ISS 聖空の固有結界 ~IS学園編~   作:HYUGA

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第2章『蒼い涙のシャープシューター』
第一話 White knight/Blue Tears


 

 □ White knight/Blue Tears

 

 入学二日目の放課後。数ある第三アリーナの客席はほぼ満席だった。

 ズラリと居並ぶ白い制服が眩しい。それが織斑一夏が、待合室のモニターからフィールドの様子を見ながら抱いた素直な感想だった。

 

 

 

 「ご苦労なことだな。こんな見世物に付き合うだなんてさ…」

 

 

 

 少し皮肉を込めて一夏は呟いた。客寄せパンダもいい所だ。

 客席に座るIS学園の生徒たち。

 そのすべてが、今から行われる唯一の男性操縦者である一夏と、イギリス代表候補生セシリア・オルコットの試合を今か今かと待っているのだ。

 

 

 

 「はぁ…ホント、どこで仕入れたんだろうなぁ、情報」

 「む。確か同じクラスの新聞部の子が言いふらしてたそうだが…」

 「おい。今日って入学二日目のはずだよな?なんですでに部活に入ってる奴がいるんだよ?」

 「あぁ。なんでも姉が部長らしいらしくな…すまん、実は私もよくは知らんのだ…」

 「…IS学園。なんて恐ろしい場所なんだよ」

 

 

 

 関係者以外立ち入り禁止のはずなのに、なぜか隣に居た箒とそんな軽口を叩き合い、俺達は同時にため息をついた。

 モニターの光しかない暗い部屋の中。外の様子が映し出されたモニターに青いISの姿が映る。

 イギリス第三世代IS【ブルーティアーズ】である。

 巨大なライフル【スターライトmkⅡ】を持つかのISの操縦者は、「いつでも準備が出来ています」と言わんばかりの表情で待ち構えている。

 俺とセシリアとの決闘までの残り時間はわずかだった。

 

 

 

 「そういえばなんで箒はここにいるんだよ?」

 「なんだ一夏、私がここに居たらいけないのか?あぁ?」

 「どこのヤンキーだよお前は…。いや、いけないってことはないけどさ…その、怒ってないのか?」

 「ん?何にだ?」

 「いやほらさぁ、昨日のこととか…バスタオル姿見ちゃったこととか…」

 「…。……」

 「ごめんなさい。だから無言で木刀を振り上げるのはやめていただけないでしょうか!?」

 

 

 

 どこから取り出したのか、彼女の手にはいつの間にか木刀が握られていた。それを見た瞬間に頭を低くするあたり、やはり彼は織斑一夏だった。

 織斑一夏の真骨頂その②『女性限定で、身近な人間になればなるほど主従関係ができあがる』

 二秒とかからなかった土下座はきっとIS学園史上に残る物だっただろう。

 そんな二人の様子に、山田先生は苦笑いしていた。

 

 

 

 「はいはい。二人とも~夫婦喧嘩はそこまでにして下さ~い」

 「なっ…ふ…ふ…///」

 「ははは、山田先生は冗談が上手いですね。俺と箒が夫婦だったら、きっと千冬姉と山田先生も夫婦ですよ~もういっそうちに嫁いできませんか?」

 「死ね!一夏!」

 「ガッ…!?な、なぜだ…」

 

 

 

 織斑一夏の真骨頂その①『鈍感』

 織斑一夏は恋愛その他諸々において、他人の気持ちを考えることが苦手なのである。

 木刀で殴られた愚弟と、ついでになぜか自分と夫婦認定されて喜んで悶えている後輩の姿を眺めながら、千冬は頭を抱えるのだった。

 

 

 

 「…少しは緊張感というものを持たんか…馬鹿者」

 

 

 

 それは心の底からの言葉だった。

 

 

 

 「さて、織斑。準備は出来ているか?」

 「いててて…ちょっとは手加減しろよな…まったく…。はい、出来てます織斑先生」

 

 

 

 千冬の言葉に、一夏はコクリと頷いた。

 すでにセシリアの方は外で待機している。時間も刻々と迫っていた。

 あとは、自分が出ていけばそれで試合開始である。

 

 

 

 「それにしても、まさか俺のIS学園でのIS初搭乗がこんな形になるなんてな…」

 「お前の場合は初お披露目でもあるのだがな」

 「そっか、忘れてた。そういえば、公然の場で披露するのもこれが初めてなのか…」

 「くれぐれも恥はかかせるなよ」

 「はは、肝に銘じておきますよ、織斑先生」

 

 

 

 緊張感の欠片もない会話だった。

 緊張感を持てと言いつつ、千冬は一夏のこういう性格は理解していた。

 こいつは緊張などしない。いや、それ以前に一夏の中にそんな感情はないのだ。表情が戻っても、感情が戻っても、一夏の心はあの夏の日から壊れたまま…。それはまだ、誰の手でも取り戻せていなかった。

 

