黄昏の姫と緑の勇者: RTA Any%怪異譚~ミドナが語る『世界線物理学』のミステリー   作:nocomimi

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『世界線物理学についての覚え書」

勇者リンクが巻き起こした怪現象は多岐にわたるものであり、一つの体系に纏めるのは極めて困難である。

 

だが、それを承知で、私は『世界線物理学』という表題のもと、この怪異の背後にある物理原則を解き明かそうと試みていきたい。

 

1.『世界線』とは

 

まず、『世界線』とは何かについて論ずる。

 

『世界線』とは、勇者が魔王の野望を打ち砕くべく起こした行動がどれほど進捗したかを示すひとつの直線的な尺度である。

 

勇者は、平凡な若者として現れた後、冒険を通じて力をつけ、また新たな武器を手に入れ、最後に魔王と対決する。

 

その行動の進捗に照らし、勇者が手前にいる、すなわちまだ力や経験に欠け、装備も備わっていないのであれば世界線は進んでおらず、勇者が魔王を倒すという冒険の完遂に近づいているのであれば、世界線は進んでいることになる。

 

ただし、世界線がもしも単一であるなら、そもそも世界線物理学などを論ずる必要はない。勇者は、自らの属する世界線で奮闘努力する以外に選択肢はないからである。

 

だが、勇者は世界線を自らの力で動かし、または跨ぐことがある。このとき、各種怪奇現象が発生し、そして勇者は通常では考えられないような能力を発揮したり、考えられないような場所に出現することができるのだ。

 

2.『世界線』を自らの力で動かし、または跨ぐ方法

 

勇者は、世界線に直接働きかけ、それを自らの力で動かし、または跨ぐことができる。その方法は、おおむね三つ存在する。すなわち、1) 特定の場所に到達する 2) 高所から飛び降りて『リセット』と念ずる 3) 特定のアイテムを取得する、のいずれかである。

 

1) 特定の場所に到達する

 

勇者が特定の場所に到達すると、世界線が動くことがある。

 

とはいえ、普通に到達するのではない。普通に到達することができない場所に、不正な方法で到達するのである。

 

その代表的な例は、不正な方法を用いて影の領域に侵入することである。これにより、勇者は本来の地点より進んだ世界線に移動することができる。

 

また、ある地点に存在する『トリガー』のようなものを踏むことで『世界線』が進められることがある。その代表的な例は、砂漠の処刑場の前におけるキングブルブリンとの戦いへ突入する『トリガー』である。リンクがある特定の地点に到達すれば、彼はキングブルブリンとの戦いの場に自動的に移される。

 

2) 高所から飛び降りて『リセット』と念ずる

 

高所から飛び降りて『リセット』と念ずることで、勇者はオルディン大橋の上に移される。このオルディン大橋は平行世界線の上に存在するものであり、勇者はここでは完全な装備を持っている。そのため、この転移に成功すれば、勇者は労せずしてこれらの装備を入手できる。

 

3) 特定のアイテムを取得する

 

特定のアイテムを早期に取得することで、世界線を進めることができる。その最も代表的な例は、マスターソード、三つ目の影の結晶石、そして三つ目の陰りの鏡の破片である。

 

3. 『世界線』移動の結果

 

上記のような方法で世界線を移動したことに伴う結果としては以下のようなものがある。

 

1) 勇者の装備もしくは能力増強、2) 冒険の次期段階への進捗、3) 周囲の人物の記憶、行動の変容である。

 

1) 勇者の装備もしくは能力増強

 

平行世界のオルディン大橋に移転した場合、勇者はたとえ直前まで丸腰であっても移転時に完全装備を手に入れる。また、論を待たないところであるが、マスターソードを早期取得した場合は、攻撃力が大幅に増すのはもちろん、ワープが自由にできるようになる。狼姿と人間の間を自由に行き来できるためである。

 

2) 冒険の次期段階への進捗

 

三つ目の影の結晶石や三つ目の陰りの鏡の破片を取得した場合は、それらのアイテムの収集が完了した世界線に移行するため、冒険が次の段階へ進捗する。

 

3) 周囲の人物の記憶、行動の変容

 

これが最も奇怪な副次現象である。勇者が世界線を移動した場合、周囲の人物の記憶や行動が変容する。起こったはずのない出来事について言及したり、行動の一貫性が失われたりする。これは、勇者が世界線の間を行き来することで、異なる世界線どうしが干渉を起こすためと考えられる。

 

4. 『世界線』の構造についての更なる考察

 

上述の現象を元に更に考察し、著者は以下のような仮説理論を提唱する。

 

1) 勇者の所在場所による世界線への影響

 

ハイラル世界では、場所によって微妙に異なる時間の流れ方が観察されている。例えば、天空都市においては決して夜になることはない。

 

つまり、ハイラル世界では全地方であまねく均一に時間が流れているのではなく、それぞれの地方で個別に時間が流れている。

 

そうすると、勇者が単にある地点から別の地点に移動するだけで、『別の時間の流れ』に入るとも表現できる。すなわち、たとえ勇者が『世界線』を跨ぐ行動をとらず、単一と思われている世界線の中で行動していただけだったとしても、その単一世界線そのものが『複数の異なる時間の流れ』の組み合わせにより成り立っているのであれば、『単一の世界線』そのものが実は『複数の世界線の継ぎ合わせ』であると言えるのではないか。

 

もし上記仮説が成り立つなら、勇者が所在場所を変えるだけで世界線を飛び越えることができるということに理論的裏付けが与えられることになる。

 

2) 勇者の意識状態による世界線への影響

 

勇者の意識状態は世界線に大きな影響を与える。上記2. 2)による世界線の移動だけではなく、『セーブリセット』による強制的な場所の移転も、世界線の移動と解釈することができる。

 

つまり、勇者はその意識状態を操作することで世界線に影響を与えることができる。特に、勇者の意識が『途切れた』瞬間が、世界線に揺らぎを与えると観察できる。つまり、勇者の意識の途絶は世界線の途絶をも意味するのではないか。

 

ただし、表面的な観察では、勇者の意識の再開は切れ目のない世界線の再開のように見えるため、ここに世界線間の跳躍は起こらない。だが、上述のような特殊な操作を行うことで世界線の跳躍が起こるわけである。

 

3) アイテムによる世界線への影響

 

勇者のいる世界線は、上記で見たとおり取得アイテムにより干渉される。

 

アイテムの早期取得が勇者をして特定の世界線に向け跳躍せしめるのであれば、アイテムそのものが『世界線上のある地点に置かれた道標』のような役割を果たしていると考えられる。

 

つまり、このとき勇者は『アイテムを取得している』ように見えて、実のところ『世界線上の特定地点に降り立って』いるのではないか。そうであれば、アイテムそのものが『世界線を構成する部品』のようなものであると言える。

 

4) 世界線の構成要素

 

世界線というものは表面的観察により『時系列に沿った出来事の流れ』のように見える。しかし、実際には『地方によって異なる時間の流れ≒世界線』、『勇者の意識の流れ(その途絶が世界線の途絶となりうる)』、および『道標となる各アイテム』によるパッチワークのように成り立っている。

 

私筆者の研究ははなはだ初期段階であり、この世界線の全てを解き明かすには到底及ばないものであるが、今後世界線をより深く研究する者の登場にによりその秘密が解明されることを望むものである。

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