黄昏の姫と緑の勇者: RTA Any%怪異譚~ミドナが語る『世界線物理学』のミステリー   作:nocomimi

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『効率厨』

ザントを倒し影の国から戻ってきた私とリンクは、ハイラル城の正門の前に立っていた。

 

巨大な城門は、固く閉じられている。だがそれだけではない。城そのものが、魔法防壁に包まれているのだ。

 

「ガノンドロフ.......。光の世界に蘇るためにザントを利用し、影の王国とハイラル両方を奪わせた男........か」

 

私は目の前に立ちふさがる魔法防壁を見上げ呟いた。

 

「彼は何度も転生し、倒されても蘇っては世界の支配を奪おうとしてきた。いわゆる『魔王』さ」

 

リンクは答えた。だがその声には、さほど緊張感も怒りも感じられない。むしろ、昔近所に住んでいた知り合いのことを話題にしているような口調だった。

 

「よし.........私がまずこの魔法防壁を破る。二人で奴を倒そう」

 

私は言った。

 

私は自分の両手を見た。相変わらずの矮人の小さな手だ。

 

ザントを倒したのに、私にかけられた呪いは解けなかった。

 

奴の裏にいる、ガノンドロフという男。それが元凶だったのだ。

 

私は、リンクが私に言った言葉を思い出した。

 

「君の助けがなければ決してザントに勝てなかった」と。

 

ならば、もはや私と彼は『運命共同体』だ。

 

リンクがザントを倒し影の国を奪還するのを助けてくれたように、

 

私もまた彼がハイラルを取り戻すのを助けよう。

 

私は目を上げた。

 

そして自分の顔を軽く叩いて気合いを入れると、『影の結晶石』を取り出した。

 

すると、それはパズルのようにぴったりと合わさって、仮面のように私の顔を覆った。

 

たちまち魔力が身体に満ちてくる。凄まじい量だ。

 

........ほとんど制御できないほどだ。

 

身じろぎした私はたちまち吹き飛ばされるように壁に叩きつけられた。やっとの思いで立ち上がると、今度は身体が弾丸のように飛翔してしまい、魔法防壁にぶち当たる。

 

だが、しばらくしてようやくコツを掴んだ。私は自分の髪の毛を蜘蛛の脚のように伸ばし、それを使って魔法防壁を這い登った。

 

そして魔力で槍を形成した。

 

それを振り上げると、思い切り防壁に突き刺す。

 

途端に、半透明の防壁に亀裂が走った。

 

同時に、眩い光と凄まじい衝撃が襲ってきて、私は気を失った。

 

* * * * * * * * * * * * * * 

 

ふと気がつくと、私はリンクの腕に抱えあげられていた。

 

彼は私の顔を覗き込んで微笑んだ。私も微笑み返したが、すぐに防壁が気になって目を上げた。

 

魔法防壁は完全に姿を消していた。

 

そして、いつの間にか空を雲が多い、雨が降っている。

 

城門の背後には城の尖塔が高く聳え立っている。

 

それはむしろこれから迎える戦いの厳しさを宣告するかのごとく、私たちの上にのしかかるような印象を与えた。

 

「大丈夫かい、ミドナ」

 

リンクが私をそっと地面に立たせながら言う。

 

「平気だ。行こう。敵が体制を整える前に突入だ」

 

私がそう答えるとリンクはニヤリと笑い、城門に走り寄って手をかけ、それを押し開け中に入った。

 

* * * * * * * * * * * * * * 

 

見渡すと、そこは広大な前庭だった。正面には城の堅固な建物があり、左右に城壁がそびえている。上空にはカーゴロックが旋回していた。

 

「城の建物の扉は施錠されてるみたいだな」

 

目を凝らした私が言うと、リンクは急ぎ足で右手に前進し始めた。

 

「ああ。鍵をもらう必要がある」

 

「もらう?誰にだ?」

 

怪訝に思った私が尋ねると、リンクは答えた。

 

「ま、会えばわかるよ。君も知ってる人さ」

 

リンクは爆弾袋から爆弾を取り出して点火し、城壁の前に立っていた歩哨のボコブリンたちに足早に近づいた。悪鬼どもはこちらを見咎めると身構えた。

 

私たちが敵の間合いに入った瞬間、奇妙な異音がした。魔法結界が周囲に浮かび上がってくる。閉じ込められてしまったのだ。同時にカーゴロックもこちらに気づいて、高度を下げてきた。

 

だがリンクは慌てずに鬼どもと自分の間に点火された爆弾を転がすと、盾を高く掲げた。だが、結界の外側から新手のボコブリンたちが次々と入ってきてこちらに走り寄ってくる。

 

数を増やした鬼どもが寄ってたかって斬りかかってきた。鉈の刃が盾に次々当たって金属音を立てた。カーゴロックも覆いかぶさるように襲ってくる。

 

だがその瞬間爆弾が爆発した。

 

敵は一瞬で全滅した。

 

私は苦笑いするしかなかった。

 