 織斑一夏の中には存在しない感情が二つある。

 そのうちの一つが、恐怖感情だ。

 彼は目の前で車が飛び出しても、彼を狙った誘拐犯が来ても、第二次モンドグロッソのような死ぬかもしれない状況でも…決して、怖がらなかったのだ。

 それは極限の恐怖を知っているから。生きながら地獄を味わったから。これ以上の恐怖を知らないから。

 

 ゆえに、彼は緊張などしないのだ。

 結局緊張とは、失敗するかもしれない。負けるかもしれない。そんな恐怖心からくるもの。

 だから織斑一夏は怖がらないし、緊張もしないのだ。

 その感情自体が壊れてしまっているのだから…。

 

 

 

 「…それじゃあ、行ってくる」

 「…あぁ、行って来い。一夏」

 

 

 

 そして彼はピッチに立った。目を瞑り、イメージする。最強の自分を。

 

 

 

 「…来い【白式】」

 

 

 

 その刹那、一夏の身体が光で包まれる。ISが発動した証だった。

 箒はゴクリと唾をのんだ。一夏のISがどんな姿なのか、それを知りたいがために。が、すぐにその緊張感は怒りに変わった。頭に血が上る。バカにしているようにしか思えない。

 なぜなら、彼のISがあまりに非常識だったからだ。

 

 

 

 「な、なんだ…お前!!一夏!!そのISはなんだ!?」

 

 

 

 怒りのあまり怒鳴ってしまう。その箒の反応に、一夏は「やっぱりそうなるか…」と、内心苦笑いした。

 

 

 

 「なんだって…これが俺のIS本来の姿だよ。ま、確かに非常識ではあるけどな…」

 「非常識だと…そんな問題ではない!!お前はそれでどうやって戦うというんだ!?」

 「…さぁな、それは相手にもよるさ。俺を潰せるだけのものを持っていたら本気を出す。けど、もし持ってなかったら…俺が一方的に潰すだけださ」

 「っ!?一夏…?」

 

 

 

 一夏の雰囲気が変わったことに箒も、麻耶も千冬も気が付いた。

 千冬は知っていたからこそ、驚きはしないが心配そうな瞳をしている。それに対して箒と麻耶は言葉を失っていた。

 それはまがうことのない、兵士の雰囲気。

 戦場を駆ける孤高の存在の姿だった。

 

 

 

 「…一夏。くれぐれも言っておく極力【あれ】は使うな。分かってるな?」

 「…了解。けど、俺は勝つつもりだぜ。その場合は【あれ】も遠慮なく使わせてもらうよ」

 「…ふ、やはり行っても聞かないわけか。では、姉として一つだけ言っておこう。…正直に言う。お前ではオルコットには100%勝てない。【あれ】を使わない限りな」

 「はは、やっぱ厳しいな…千冬姉は…」

 

 

 

 そして一夏は外へと続く道を見つめた。

 その先にいるセシリアを、空を眺めるかのように――――

 

 

 

 「…期待はするな、自身は持つな、お前に自由などない。お前は、羽の折れた鳥なのだから」

 

 

 

 さぁ、行こうか。かつてそんなことを言ったどこかの科学者を見返すために。

 その瞬間、一夏は飛び立った。白い翼を羽ばたかせながら…。

 

 

 

 

 

 

          *

 

 

 

 

 

 

 アリーナに出てみれば、そこは俺にとって完全にアウェーな空間だった。

 確かに、彼女たちの大半は俺に友好的な目を向けていてくれる。だけど、一部の観客席にいる皆の視線が物語っている。彼女達は俺とセシリアの試合に期待してるのではない。男が無様に負けるところを見に来ているのだと。

 興ざめもいい所だった。俺は自嘲気味に笑みを浮かべた。

 

 

 

 「…たく、これだからミーハーな処女は扱いづらいんだよ。あぁもちろん、お前は別だぜ、セシリア。お前となら、俺はいつだってホテルOKさ」

 

 

 

 俺の最早テンプレと化した言葉にも、セシリアは何も応えなかった。それどころか、出てきた瞬間、俺達の決闘を楽しみにしていた観客も、俺に蔑んだ目を向けていた観客も、唖然としていた。

 それもそうだ。俺は悪戯が成功した子供のように笑みを浮かべた。

 驚きのあまり、顔を引きつらせたセシリアが獣のようなISの指で俺を指す。その淑女にあるまじき行為。俺はプッと吹き出した。

 

 

 

 「はは、おいおい何やってんだよセシリア。鳩に鉄砲向けて逆にサメだらけの海に落とされたコックみたいな顔なんかしちゃってさ」

 「どういう状況ですのそれは!?」

 

 

 

 ギャグとも呼べない俺の言葉に、思わずツッコんでしまったセシリア。

 とりあえず、戻ってはきたようだ。最初は俺のこのギャグに怒りをあらわにしていたセシリアだったが、やがて二、三回首を横に振ると、改めてキッと睨まれた。

 

 

 

 「いえ、そんなことはどうでもいいですわ。それより、今問題なのは、あなたのそのISです!!一夏様。わたくしは今、すごく怒っておりますわ!!」

 「くく、だろうな。もし反対の立場なら俺も怒るだろうな」

 「当たり前です!!わたくしは今、代表候補生としての、いえ、セシリア・オルコットとしての誇りに傷をつけられた気分ですわ。なんで…なんで…――――」

 

