話が動かなくてごめんなさい。それではどうぞ(^_^)/
□空の彼方の悲劇
「【IS症候群】…?」
「…なんでしょう。病気…の一種…と、言うのは分かるんですけど…」
千冬の口から出てきた言葉に、箒と麻耶はお互い首を傾げた。
IS症候群。何かの病気の名前だということは分かる。けど、それが何の病気なのかは皆目見当がつかなかった。ISの名前がついているということは、そんなに歴史が深い病気とも思えない。
それ以前に、ISの名前がついていること自体が奇怪だった。
いくらオーバーテクノロジーの塊とはいえ、ISは結局機械でしかない。
その名前がついているということは、一体どういうことなのだろうか?
ISの名前がついているということもあり、二人ともIS学園の生徒と教員として、しばらくは考えたが、やがて分からなかったのか二人とも肩を落とし息を吐いた。
「…すみません織斑先生。やはりわかりません」
「先輩。無知でごめんなさい。私にもわかりません…」
しょぼーんという効果音が付きそうなくらい落ち込む二人。
その二人の様子に、千冬はむしろ安心したように息を吐いた。
「いや、こちらこそすまない。聞いた私の方がおかしかったな。二人とも、知らないのは当然の話だ。さっきも言ったが、これはまだ研究段階でしかないからな」
「は、はぁ…」
「それに、これは一般にも公開されていない情報だ。私の場合は…知り合いにこの症状のやつがいたからこそ知れたのだ。…その症状患者の結末も含め。すべてをな…」
「結末…ですか?」
「とにかく、すまなかった。知る由のないことを聞いてしまって」
千冬は、二人の謝罪を咎めるどころか逆に謝罪をしてきた。
よっぽどのことがない限り謝罪をしない千冬のその言葉に、箒と麻耶は少しキョトンとしてしまう。それは千冬が自分に非があると認めたということだった。
千冬は場の空気を変えるようにコホンと咳払いする。その後にそこに居たのは、教師としての織斑千冬。仕事人としての織斑千冬の姿だった。
「では、二人とも。ここからは外部への漏洩(ろうえい)は絶対禁止だ。これは未だに研究段階だが、発覚したら世間を騒がす大事でもある。それでも聞きたいと言うのなら、ここに残ってくれ」
「そ、そこまで厳重なことなんですか…?」
「あぁ。なんと言っても、これは今の世界を壊しかねないほど、重大な事項だからな」
「…。……」
千冬の言葉に、箒も麻耶も息をのむ。
その口調はウソを言っているようには思えない。それ以前に、千冬はウソを言うような人間ではない。つまり、ここに居たら間違いなく政府が隠している禁則事項を知るということだ。
それがどれだけ危険なことなのかは分からない。
箒は足がわずかに震えていた。けど、逃げるわけにはいかなかった。箒は一歩、前に踏み出した。
「…覚悟は決まったのか、篠ノ之?」
「…はい。き、聞かせてください織斑先生。いったい、いったい【IS症候群】とは何なのですか…?それは、一夏と、どう関係するのでしょうか?」
「…篠ノ之。その言葉はつまり、現政府が隠している秘密を知る覚悟がある。そう解釈してもいいということだな?」
「…はい!」
威圧的な千冬の態度に、箒はしっかり応えた。
その態度に、千冬は頷いた。次いで、麻耶にも目を向ける。こちらはすでに覚悟が固まっていたのか、千冬の視線に強く頷き返してくれた。麻耶の場合は教員としての知的好奇心が上回ったのだろう。二人の意思にもう一度千冬は頷く。そして、携帯の端末を開き、あるファイルを開いた。
それはカルテファイル。そこに書いてあった名前はかつて一夏が、最も信頼を置いていた人間の名前だった。
「わかった。そこまで言うのなら止めない。でも、あらかじめ言っておく。これから私が言うことは、かなりショックな話だ。心して聞け」
「…はい」
箒と麻耶が頷くと、千冬は一回大きく息を吸った。
そして、携帯端末に目を向けた。そこの書いてある文章を読む。その情報はいつ見ても信じられない内容だった。そして、その結果を出しているのが、自分の知るこの人物とはかけ離れているのだから、なおの事、千冬は不思議だった。そしてそれと同時に、千冬は世界を恨んだ。
なぜ、なぜこいつなのだ…、と。千冬は一夏の数奇な運命を呪ったのだった。
「山田君。まず、この病名【IS症候群】がどんな病気か、とりあえず推理してみてはくれないか?」
「え?あ…はい。分かりました」
千冬の言葉に、麻耶は少し考え込む。そして一つの推論を出し、とりあえず応えた。
「やはり【IS症候群】と名前がついているだけあって、ISに関する病気なのではないでしょうか?たとえば、特定の人物がISを操作したことによって、何かしらの体調不良を起こすとか、そういう感じの病気です。実際にそんなことが分かったら、ISの運用自体が困難になるはずでしょうから」
