黄昏の姫と緑の勇者: RTA Any%怪異譚~ミドナが語る『世界線物理学』のミステリー 作:nocomimi
重厚な装備をした
突き当りの扉を開いて先に出ると、そこは薄暗い廊下だった。突き当りには格子がかけられている扉が見える。
リンクは自分のカンテラに火を点けると、壁際に置いてあった燭台に次々と火をつけていった。
だが、一つ目の燭台に火を点け終わったところで天井から騒がしい羽音がして私は顔を上げた。吸血蝙蝠たちの群れが頭上に降りてくる。
「お........おい!凄い数だぞ!」
「大丈夫。すぐ終わるから」
リンクは蝙蝠には構わず、素早く移動しながら燭台に火を点けていった。全ての燭台に火がつくと同時に、扉にかけられた格子が引き上げられる。不思議なことに、蝙蝠どもも大人しくどこかに引き下がっていった。リンクはカンテラを仕舞いながら言った。
「これは暗記ゲーさ。解ければ蝙蝠もいなくなるよ」
「そうか.....奴らは明るい場所を嫌うからな」
だが、私はまたも怪訝に思った。
『暗記』ということは、彼は過去にこの謎を解いたことがあるということだ。
他のダンジョンならまだわかる。だが王城であるこのハイラル城の深部に、リンクは昔やってきたことがあるということなのだろうか?
私はリンクの顔を見たが、彼は構わずに前進して扉を開けると、先に進んだ。
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扉の向こう側は同じくらいの長さの廊下だ。前方を見渡すと突き当りに人影が見える。全身を銀色に光る鉄の鎧で固め、戦斧と円盾で武装した、恐竜のような人型魔物・ダイナフォスだ。二匹いる。
リンクは爆弾袋から爆弾を一つ取り出し点火すると、手に持って魔物どもに近づいていった。向こうもこちらを見咎め、駆け寄ってくる。
私は焦った。ハラハラしながらリンクの手にある爆弾の導火線を見つめると、それはどんどん短くなっていく。
だが、爆発ギリギリのところでリンクは爆弾を投擲した。投げた爆弾はちょうどダイナフォスどものただ中で爆発し、二匹の魔物はあえなく倒れた。
「まったく...ハラハラさせやがって」
「いちいち剣で戦うなんて面倒じゃないか。さあ行こう」
私が愚痴を言ってもリンクは意に介さなず、右手の壁際の扉に駆け寄った。すると、扉にかかっていた格子が引き上げられる。
私たちは扉を開けて先に進んだ。
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目の前には城壁の上に設えられた通路と、その終端に聳え立つ見張り塔が見えた。外の雨はもう止んでいる。
リンクは迷わず見張り塔に向かって走り出した。すると異音がして私たちの前後に魔法結界が出現した。
その刹那、リンクはブーメランを抜き放つと左の上方に向けて投げた。その飛んでいった先には何者かがいた。翼を持ち円盾と剣を下げた空飛ぶ蜥蜴騎士、リザルナーグだ。
高速回転しながら飛んでいくブーメランに警戒した相手が円盾を上げた。
リンクはすかさずクローショットで敵の盾を狙って撃った。飛び出した鉤爪が引っ掛かりたちまち
クローショットを手離すと、リンクは剣を抜いて連続突きを放った。聖剣の刃がヒットし、魔物が呻き声を上げ、血しぶきが飛ぶ。
