ISS 聖空の固有結界 ~IS学園編~   作:HYUGA

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第三話 寂しがりな化け物

 

 □寂しがりな化け物

 

 織斑一夏の中には巨大な力がある。

 それは圧倒的な力だ。

 

 例えば決して敵うことなない絶対的なスピード。見えない。追いつけない。何もできない。その力を前では、誰も触れることすらできない。まさしく最強の力。

 それが、織斑一夏の中に眠る第二の力。

 圧倒的なスピードで戦場を支配する戦いの乙女。【鳳鈴音(戦乙女)】の力である。

 

 こんな力が、今現在一夏の中に全部で6つ眠っている。

 それは全部、【空(から)】だった一夏の心に影響を与えた人間の本質を現す力だ。

 鳳鈴音。五反田弾。シャルロット・デュノア。壊れた一夏の心を形成するのはすべて彼女達の存在だけなのだ。

 

 そして、その力の中で最も一夏を影響させたのは彼女。【篠ノ之束】である。

 

 世界への復讐を誓った一夏。

 その彼が有する最大の力。それが彼女の力だ。だが、彼女の力は絶大すぎた。

 一夏が彼女の力を手に入れて2年。未だに一夏は彼女の力を使いきれてない――――

 

 

 

 

 

 

          *

 

 

 

 

 

 

 「…My dream is Infinit Stratos…」

 

 

 

 呟く。その刹那、俺の心の中に世界が生まれた。

 何本もの剣が俺に抜いてほしいと柄を向けてくる。その中から俺は迷わずに紅い柄を抜く。

 直後、世界が反転した。何百もの生徒が押し掛けたアリーナで、迫りくるレーザーを避ける。避ける。避けまくる。すべてがまるで、シャボン玉のような遅さだった。

 

 気がつけば、小規模な爆発が起こっていた。

 けど、問題ない。なぜなら、俺はすでにそこにいなかったのだから。

 

 

 

 「…言っただろ。俺達のパーティーはこれからだってな」

 「っ!?」

 

 

 

 俺を仕留めたと信じきって、呆けてしまっているセシリアに、俺は背後から声をかけた。

 驚嘆の表情で俺を見る彼女の瞳はブルーサファイアのように綺麗だった。その瞳が何も言わずとも、彼女の気持ちを告げている。

 なぜ、そこにいるのか?と。

 

 

 

 「な、な、な、なんで…」

 「これは正直、使いたくなかったんだけどな…仕方ないか」

 

 

 

 思わず使ってしまったが仕方ない。千冬姉に止められていたのに、なんとも情けなかった。

 

 でもそれ以前に、俺はこの【戦乙女(valkyrja)】の力を使いたくはなかった。

 

 理由は二つ。一つはまさかバレることはないと思うが、この力は一回、観衆の前で使ってしまっているからだ。しかも、ISSに乗っている時にである。少し、自分の浅はかな行動を恨みたくなった。

 そしてもう一つの理由。それは、この力は便利だが、一つ重大な欠点があるからである。

 

 それは【反動(return damage)】

 この力は使ったら使った分だけ体に大きな負担がかかるのだ。

 

 高速移動における急激な酸素供給による心臓のパイプの酷使。少なくとも、一回使うだけで寿命が一日、二日減っているはずだ。

 一回だけ、この力の習得のために酷使しすぎてぶっ倒れたこともあった。その後、三日間、眠りから覚めなかった。起きると、千冬姉と鈴が泣きながら抱き着いてきたのを覚えている。

 だから、千冬姉もこの力はなるべく使わせたがらないし、俺もむやみには使おうとは思わなくなったのだ。

 

 俺は真っ直ぐと、セシリアを見る。

 セシリアは未だに俺のこの状況に納得できず、唖然としていた。

 でも、それは仕方のない事。だってさっきまで5メートル異常は先で照準を合わせていた俺が、気がついたら自分の背後にいたのだ。そりゃ唖然とし、声もうまく出せないのは当然だろう。

 観客席から湧いていたブーイングも、いつの間にか聞こえなくなっている。

 だから俺は、気持ちよく宣言させてもらった。

 

 

 

 「…それじゃ、第二ラウンド行こうか。第二部のパーティーはちょっと大人の世界だぜ?今度こそ体の奥まで感じさせてやるよ、セシリア・オルコット!!」

 

 

 

 俺の宣言にハッとなったセシリアがライフルを構えた。

 おいおい、さすがはセシリア・オルコット。対応が早すぎる。そこに痺れる憧れるよ!

