友達欲しさに陽キャに変身したら激重感情を向けられた!? でもでもまあ私が受け入れれば良いし大丈夫……え、三人も!? 作:匿名k
「星紙さんだよね」
図書室、昼休み。
相手はクラスメイトの
教室でもあまり言葉を発しない物大人しい少女である。
私は星紙さんと仲良くなりたかった。
なにせ、同志だ。私も教室内じゃ殆ど言葉を発することが出来ない……いわゆる陰キャという立場に甘えた落ち葉の下に住むダンゴムシ以下の存在で、星紙さんとは何だかシンパシーを感じちゃうから。いや、こんな評価は星紙さんに失礼かもしれないけども! でも仲良くなりたいって気持ちは本当!
星紙さんは私の存在に気づくと両手で本を持ったままびくりと肩を震わせた。
「誰でしょうか?」
「ええと、私は……」
名乗ろうとして、口籠った。
やばい───本名を名乗れない。
私は今陽キャに"変身"している。
オタクに優しい陽キャ───なんて想像上の産物でしかない存在を思い描いて、その通りの姿と性格で星紙さんへと声を掛けた。
つまり、何が言いたいかというと、今の私の姿はいつもの黒髪ぼさぼさグータラファッションをした、いかにもイケていない女子生徒筆頭な私立雪ノ下学院高等学校2年3組の砂肝愛葉じゃなくて、きらきらピカピカ金髪美少女の陽キャで───。
まずい、なんて名乗ろう!?
てか気づけよ私!
「え、ええーとね、砂肝……そう! 砂肝ねぎま!」
「ね、ねぎま……?」
「うん、そうそうねぎま! 遠慮せずにネギちゃんって呼んでいいからね!」
強引な私に、星紙さんは戸惑うように控えめに頷く。
幾ら陽キャに"変身"しているとはいえ、中身は私───うーん、おっちょこちょいなのは変わらないかー。
でもでも、普段の私ならここで絶対に落ち込んで勝手にネガティブになって卑屈に凹んでいたけども、今日の陽キャになった私は一味違う!
「星紙さんのこと見かけてからずっと気になっててさー仲良くなりたいなあって!」
「そ、そうなんですか」
困り眉を浮かべ視線を左右に振っている。戸惑いの表情……と解釈するのはポジティブすぎるし、実際はかなり引かれているのは分かるけど、今の私は自己肯定感も普段の100億倍以上あるから全然ノーダメージ。
嘘だ。
本当はまあまあ逃げたい。
0.1の100乗くらいしかない私の自己肯定感に100億をかけても1には到底届かないのである。つらい。
「それより星紙さん、何読んでるのー?」
「……これです」
星紙さんはおずおずと本をこちらに見せてくる。
「岬の恋文……聞いたことない小説だね。面白いの?」
「どうでしょう? まだ読んでる最中なので分かりません」
「そうなんだー。星紙さんって読書家なんだね」
「あの、砂肝さんは、どこで私のことを知ったんですか?」
思い切り顔を直視しているからか、羞恥に赤らめた表情をしながら本で顔の下半分を隠しながら私を上目遣いで見る。
う……っ。
ドキドキするんだけども……っ!?
勿論、星紙さんの言葉も一因ではある。私──砂肝愛葉は星紙さんと去年からクラスメイトだから知っているけど、いまの砂肝ねぎま(仮)とは縁もゆかりもない。言い訳を……どんな言い訳をすればいいんだ、という焦りはある。
でも───それ以上に。
星紙さんの顔が良すぎる。
可愛い。愛でたい。甘やかしたすぎるぜその透明で純粋無垢な顔立ち!
……ってのは不審者案件になりかねないので、ホントにホントの冗談だけども。
多分、星紙さんの容姿にクラスで気づいている人は私以外にいないかもしれない。
星紙さんはいつも藍色のミディアムボブでその大きな瞳の半分を隠している。俯きがちだから姿勢も少し猫背気味で、それに私からすれば高級な鈴みたく心に染みる声も発せられる機会はそう多くない、クラスじゃ意識的に目立たない位置へと瞬間移動するその姿は陰キャインドアの同志として非常に共感してしまう。
そんな生態からして分かりづらいのは確かだけど、よく見れば星紙さんは美少女なのだ。
薄く桜色で濡れた唇、しなやかない長い睫毛、光を吸って煌めくライム色の瞳、肌荒れ一つない乳白色の肌色、筋肉を殆ど纏っていないしなやかな四肢。
そんな見た目からしても同性ながらに魅力的で、陰キャ同盟という絆を勝手に抱いていたこともあるけど、その綺麗な見た目からしても私は星紙さんと友達になりたかったのである。
……なんだか烏滸がましいな私。可愛いから仲良くなりたいって面食いじゃあるまいし。
とか、そんな卑下する感情すら星紙さんが恥じらう顔を前にすればどこかへ吹っ飛んでしまう。
「……か、可愛い」
「可愛い……? か……」
「あ、違う違う! 私が星紙さんを知ってる理由だよね! あははークラスは一緒になったことないけどこの前廊下で見かけさてー凄い気になってたんだ! 仲良くなれればなーって! 名前はちょっと人に聞いただけだよ!」
「そ、そうなんですね……」
と言いながら星紙さんは今度は顔全部を隠そうと文庫本を更に持ち上げた。そのしぐさが小動物チックに思えてつい歓声を上げかけた。
もう生態が可愛いんですけど……!