痛烈な攻撃を喰らった敵はようやく立ち直ると、剣と盾を油断なく構えた。
両者が一瞬にらみ合う。リンクが間合いを詰めようとすると、
だが、その身体が通路に設えられた転落防止塀に阻まれた。その隙を逃さずリンクは殺到し連続突きを喰らわせた。度重なる痛撃を受けて力尽きたのか、
同時に魔法結界が消失し、リンクは見張り塔のほうに走った。その足元にある戸口の内部には木の箱が見える。
リンクは箱に走り寄ると、それを開いて中から鍵を取り出し、踵を返して通路を戻った。
城の建物に突き当たったところで右に折れ、建物沿いの通路を進む。しばらく行くと、建物に扉がついている。
「いよいよ本丸だな」
「いや、ちょっと寄り道しなきゃなんだ。ボス鍵があっちにある」
意気込んだ私が言うとリンクはその扉を素通りして答えた。リンクは歩いて通路をさらに進み、私たちはやがてもう一つの城壁の上に設えられた通路に入った。
見ると、その突き当りにはもう一つ見張り塔がある。
その見張り塔の足元には格子のかかった戸口があった。リンクは足早に進みながらそれを指さした。
「あそこだよ。でも回収前にどうしても避けられないイベントがあってね」
「避けられない?お前でもか?」
私が怪訝に思って尋ねると、突然その格子がガラガラと引き上げられ、内部から魔物どもが次々と飛び出してきた。蜥蜴のような人型魔物・リザルフォスだ。
さらに、見張り塔の壁についた歩哨窓からブルブリン弓兵たちが現れ、火矢を弓につがえこちらに狙いを定めた。
「まずい、包囲されるぞ!」
「いや、大丈夫だよ。ただ時間を無駄に喰うけどね」
慌てた私が言っても、リンクは平気な顔をしている。
だがその瞬間、鷹の鳴く声がした。上空を見上げると、鷹が城壁の上を通り過ぎ何かを落としていった。
途端に前方にいた
ふと城壁から前庭を見下ろすと、四人ほどの人影が見える。
魔物ではない。人間だ。
「彼らは味方だよ。ま、手伝ってくれるのはここだけだけどね」
リンクは言った。前庭にいたのは、初老の男がひとり。私たちがハイリア湖畔の見張り塔で見たラフレルという男だ。そして中年の男と若い男。
だが、もう一人が私の注意を惹いた。
黒髪を高く結い上げ、鎖帷子をつけた若い女。弓を持ち、剣を腰から提げている。
あの距離でブルブリンを狙ったとしたら相当の腕前だ。
その女の顔立ちが美しいのを見て、私は思わずリンクを顧みてその視線を辿った。
だが、リンクはその女には全く関心もない様子でぼんやりと宙を見ている。むしろ、退屈そうに足のつま先でトントンと地面を叩いている。
私は安堵した。(....って何を言ってるんだ私は。)
中年の男がリンクに手を振ると、彼も振り返した。そしてリンクは前方に走り出した。
「やれやれ、やっと終わった」
彼は見張り塔の足元の小部屋に入ると、そこに置いてあった巨大な黒い箱の蓋を開けた。箱の中身は大きな黒い金属製の鍵だった。私はそれを収納してやると言った。
「ボス鍵か.....これは大物の臭いがするな」
「まあね。でも、手数がかかるだけで、強さはこれまでと大して変わらないよ」
私は仰天してリンクを見やった。
相手は『魔王』だという。
『魔王』というのはメチャクチャ強く、チート級の攻撃力や耐久力を持っていると相場が決まっているのではなかったか?
