黄昏の姫と緑の勇者: RTA Any%怪異譚~ミドナが語る『世界線物理学』のミステリー 作:nocomimi
私はフィローネの森の北側に向けてワープを開始した。
だが、私はどこかモヤモヤしていた。
橋を運んだとき、私は自分の魔法の力を少しぐらい自慢したかった。
だがその途端、狼リンクは吠えて空中に向けジャンプ攻撃をし、私を驚かせて黙らせたのだ。
私は、彼の前でほんの少し自慢をすることさえ許されないのだろうか?
だがそんな思索をしているうちワープが完了した。
狼リンクはフィローネの森の北ポータルの下に降り立つといきなりダッシュし始めた。私は慌てて後を追った。
私はもはや、彼に付き従っていくしかなかった。
彼は巨木の方に向かっていった。すると、巨木に通じる通路の手前に金色の毛並みをした狼が座っている。
リンクは立ち止まると私に顔を向けた。
「人間に戻りたいのか?」
そう尋ねると彼は頷いた。私がマスターソードを彼の前に置くと、彼は人間に戻った。装備を整えると、彼は金色の狼に近づいて剣を構えた。
すると、金色の狼は彼に飛び掛かった。
私は思わず声を上げた。リンクが倒れたかのように見えたからだ。
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ところが、金色の狼の姿は忽然と消えた。そして数分もすると、倒れていたリンクはむくりと起き上がった。どうやら無事だったようだ。
「待たせたね。行こう」
私は不思議に思って尋ねた。
「リンク...あの狼は一体?」
「ああ、僕の師..みたいなものさ。親切なことに、僕に『奥義』を教えてくれるのさ」
彼は剣を納めると気軽な調子で言った。
「あの狼が?」
私は眉をひそめた。するとリンクは巨木への道を歩きながら答えた。
「まあね。昔の勇者だったって話しだ。七つも奥義を知ってるとか言って自慢してるのさ。でも僕に必要なのは最初の一つだけだけどね。他の六つは役には立たないよ。だからもう二度と会うことはないと思うよ」
私は言葉を失った。
――“昔の勇者”?
――“七つの奥義”?
――“もう二度と会うことはない”?
その言い方は、まるで すべての未来を知っている者の口ぶり だった。
だが、私が何かを尋ねようとする前に、彼は巨木の根元に立ち、カンテラを点火して、巨木の洞の入り口にかかった蜘蛛の巣を焼き払い始めた。
そうして手早く障害物を除去すると、彼は洞の中に入っていった。
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洞の中は薄暗い。それは奥の方まで続いており、やがて私たちは細長い部屋に出た。
入り口左右に燭台が置いてあり、ぼんやりとした光を発している。
部屋の中を見回していると、前方から猿の鳴き声が聞こえてきた。
奥の行き止まりに木の檻が置かれ、その中に猿が閉じ込められているのだ。そして、その横には人影がある。ボコブリンだ。
リンクはいきなりダッシュして前進すると、ボコブリンに躍りかかってジャンプ斬りを喰らわせ、着地するが早いが回転斬りを放った。
ボコブリンがひとたまりもなく吹き飛ぶとともに、猿を閉じ込めた檻がバラバラになった。
猿はすぐ檻から飛び出してきたかと思うと、突き当たりの壁に生えている蔦をするすると登った。
猿が、その上からキイキイと声をあげる。よく見てみると、壁には高い舞台がしつらえられており、その上には扉があるようだ。猿はしきりに手招きして、この先を案内するからついてこいと言っているようだ。
「なんだこいつ、カンテラ盗んだ猿だよな?」
私はそう言った。
「お前を誘ってるのかな?モテる男はつらいねぇ」
だが、それを言ってから、私はまたも自分の記憶が弄られていることに気づいた。
私は、リンクのカンテラを猿が盗んだところなど見たことはない。それなのに、私の口が勝手に動いたのだ。
表面では、私がリンクをイジったかのように見えたやり取りだったが、私はまた背筋が寒くなった。