「うむ。なかなかに鋭い指摘だな。だが、違う。その推測は間違っている」
「えっ…と。違うんですか?」
「そうだ。それに山田君。君はこれまでにISを操縦して体調を崩したり、何らかの状態異常を起こしたIS操縦者を見たことがあるか?」
「それは…ありません。私も長い事ISに関わっていますけど、そんな操縦者見たことありません」
「そういうことだ」
麻耶の頭の中は混乱していた。千冬の真意が分からなかったのだ。
なぜ、このような質問をしたのか。初めから病気の症状だけを教えてくれればいいものを。麻耶は尊敬する先輩の言いたいことが理解できなかったのである。
「私の考えることが分からない。そんなことを考えているのだろう?」
「えっ!?えっと…す、すみません…」
「ふ。まぁ構わないさ。私とて、いきなりそんなことを問われたら相手をぶん殴ってるだろうしな」
「あ、あははははは…」
麻耶は思わず苦笑いをしてしまった。
冗談だと分かっているはずなのに、なぜかその光景がはっきりと頭の中に浮かんでしまったからである。千冬はもう一度コホンと咳払いをし、語りだした。真実の物語を――――
「…冗談はここまでにして、本題に戻ろう。私の質問。無論、これには意味がある。その意味は、この病気の名前を聞いたときに誰もが間違える決定的な間違いを指摘するためだ」
「誰もが間違える…ですか?」
「そうだ。実際、山田君。君も間違っていたぞ。それに篠ノ之。お前もきっと、山田先生の推論に疑問を感じなかったはずだ。違うか?」
「…いえ、違いません」
「だろうな。私も、最初にこの症状を知ったとき同じ間違いをしたから、その気持ちはわかる。だが、この間違いこそがこの症状の一番の特徴なのだ」
そう言って、千冬は携帯端末のデータをモニターに送る。
資料受信の文字が出て、麻耶はすぐにそのタブをクリックした。モニターに一気に広がるファイル。それはもちろんさっきまで千冬が見ていたファイルと同じ物である。
「え…?」
「な…なんだ、これは…」
そして、それを見た瞬間、箒と麻耶は絶句した。
なぜなら、モニターに映し出されたカルテファイルの内容。それが自分たちの想像した方向とは、まったく違う方向に向いた内容だったからであった。
「こんな…こんなことがあってなるものか…こんな…」
「…事実、こんなことが日本の特務研究所で行われていたのだ。言っただろう?この症状はまだ研究段階だと。これが、その研究だ」
「っ!ふざけるなっ!!」
箒は目の前の機械に両手を叩きつけた。キーボードのボタンの何個かが吹き飛び、彼女自身手から流血してしまっている。
それでも、彼女はモニターを睨んでいた。
まるで両親の仇にでも出会った時のように――――
「…落ち着け、篠ノ之。どう言おうがこれは変わらない。これが【IS症候群】の真実なのだ」
なだめるような千冬の言葉に、箒グッと唇を噛んだ。
そこに映っていたには、膨大な量のグラフ。なにやら難しそうな数式が掛かれた計算式に、実験の様子が映された写真。そして、患者…いや、被験者の写真だった。
箒は驚いていた。その被験者に見覚えがあったからだ。
一夏が部屋に飾っている一枚の写真。彼が大事そうにしているその中に写っていた“男”がそこには写っていたのだ。
その彼が、まるで実験動物のように実験器具に繋がれている。
それは見るに堪えない姿だった。あまりにも残酷で、あまりにも衝撃的。
吐き気がする。麻耶の方は思わず両手で口を押さえてしまっていた。
彼女達は知ってしまったのだ。この世界のあまりにも醜い部分を。それを知ってしまったからには、もう、引き返すことはできなかった。
「…患者名【五反田弾】。それがここに写っている男の名だ。これがお前たちが犯した間違い。【IS症候群】とは、女性が発症する病ではない。“男性”が発症する病なのだ」
淡々と、千冬は告げた。見慣れてしまった、この写真のことを。
「あれは確か、ISが開発されて大体5年ほど過ぎたあたりのことだったか…。ある日、まだ14にも満たない少年が1つ下の妹を助けるために喧嘩をしたそうだ。その結果、軽症者6名、重症者2名の大惨事に発展してしまったんだ。その中には、その喧嘩を止めようとした大人も数名含まれ、中には空手と柔道の有段者というものもいたくらいだ。そして、その事件を引き起こした男こそがこいつ、【五反田弾】だった」
語りだした千冬の言葉に、箒と麻耶は仰天した。
それは中学生男子の力だとしても、あまりにオーバーキルの力である。千冬の話はなお続いた。
「後日、重症だった空手と柔道の有段者だった男に聞いた話なのだがな。その男曰く、怒りで我を忘れ決着は着いているはずなのに、彼は何度も殴りかかろうとした。だから、自分たちは必死に彼を止めようとした。けど、大人4人がかりで彼を全然止めることはできなかった。まるで――――」
