黄昏の姫と緑の勇者: RTA Any%怪異譚~ミドナが語る『世界線物理学』のミステリー 作:nocomimi
『超特急男』
「なあ...リンク」
「なんだい、ミドナ?」
竜を倒した私たちは、天空都市に来た時に着水したプールの南側の廊下にワープし、歩き始めた。
「私はさっき『陰りの鏡の破片が揃った』って言ったよな?でも、実際にはこれは最初に手に入れた破片だし....それにお前は以前、雪山の廃墟にも破片があるって言ってたろ?てことは、やっぱり破片は揃ってないのか?」
「いいや、揃ってるよ」
私が尋ねるとリンクは言った。
「で...でも、まだ手元には一つしかないじゃないか」
「いや、揃ってる。インベントリを見てごらんよ」
リンクがそう言うので、私は自分の魔法空間を確認してみた。
陰りの鏡の破片が、三つある。
私は、唖然とし、背筋が寒くなり、そして猛烈に汗が出てきた。
どう考えても、おかしい。
「なッ...これ.....って....いったい...?」
「ほら、揃ってるだろ?これを砂漠の処刑場に持っていけば鏡が発動するよ」
「いや....でも....」
リンクは平然と言うが私は信じられなかった。
「いったい...いつの間に?それとも、リンク、お前が私の知らないうちに?」
「そんな面倒なことはしないよ。とにかく揃ったんだからよかったじゃないか」
リンクは笑う。だが、私はまるで『ガスライティング』を仕掛けられているような気がした。
私の気が狂ってしまったのだろうか?それともリンクが嘘をついているのだろうか?
するとリンクは付け加えた。
「これは『トリガー』みたいなものさ。天空都市を攻略し鏡の破片を手に入れると、全ての破片を手に入れた世界線に『移行』する仕組みなんだ」
「わ......私には全く........意味がわからない......」
「とにかく大丈夫だよ。君は気にしなくていい」
私が辛うじて呟くとリンクは笑顔で応じた。
「ああ。そう言えば、影の結晶石もそうだ。湖底の神殿を攻略した時点で、三つの影の結晶石を手に入れたことになる」
思い出したようにリンクが言う。私はもう一度自分の魔法空間を確認した。
ある。
やはり、三つとも。
私は、自分の望んでいたものを手に入れた喜びよりも、現実感覚のなさと自分自身への不信感で酷いめまいを感じた。
「ミドナ、それより早く地表に帰らないと」
リンクが言うので私は我に返った。
「....そ...そうか。どうやって帰るんだ?」
「この大砲さ」
リンクは廊下の終端の広場にあった機械物を指し示した。
ここに来るときに使ったのと同じような巨大な大砲だ。
「..............た....大砲?」
私は呟くと、急に嫌な思い出が蘇ってきた。
「じょ....冗談だよな?もっと文化的な方法があるはずだろ?パラシュートとか...」
「ないよ。これで帰るしかないんだ」
リンクは冷たく言った。だが私は食い下がった。
「い...いや。私は乗らないぞ。あんな乱暴な乗り物、一国の王女が乗るようなものじゃあない。絶対に断る」
「わがままを言わないでくれ。さあ」
リンクは私をむんずと掴むと、クローショットを構えて大砲の尾部を狙い撃った。私たちは引き寄せられ、装填部から大砲の中に転がり込むかたちになった。
「やめてぇ~~~~!ひと56し~~~~!4ぬ~~~~!」
私の悲鳴が虚しく響くなか、大砲が激しい振動音とともに起動し始め、やがて私たちは空中に撃ち出された。
* * * * * * * * * *
私たちはハイリア湖に着水した。私が力なく彼の背中にしがみついていると、リンクは岸に登って大砲小屋の前を通り過ぎ、中州から伸びる桟橋の柵の影に身を寄せた。
「ミドナ、砂漠の処刑場にワープだ」
「わ...わかった」
