いたら驚くぞ」

 

リンクはいたずらっぽく笑った。

 

「もったいぶらずに教えろ。私はちょっとのことじゃ驚かないぞ」

 

「じゃあ言うよ...」

 

リンクは一呼吸置くと言った。

 

「竜さ。それも巨大な奴だよ」

 

「なッ............竜...だとぉ?」

 

私は面食らって聞き返した。

 

「竜...って言えば魔物の中でも最強クラスじゃないか。お前...なんでそんなに平然としてられるんだ?」

 

だがリンクは相変わらず平静な表情だった。だが不安になってきた私は周囲を見回した。

 

天候が悪化している。さっきまでは空が晴れ渡っていたのに、いつのまにか雲が立ち込めていて今にも雨が降りそうだ。

 

「リ....リンク。作戦はあるのか?」

 

「ああ。まずクローショットで奴の尻尾の金具に飛び付く。そのタイミングでアイアンブーツを履かせてくれ。それで奴を地面に叩きつける。そして奴が怒って上昇したら、今度はダブルクローショットであの柱に登る。その頃にはプラペロの実が浮上しているから、それを伝って奴の後ろに回りこみ、背中についた宝玉の縁に飛び付いて一撃を加える」

 

リンクはまるで百回練習して来たかのような口調でスラスラと答えた。

 

「お......お前.....本当は....何者なんだ?」

 

困惑しきった私は思わず尋ねた。

 

だがリンクは答えた。

 

「僕はトアル村の農夫さ。山羊追いもやるけどね」

 

私は返す言葉が思いつかなかった。だが、そうこうしているうちに急激に天気が悪くなってきた。雨がポツポツと降り始めている。

 

その時、遠くから巨大な獣の吼える声が聞こえた。

 

「で....出たか...!」

 

私は身構えた。それと同時に、その声に聞き覚えがあったことを思い出した。

 

「おいリンク、この声ってもしかして...」

 

「ああ。僕らが到着したときもわざわざ出迎えてくれたよ。律儀な奴だよ」

 

記憶が蘇った。あの時は気分が悪くてよく見なかったが、プールに浮いていた私たちの頭上を巨大な獣が通り過ぎていったのだ。

 

「大物も大物ってわけか。クソっ...楽しみだな」

 

私は強がって言った。だが、内心では恐怖で震えが来ていた。

 

その時吼え声が急速に近づいてきた。

 

目を上げた私は、驚きに顔がこわばった。

 

巨大な翼、禍々しい牙の生えた口、長くうねる尻尾。

 

しかも、よく見ると、身体中に黒光りする鎧を身に着けている。ご丁寧にも、ザントが仕立ててやったのだろう。

 

―こんな奴と戦うのか。

 

私の心は折れそうになっていた。

 

そいつは、上空でホバリングしながら小馬鹿にするようにこちらを睥睨していた。

 

するとリンクはやおらクローショットの狙いを上げ、発射した。たちまち鉤爪が飛び出し、竜の尻尾の先端についていた衝角のような金具に引っ掛かった。

 

リンクはたちまち引き上げられていった。

 

「おいリン..........」

 

「ミドナ、アイアンブーツを!」

 

ついていけていない私が何かを言う前にリンクが叫んだ。

 

私は慌てて彼のブーツを入れ替えた。すると、凄まじい重量が突然尻尾にかけられ、竜はたまらず失速して庭園に墜落した。

 

巨体が地面に叩きつけられ地響きがする。その鎧が砕け散った。

 

「ミドナ、戻してくれ!」

 

リンクが叫ぶ。竜が身体を捩らせながら立ち上がる。私がリンクのブーツを戻すと、彼は素早く飛び退いて、柱に向かってクローショットを撃った。金網に爪がかかり、リンクはたちまち柱に引き上げられた。

 

同時に竜が飛び立つ。だが、リンクは振り向くとダブルクローショットの狙いを相手につけて放った。飛び出した鉤爪が竜の尻尾に引っ掛かり、リンクは再び引き上げられた。

 

「ミドナ!」

 

合図で我に返った私は彼のブーツを入れ替えた。竜の尻尾がひとたまりもなく引っ張られ、たちまち墜落していく。

 

地面に叩きつけられた竜は、怒りの唸りを発しながら首を上げた。リンクが再び合図し、私がブーツを戻してやると彼は相手から飛び退いて庭園の隅まで走ってきた。

 

竜は羽ばたいて飛び立つと、激しく吼え、滞空しながら身体を激しく揺すり始めた。身体にまとわりついていた鎧の破片がたちまち周囲に振り飛ばされ、庭園の地面に次々と落ちてきた。

 

竜は激怒しているのが明らかだった。彼が二つの羽を思い切り羽ばたかせると強烈な風が吹き付けてきた。私は思わず風圧でよろめいた。

 