おそらく、「猿がカンテラを盗む」世界線がどこかに存在していたのだろう。だがリンクの行動により、その出来事は消失したが、私の脳内の記憶には「その出来事があった世界線」が混在していたのかも知れない。
いずれにせよ、リンクが私の間抜けなセリフを無視してくれたのが幸いだった。彼は床に生えていた食人植物・デクババを剣で刈り取って始末すると、その巨大な蕾を持ってきた。
見ていると、彼はそれを持ち上げて投げる構えをとっている。私が目を上げると、高い舞台から生えた蔦の合間に何か動くものが見える。蜘蛛だ。それも人の頭ほどもある大きさだ。毒々しい色で、厄介な奴だとすぐ分かった。
リンクは巨大な蕾を蜘蛛にぶち当てた。たちまちそいつはギエッと悲鳴を上げて落ちていった。
障害を片付けると、彼は蔦を登って舞台の上に立った。
猿にせがまれるままに、リンクは突き当りにある扉を開けた。するとその先は同じくらいの広さの細長い部屋だ。
リンクはその部屋の真ん中にあった小高い舞台への階段を上っていった。すると、頭上からとんでもなく巨大な蜘蛛が逆さになって降りてきた。私たちについてきた猿がたちまち悲鳴を上げた。
「リンク、早くそいつを倒せ!私そういうの無理なんだよ!」
私は思わず叫んだ。すると、リンクはその巨大蜘蛛が接近してくるが早いが姿勢を低くして回転斬りを放った。
凄まじい斬撃を喰らった蜘蛛はひっくり返ると断末魔の悲鳴を上げ痙攣し始めた。実に呆気なかった。
私はまたも呆然としてしまったが、その間にもリンクは行動していた。
カンテラを取り出すと、舞台の上にあった四つの燭台に火を点ける。
すると、舞台の北方の低い床がせりあがってきて、北側の壁に設えられた扉と同じ高さで止まった。燭台が引き金となる仕掛けが仕組まれていたのだ。
私たちはせり上がった床を進み、北側の扉を開け、向こう側に出た。
扉の先は野外だった。扉の前から長い吊り橋が北のほうに伸びている。その先にはもう一本の巨木があり、その側面にも扉がしつらえてあった。
私たちに付きまとっていた猿は迷わず吊り橋を渡っていった。どうやらこの先に仲間がいるらしい。
すると、向こう岸の扉から何かが出てきた。こちらも猿だ。だがその体格は格段に大きく、筋骨もたくましい。明らかに群れのボスだ。
ところが、ここでまた奇妙なことが起きた。
私の記憶がここで途切れたのだ。次に目を開けたときには、目の前にあった吊り橋を支える綱があらかた切れており、無残にも残骸が垂れ下がっているのみだった。
「あぁあ、先に行けると思ったのに.....」
私は呟いた。私たちについてきていた猿は、あのボス猿に脅かされたのか、怯えた様子で頭を抱えている。
「何か知らないが、こいつ案内してるつもりみたいだし、ついていけばいいんじゃないか?」
ところが私がそう言ったとき、さらに奇妙なことが起きた。
いつの間にか、私たちに付きまとっていた猿の数が、どこからやってきたのか、四匹に増えた。
四匹の猿たちは、まだ残っていた綱に次々と飛びついたかと思うと、それぞれ間隔を開けて足から逆さにぶら下がった。
猿たちの意図に気づいた私は仰天した。
ここを猿たちの手を飛び移りながら渡れというのか?
だがリンクは全てを予期していたような表情だった。彼は、迷うことなく前に進むと、最初の一匹の猿めがけて飛び付いた。
そして、次の猿へと素早く移動していき、とうとう向こう岸に辿り着いた。
私は空中を浮遊しながら慌てて彼に追いついた。
「フラグの変更が役に立ったよ」
私が追いつくと、リンクは微笑んでそう言った。
「フラグ?何のことだ?」
私は眉をひそめた。すると彼は説明した。
「さっき平原で巨大な鬼と戦っただろう?それによって、猿たちの力でこの橋を渡るために必要なフラグが立ったのさ」
私はまたも目を丸くするしかなかった。
「........言ってる意味がゼンゼンわからないぞ」
「ともかく、そういうことさ。さあ、行こう」
リンクはそういうと前進し、突き当たりにあった扉を開いて向こう側に行った。
(次回に続く)