 

 

 

 「Button up!!

  ――黙れ!!」

 

 

 

 キュインッ。スターライトマークⅡから攻撃が放たれる。

 それを俺は【戦乙女(valkyrja)】の力でするりと交わした。次に止まったのはセシリアのまた後ろ。今度は容赦しない。

 俺は遠慮なく、セシリアの背中に爪を掻きたてた。

 

 

 

 「っきゃ…!?」

 「いろんな借りはあるけど、とりあえずこれでお前の完全勝利はなくなったわけだセシリア!!」

 「I don't mind.On the other hand, I have you pay with a body!!

  ――別に構いませんわ。その代り体で払っていただきますから!!」

 「女に襲われる趣味はねーよ!!」

 

 

 

 キュインッ。反射的にライフルがこちらを向き、一発放たれる。

 無論、すでに俺はそこにはいない。お次はセシリアの頭上にへと現れた。

 

 

 

 「もう一発!!体の奥まで感じろ!!」

 「How about it? It is according to calculation. I do not eat the same hand twice either!!

  ――それはどうでしょうか?計算通りです。二度も同じ手は食いませんわ!!」

 「っ…!!」

 

 

 

 キュインッ。今度は防がれてしまった。いや、未然に予測されていたと言った方がいいかもしれない。

 なぜなら、俺はセシリアの頭に爪を立てる前に、攻撃を。【ブルーティアーズ】によるレーザー攻撃を受けてしまったからだ。

 【戦乙女(valkyrja)】で何とか避けることはできたが、もしあのまま当たっていたら危なかった。すでに俺のシールドはレッドゾーンなのだ。次に攻撃が当たった瞬間、きっと俺の翼はもがれる。

 それですべてが終わりなのである。

 

 

 

 「…相変わらず、冷や冷やさせてくれるぜ」

 

 

 

 次は、セシリアからもっと距離をとった場所で俺は動きを止めた。

 それに気づき、セシリアは余裕の表情で振り返った。

 

 

 

 「…At last can I talk directly ichika?

  ――やっと、まともに話ができますね、一夏様?」

 「だな。だけど、その前に言語を日本語に戻してくれないか?残念だけど、俺は英語の許容はそんなになくてね…。正直、聞きづらい」

 「Oh I see.sorry ichika.…これでよろしいでしょうか?」

 「あぁ、完璧だ」

 

 

 

 気が動転したのか、はたまた興奮したのか。セシリアは日本語で話すことを忘れていた。

 でも、それが普通だろう。彼女とて、イギリス人。きっと、頭の中では英語で物事を考えているはずだ。動転したり、興奮したりしてポロリと出てしまったのだろう。

 俺はフッと笑みを浮かべた。また、こうしてセシリアと話ができることが素直に嬉しかったのである。

 

 

 

 「なかなか対応が早かったじゃねーか。なんだ、セシリア?まさか、お前って俺のストーカーだったりするのか?」

 「生憎と、殿方を追いかけるような趣味はわたくしにはありませんわ。だってわたくしはイギリス貴族。オルコット家の当主ですから」

 「…危険だと判断するや、すぐにライフルをぶっ放すのも淑女としてどうかと思うけどな…」

 

 

 

 彼女の対応は正確だった。

 危険だと思った瞬間に、容赦なく放つ一撃。最後の【ブルーティアーズ】での攻撃もそうだ。

 セシリアのやつ。俺が常軌を遥かに逸脱した動きをしていると考えるや否や、すぐに次に俺が現われるであろう場所を予測して、罠を仕掛けやがった。

 その判断は、本当に脱帽物である。今度はセシリアが俺に質問する番であった。

 