ひとしきり吼えると、竜はやがて庭園の上空を円を描くように飛び始めた。

 

もはや天候は大荒れだ。雨は大粒になって降り注いでいる。するとリンクが言っていたとおり、各所に埋められた奇妙な形のプラペロの実から出た葉っぱが回転し始めた。

 

プラペロの実は浮上して地面から出ると、庭園の上空に留まった。

 

「あいつは戦闘に慣れていない。何よりも、自分より小さな者を見くびってる。戦い方でわかるよ」

 

リンクは柱の影に身を寄せて竜を観察しながら静かに呟いた。

 

「そ...そうなのか?」

 

私はまだ半信半疑だった。だがリンクの横顔を見ると、そこには確信と、冷静さと、決意のみが浮かんでる。

 

「僕を信じてくれ。あんな奴にやられることはない」

 

リンクは私を見ると微笑んだ。私は小さな声で答えた。

 

「わ...わかったよ.....」

 

旋回してきた竜は、脚の爪を出しながら低空で庭園の上をかすめた。爪と床材が火花を散らす。だが、こちらの位置を正確に把握していないのか、彼はそのまま飛び去っていった。

 

リンクは物陰から飛び出すと、高い柱に向けてクローショットを撃った。引き上げられると、今度は隣の柱に向けてダブルクローショットを撃つ。そうして頂上近くに到達すると、丁度竜がこちらに戻ってきた。

 

竜は私たちの前で滞空し、一声吠えると、大きく喉を膨らませながら頭を上に向けた。

 

「か.......火炎放射が来るぞ!」

 

私は叫んだ。リンクは少し上方を浮遊していた木の実を狙ってクローショットを撃った。私は咄嗟にリンクにしがみついた。

 

私たちが飛び移った瞬間に竜の口から火炎が放たれた。さっきまで居た場所が炎に包まれる。

 

クローショットで木の実にぶら下がりながら、リンクは一つ隣を浮遊するプロペラの木の実をダブルクローショットで狙い撃った。

 

見ると、同じ高さには円を描くような配置で木の実が多数浮遊している。

 

リンクは次々と木の実を移動していった。さすがの竜も、高速で木の実の間を移動する彼の姿を追尾し切れなくなったらしい。

 

竜が火炎放射をやめて辺りを見回し始めたときには、私たちは相手の背後に位置するプロペラの木の実にぶら下がっていた。

 

初めて竜の背中が見えた。そこに金属の枠に嵌め込まれた大きな宝玉が光っている。

 

クローショットを向けると、リンクは宝玉目掛けて撃った。鉤爪が飛び、その枠に引っ掛かる。リンクは一気に竜の背中に飛び付いた。クローショットを手放すと、彼は左手で宝玉の金枠を掴んで右手で剣を抜いた。私は素早くクローショットを回収した。 

 

リンクは剣を思い切り振るって宝玉に斬りつけた。何度も剣を叩きつけると、破壊音がして宝玉に亀裂が走る。

 

竜は苦痛の吠え声を上げてのたうち回り、羽をばたつかせて暴れた末、落下し始めた。リンクは剣を背中に納めると両手で竜の背中の宝玉の枠にしがみついた。私もまたリンクにしっかりと掴まった。

 

竜が眼下の庭園に墜落していく。だが、羽を広げていたのが落下速度を弱めた。竜が広場にバサリと落ちると、リンクはその背から飛び降りた。

 

予想通り、竜はすぐ立ち直って再び羽ばたき上昇した。 

 

「この三度繰り返しさ。簡単だろ?」

 

リンクは庭園の端の柱に走り寄りながら私に微笑みかけた。

 

私は背筋が寒くなった。

 

―この男は何を言っているのだろう?

 

―竜を相手にした命がけの戦いの最中に?

 

だがリンクは手近の柱を見上げるとそれに向けてクローショットを撃った。そして二本の柱に交互に飛び移り、頂上によじ登る。すると竜もこちらに戻ってきていた。

 

竜は庭園の上空でホバリングしながら、咆哮を上げて頭を持ち上げた。リンクは横に浮遊していた木の実をクローショットで狙い撃って飛び付いた。

 

凄まじい炎の熱が近くを通り過ぎるのが感じられた。さっきまでいた柱の頂上を炎が包んで焦がしている。 

 

リンクはさらに隣の木の実にクローショットで飛び移り、そこから次々と木の実を移動していった。またも獲物を取り逃がしたことに気づいた竜は火炎放射を止めた。だがその頃には私たちは竜の背後に位置する木の実の下にぶら下がっていた。

 

竜の背中に向けてクローショットを放つ。私たちはたちまち引き寄せられた。

 

