黄昏の姫と緑の勇者: RTA Any%怪異譚~ミドナが語る『世界線物理学』のミステリー   作:nocomimi

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『外から来た男』
『挿入された記憶』


「剣が....あるじと認めた!」

 

私の口から、自分の意志とは関係なく言葉が漏れ出てきた。

 

私は驚き怪しんだ。

 

まるで、誰かが私の言語を操っているかのような気がしたからだ。

 

だが私は気を取り直した。

 

ともかくも、リンクは人間に戻った。狼の姿での彼を利用することを考えていた私だったが、人間の姿でもそれはそれで使いではある。

 

そう考えながら彼に近づくと、その足元に小さな黒い『呪具』のようなものが落ちていた。

 

私はそれを拾い上げた。彼もそれに目をやったので私は解説してやった。

 

「あんたにかけられていた魔力の塊さ。確かに私たちの持つ影の魔力と違う。気を付けtな、あんたが触れたらまた狼に逆戻りだぞ。こんな危険なもの、今ここで無くしてしまうのが一番さ」

 

私はそう言うと、そいつを破壊しようと手を振り上げた。だがそこで思い直した。

 

「......待てよ、逆にこれがあればいつでも獣に変われるってことだよな?折角、ザントがくれたプレゼントなんだ。遠慮なく使わせてもらおうか」

 

私は得意げに言った。

 

「必要になったら私に言いな。いつでもその姿を狼に変えてやるよ。それにこいつのお陰でその姿からでも簡単にワープできるはずさ」

 

そこまで話すと、私の身体が突然、私の意志とは関係なく動いた。

 

私は彼の肩に手を添えてそっともたれかかると、こう言ったのだ。

 

「.........なあリンク、あんたに頼みがあるんだ」

 

私は驚愕した。

 

今、一体なにが起こっている?

 

私は、つい先刻彼をハイラル城の地下牢で見つけ出し、そこから連れ出したばかりなのだ。

 

私の心づもりでは、せいぜい彼を「下僕」として利用することしか考えていなかった。

 

それなのに、今私は、まるで「長い間ともに冒険してきたパートナー」であるかのように彼に対して頼み事をしている。

 

いったい私はどうしてしまったのか?

 

* * * * * * * * * * * * * 

 

「私と一緒に、ハイラルのどこかにある陰りの鏡を探してくれないか?」

 

私はそう言葉を継いだ。

 

だがこれもまた私の意志と関係なく発せられた言葉だった。

 

説明しておくと、私が影の国からハイラルに逃げ延びたあと、影の国とハイラルを結ぶ経路は全てザントによって破壊された。だが、「陰りの鏡」だけは影の国の王位継承者でなければ破壊することはできない。そして、その「陰りの鏡」こそが影の国に行くための唯一の道だったのだ。

 

とはいえ、ただザントに戦いを挑んでも勝ち目はないことはわかっていた。

 

よって、私の計画では、まずハイラルの三か所のダンジョンに隠された『影の結晶石』という呪具を見つけ出すのが先決だった。

 

だが、私は何かに操られたように続けた。

 

「その鏡こそが、ザントと繋がる唯一の手掛かりなんだ.....」

 

そしてそう言ってしまったあと、私はハッと顔を上げた。

 

「...ま...待て。私は....私はいったい何を言っているんだ?」

 

そして私は飛び退くように彼から離れた。

 

「今、いったい何が起こっているんだ?なにもかも...なにもかもがおかしい!」

 

私は混乱した。先ほど、影の領域の手前で、剣と盾を取ってこいという私の要求が「満たされた」という記憶が唐突に脳内に捻じ込まれたように感じたときの違和感。それが急速に膨らんできたのだ。

 

すると、私の顔を見ていたリンクは言った。

 

「無理もないさ。世界線の変動というのは記憶の上書きを伴う。それに本人の意志と無関係の行動制御もね」

 

そして彼は少し微笑むとこう続けた。

 

「驚かせてしまってすまない。でも....すぐ慣れるよ」

 

その言葉が、私の心を深く抉った。

 

慣れる?

 

いったい何に?

 

自分の記憶が勝手に書き換えられることに?

 

自分の意志と関係なく自分の口から言葉が発せられることに?