 

 

 「一夏様…お尋ねしますわ。いったい、いったいその力は…?」

 「スキルの詮索はマナー違反だぜ、セシリア?ま、機体性能とでも思っていてくれ」

 「それにしては動きが異常すぎましたわ。まるで――――」

 

 

 

 ――――まるで、第三世代の機体じゃないかのようでしたわ…。

 

 

 

 「おっと、そこから先は立ち入り禁止だ。知りたければ通行所をお出しください…」

 

 

 

 ニヤッと笑みを浮かべた。

 俺の言い分にまだ納得できないのだろう。セシリアは眉を潜めている。美少女がする顔じゃなくなってぜ、セシリア?

 だけど、そのままでは戦闘継続は難しいかもしれない。

 俺は、セシリアのそんなモヤモヤな感情を振り払わせるため「けど…」と、言葉を続けた。

 

 

 

 「けど、一つだけヒントをやるよ」

 「ヒント…ですか?」

 「あぁ。しかも出血大サービスなヒントさ」

 

 

 

 そして俺は口にする。その言葉を――――

 

 

 

 「なぁセシリア。お前はさ…【魔術】って、信じるか?」

 

 

 

 

 

 

          *

 

 

 

 

 

 

 「魔術…だと?」

 

 

 

 たまたま回線から聞こえてきた言葉に、箒は眉を潜めた。

 こいつはいったい、何を言っているんだ?それが正直な反応だ。麻耶も、ちょっと可愛そうなものを見てしまったような目。同情的な目で千冬をチラリと見る。

 けど、千冬だけは違った。千冬は、一夏の言葉を真剣に表情で考え込んでいた。

 その姿に、箒も麻耶も驚いたように目を丸くした。

 

 

 

 「あの~先輩?どうしたんですか?そんなに悩んだりして…これって、織斑君のいつもの悪ふざけ…なんですよね?」

 「…ん。確かにな。私も、そうであると信じたい。だが、山田君。それに篠ノ之。お前たちも見ただろ?あの明らかなオーバーアシストな白式の動きをな」

 「けど、あれは機体性能だって、織斑君が――――」

 「馬鹿者。あんな動き。第三世代のISに出来るはずないだろ」

 

 

 

 それを言われてしまったら、誰も何も言えない。

 だとしたら、もう奇跡。あるいはその言葉でしかこの現象は表せないはずだ。【魔術】。そんな、なんでも説明できる奇跡の力でしか――――

 

 

 

 「でも、織斑先生。そうは言ってもさすがに【魔法】などという言葉で…」

 「そうだな。実は私もそう思っている。けど、篠ノ之。一つだけ訂正させろ。【魔法】ではない。【魔術】だ。そこを間違えたらいけない」

 「そ、そんなの…どちらでもいいじゃないですか?」

 「いや、なぜか一夏もこれだけはこだわっていてな。絶対に譲らないんだ」

 

 

 

 違いがあるようには思えない。

 けど、一夏はそれだけは譲らなかったのだ。はじめは千冬も【魔法】だと言っていたが、今では【魔術】と言っているのはそういうことなのである。

 

 

 

 「…話がずれたな。【魔術】の話だったな。けど、これは私たち家族が勝手に言っていることだからあまり気にするな。そういうこと、あるだろ?」

 「…家族の決まりってやつですか?」

 「ま、そういうことだ。だが、科学の力で説明できないのもまた事実だからな。そういう意味では【魔術】ということでもあながち間違ってはいないだろうけどな」

 

 

 

 そう言って、千冬はどこか自嘲気味に笑った。

 

 

 

 「さて、ではここからは科学的視点で話そうか。とは言っても、結論はまだ出ていないがいくつかの推論という話になるがな」

 

 

 

 千冬はモニターに目を向けた。不敵に微笑む一夏の表情は、どこか寂しげに思える。

 一夏は、自分は人間じゃなくなった…と、何度も何度も千冬に言って来た。そのたびに千冬は彼を殴り、抱きしめていたものだ。

 けど、千冬は考えていた。ならば一夏はいったい何者なのだろうか?と。

 それを知るために、千冬は束に科学を教わった。知識を得た。そして、独自に一夏の事を調べたのである。大事な大事な…家族だから。

 

