黄昏の姫と緑の勇者: RTA Any%怪異譚~ミドナが語る『世界線物理学』のミステリー   作:nocomimi

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『ダンジョン探索の中断』

リンクは綱からぶら下がった猿たちを伝って奈落を向こう岸に渡ると、目の前の扉を転がして開けた。

 

中に入ると、そこは広い円形の部屋だった。木でできたポールが多数、円形の配置で置いてある。天井には大きな穴が開いており、そこから太陽の光が差し込んでいる。

 

部屋の中央にもポールがあり、その上に例のボス猿が座っていた。

 

ボス猿はブーメランを手にしており、こちらに気づくと異様に光る眼でじろりと睨んできた。

 

その途端、背後で何か重いものが落ちる音がした。見ると、入ってきた扉に頑丈な格子がかかっている。閉じ込められたのだ。

 

だがリンクは慌てていなかった。彼は身を低くすると走り始めた。

 

ボス猿はポールの上に陣取っている。そしてリンクが近づいていくと、跳躍して次々と別のポールに移っていった。

 

だがリンクはすぐにコースを変え追尾する。そして、そいつがポールの上に止まってブーメランを投げた瞬間ダッシュした。

 

飛んできたブーメランをかいくぐり、全力で前転を繰り返して相手に肉薄する。

 

そして、戻ってくるブーメランを回収しようと猿が手を伸ばしている間に、リンクは思い切りそのポールに体当たりした。

 

一回、二回。

 

足元のふらついたボス猿は、戻ってきたブーメランに頭を直撃されポールの上から転げ落ちた。

 

リンクは剣を抜くと、うつ伏せで床にだらしなく伸びたボス猿に殺到した。

 

尻の方に回り込むと、思い切りジャンプ斬りを叩きつける。ボス猿がたちまち悲鳴を上げ跳ね起きる。だが着地するが早いが、リンクは渾身の回転斬りを放った。回転の勢いで二度の斬撃が猿の尻を襲う。さらにダメ押しで突きを二度放った。

 

あまりの激痛のせいか、ボス猿はギャアと声を上げのけ反ると、うつ伏せに倒れて震え始めた。

 

またもあっけない戦いだった。

 

* * * * * * * * * * * * * * * 

 

リンクは剣を納めた。

 

猿の背後には奇妙な形をした大きな蟲が転がっている。

 

両掌ほどの大きさで、甲冑のような背中に毒々しい色をしている。

 

そいつはさっきの剣の攻撃で致命傷を負ったのか、足を震わせた後動かなくなった。

 

ボス猿はすぐに立ち直り、身体を起こした。だがリンクの気配に気づくと、恐る恐るの様子で振り返り、そして恐怖の叫び声を上げながら跳躍して天井の穴から逃げて行った。

 

床にはボス猿が落としていったブーメランがあった。

 

すると、ブーメランは突然回転し空中に浮いた。同時に声が聞こえる。

 

「勇者よ、私はブーメランに宿る風の妖精です.....」

 

私は少なからず驚いた。どうやらこの道具の中には精霊が閉じ込められていたようだ。

 

「あなたのおかげで邪悪な力から解放されました。どうぞ、わが力が宿るこのブーメランをお使いください」

 

リンクはこの喋るブーメランの話に対して気にも留めていない様子だった。そして無造作にそいつをベルトに挟むと、床にごろりと寝転がった。

 

「休憩か.....なら私も少し休ませてもらうぞ」

 

怪奇現象ばかり見せられてメンタルに疲労を感じていた私はそう言った。

 

「いや、違うんだ」

 

リンクは寝転がったまま私に言い、こう続けた。

 

「今までの行動を思い返し、目を閉じ眠りに入る。別の世界では『セーブリセット』とも言うんだ」

 

「セ.......セーブリセット?何だそれは?」

 

「ともかく、もうこのダンジョンの探索は終わりだよ。僕らは二度とここには来ない」

 

彼は言う。私は驚いて声を上げた。

 

「ちょっと待て待て待て待て。影の結晶石はどうなる?」

 

「いらない。必要ないよ」

 

彼は平然と言った。私はますます面食らった。

 

私は思わずその名称を言ってしまったが、そもそも影の結晶石のことをまだ彼には説明していないのだ。

 

だが、リンクの答え方は、全てを知ったうえでの否定のように聞こえた。

 

「なぜ知ってる?いや、だいいち、あれはザントと対等に戦うためには必要な....」

 

だが、彼は既に寝息を立てていた。

 

* * * * * * * * * * * * 

 

気が付くと、私たちは神殿の入り口にいた。

 

何かの外的な力で強制的に戻されたのだ。

 

リンクは立ち上がると、ダンジョンから出た。

 

すると、出口の前にはボコブリンが二匹ほどいる。

 

しかしリンクはそれには目もくれず私に要求した。

 

「ミドナ、カカリコ村のポータルに飛んでくれ」

 

私は言われたとおり彼を変身させ、ワープを始めた。

 

ボコブリンたちがこちらに気づいて騒ぎ始めたがもう遅い。私たちはポータルに吸い込まれた。

 

数秒後、私たちはカカリコ村の泉の前に降り立った。すると誰かの声が聞こえた。

 

「狼に...姿を変えられた....勇者..よ..」

 

