黄昏の姫と緑の勇者: RTA Any%怪異譚~ミドナが語る『世界線物理学』のミステリー   作:nocomimi

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『主従の逆転』

「さあ、行こう。これからBiTをしなきゃならない。さっき説明したことを見せてあげるよ」

 

リンクはそう言うと、フィローネの森からトアル村への道を走り始めた。

 

私は影の中を慌ててついていった。

 

私は、もはや、彼を下僕として使役するどころではなかった。

 

気づいたときには、むしろこの私のほうが下僕のようになって彼に付き従うハメになってしまったのである。

 

そんな馬鹿な、と心のどこかで思った。だが、現実は残酷なほど明白だった。

 

リンクは、私の指示を待っていない。

 

私の判断を必要としていない。

 

私の計画を参照していない。

 

彼は、私より先に“未来”を知っている。

 

私は唇を噛み、心の中で呟いた。

 

「……私は……いったい……何なんだ……?」

 

だがリンクはやがてトアル村に至る吊り橋に到達すると、振り返って私を見た。

 

「じゃあ、行くよ」

 

私は戸惑って彼を見つめた。

 

すると彼は、やおら橋から飛び降りた。

 

下は、底も見えない、光も届かないほど深い峡谷だ。

 

リンクはそこに向かって飛び降りたのである。

 

―うわあああああああああああ―

 

悲鳴が聞こえた。

 

「おい!リンク!正気か!」

 

私は空中を飛びながら彼を追いかけた。

 

だが次の瞬間だった。信じられないことが起きた。

 

私たちは、突然石造りの巨大な橋の上に移されていたのだ。

 

リンクは、呻き声を上げながら上体を起こして立ち上がっている。

 

時刻は夕暮れどきだ。周囲の光景はさっきまでと全く異なる。

 

これが.......これが「平行世界」なのだろうか?

 

立ち上がったリンクは橋の上を歩いて縁に向かった。下は真っ暗な奈落だ。

 

「おい...お前まさかもう一度...」

 

私は声をかけた。

 

だがリンクは聞いていなかった。

 

すると、私の目の前にぼんやりと「LEGEND OF ZELDA TWILIGHT PRINCESS 2006 NINTENDOⓇ」という文字と共に、狼の横顔のような図柄が浮かんできた。

 

一体何が起こっているんだ?

 

混乱した私をよそに、リンクは息を大きく吸い込むと、橋の縁から飛び出した。

 

リンクの身体が落下していく。

 

―うわあああああああああああ―

 

またも悲鳴が聞こえた。

 

私はそこに立ち尽くすしかなかった。もはや、この怪奇現象に身を任せる以外のことは思いつかなかったのだ。

 

* * * * * * * * * * 

 

しばらくすると、私たちは広々とした平原の上にいた。リンクは馬の上に乗っている。

 

そして、目の前には、巨大な緑の鬼がこれまた巨大な猪に乗り、その猪から上に突き出た木の棒には、一度も会ったことのない子供がぐるぐる巻きに縛られていた。 

 

私たちはまた別の世界に転移させられたのだ。

 

リンクは馬を加速させると、大鬼に向かって突進した。だが相手は猪の向きを変えて逃げる。

 

だが距離はすぐに詰まった。リンクは剣を抜いて振り回し、大鬼に一撃を与えた。

 

背後からは、ブルブリンたちが猪に乗って追いかけてくる。後ろからビュンビュン火矢が飛んで来た。だがリンクはそれを無視し、蛭のようにしつこく大鬼に付きまとった。相手が右に行けば右に、左に行けば左に曲がる。剣を振り回し、何度も大鬼に打撃を与えた。

 

(傍から見ている私からは、もはや一方的に暴行を加えているようにしか見えなかった。)

 

いつしか足元の草原が石畳になった。はるか先には石造りの構造物が見えた。

 

私にはピンときた。あの大橋に向かっているのだ。

 

リンクと大鬼は橋の入り口にある堅牢な石積みの門に向けてひた走る。

 

やがて大鬼が橋の入り口に到達した。

 

入り口には、木の逆さ杭が何本も立てられている。大鬼の猪はそれを飛び越え橋の中に走り入っていった。

 

リンクも彼を追尾し、馬に逆さ杭を飛び越えさせた。

 

すると、橋の門の上にいたブルブリンが火矢を射って、逆さ杭に火をつけた。油でも染み込ませてあったのか、逆さ杭はたちまち燃え上がった。 

 

私たちと大鬼は橋に閉じ込められたのだ。

 

すると、リンクは馬を橋の通路の端に寄せ、続して加速の合図を与えた。

 

向こう側にいた大鬼も猪を加速させこちらに迫ってくる。

 

だがリンクは少し進むと突然馬を停止させ、百八十度方向転換させた。

 

次いで、馬をゆっくりと走らせつつその位置を微妙に横に移動させる。

 

後ろから、大鬼の猪が迫ってくる足音がする。だが向こうの速度が速く、相手がリンクを横から追い抜く形になった。

 

その瞬間、リンクは二度剣を振った。剣は二回とも大鬼を直撃し、そいつは大猪から落ち、呻き声を上げながら真っ逆さまに谷底に落ちていった。 

 