 

 

 そして俺は、涙目の美少女に、銃口を向けられた。

 

 

 

 「なんで…、あなたのISは一切武装(・・・・)していないのですか!!応えなさい!!織斑一夏(・・・・)!!」

 

 

 

 きらりと涙が零れ落ちた。透明な涙が蒼い装甲で、蒼く輝いた。

 ブルーティアーズ。彼女のISの名前。俺は女の子を泣かせてしまった。ホント、お前みたいにはいかないな…。

 数馬。お前は女子に嫌われることはあっても、決して女の子を泣かせるようなことはなかった。

 やっぱり、俺には荷が重いよ。お間の役割はな。

 

 文だけ見たらどこの人気ドラマだよ?と疑いたくなる状況だ。

 けど、こんな経験。もう二度と味わいたくないな。美少女に銃を向けられるのも。美少女を泣かせちゃうのも、これで終わりにしてほしいものだよ。

 ま、そう言うわけにはいけないんだけどね。俺はすでに、彼女達を裏切ってるんだから。

 一回空気を吸う。そして慌てるな、と俺はセシリアを制した。

 

 

 

 「落ち着けってセシリア。美人が台無しだぜ?」

 「っ!…誰の…せいだと…」

 「だからいったん落ち着けって。これは別にお前の事舐めてるんじゃない。お前の事をバカにしてるわけでもない。ただ単純にこういう仕様なんだよ」

 「…そういう…仕様?」

 

 

 

 繰り返されたセシリアの言葉に、俺はニッと笑みを浮かべた。

 

 

 

 「そういうこと。つまり、これには最初から武装はないんだ。殴って、蹴って、爪で引っ掻いて。これはそんな戦い方しかできないんだよ」

 

 

 

 俺の言葉に、セシリアは今度こそ唖然とした。

 武装がないIS。そう、それが俺の専用機【白式】の特徴だった。

 白い機体カラーは、あの日。俺を助けに来てくれた千冬姉の乗ったあの白い騎士に似ている。けど、これ単体では代表候補生の専用機はおろか、訓練機の打鉄にも勝つことは困難だろう。

 それでも、この機体は俺の専用機として束さんが創った代物だった。その姿がどんなに滑稽でも。他人にどんなに蔑まれた目で見られようと。この機体は、強いのだ。

 

 なぜなら、この俺が乗っているんだからな…――――

 

 

 

 「でも、そんな…武装がないISだなんて…」

 「ところがどっこい。今、お前の目の前にあるんだな、これが」

 

 

 

 未だに懐疑的なセシリアに俺はニッと笑みを浮かべた。

 

 

 

 「元来、これは千冬姉の暮桜を基に造られた第三世代のISなんだ。だから元は剣なんかも付けられてたんだけど…どうも、俺は剣の才能はなかったみたいでさ。外されたんだ」

 「外されたって…それではなぜ重火器の武装などは付けなかったのですか?」

 「重火器は重火器で俺には才能がなくてな。的に当てるのもままならないんだよ。ホント、戦いに向かないんだな…俺」

 「では、ではどうやって戦うというのですか?その姿では、まともに戦うのも困難なはずですわ!どうやって…!?」

 「…人の心配してる暇があるんならさ、自分の心配しろよセシリア」

 「っ!?」

 

 

 

 セシリアの顔が恐怖で歪んだ。それもそのはずだ。

 なぜなら、さっきまで目の前話していた俺が、1メートルもないわずかなところに居て、しかもISの爪が彼女の喉元寸前で止められていたのだから。

 一瞬で彼女は悟っただろう。俺という異常な存在を。

 

 

 

 「ま、今はまだ試合開始の合図もなかったから無効だけどな」

 

 

 

 彼女からまた一定の距離を取り、俺はニッコリと笑った。

 セシリアはごくりと唾をのんだ。冷や汗も流している。だから羨ましい。

 俺が忘れてしまった恐怖を、彼女は今、味わっているのだから。

 けど、その感情も彼女の戦士の心に飲み込まれていった。

 

 

 

 「すみません一夏様。正直、あなたのことを侮っていましたわ…」

 「そ、分かってくれたなら何よりだよ」

 

 

 

 なんて無茶苦茶なことをする奴だ。俺は思った。彼女の戦いへの思いは、どこか俺達に似ている。

 恐怖すら押しこめて、彼女は戦いを望んでいるのだ。

 その姿があまりにも勇ましくて、そしてその姿があまりにも美しくて。俺は見惚れてしまった。

 

 だから、俺は彼女を倒す。俺のすべてを使って彼女を…――――

 

 

 

 「…My dream is Infinit Stratos…」

 

 

 

 ――――わが夢は遥かなる空の彼方へ…。

 

 その瞬間、俺の中で世界が生まれた。それは遥か昔に見た、どこまでも続く蒼穹。

 風が身体を包む。心地のいい風だった。

 

 

 

 「さぁ来な  English Lady(英国淑女) 身体の奥までたっぷり感じさせてやるよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

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