だが、リンクは意に介さない様子で城壁の上を引き返し、突き当たりで左手に折れた。そして、城の建物の壁についた扉を小さな鍵で開錠し、中に入った。
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中に入ると、リンクはすぐ部屋を少し奥に入り、そこで直角に左ターンしてダッシュした。
ところが、足元の床が突然切れて奈落になっている。
「おいリンク!下を見ろ!」
私は慌てて魔力を発動し浮遊しながら叫んだ。だが彼は気にも留めない様子でそこを飛び越えると、向こう岸の床ブロックに飛び移った。
その途端床ブロックがガタリと動いて、下にずれ始めた。脱落寸前だったのだ。
だがリンクは構わず進んだ。周囲の床は歯抜けのようにそこらじゅうが脱落している。床ブロックが次々と落下していくなか、リンクは残っている床ブロックの上をピョンピョンと飛びながら猛スピードで進み、あっという間に部屋の奥に辿り着いた。そこは床がしっかりしているようだ。
「....し...心臓が止まると思ったぞ、リンク!」
「ごめんごめん。事前に言うべきだったね」
私が文句を言うとリンクは謝罪しながらも足早に進み、部屋の奥に設えられた階段を登り始めた。
「本来なら、狼の姿になって、幽霊鼠を倒したり、兵士の幽霊から道を教えてもらわなければあの部屋は通過できないんだ」
彼は階段を登りながら言う。その階段もまた、あちこち崩れ削れてしまっていた。その下は底の見えない奈落だ。だがリンクは鹿のように身軽に間隙を飛び越えて先に進む。
最後にひときわ広い間隙があったが、リンクは助走をつけて向こうに飛び移り、向こう岸の縁に手でしがみついた。
這い上がって残りの段を駆け登ると、そこは広めの踊り場だった。奥のほうには
リンクが前進すると、たちまち魔法結界が周囲を封鎖した。だがリンクは構わずに
魔法結界が消失すると、リンクは踊り場の奥に歩を進めた。
そこには階段の続きがあったが、もはや原型を留めないほど破壊されている。
「どうする、リンク?」
「こういうときはこれさ」
私が尋ねるとリンクは両腕にダブルクローショットを嵌めた。そして、階段の壁に設けられた灯篭を狙い撃つと、次々とそれを飛び移って階段を登り切った。
すると、その先は同じような踊り場だった。
リンクはそいつらをあっという間に始末すると、今度は私に言った。
「ミドナ、スピナーを。この階段で最後だよ」
踊り場の奥には、やはりほぼ全壊したような登り階段が続いている。私がスピナーを出してやると、リンクはそれに乗ってペダルを踏み込んだ。
「おい、待てリンク。何か様子がおかしいぞ」
私は警告した。よく見ると、壁の左右にレールが取り付けられ、その上を棘付きの大型独楽のような装置が行き来している。
だがリンクは無造作にスピナーを発進させると、レールを登っていった。器用にスピナーを飛び出させて左右のレールを行き来し、トゲトラップを回避するとあっという間に登り切った。
「やれやれ.....魔王はこれでお前を阻止できると思ったのだろうが、とんだ無駄だったな」
「最初はちょっと苦労したけどね。慣れればどうってことないよ」
私がスピナーを収納してやるとリンクは答えた。
「待てリンク........最初はってどういうことだ?お前はこの城を探検したことがあるのか?」
私が尋ねると、リンクは口に人指し指を当てて「シイッ」と合図した。そして部屋の奥に顎をしゃくった。
壁に巨大な扉があり、それが太い鎖とゴツい錠前で閉じられていた。だがその扉の近くに背の高い人影が立っている。
「今回はバトルをスキップしたいんだ」
「わかった...だがどうやって?」
私が尋ねると、リンクは腕にクローショットを嵌めた。そして用心深い足取りで部屋の中ほどまで進んでいった。
リンクはクローショットを掲げた。奥の扉の横を狙っているようだ。壁の柱の陰に、灯篭があるのが見えて来た。
その途端
同時に、リンクは灯篭に狙いをつけてクローショットを撃った。その瞬間、異音がして
だが一瞬早く鉤爪が灯篭に引っ掛かり、リンクは瞬く間に引き寄せられ灯篭にぶら下がった。
「勇者の小僧、待っておったぞ。いざ尋常に勝負だ!」
結界に閉じ込められた
「悪いけど先約があるんだ。また今度」
リンクは扉の前に降り立つと、手を振って答えた。私は大きな黒い鍵を取り出して扉の錠前に差し込んだ。
鎖が落ち、扉が開錠される。私たちは扉を開けてその先に出た。
「さてさて、やっとあの『ガ』のつくオッサンに会えるよ」
リンクは気軽な口調で呟く。
私は驚きと困惑を感じながらも彼を見た。
リンクは、本当に魔王を恐れていないのだろうか?
それとも、自分自身を鼓舞するため、あるいは私を励ますため、わざとこういう態度を取っているのだろうか?
だが、その真相は、すぐに明らかになったのである。
(次回に続く)