黄昏の姫と緑の勇者: RTA Any%怪異譚~ミドナが語る『世界線物理学』のミステリー 作:nocomimi
狼姿のリンクは、首筋を高く反らして遠吠えをしていた。それは単調なメロディのような遠吠えだった。
それを見ていた私は頭が混乱していた。
こんなことは想定していなかった。私は、リンクを使役して闇蟲を狩り、影の領域を晴らすことを計画していた。それなのに、彼はいつのまにか影の領域からも出てしまった。
本来なら、私のような「影の者」の協力がなければそんなことはできないはずなのだ。
そして、私もまだ知らなかったような森の深部に足を踏み入れ、まるで昨日見てきかたのような勝手知ったる様子で先に進もうとしているのだ。
そのとき、不気味な甲高い笑い声が聞こえてきて、私は思索を中断させられた。
頭上を見ると、木々の間を通って奇妙な案山子が一体降りてくる。体格は小さめで子供のようだ。片手にカンテラ、もう片方の手にラッパを携えていた。骸骨を思わせるような頭の上には尖り帽子が乗っている。
私はその正体がすぐわかった。スタルキッドといい、森に迷い込んで死んだ子供が魔物化したものだ。
旅人を迷わせ、森から出られなくさせるが、本人は遊んでいるだけのつもりなので始末が悪い。
リンクは私を背中に乗せたまま、即座にダッシュして後を追った。どうやら、あの
私はもはや口を挟むのもやめて、彼の行動を見守った。畏れと違和感が心の中で渦巻いていたからだ。
洞窟は短く、すぐに目の前が開けた。同じくらいの大きさの広場だ。浅い泉があり、右手には先に通じる短い洞窟があった。
リンクはその短い洞窟を抜けると、その先にあった木の影に隠れていた
だが
そのようにして、リンクと
だが、リンクの行動には迷いというものがなかった。
相手が次にどこに現れるかを完全に記憶しているかのようなふるまいだ。しかも、木の上から案山子どもが次々と降りてきて襲ってくるのを、軽く蹴散らしながらそれを行っていた。
時に池を泳いで渡り、あるときは階段を登って、かくれんぼするように潜んでいる
それが三度にも及ぶと、私たちはいつしか円形の広場に入っていった。
苔むした石壁で囲まれ、各所に大きな岩や、平らな台が置かれている。
だがリンクは慌てる様子もなくそいつらを蹴散らすと、
* * * * * * * * * * * * *
どうやら追いかけっこは終わったらしい。
ふと見ると、広場のひと隅にあった、さっきまでは壁だった場所に出口が開いている。リンクはそこに入り、先に進んだ。
そこを抜けると、すぐ別の広場に出た。周囲を高い壁に囲まれた広場だ。
奥に進むと、壁が大理石のファサードになっていて、その下にある扉を守護するがごとく石像が二体立っていた。
何もかもが苔むしているが、彫刻の精巧さや建造物の巨大さから、かつてはさぞかし壮麗な神殿がここにあったのだろう。
私はその遺跡に興味を引かれながらも、心の中の違和感が止まらなかった。
リンクは、
偶然ではあり得ない。
彼は、自分がどこに行き何をしようとしているのかを完全に知っているのだ。そうとしか思えない。
だが、そんなことを私が考えているうちに、リンクは広場の中央あたりに歩み寄った。
床を見ると、紋章が描かれた床板がある。
リンクは紋章の上に立つと、大きく首を反らして遠吠えをした。
すると足元の紋章が光を発した。次に、私たちのいる場所から石像のいるところまで並んだ床板が光を発する。そして、光る床板以外の場所の床は消失し、深い奈落になっていた。
やがて像が命を得たように動き始めた。
彼らは手にした大槌の石突きで床を打ち鳴らすと、跳躍して私たちのいる場所の前後の床板にそれぞれ降り立った。重い像の着地で地響きがした。
次の瞬間、石像が言葉を発しはじめた。
「我ラハコノ地ヲ.....」
その途端、リンクの目が光った。すると石像は二体とも口を閉ざした。
まるで、先刻ゼルダ姫が彼に言葉をかけようとして口を閉ざしたのと同じような様子だった。
私は事態の変転に驚きながらも、これは謎解き、パズルだと直感した。
おそらく、これらの石像を所定の場所に移動させるのがゴールなのだ。
果たして、その通りだった。リンクは立ち上がると、床板の上を歩き始めた。リンクが移動する度に、石像もそれに従って移動する。ただし、ふたつの石像はそれぞれ移動の向きが逆だ。
右、手前、前方、前方、前方、左、左、手前、手前、手前、右、前方。
リンクは迷いを見せず動いた。すると石像はそれに追随して動き、元いた床板の上に戻った。
途端に石像たちは唸り声を発し、動かなくなった。パズルが解けたのだ。
そして、石像たちに守護されていた扉が消失した。その向こうには新たな広場が見える。
リンクは迷わず前進して出口をくぐった。向こう側に出ると、そこは石垣に囲まれた円形の広間だった。
広間の中央には、台座の上に剣が一本刺されて立っている。
そのとき、私は直感的に思った。
この剣はヤバイ。異様な力を感じる。
リンクがその剣に走り寄ると同時に、私は転がるようにして彼の背中から降りた。
やにわに剣の刀身から強烈な光が発した。
私は思わず悲鳴を上げて顔を覆い、慌てて後ろに飛びのいた。
光と同時に、物凄い風圧が襲ってくる。
辛うじて薄目を開けてリンクのほうを見ると、剣から発する光が彼に押し迫り、まるでその身体から何かを引き剥がそうとしてるかのようだった。リンクは四本の脚を踏ん張りながらもそれに耐えている。
だが突然それは終わった。剣は光を発するのをやめ、風は収まった。
ふと見ると、リンクは二本の脚で立っていた。人間に戻されたのだ。
* * * * * * * * * * * * * * *
彼は、台座から剣を引き抜いて右手に握った。
だが、私は何がなんだかわからなかった。
リンクは、影の使者との闘いを突然放棄し、
魔法柵で封鎖されたはずの広場から大ジャンプを打って脱出し、
私も知らない森の深部に迷うことなく踏み込み、
そしてこの見るからにいわくのありそうな剣によって人間に戻ったのだ。
だが、次の瞬間、私の口から私の意志とは関係なく言葉が漏れた。
「剣が.....あるじと認めた....!」
そう言った直後、私は驚愕した。
まるで、誰かが私の言語を操っているかのような気がしたからだ。
(次回に続く)