黄昏の姫と緑の勇者: RTA Any%怪異譚~ミドナが語る『世界線物理学』のミステリー 作:nocomimi
「いよいよだな....」
「ああ。いよいよだ」
王の間の重々しい扉にかけられた錠前に鍵を差し込むと、錠が開いて鎖が落ちた。
私たちは顔を見合わせると、扉を開けて前進した。
リンクはダッシュし王の玉座の前に通じる階段を駆け登る。私も後に続いた。
そして見つけた。ザントだ。気取った寛衣を着て兜を被り、玉座に座っている。
「ザント....!」
私は怒りを込めて呼びかけた。しかしリンクは立ち止まると私の肩に手を置いた。
私が彼を見上げると、彼は頷き、そしてザントを見た。その目が光った。
不思議な事に、多くの会話が一瞬で終わったような気がした。
だが私にはわかった。リンクが時間を『進めた』のだ。
次の瞬間、ザントは玉座から降りて立っていた。
「わが神の望みはひとつ....!」
彼は、呻くように言った。
「光と影を....ひとつの闇に!」
ザントが空中に浮遊していき、両手を高く掲げると気合いの声を発した。
その途端に、部屋の風景が変わった。
ザントの空間操作魔術だ。
* * * * * * * * * * * * *
目の前に現れたのは、広大な木の洞の内側のような部屋だった。奥には紫色の毒々しい沼。
リンクはやおらブーメランを取り出し、何もない空中に向けて放った。
すると、ブーメランが飛んでいった先にザントが出現した。
高速回転するブーメランの風が、魔法で浮遊するザントの足元にまとわりつく。ザントはたまらず落下すると、毒の沼に片足を突っ込んで悲鳴を上げた。慌てて跳躍しながら、こちらの床に向かってくる。
リンクは剣を抜いてザントに走り寄り、手痛い斬撃を立て続けに喰らわせた。
だがザントはすぐに姿を消した。リンクは剣を納めるとまたブーメランを構えた。今度は別の方角に狙いをつけて放つ。
やはり、今度もブーメランの向かった先にザントが現れた。完全に先を読んでいるのだ。
空中に留まってこちらに魔法弾を発射しようとしていたザントは、またしてもブーメランに足元を掬われた。
リンクは剣を抜いた。失速落下したザントが毒沼の上を渡ってくるのを待ち、敵が沼から出るが早いが斬撃を何度も叩きつける。
次の瞬間、上空にまたザントが現れた。だが魔法弾を撃つのではなく、両手を広げて気合を発した。紋章のようなものが空中に拡散する。
すると部屋の風景が変わった。
* * * * * * * * * * * * * * *
足元の床が金属になっている。周囲を見ると、私たちがいるのは溶岩の上に浮く円形闘技場だ。尋常ならぬ暑さを感じる。
すると、闘技場の前方の縁にザントが現れた。
嘲りの笑い声を上げながら、彼は上下にジャンプを繰り返し始めた。そのたびに足元がグラグラと揺れる。
リンクは前転ダッシュしながら殺到する。だが相手は姿を消した。
再び嘲笑が聞こえる。背後だ。ザントがまた上下にジャンプし始める。揺れ動く床の上をリンクは転がるようにダッシュした。
しかし、再び相手が姿を消し、別の場所に現れた。リンクは粘り強く敵を追い続ける。
だが、出現したザントが両手を前に出して魔法弾を射ち始めた。リンクは盾を掲げて防御した。魔法弾がガンガンと盾に当たって金属音を立てる。
だが防御が甘かったのか、弾が一発当たり、リンクの身体がよろめいた。
「リンク!大丈夫か!」
「大丈夫さ!」
彼は叫ぶと、ザントが斉射を終えて肩で息をしている隙にダッシュし殺到した。ジャンプ斬りを浴びせ、着地と同時に回転斬りを放った。さらに突きを繰り出し、背後に回り込んで連続斬りを叩きつけた。
ザントは唐突に姿を消した。かと思うと、彼は上空に姿を現し、両手を広げて気合を発した。だがその声には苛立ちが込められている。紋章が周囲の空中に拡散する。
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その途端に、私たちは水中にいることに気づいた。
周囲を見ると、湖底の神殿のボス部屋と同じような環境だ。
リンクが合図したので私はすぐ鉄のブーツを履かせた。
彼は鉄のブーツを履いたまま迷わず水底を前方に歩いていく。