終わった。

 

実に呆気ない勝負だった。

 

* * * * * * * * * * * * 

 

私たちは気づいたときには、別の場所に移されていた。

 

何度も連続する、何の前触れもないこの「転移」に、私は現実感覚を失いそうになっていた。酷い頭痛と吐き気がしたが、どうにかこらえた。

 

目の前には広い泉がある。周囲に植生は少なく、砂岩の崖に囲まれている。

 

そして、太陽が見えず、あたりは奇妙な影に覆われている。

 

そう、その場所は明らかに影の領域の中だった。

 

「ここはカカリコ村だよ。オルディンのトワイライトの中さ」

 

リンクは私の心を見透かしたように言った。そして彼が人間の姿でいられるという現象もそのままだ。

 

彼はいきなりダッシュすると、泉から離れた。前方には、影の使者たちが三匹ほどいる。

 

リンクは敵の群れに飛び込み剣を抜くといきなり回転斬りを放った。たちまち三匹ともが致命傷を負って倒れる。すると、その死骸が崩れて頭上にあるポータルに吸い込まれていった。

 

「ミドナ、狼に変えてくれ」

 

彼は剣を納めると言った。私が彼を変身させ、その背に跨ると、彼は村の東側の出口に向けて走り始めた。

 

彼は村の出口の門に着くと、そこで歩哨をしていたボコブリンたちを無視し、門の下を潜り抜けて向こう側に出た。

 

狼の脚は早い。やがて私たちは峡谷地帯に出た。

 

すると、渓谷にかけられていたはずの橋が除去されたような跡がある。私は言った。

 

「ヘンだな、橋が架かっていないじゃないか。さっきの奴らの仕業か?つまらないことしやがって。仕方ない、探してみるか.....おい、マップ出しな!」

 

そう言ってから、私は思いがけない高飛車な自分の口調に驚いてしまった。

 

本来なら、私が使役者で彼が下僕(のつもり)だったのだから当然といえば当然だ。だが、彼が全てを知り尽くしているかのような様子を見せつけられた後でのことだったから驚いたのである。

 

そしてすぐに思い至った。

 

―――これは、私が彼に出会ってから間もない世界線での出来事、のはずだったのだ。

 

「さっきの森は...と。.......これが『ポータルだ』。私の力で運んでやるよ。どこのポータルか、選んでみな」

 

リンクは狼姿だから、マップなど持っていない。そもそも言葉さえ話せない。なぜ私はこんな質問をしているのだろう?

 

だが、もはや私は驚かなかった。

 

そして、リンクが必ず「フィローネの森北のポータル」を選ぶという確信が心に浮かんできた。

 

私は、さっそくワープを開始した。私たちの身体がポータルに吸い込まれていき、数秒後には目的の場所に着いていた。

 

「ほらな?ついたぞ....」

 

私が口を開いた瞬間、リンクは吼え声を上げて前方に跳躍した。それがあまりにも唐突なことだったので私はまた黙り込むハメになってしまった。

 

するとリンクは、手近の岩壁の近くに置いてあった木の構造物に近づいた。

 

「あったあった.......これみたいだな。どうだ?運ぶか?」

 

私は言った。するとリンクは頷く。

 

私は空中に浮上して魔力を集中させた。すると、私の髪の毛が大きな手の形をとった。

 

橋の構造物全体にオレンジ色の雷が走った。私が気合を発すると、橋が重い音を立てて動き、宙に浮いた。

 

私がワープを開始すると、橋は私たちとともに上空のポータルの中に吸い込まれていった。

 

数秒すると私たちはカカリコ渓谷に戻った。橋をゆっくりと渓谷に置くと、ぴったりと嵌る。

 

そして私とリンクはその橋の上に降り立った。

 

だが私がリンクの背中にどっかと腰を掛けた瞬間、彼はまたも吠え声を上げてジャンプ攻撃を繰り出した。

 

いきなりなぜ?私は呆気に取られて口を閉ざしてしまった。

 

(そして私は後になって気づいた。彼は、私が何か話そうとするたびに『わざと』そういう行動をしていたのだ。私に余計な言葉を喋らせないために。)

 

すると彼は私をジロリと見た。

 

「ワープしたいのか?」

 

私が気を利かせて尋ねると彼は軽く唸った。

 

「どこだ?フィローネの森の北側か?」

 

私は、リンクがまだ森の神殿を探索していないことを思い出して提案した。すると彼は頷いた。

 

私は再びワープを開始した。

 

....だが、私はどこかモヤモヤしていた。

 

橋を運んだとき、私は自分の魔法の力を少しぐらい自慢したかった。

 

だがその途端、彼は吠えて空中に向けジャンプ攻撃をし、私を驚かせて黙らせたのだ。

 

私は、彼の前でほんの少し自慢をすることさえ許されないのだろうか?

 

だがそんな思索をしているうちワープが完了し、彼はフィローネの森の北ポータルの下に降り立つといきなりダッシュし始めた。

 

私は慌てて後を追った。

 

私はもはや、彼に付き従っていくしかなかった。

 

(次回に続く)

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