リンクは竜の背に左手でしがみつき、剣を抜くと宝玉に痛烈な打撃を与えた。一度。二度。三度。四度。切っ先が金属の枠に当たって火花が散る一方で刀身が宝玉に強い衝撃を与え、先刻の攻撃で生じた亀裂が広がっていった。

 

竜は苦痛と怒りの咆哮を上げ、どうにか私たちを振り落とそうともがいた。だがリンクは剣を納めて両手でその背中にしがみついた。竜は身悶えしながら高度を下げると、庭園の地面に不時着し、身体をバタバタと引っ繰り返した。リンクはその背から飛び降りて転がり、竜から距離を置いた。

 

「ラスト一回だ。もう少し短縮する方法が見つかればいいんだけどね」

 

リンクは呟くように言う。私は混乱と恐怖と驚愕に満たされながら彼の肩にしがみつくしかなかった。

 

リンクはダブルクローショットを使ってジグザグに柱の間を移動してき、柱の天辺に近くに取り付くと頂上によじ登った。

 

いっぽう竜は怒り心頭の様子で急速にこちらに飛んで来ると、一声咆哮を上げ、柱の頂上近くでホバリングしながら首を膨らませ頭を大きく上げた。

 

リンクが木の実をクローショットで撃って飛び移った。竜の口から迸る炎の奔流が体をかすめる。竜はこちらの動きを察知し、身体を横に回しながら炎の方向を変えてきた。木の実にぶら下がっていてもあっという間に炎が迫ってくる。

 

「ミドナ、アイアンブーツを」

 

リンクが言った。私は我に返ってブーツを入れ替えた。すると木の実が高度を落とし、火炎が頭上を過ぎていく。

 

リンクがまた合図した。私がブーツを元に戻すと、彼は上昇しながら隣のプラペロの木の実目掛けてクローショットを撃った。そして、さらにその隣へと次々に移動していった。

 

その時、竜が突然火炎放射を止めた。羽ばたきしながら身体をぐるりと横に回したかと思うと、自分の真後ろに方向を変えて再び頭を持ち上げた。

 

こちらが背後に回ろうとしているのに気づいたのだ。

 

「想定済みさ。爬虫類の頭で思いつくことなんてタカが知れてるよ」

 

私の心を読んだのか、リンクが嘲笑うように言う。竜が私たちの進もうとしていた先の空間に強烈な火炎放射を始めると同時に、リンクは自分も方向を変えてたった今離れたばかりの木の実に向けてクローショットを撃って飛び移った。

 

プラペロの木の実をクローショットで撃ち、次々と元の方向に飛び移っていく。空には雷鳴が轟き、雨がますます激しくなっていった。

 

竜はとうとう私たちの位置を失ったと見えた。私たちが竜の真後ろの木の実に到達したとき、竜は火炎放射を止めた。

 

リンクは顔を後ろに振り向け、クローショットで竜の背中を狙って撃った。飛び出した鉤爪が引っ掛かり、たちまち私たちは相手の背に飛び付いた。

 

「終わりだ」

 

リンクは両脚で竜の背の上に立つと、両手で剣を逆手に持ち宝玉の亀裂に向かって一息に突き立てた。宝玉が損傷に耐え切れず真っ二つに割れた。

 

竜は激しい苦痛の叫び声を上げた。そして首を左右に振りながら高度を上げ、それから突然急降下し始めた。

 

リンクは剣を納めるとその背中にしがみついた。眼下の庭がぐんぐん近づいてくる。

 

竜が激突する寸前に針路を変え床すれすれに飛び始めたとき、リンクはその背から飛び降り、草むらの上に転がった。彼にしがみついていた私も一緒だった。

 

竜は羽ばたくと再び上昇した。だがその軌道は瀕死の蛾のように心もとない。最後の力を振り絞った竜が空中でひときわ高い断末魔の叫び声を上げ、口から炎を吐き出した。すると、次の瞬間突然その体が爆発するように崩れ始めた。

 

上空でバラバラになった竜の遺骸の中から何かが飛び出してきた。

 

「あれは....陰りの鏡の破片だ!」

 

私は気づくと、すぐに空中に飛んでいき、竜の遺骸の残滓の中から出てきた黒い破片をキャッチした。 

 

魔物の身体の破片はもはや紙を燃やした灰のように細かくなって、屋上庭園に降り注いでいた。

 

あれほど激しかった雷雨がいつの間にか嘘のように止み、空に晴れ間が広がりはじめている。

 

私はリンクのほうに戻っていくと言った。

 

「やったなリンク。これで陰りの鏡の破片が全て揃った」

 

だが、そう言った瞬間に私は違和感に固まった。

 

―全て揃った?

 

いかん。また世界線が混線しているのだ。

 

(次回に続く)

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