いやはや、しかし、なんでこの人、クラス内で影に馴染めてるんだろう……幾らちょっとばかし陰気なオーラが出てるとはいえ、望む望まない関わらずクラス内の陽キャに引き上げられそうなものなのに。一年ちょっと見てきたのにこれが全く分からない。うーん……ちょっと喋っただけでもそんな悪い人には見えなそうなのになぁ……とかコミュ障で万年友達ゼロ人の私が言ってみたりする。
陽キャな私はここぞとばかりに「でさでさ!」と攻勢をかける。凄いぞこの私。
それにいける……!
星紙さんは押しに弱い人と見た!
今ならその牙城を崩せるに違いない!
「もしよければ一緒に読書をしてもいいかな!」
「ごめんなさい、私一人が好きなので……」
「え、ええ! そうなの!?」
断られた!? しかもすげなく断られた!?
「あと読書中に話しかけてくる人は正直、嫌いです」
「本当に正直だ!? 今からどうにかなる保険はありませんか!?」
「無いです……ごめんなさい。私に話しかけないでください」
「折角だからお友達になりたいんだけど、もしかしてそれも!?」
「遠慮します。私の人生に友人は不要です」
そ、そんな極端な主義思想があっただなんて一年少々の間クラスメイトだったのに知らなかった!
でも、なんか腑に落ちた。
星紙さんは誰からも話しかけられなくて孤独を押し付けられているわけじゃない……星紙さん自身が周囲を拒んで、望んで孤独を選び取っているんだ。
こんな強い言葉を使っていればそりゃクラスメイトからは話しかけられなくなるだろう。去年も、きっと今年も、私を除くクラスメイトはそうやって撃沈したのだ。そして今まさに私も。
……でも。
普段ならここで諦めていた……というかこの図書室に来る直前で緊張からお腹を痛めてポンポンペインで逃げ出していた私だけども。
今の私は陽キャだ。
このくらいじゃへこたれないのである!
「じゃあさ、せめて連絡先でも───」
と、言い終わるや否やと言った瞬間だった。
懐に入れていた狐道具がぶるぶると震えた。
一気に顔面蒼白になって汗がだらんだらんになる。
───もう5分経ったの!?
早すぎるよ、早すぎ!
まだ体感1分も話してないって!
だけど、そんな文句を言ってもしょうがないから私は身を急いで翻す!
「ごめんね! 至急ご確認しなきゃならない……あれだあれ、用事とか用件とかそんな感じだからちょっと帰る!」
「ご確認……?」
「じゃあまた今度!」
私の妙な言い回しに首を傾げる星紙さんに背を向けて、急いで校内の女子トイレへと駆け込んだ。既にこの時には私の完璧陽キャオーラは崩壊を始めていたのだ。
空いていた個室トイレに身を投げ込むとバタンと余裕もなく戸を閉めて鍵を掛ける。
私はスマホを取り出してインカメラを起動。
映ったのは金髪ロングの完璧美少女。目も青くてまるで正統派のアニメヒロインみたいな面持ち。
笑顔は太陽みたいで、どこまでも陽気に周囲を照らす、そんな陽キャの中のSSR超えてURみたいな美少女が。
崩れていく。
水辺に石を投げたみたいに顔が波紋を打って、ぐるんぐるんと体中の全てのパーツが流転して。
───最終的に、そこにあったのは慣れ親しんだ私。
どれだけ手入れをしても治らない黒髪のくせ毛に、野暮ったい眠たい瞳、頬がぷくりと出ているせいか年齢よりも幼く見える顔立ちをした、何処にでもいるコミュ障系インドア陰キャラ人生終わり終わり系女子高校生。
砂肝愛葉のどうしようもない姿がそこにはあった。
はあ、ダメだったかあ。
思ったよりも……星紙さんは排他的だったね。
陽キャ状態の時は万能感があったけど、今なら絶対に勝てない戦いだったって分かる。所詮私は何も生まず、何も出来ず。非生産的な趣味を享受して、その割には成績も運動神経も容姿だって良くはない。本当に有り触れたただの女子高生。
見た目が変わって、心持ちが変わったとしても、芯の部分がコミュ障であることは変わらない。
鬱だ。
憂鬱ブルー。
ぶり返しが来ちゃってる。
「友達、欲しいなぁ……」
トイレの薄暗い天井を眺めながら呟く。
マイ・フェイバリット・トイレだからかここはとても居心地が良い。なにせこのトイレは便所飯で何度もお世話になっている。勿論迷惑はかけたくないから、食べ終えたらすぐに移動はしているけども。
でもそんな居心地の良さも、裏を返せば誰かがいる場所が居心地が悪いから、相対的に居心地が良くなっているってだけで。
私は懐に入っている狐道具を取り出す。
やや古ぼけて変色した木製の板だ。端には7本のそれぞれ深さが違う溝が入っていて、なんというか、旅館とかで靴をしまう鍵みたいな造りをしている。
狐道具───それは望んだ姿に変身できるスーパーアイテム。
全ては、私の友達メイキング計画は、この狐道具から始まったのだ。