私はグロッキー気味だったが、何とか彼を変身させてワープを開始した。
数秒後、私たちは砂漠の処刑場の広場に降り立った。
すると、またもや奇妙なことが起こっていた。
女神像がなくなっている。
そして、その跡には台座が出現していて、その上には大きな鏡が立てられていた。
ただし、割れていて四分の一しか残っていない。
そして鏡の正面には、巨大な岩盤が砂地に突き刺さっている。
「こ......これは一体....?」
だが、私がリンクを見上げた瞬間、彼の目が光った。
すると、もう一度不思議なことが起こった。
いつの間にか、台座の上の鏡が修復されている。持ってきた三つの破片が綺麗に嵌め込まれているのだ。
そして、いまや鏡は不思議な光線を発しており、その光線が岩盤に照射されることで円形の文様がその表面に浮かび上がっていた。
リンクが唸る。私は意図を察して彼を人間に戻した。服装を整えると彼は促した。
「さあ、行こう」
「だけど、リンク。い...一体なにが起こっているんだ?」
私は混乱のあまり首を振った。
「『スキップ』さ。ここでポータルを開いたとき君に『おあずけ』を喰らわせたのはこれが理由なんだ。本来なら鏡を取り出すために長々しい手順を踏まなければならないけど、このやり方なら省略できる」
私には彼の言っていることが全く理解できなかった。だが、私とリンクは鏡の前に立った。すると、すぐに私たちは岩盤の中に吸い込まれていった。
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数秒経つと、私たちは別の場所にいた。
目を上げると、空は紫ともオレンジともつかない美しい色に染まっている。遠くまで続く視界には地平線も水平線も見えない。ただただ同じ空が続いているだけだ。そしてその空のところどころには黒い雲が漂っている。
影の王国に帰ってきたのだ。
立っている場所は石造りの床で、前方には巨大な建物が三つ聳え立っていた。東西執務棟と王宮だ。
私はなつかしさに胸が一杯になった。
だがそれと同時に懸念が襲ってきた。
いまの自分の醜い姿を、民に見られたくない。
「リンク、最後のわがままを聞いてくれないか?」
私はリンクを見上げると言った。
「私は一度民を見捨ててここを逃げ出したんだ。それなのに私を慕ってくれた民は今もザントの圧政の下で苦しみながら助けを待ってる。それで助けに来たのがこんな怪物のような姿だったら彼らもがっかりするだろ?」
私は続けた。
「ザントの奴を倒せば、この呪いは消える。私は元の姿に戻れる。だからそれまでの間、私はお前の影だってことにしておきたいんだ。いいだろ?」
「わかったよ、ミドナ」
リンクは頷く。私はホッとした。
建物のほうに進んでいくと、野外広場に着いた。周囲に何人かの人影が見える。
だが様子がおかしい。皆が皆、真っ黒な身体をし、ぼうぼうの長い髪の毛に平らな面をつけている。
影の使者のようにも見えるが、少し違う。
私は慌てて言った。
「リンク、待て!手を出すな!あいつらはまだ人の心を無くしていないはずだ!」
私たちが近づいていっても、彼らはただ佇立しているだけで、こちらに興味も示していなかった。どうやら洗脳と変身の過程がうまくいかずザントに放り出されたらしい。
「私はザントを許さない。絶対に」
私は激しい怒りを込めて呟いた。するとリンクがおずおずと言った。
「ミドナ....あのさ、申し訳ないんだけど...」
「なんだリンク?」
私はリンクを見た。
「このダンジョンは抜け道がないんだ。だから超特急でいきたい」
それを聞いた私は噴き出した。
「お前はいつだって超特急じゃないか。いつもと何が違うんだ?」
「基本、走りっぱなしで行こう」
リンクは言うが早いが、ダッシュし始めた。私は慌ててついていった。