「....もう驚かんが...相変わらずの効率厨だな、お前は」

 

「どうも。お褒めにあずかって光栄だよ」

 

リンクは涼しい顔で盾を背負うと、壁に設えられた扉を開けて向こう側に出た。

 

* * * * * * * * * * * * * * * 

 

そこは荒涼とした中庭だった。

 

リンクは少し前進すると、いきなり踵を返し、転がるように飛びのいた。

 

その途端、異音が聞こえた。黄色く輝く魔法結界が浮かび上がる。だが、リンクはギリギリで結界を避けて地面に転がっていた。

 

「なるほど、魔法結界のトリガーがあったというわけか」

 

「ああ、なんとか回避成功したよ」

 

リンクは立ち上がると、魔法結界の脇を抜け、前進していった。

 

結界の裏手の壁に、鉄格子が嵌った出入口がある。見ると、その格子の向こう側にはボコブリンが大勢たむろしていた。そしてガラガラと鎖を巻き上げる音とともに、格子が引き上げられつつあった。

 

「来るぞ!」

 

「いや、戦う必要はない」

 

私が警告してもリンクはどこ吹く風といった様子だ。彼はダッシュすると、なだれ込んでくるボコブリンたちの脇を通り過ぎ、戸口をくぐった。

 

その先は横に伸びる細長い庭園だった。植え込みが点在するなかを猛ダッシュで進んでいくと、その終端にもう一つ同じような格子のかけられた戸口があった。

 

リンクは戸口の横の壁から伸びたハンドルスイッチを引っ張った。すると、ガチャリと音がして格子が引き上げられた。

 

* * * * * * * * * * * * * * * 

 

戸口を抜けると、その先はガランとした中庭が広がっている。足元は石畳だ。

 

「なんだ、何もないじゃないか」

 

私が言うと、リンクは進み出ながら剣を抜いた。

 

「いや、今度は戦わなきゃなんだ」

 

「珍しいな。強敵か?」

 

私は驚いて尋ねた。

 

「いや、そうでもない。懐かしい顔....と言ったほうがいいかな」

 

私たちが庭の中ほどまで進んだその瞬間、奇妙な異音がした。見回すと、周囲に魔法結界が形成されている。

 

気配を感じて目を上げると、頭上を横切るようにかけられている石造りのアーチの上に巨大な人影があった。そいつは飛び降りてくると、地響きを立てて目の前に着地した。

 

山のような肥満体。手に持つのは巨大な戦斧。鬼の王、キングブルブリンだ。

 

鬼の王は唸り声を上げて立ち上がると戦斧を持ち上げた。

 

だが、リンクは問答無用とばかりに襲い掛かり、ジャンプ斬りと回転斬りを叩きつけ始めた。相手が負けじと戦斧を振ったが、リンクは先読みしたように後じさりする。見事に空振りだ。そしてまた一方的なジャンプ斬りと回転斬りの嵐。

 

ものの数秒で、決着がついた。

 

満身創痍となった鬼の王は大きくのけ反り、構えを解いた。

 

すると、鬼の王はリンクに向き直り、自分の鍵の束を帯から外して差し出した。

 

私が呆気にとられて見ていると、キングブルブリンは首から紐で下げた角笛に口を付けて吹き鳴らした。すると魔法結界が消え去っていく。しばらくすると、白い巨大な猪が戸口から入ってきて鬼の王のもとにやってきた。

 

キングブルブリンは猪に乗ると言った。

 

「オレタチハツヨイモノニシタガウ。ソレダケダ」

 

私は唖然として口を開けた。鬼の王が手綱を鳴らし、猪を走らせる。彼は中庭の戸口を抜けてどこかに走り去ってしまった。

 

「あいつ、喋れたんだな」

 

私は呟いた。するとリンクはゴロリと横になりながら言った。

 

「僕の当て推量だけど、あいつもしかして人間かもね」

 

「まさか......さすがにそれはないだろ」

 

私が反論すると、リンクは肩をすくめて目を閉じ、すぐに寝息を立て始めた。

 

* * * * * * * * * * * * * * * * 

 

「セーブリセット」の効果なのか、私たちは前庭に戻されていた。城門を入ってすぐの場所だ。

 

リンクは立ち上がるや否や城の建物前面の扉に向かってダッシュした。鍵を取り出して扉にかけられた錠前を開く。私たちは扉を開けて建物の中に入った。

 

* * * * * * * * * * * * * * * * 

 

内部は薄暗く、短い廊下の先に大広間が見える。

 

リンクは剣を抜いて前進した。だが、廊下から広間に入る直前で立ち止まり、立ち位置を調整し始めた。

 

「ははあ、またトリガー回避だな?」

 

「さすがミドナだね。御名答」

 

リンクは笑うと、やや左に方向を向けてジャンプ斬りを繰り出した。

 

その途端異音がして、瞬時に魔法結界が浮かび上がってきた。だがリンクは着地と同時に逆方向を向いて飛びのくように転がった。

 