すると、水底から大量の気泡が浮かび上がってきた。かと思うと、砂地から建造物のようなものがせり上がってきた。ザントの兜の形をしている。
リンクはクローショットを構えた。
すると、ザントの兜を模した建物の面甲の口の辺りが巻き上げられるようにして開いた。中にはザントがいる。
リンクは待ち構えていたかのように撃った。ザントの寛衣についていた装飾に鉤爪がかかる。
ザントがたちまち引き寄せられ、リンクは剣を抜いて何度も斬撃を叩きつけた。
悲鳴を上げたザントが姿を消すと同時に、リンクは爆弾袋から水中爆弾を取り出しつつ合図してきた。ブーツを元に戻してやると、リンクは浮遊しながら点火した水中爆弾を手離した。
『水中呼吸法』だ。
リンクの合図で私が再び鉄のブーツを履かせると、彼は水底に降り立った。ザントの兜状の建物も砂地に沈んでいく。
だが、すぐに気泡が浮かび上がってきて、今度は複数の建物がせり上がってきた。
数を増やして攪乱するつもりだ。
だがリンクはもう一度爆弾呼吸法を繰り返すと、ブーツを元に戻して泳ぎ始めた。
最も遠い場所に出現した建物に近づいていく。すると、その前面が巻き上げられて中からザントが姿を現した。
ザントが次々と魔法弾を発射してくる。だがリンクは斜めに泳いでそれを回避し、敵弾が切れると相手に近づいてクローショットを発射した。
鉤爪が引っ掛かり、ザントが引き寄せられると同時に、リンクが私に合図した。鉄のブーツを履かせると、リンクは沈んでいったが、ザントはバタバタ暴れて逃れようとする。
だが、ザントが鉤爪を外して逃れるたびにリンクはクローショットを発射して引き戻す。とうとう水底に引き摺り下ろされたザントは、リンクの剣でさんざんに打ちすえられた。
呻き声を残してザントは消えた。だが数秒すると、彼は私たちの上方に現れ、水中に浮遊しながら直立し両手を広げて気合いを発した。
その声には明らかに焦りと苛立ちと怒りが込められていた。紋章が空間に拡散し、私たちは水中から出たことを感じた。
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周囲を見ると、木の壁に囲まれた円形の大広間に来たことがわかった。森の神殿のボス猿と戦った広場だ。木製の円柱がいくつも立っている。
ザントが現れ、円柱の天辺を次から次へと飛び回る。
だが、リンクは読み切っていた。ザントが飛び移った先の円柱に正確に駆け寄ると、二度体当たりする。
揺れる円柱の上で立っていられなくなったザントが落ちてくる。リンクは剣を抜くと、床に倒れたザントにジャンプ斬りを叩きつけ、続いて何度も斬撃を放った。
相手が姿を消すか消さないかのうちにリンクは中央の円柱に駆け寄った。
「ミドナ、鎖と鉄球を!」
リンクは叫んだ。私が出した鎖が手に握られる。
リンクがそれを振り回すと鉄球が円柱を直撃し、それをぐらぐらと揺らした。
その瞬間にザントがその円柱の上に姿を現した。またも読んでいたのだ。
もう一度鉄球が円柱に当たるとザントは転げ落ちた。
リンクは鎖を手放し敵に駆け寄ると、しつこいほどの斬撃を叩きつけた。
悲鳴を上げて姿を消したザントはすぐに広場の上空に現れた。両手を広げて気合いを発する。だがその声はもう自暴自棄の喚き声のようになっていた。
紋章が空間に拡散し、周囲の光景が一瞬にして変化した。
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気温が低い。私は自分の息が白いことに気づいた。
足元はツルツルに凍りついている。広い円形の床を囲むのは石造りの豪奢な壁だ。
出現したザントは床の上空に浮遊すると、唸り声を上げた。その身体は巨人のように大きい。
「気をつけろリンク!巨人化して押しつぶす気だ!」
私が叫ぶとリンクは余裕の表情でウィンクした。
「わかってる。鎖と鉄球があればイチコロさ」
リンクは滑りやすい床の上を走り出した。凍りついた床を見ると、上空の様子が映っている。ザントは気合いを発すると、一気に高度を下げてきた。
リンクは瞬間的にダッシュし前転した。背後の床に巨人ザントが地響きを立てて着地する。
「鎖と鉄球だ!」
リンクは叫んだ。たちまち鎖がその手に握られる。彼は振り向くと、鎖を振るって鉄球を巨人ザントの足に叩きつけた。