右手の執務棟に向かっている。リンクは前転を繰り返し、道なりに進んでたちまち扉の前に着いた。扉が自動で開く。慌てて追いついた私と一緒に、リンクは建物に飛び込んだ。
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建物の内部は細長い執務室だ。
リンクは、下り傾斜のつけられた床を転がるように疾走して奥に進んだ。
部屋の内部には、ザントが植えたのか、そこここにデクババが生えていて、さらに蝙蝠も飛び回っている。だがリンクはそれらを避けながら身軽に進んでいく。
すると、部屋の奥に何者かが現れた。
まるで、ザントが被っている兜を大型化したもののようだ。
私は叫んだ。
「
だがリンクは相手にジャンプ斬りを叩きつけ、着地するが早いが回転斬りを放ってそれを屠った。
すると、部屋の奥にある段差の窪みから光が発せられ始め、そこに木の箱が姿を現した。近づいて蓋を開けてみると、中には金属の鍵が入っていた。
リンクは鍵を回収すると、クローショットを腕に嵌めて、段差の向こうの壁に向けて撃った。壁に設置されていた灯篭に鉤爪がかかると、彼は飛び移って段差の上に降り立った。
段差の上の奥には扉があった。だが、鎖がかけられ錠前で閉じられている。しかし、鍵を錠に差し込み捻ると錠が開き、鎖が床に落ちた。
扉は自動で開き、私たちは向こうに出た。
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扉を抜けると、リンクはいきなりダッシュして目の前の段差を飛び降りた。
だが、下のフロアには黒い霧のようなものが広がっている。私は嫌な予感がして、リンクに警告しようと口を開いた。
だが遅かった。リンクが霧の中に入ると、たちまちその姿が狼に変わってしまった。私は慌てて彼の装備を回収すると、彼の背中に乗った。
同時に、霧の中に
だが狼リンクは躊躇うことなく敵に襲い掛かって打撃を加えると私に合図した。私がすかさず結界を出し、
敵が倒れると、リンクは部屋の奥に進んで霧の向こう側に出た。私は彼を人間に戻して忠告した。
「リンク、気を付けな。この霧の中では光の者ではいられないよ」
「『この黒い霧はザントが魔力で造り出した影の結晶』........なんだろ?」
リンクはそう言いながら、部屋の奥にある段差の窪みに出現した木の箱を開けて、中から鍵を取り出した。
私は驚愕し、背筋が寒くなった。
「ど........どうして私が次に言おうとしていることを?」
リンクは答えずに鍵を仕舞うと、横っ飛びして木の箱の蓋の上に立ち、そこから跳躍してジャンプ斬りを繰り出し段差の上に乗った。
「お.......おい、待て!」
リンクは段差の上の奥に進み、扉にかけられた錠前を鍵で開けると、扉を開けて先に進んだ。私は慌ててついていった。
* * * * * * * * * * * * * * *
次の部屋に入ると、背後の扉に自動で格子がかけられた。
だがリンクは気にする様子もなく剣を抜くと、ここでもいきなりダッシュして目の前の段差を飛び降りた。
ここは大会議室だ。だが、進んでいくリンクを追いながらも、私の目には部屋の奥にある巨大な手の形のオブジェが映った。その手の中に光る球体が握られている。
ソルだ。この世界のエネルギー源だ。
私は嫌な予感がした。
だが、リンクが部屋の中央に飛び込んでいくと、兜を被り寛衣を着た男が空中に現れた。
ザント。だがその姿は半透明だった。幻影なのだ。
「ファントムザントだ!実体と同じように攻撃してくるぞ!」
私は警告したが、リンクは勝手知ったる様子でそいつに走り寄っていった。
ファントムザントは両手を高く掲げ、今にも魔法を発動させようとしている。だがリンクが一瞬早く到達すると、強烈な三連突きを喰らわせた。