 

私は震える声で言った。

 

「い....いったい私はどうしてしまったんだ?私は…さっき…“鏡を探してくれ”なんて……言うつもりじゃなかった」

 

するとリンクは静かに答えた。

 

「知ってるよ。でも、世界線が前に進んだ以上、君はそう言わなければならなかったんだ」

 

私は頭を押さえ、首を振りながらおうむ返しした。

 

「世界線が...進んだ?どういうことだ?」

 

「まず最初のほうから説明しなきゃね」

 

リンクはそう言うと、少し間をおいて話し始めた。

 

「君は、フィローネの入り口で、僕が君の要求に従わず影の領域に入ることができたのを驚いていただろう?」

 

私は頷いた。

 

「そ...そうだ。だがなぜわかった?」

 

「当然さ、そのとき世界線が動いてしまったんだからね」

 

「世界線?...お...教えてくれ。いったい何のことを言っている?」

 

私はいまだに理解できずに呟いた。

 

「僕は空中に吹き飛んだボコブリンに攻撃を仕掛けることで、ある『境界線』を越えた。それにより、世界線を前に進めたのさ」

 

「い..意味がわからん」

 

私は答えたが、リンクは意に介さない様子で話し続けた。

 

「それをある世界ではSSS効果というらしい。いずれにせよ、僕は世界線を前に進める行動をしたんだ。つまり、あの場所では、ある『境界線』を越えると、君の僕に対する『剣と盾を取ってこいという要求が満たされた』世界線に進むんだ」

 

私は彼の言っていることのほんの一部も理解できなかった。リンクはそんな私を少し見つめていたが、やがてまた口を開いた。

 

「もっと根本的なことから説明しないとダメだったかな。まず前提として、僕は最初から剣と盾を持っていたのさ。それも、盾のほうはトアル村のものより上等なハイリアの盾をね」

 

「嘘を言うな。私にはそんなものは見えなかったぞ」

 

私は反論した。狼姿のリンクは、剣も盾も持っていなかったからだ。するとリンクは平然と言ってのけた。

 

「それは、『君の目からは見えなかった』だけさ」

 

「わ...私の目からは?」

 

「そうさ。なぜなら僕が入手した剣と盾はこの世界のものではない。不正に世界線を跨いで手に入れたからさ」

 

彼はそう言うと、背中に背負った、青地に鳥の紋章のついた金属製の盾を示した。確かにそれは木立の間から射し込む陽光を反射して輝いている。

 

考えてみれば、私が彼を見つけ出したのはハイラル城の地下牢だ。地下牢に閉じ込められた者が剣と盾を装備しているなどということはどこの世界でも聞いたことがない。

 

だがその一方で、彼の背中にはその金属の盾が輝いている。

 

そして私は、彼と地下牢で出会ってから片時も彼から目を離してはいない。

 

だから、その盾の存在そのものが、彼の話す突拍子もないストーリーの証拠となってしまっている。

 

「僕はBiT過程を通じて世界線を越えたんだ」

 

リンクは再び口を開いた。

 

「BiT?」

 

「そう。バックインタイム。高所から飛び降りた瞬間に『リセット』と念ずることで平行世界のオルディン大橋にワープする現象をいうんだ。その平行世界では、勇者は既に鉄の剣と盾を持っている。だから僕はこれを装備することができたわけさ」

 

私はもはや語るべき言葉を失っていた。

 

このリンクという若者は、常軌を逸した狂人なのだろうか。それとも、凄まじい力を持つ魔法使いなのだろうか。

 

いや....それとも、それらを遥かに超越した、私にとっても測り知れない別の『何か』なのだろうか?