ギャアと悲鳴が上がった。僭王は片足を手で押さえながら飛び回って逃げ始めた。逃げているうちにみるみるうちに縮んでいく。
やがてザントは巨人化魔法の反動なのか、子供ほどの身長になってしまった。リンクは不規則に跳躍して逃げるザントを追った。右、左と方向を変える相手に追いすがる。前転して距離を縮めると、剣を抜いて渾身の突きを放った。
小人ザントが悲鳴を上げると、リンクはさらに剣を払い、続けて袈裟斬りにした。
ザントが唐突に姿を消した。だが上だと見当がついた。唸り声が聞こえる。床を見ると、再び巨人化したザントが浮遊してこちらに向かってきているのが映っている。
だが、もはや私も敵のパターンを読めるようになっていた。もうすぐ落下攻撃が来る。リンクは飛行してくる敵の姿を床越しに見極め、ザントが気合いを発した瞬間ダッシュした。
落下してきた巨人ザントを、前転して躱す。立ち上がったところで私が鎖を握らせると、リンクは鉄球を巨人の足に叩きつけた。
再びザントが片足を押さえて逃げ始めた。リンクは縮んでいく僭王を追いかける。小人化したザントと距離が詰まった瞬間に放った突きが刺さった。次いで袈裟斬りと回転斬りを叩きつけた。さらにもう一度突きを放つ。
僭王は斬撃を食らうたび苦しげに呻く。だが、リンクがさらなる追撃を与えようとした瞬間に突然姿を消した。
次の瞬間ザントが空中に現れた。両手を広げて気合いを発したが、その声にはもはや悲痛なものが混じっている。紋章が拡散し、肌を覆う冷気が消えた。
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私たちはいつの間にか石畳の上に立っていた。城下町のようだ。遠くにハイラル城が見えた。
ザントも姿を現していた。その背後に魔法柵が見える。見渡すと、周囲を結界が囲っているのだ。ザントは自分も左右を見回していた。どうやら自らの魔法の制御も失いはじめているらしい。
だが僭王は気を取り直すと、どこからか長い半月刀を二本取り出して両の手に構え、その刀身を打ち合わせた。
しかし、ザントが斬りかかってくると同時にリンクは強烈な回転斬りを放った。剣先がザントを直撃する。
怯んだザントが姿を消した。
リンクは構えると、誰もいないのにまた回転斬りを放った。
その瞬間にザントが彼の背後に出現し、剣が直撃した。
悲鳴が響く。リンクは完全に読んでいたのだ。
またもザントは姿を消したが、リンクは油断なく構える。数秒が過ぎた。
再び裂ぱくの気合とともに、リンクが空を狙って回転斬りを放つ。次の瞬間、ザントがその刃の軌道上に現れた。
みたび直撃を喰らったザントは、高速回転しながら独楽のように向こうに退いていった。そしてその回転が落ちていき、やがて停まると彼は肩で息をし始めた。
だがリンクは手を緩めるつもりはないようだった。ザントに走り寄ると、執拗に斬撃を叩きつける。
とうとうザントが悲鳴を上げ、悔し気にのたうち回りながら倒れた。
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魔法が解け、私たちは玉座の間に戻った。
「リンク...まさかお前がザントをこうもたやすく倒すとはな....」
私は倒れてピクピクと震えるザントを見ながら畏怖の念半分、感嘆半分で呟いた。
私も、近衛兵たちも、王国中の魔法使いも、勝てなかった男を。
まるで子供を相手にするように。
するとリンクは言った。
「違うよ。僕一人の力じゃあない。君の助けがなければ決して勝てなかった。だから僕ら二人の勝利だよ」
彼はそう言うと剣を納めた。私は胸に込み上げてくるモノがあり、思わず言葉に詰まった。
だがそのとき、リンクがまた私の肩に手を置いた。
「ミドナ、悪いが先を急がせてくれ」
驚いた私が顔を見上げると、リンクの目が光った。
その時、時間が『進んだ』のがわかった。
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多くの会話が一瞬で終わった。
新たな事実を知った私は驚愕に震えていた。
ザントは首謀者ではなかった。
彼に力を与えたのは、ガノンドロフという男だったのだ。
(次回に続く)