 

 

 「そうだな、まずは山田君。君は【ゾーン】というものを知っているか?」

 「はぁ、まぁ話くらいには聞いたことありますね」

 「?織斑先生。なんですか?その、【ゾーン】っていうのは?」

 

 

 

 聞きなれない言葉に箒は疑問符を浮かべる。その質問に答えたのは麻耶だった。

 

 

 

 「え~と、たとえばですね~篠ノ之さん。プロ野球選手とか、プロバスケット選手とか、スポーツのプロフェッショナルって居ますよね~?その中でもさらに居るじゃないですか?突飛した神がかった能力を持っている選手って言うのが?」

 「…はい。認めたくはないですが剣道の世界にもそんな人はいますね。それが?」

 「その人たちが使っているのが【ゾーン】という力なんですよ~」

 

 

 

 間延びした麻耶の声に、箒は首を傾げた。話がまだよく見えなかった。

 

 

 

 「…同じ人間なのに、そんな力が?」

 「はい。野球選手ならバッターの打つ球が一瞬だけすごく遅くなったり。バスケット選手ならゴールリングがすごく大きく見えたり、そんな心理的な現象のことを【ゾーン】と呼んだりするんですよ~。まぁ~簡単に言うと、すごい集中力を発揮している状態のことですね~」

 「そう、それが【ゾーン】だ。私はまず、一夏の力はこの【ゾーン】ではないかと考えた」

 

 

 

 千冬が間に入り、言葉を引き継いだ。

 だけど、すぐに首を横に振る。千冬の考えは違ったのだ。

 

 

 

 「…だがな、【ゾーン】と一夏の力には決定的な違いがあったんだ」

 「決定的な違い?」

 

 

 

 麻耶が千冬の言葉を反復する。それに頷き、千冬は語った。

 

 

 

 「さっき、山田君が言った通り【ゾーン】とは心理的な状態だ。人間がそのときしていることに、完全に浸り、精力的に集中している感覚に特徴づけられ、完全にのめり込んでいて、その過程が活発さにおいて成功しているような活動における、精神的な状態のことをいう。だが、一夏の場合はどうだ?」

 「…あ」

 

 

 

 箒は思わず呟いた。

 一夏があの力を使っている時、彼は別段集中しているようには思えなかった。

 溜めもなしに、いきなりあの力を使いだし。しかも、力を使っている最中に冗談まで言っている余裕すらあったのだ。どう見ても、突飛した集中をしているようには見えなかった。

 

 

 

 「…じゃあ、いったい。いったい、一夏の力とは何なのですか?」

 

 

 

 箒の心からの疑問の言葉。もう、何が何だか分からない。

 7年。たった7年会っていないだけなのに、一夏は変わってしまっていた。昨日、再会した時に何も変わっていないと言ったのは間違いだった。

 だから知りたい。箒は、7年の間に一夏に何があったのか、それを知りたかった。

 

 

 

 「…篠ノ之。山田君。お前達は、口は堅い方か?」

 「…え?」

 

 

 

 けど、千冬の口から出てきたのは、そんな予想外な言葉だった。その言葉に、箒と麻耶はお互いに顔を合わせ疑問符を浮かべた。

 

 

 

 「…まぁ、先輩が言うなら黙っておきますけど」

 「…私も、それで一夏のことを聞けるのであれば」

 「そうか。わかった」

 

 

 

 二人の受け答えに、千冬はそう言うと、少し考えるような仕草をする。

 だが、やがて何かを決意したのか、千冬は話し始めた。

 

 

 

 「これはまだ、研究段階での話だから立証はされていない。だから一般人にはまだ公開されていない話なのだが――――」

 

 

 

 それは、一般にはまだ知られていない、この世界が生んだ悲劇の話。

 ISが生まれたことで生まれた、残酷な運命の話だった。

 

 

 

 「お前たち。【IS症候群】というものを知っているか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

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