 

「このBiT過程は、実はあとでもう一度行う予定なんだ。だから君が驚かないよう説明しておこうと思ってね」

 

リンクは続けた。だが私はもはや呆れ顔でこう言った。

 

「......お前が説明しようがしまいが、私は驚くと思うぞ」

 

私は溜め息をついた。

 

どうやら、私にもひとつのことが分かってきた。

 

当初私はこの若者を使役して自分の目的を果たそうと思っていた。

 

だが、この冒険の主導権は、私の好むと好まざるにかかわらず、彼が握っているらしい。

 

「....認めたくないが、どうやらお前は私よりも遥かに多くを知っているらしいな」

 

そう言うと私は尋ねた。

 

「だが、お前がこの森の奥に来た目的は何なんだ?見たところ、お前は最初からここにくるつもりで、この場所に何があるかも知っていたような様子だった」

 

私は彼を見上げ、言葉を継いだ。

 

「教えてくれ。その剣は一体何なんだ?」

 

するとリンクは剣を掲げながら答えた。

 

「マスターソード。このハイラルでは『聖剣』とか『退魔の剣』とか言われている。確かに普通の剣に比べると対魔物の戦いにおける威力はけた違いさ。だが、その力はそれを遥かに超える」

 

リンクは微笑むと、背中に背負った鞘に剣を納めた。

 

「僕が狙っていたのは、これを早期に手入れることで得られる効果さ。ある世界ではそれをEMS効果と呼ぶらしい」

 

「も...もったいぶらずに結論から先に言ってくれないか?」

 

私はそう頼んだあと、ある事実に気づいて自分の口を押さえた。

 

「もしかして、その効果というのは.....................!」

 

「そう。『世界線の変動』さ」

 

リンクはわが意を得たりといった表情で頷いた。私は驚愕に目を見開きながら呟いた。

 

「そうか...........もしかして私がさっき口走った言葉は..」

 

「そう。それもEMS効果さ。冒険を重ねた勇者のみが入手できるマスターソード。だが、これを不正な方法で『冒険を重ねることなく』手に入れた場合、マスターソードはその条件が満たされたものと見做して世界線を移動させ、整合性をとるんだ」

 

リンクが答える。

 

「つまり、その場合勇者は『彼が既に冒険を重ねた世界線』に自動的に移動させられる。勇者だけじゃあない。その周囲にいる者、いや、世界そのものが動かされるんだ」

 

その言葉を聞いた瞬間に、私の脳内で急激な変動が起こった。

 

今まで存在していなかったはずの『記憶』が溢れてくる。

 

森の奥の巨木の内部にある神殿での冒険。火山の麓にある鉱山での冒険。そして湖底に隠された水棲亜人たちの神殿での冒険。

 

この私が、リンクという若者とともにそれらの冒険を行ったという『記憶』。

 

表層意識では、私は実際にはそれらの冒険をしていない。それは明白だった。だがそれなのに私の脳内には確かにその『記憶が』いつの間にか鎮座していた。

 

まるで外部から無理やり捩じり込まれたかのように。

 

「ま.....待て!待て!待て!」

 

私は自分の頭を押さえると、叫んだ。誰かが自分の脳を素手で弄っているような気がしたからだ。私はしばらくうずくまって荒い息をついていたが、ようやく気を取り直して立ち上がった。

 

「じゃ..じゃあ私の中にいまある冒険の記憶は..」

 

「そう。EMS効果により強制的に挿入されたものだ」

 

私が言うと彼は答えた。私は辛うじてその事実を整理すると、言葉を継いだ。

 

「...つまり私たちはもう長い間ともに冒険を『したことになっている』わけだな?実際にはしていないが....」

 

「ミドナ....実際に冒険をしたかしていないかなんて、どうでもいいことじゃないか?」

 

彼がそう言うのを聞いた私は戸惑って顔を上げた。

 

「どうでもいいって....どういう意味だ?」

 

「そのままの意味さ。それよりも『世界線を進める』ことのほうがはるかに重要さ。そして、それこそが君の属する影の国の危機、そしてハイラル王国の危機を早期に解決することにつながるんだからね」

 

リンクは言った。私は彼に尋ねた。

 

「待て...私は....まだ自分のことは何も話していないぞ?なぜ『影の国の危機』のことを知っている?」

 

するとリンクは困惑した顔で肩をすくめた。

 

「知っているもなにも、それがこの冒険のキモじゃないか。君もさっき言ってたろ?陰りの鏡がザントにつながる唯一の鍵だって。僕と君は協力してザントを倒すんだ。違うか?」

 

「それはそうだが.....」

 

私は答えた。だがまだ納得がいかなかった。私は尋ねた。

 

「教えろ。お前は影の国についてどこから知識を得た?」

 

すると彼はしばらく黙ったあと、おもむろに口を開いた。

 

(次回に続く)

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