泉の上に、白い光の塊のようなものがいる。精霊だ。彼は途切れ途切れの声で呼びかけてきた。

 

「わ...私は...精霊オルディン....勇者よ..こちらへ..」

 

リンクは泉の中に入ると白い光の塊のほうに向かって奥に進んだ。

 

「影の者たちに...奪われた..わが光を...どうか取り戻してほしい...」

 

目の前に、フィローネで見たのと同様の、蔓の周囲に白いガラス状の球が寄せられた葡萄のような器が出現した。

 

影の領域に散らばった闇の蟲を狩り、光のしずくを回収すれば、このトワイライトを晴らすことができるのだ。

 

私がそれを受け取ると、リンクは早速村の中を掃討し始めた。

 

彼は民家や商店跡を回って手際よく闇の蟲を片づけていった。だが、その間にも、彼は奇妙な挙動を何度か見せた。

 

泉の近くの礼拝堂の裏手にある墓地でのことだ。彼は井戸の脇で私に合図して人間に戻ったかと思うと、横っ飛びして井戸の中に飛び込んだのだ。井戸の上には板で蓋がしてあったのにもかかわらず。

 

井戸の下は地下通路だった。彼は落下の衝撃にも関わらず涼しい顔をしていた。そして怪訝な顔で見ている私に対してこう言ったものだ。

 

「『抜ける』ことができる場所って結構あるのさ。君もいずれ慣れるよ」

 

私は呆れて首を振った。物理的に不可能な話だ。

 

(だが私はのちに思い知らされることになる。この『抜け』という技をを通じて、リンクは私に思いも寄らなかった『世界の秘密』を見せたのだ。)

 

リンクは狼に変身して地下空間の蟲を素早く片付けると、私に頼んで魔法の力で地上に出た。

 

さらに、爆弾屋の看板のかかった建物を掃討すると、その背後の崖の上でリンクはまたも奇妙な技を私に見せた。

 

崖の上にある小屋の手前の階段で、手すりの上に登って、階段の脇の崖に跳躍し飛び移ったのだ。

 

そうしてリンクが小屋に近づくと、横から闇の蟲が走ってくる。小屋に入り込むつもりらしい。私がリンクの合図で結界を出すと、彼は素早くその蟲を狩った。

 

するとどうだろう。次の瞬間に小屋が焼け落ちたようになった。ほんの一瞬でだ。

 

そして、狩られた蟲は一匹だったのにも関わらず、光のしずくが三つほど焼け跡に浮かんでいた。

 

私は驚きのあまり開いた口がふさがらなかった。だが狼姿のリンクは私をジロリと見るとしずくに近づいた。私は慌ててそれらを回収した。

 

私たちはそうして村内を掃討した。するとリンクは北側の山道を登り始めた。

 

しばらく進むと、広場があり、そこに影の使者たちが四体ほどたむろしている。どうやら鉱山施設に入ったらしい。

 

リンクが進んでいくと、たちまち魔法柵が出現した。

 

だが彼は手近の使者たちには目もくれず、右手の魔法柵に突進した。

 

一体何をするつもりだろう?私がいぶかしむ間もなく、彼は魔法柵の小さな隙間を通り抜け、その向こう側にいた一体に飛び掛かった。

 

彼がそいつを片づけると、私にはやっと飲み込めた。

 

この一匹は、魔法柵で隔離されており、他の三匹が倒れたとき蘇らせるための「保険」だったのだ。

 

そしてリンクは素早く隔離区画から出ると、残り三匹の真ん中に滑り込み私に合図した。そして私が結界を出すと、あっというまにそいつらを葬り去った。

 

その後私たちは、鉱山の中でも闇の蟲を片づけた。

 

すると、それが全てだったようだ。最後の光のしずくを回収すると、リンクの身体が光り輝き始めた。影の領域が晴れたのだ。

 

* * * * * * * * * * * * * * * * * * 

 

しばらくすると、私たちはカカリコの泉の前にいた。

 

例のごとく、泉の上に精霊が姿を現して何かを話そうとしたが、リンクが目を光らせると彼は途端に口を閉ざし姿を消した。もう見慣れてしまった光景だ。

 

そして、ふと見ると、礼拝所の前に、祭司の服を着た痩せた男と、子供たちが何人か並んで立っている。

 

服装からすると、おそらくリンクの村の子供たちだろう。

 

私は、彼が村の子供たちと再会を喜びあうものと思って、自分の姿を影の中に隠した。邪魔したくはないと思ったからだ。(それに、ザントの呪いによって変えられてしまった自分の醜い姿を見られたくないというのもあった。)

 

だが、彼は子供たちに目もくれず、村の目抜き通りを北に向かってダッシュし始めた。

 

「お...おいリンク!子供たちのことはいいのか?」

 

私は姿を消したまま彼にそう言った。

 

「ああ。時間を節約したい」

 

彼は走りながら端的にそう言った。

 

私は驚きあやしんだ。

 

別の世界から来た私でも、魔物に誘拐された子供たちの無事を確かめた際にはどれほどの感動の再会が繰り広げられるのか、それくらいは想像できる。

 

だが彼は言い放ったのだ。

 

「時間を節約したい」....と。

 

(次回に続く)

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