ザントは幻影ながらも苦し気な声を上げる。
リンクは彼にクルリと背を向けた。不思議に思った私が見ていると、リンクは部屋の中央に走っていく。同時に、ファントムザントが姿を消した。
だが、部屋の別の場所にファントムザントが出現すると、リンクはすかさず走り寄って同じように三連突きを喰らわす。
まるで、リンクは敵がどこに出現するかを知っているかのようだった。
ファントムザントはあちこち出現場所を変えたが、結局一度も魔法を発動させることなく攻撃を喰らい続けた。彼はとうとう力を失ったようによろめくと、ガックリとうなだれた。
だが、次の瞬間最後の力を振り絞るようにもう一度気合いを発すると、大量の黒い霧を生じさせて姿を消した。
* * * * * * * * * * * * *
リンクは剣を納めると、黒い霧をかすめるように前転しながら部屋の奥に進んで言った。
私は、リンクにソルのことを説明しようと口を開いた。だがその瞬間に、リンクはクローショットを腕に嵌めてソルを狙い撃った。
一発目で、手のオブジェが開いてソルを取り落とす。間髪を入れず放たれた二発目で、ソルが引き寄せられてリンクはそれを抱え上げた。リンクは踵を返すと部屋の中央に走り始めた。すると黒い霧がたちまち退いていく。
「リンク....!そのソルは...!」
私が口を開くと彼は叫んだ。
「知ってる!」
リンクはソルを部屋の中央に投げ落とす。同時に、巨大な手が不気味な音を立てて浮上し始めた。
ソルが部屋中央の窪みに嵌ると、目の前にたちまち階段がせり上がってきた。
小さな雑魚魔物たちも出現して襲い掛かってきたが、リンクはそれを避けて階段を駆け登った。
登り切ったところで振り向いてクローショットを撃つ。するとソルが引き寄せられ、リンクはそれを抱えて出口に走り、扉の前に立った。扉が自動で開く。だが、巨大な手も空中を移動して追いかけてきた。
* * * * * * * * * * * *
扉の向こう側に出て段差を降りると、リンクは迷うことなく左側に寄り、部屋の中央に向けてソルを放り投げた。
背後では、巨大な手が扉を通過して迫ってきていた。私はハラハラしながら見ていたが、やがて思い出した。
この部屋には隠し階段と通路がある。ソルを嵌めればそれがせり上がってくるのだ。
果たしてソルが床の中央の穴に嵌ると、私たちが立っていた床が高く持ち上げられた。
リンクは現れた通路をダッシュした。段差を乗り越え、小物魔物たちを回避し、振り返ると、眼下の床の穴に嵌ったソルを狙ってクローショットを撃つ。
ソルはたちまち引き寄せられ、リンクはそれを抱えて出口に向け走った。
* * * * * * * * * * * * * *
リンクは最後の部屋でもソルを抱えたままデクババと蝙蝠を難なく回避し、外に出た。
すると、出口の脇に立っていた人影が悲鳴のような声を上げた。
私がびっくりして目をやると、どうやら影の使者への変身が中途半端なまま放り出された奴らしい。
その男が次第に元の人間の姿に戻っていく。
「良かった....ソルのおかげで呪いが解けたんだ」
私がホッとしてリンクを見ると、彼は既にいなかった。見ると、野外広場の方に向かって走っている。
「お...おい!待てよ!」
私が追いかけると、リンクは野外広場の中央に設置された穴にソルを嵌め込んだところだった。
「お....お前、もしかしてソルの使い方知ってるのか?」
やっとのことで追いついた私が言うとリンクは頷いた。
「ああ。知ってる」
窪みに嵌ったソルからエネルギーが伝達され、広場の反対側にある非常用リフトが作動したのがわかった。
「い....いったい、ど...どこで?」
私は尋ねたが彼は答えずに走り出すと、リフトの上に乗った。
「超特急で行きたいんだ、ミドナ。話しは後でしよう」
(次回に続く)