どうやら閉じ込められずに済んだようだ。リンクは大広間に形成された巨大な結界の外に出ていた。

 

立ち上がったリンクは結界の脇を進んでいった。前方の隅には大きな講壇が置いてあった。お触れを読み上げる役人が使うやつだ。 

 

だがその周辺にボコブリンどもが数匹たむろしている。こちらに気づくと喚き声を上げた。

 

だがリンクは素早く講壇に登り、クローショットで天井のシャンデリアを狙って撃った。

 

鉤爪が引っ掛かり、シャンデリアに飛び付いてぶら下がる。リンクはダブルクローショットを使ってシャンデリアを次々と飛び移ったあと、高所に設えられたバルコニーに降り立った。

 

ボコブリンたちが悔し気にこちらを見上げ喚いている。私は冗談を言った。

 

「寂しがってるぞ。相手してやらなくていいのか?」

 

「ごめんだよ。手数ばかりかかって仕方ないからね」

 

リンクはバルコニーの扉に手をかけて開け、中に入った。

 

* * * * * * * * * * * * * * * 

 

リンクは部屋に入るなり足早に前進した。

 

途端に聞き慣れた異音がして、たちまち周囲に魔法結界が発生し私たちは閉じ込められた。

 

部屋の奥には異様に背の高い人影があった。全身を鎧で固め、兜を被り、顔は面甲で覆われている。手には大剣と巨大な盾を持っていた。

 

「......お、おい。手ごわそうじゃないか?」

 

慌てた私にリンクは剣を抜きながら答える。

 

「そうでもないよ。すぐ終わるさ」

 

リンクが走り寄っていくと、それに気づいた鎧武者は盾を上げて構えをとりながら言った。

 

「貴様が勇者の小僧か。待っておったぞ。我が剣を受けてみるが...」

 

鎧武者が言う。だがリンクはいきなり斬りつけた。構え終わる前に痛烈な不意打ちを受けた鎧武者は、思わずよろめいた。

 

リンクは遠慮なく何度も何度も斬りつける。鎧武者の鎧のパーツが次々に剥がれていった。

 

やっと立ち直った鎧武者が、リンクの剣を盾で受けると叫んだ。

 

「不意打ちとは卑怯な!尋常に勝.......」

 

だがリンクは相手にクルリと背を向けて逃げ出した。

 

それを見た鎧武者は、予想外のことに呆気にとられた様子だった。

 

だがリンクはやおら踵を返すと、再び相手に駆け寄り、軽い横斬りを放ちながら脇を通り抜けた。フェイントだ。

 

鎧武者は見事に引っ掛かり、盾を上げてそれを防御した。すると、後ろに回り込んだリンクは相手に向き直り、ガードの空いた箇所に剣を叩き込んだ。またも不意打ちを喰らった武者が呻き声を上げ、ふらついた。

 

リンクは休む間も与えず矢継ぎ早の斬撃を浴びせた。それらがヒットすると、鎧の部品が吹き飛び、魔物特有の黒い血が飛び散る。

 

さんざん斬りつけられた武者はとうとう鎧を全て剥ぎ取られ、盾を取り落とした。

 

すると武者は唸り声を上げて大剣を投げつけてきた。リンクは横飛びしながら軽く剣を払い、その大剣を弾く。

 

「....ムウ!本当の勝負はこれからだ!我が剣の奥義を見せてやろう!」

 

武者はそう言いながら腰に提げた長剣を引き抜いた。

 

だがリンクはその頃には再び相手の背後に回り込んでいた。

 

またも、容赦ないメッタ斬りが背中から浴びせられる。武者がよろめくと、リンクは私に叫んだ。

 

「ミドナ、鎖と鉄球だ!」

 

私が鎖を握らせると、リンクはそれを振り回した。

 

ゴッ!ゴッ!ゴッ!

 

鉄球が連続で武者の頭部に当たる。一方的にやられ続けてやる気を無くしたのか、武者は剣を放り出してうつ伏せに倒れた。

 

「....お前と一緒にいると魔物のほうが可哀そうになってくるな」

 

「そうかい?これでもこいつには時間をかけて相手をしてやってるつもりだよ。本当ならこのバトルも回避したいくらいだよ」

 

私が正直な感想を漏らすと、リンクはそう答えながらブーメランを抜き、壁際に投げつけると部屋の奥に進んだ。

 

壁際にあった燭台の火が、ブーメランのつむじ風で消えた。すると、部屋の奥にあった段差の手前の床が上昇し始める。

 

リンクはせり上がる床の上に飛び乗った。戻ってきたブーメランを回収し、段差の上に登ると、彼は左に伸びた廊下を進んだ。

 

「ここからも効率第一で行くよ。そのほうが君も呪いを早く解いて元の姿に戻れるだろ?」

 

「わかった。お前に任せる」

 

私たちは、廊下の突き当りにあった扉を開けて先に進んだ。

 

(次回に続く)

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