――ゾウにでも引きずらていたかのように、軽々と振り払われたんだ…と。
「…それが歯切りとなって、続々とそんな“異常な力”を持った者たちが現れだした。ある者は明らかに常軌を逸した飛躍力を持ち。ある者は初心者であるにも関わらず、柔道黒帯の教員を投げ。またある者はオリンピック選手に届かんばかりの瞬発力と持久力で走り。そしてある者は当時賞金がかかっていた数学の問題を、僅か2週間という短期間で解いて見せた…。けど、問題はそこじゃない。そこじゃなかったんだ。一番問題なのは、その症状を発症した全員がまだ年もいかぬ【
それは明らかに異常な現象だった。
まだ人類が到達していない領域に、平気で足を踏下ろす【中学生】達。しかも、その全員が“男性”ともなれば、もうこれは現在の【女尊男卑】の世界を脅かす重大な出来事に違いなかった。
「そしてもう一つ。この症状には共通点があった。それは、この症状を引き起こした少年たちが1人の漏れもなく、全員ある地域周辺に住む少年たちだったということだ」
「…ある地域?」
麻耶が首を傾げる。それとは対照的に、箒は何かに気が付いたようにハッとした。
この症状の名前は【IS症候群】。と、いうことはまさか――――
「…織斑先生。いえ、千冬さん。その場所ってまさか――――」
「そう、そのまさかだ篠ノ之。この少年たちが住んでいたのは他ならぬ、【篠ノ之神社】の周辺地域。つまり、ISが開発された場所の、その周辺に住んでいたのだ」
箒も麻耶も息をのんだ。ここまで来れば、最早原因は一つしか見当たらなかった。
全身が固まってしまう。聞きたくない。けど、もう引き返せない。
箒は気づいた。さきほどの千冬の言葉。あれは自分を気遣ってくれたからこその言葉なんだったのだと。千冬は説いたのだ。自分に、重みを背負う覚悟があるのか?と。
それは、ISが生んだもう一つの悲劇の話だった。
「つまり、この少年たちは、ISの開発により生まれてしまった。云わば【ISチルドレン】なのだ」
その重みに、箒は崩れそうになった。そして、話はこれで終わらない。
終わるはずが…なかった…。
「…こんな、こんな子供達がいることが世界に広まったら――――」
「あぁ。間違いなく今の世界は崩壊する」
そう。彼らの存在はいろいろな意味で危険だった。
まず、ISの存在で彼らのように望んでもいない力を得てしまった不幸な者たちが生まれた、ということは、IS反対派への大義名分が出来てしまうことになる。
こうなったら、自分の子を持つ母親などはISの存在に猛反発するだろう。
かつて問題となった原子力発電の問題のときのように、彼女達は自らの子供達を何より愛しているのだから。
そして、まだまだ成長過程ではあるが、彼らは将来間違いなくISに対抗する存在となるはずだ。
この少年たちは、どうしてこのような力を手に入れたのか、こぞって世界中の学者が研究するだろう。そして、その研究が完成したりでもすれば、間違いなく世界の秩序は崩壊する。
それだけは、絶対に防がなければいけないことだった。
「だから今の女性主体の日本政府は、この事実をなかったことにしたのだ。自分たちと、この世界の保身のためにな…」
ギリッと千冬は唇を噛みしめた。
箒も麻耶も気が付いた。そして、絶句した。ありえない、まさか…そこまでやるのか。
それこそが、第二の悲劇の始まりだったのだから。
「日本政府は…あのクソ共は…【IS症候群】の疑いがある人間を、片っ端から粛清していったんだ…!」
「ウソ…」
「そんな…そんなバカなことがあってたまるか!」
「いや、それが事実だ。一夏が通っていた学校で、毎週のように1人。また1人と男子生徒がいなくなっていった…。補導され少年院へ。社会的に抹殺して自殺させ。そしてついには…殺された者までいた」
一夏の部屋に飾られている写真。それが、千冬にとって、あの少年との最後の記憶となった。
千冬はモニターに映る映像を切り替えた。それはとある中学校で起こった悲劇の話である。一夏の、鈴の、弾の、目の前で起こった悲劇の瞬間。
そこに写っていたのは血みどろの教室の映像。その血は誰の血なのか、千冬は知っていた。
それは一夏の友達。一夏の心を救った少年の1人。御手洗数馬のものだった。
「これが、この世界の真実だ。受け入れろとは言わない。だが、知っておけ。この世界は美しくなんてない。ひどく、醜いものなのだと」
「せ、先輩…どうして、どうして平気にしてられるんですか…?こんな、こんな写真を見て…」
「…忘れたのか、山田君?これは私の所有物だ。もう何度も見て…見慣れてしまったよ…」
「っ!」
麻耶はモニターから顔を反らしてしまった。
仕方のないことだと、千冬は思った。ここに写っている写真は、あまりにも強烈なものだ。それこそ、表現を書くのも躊躇されるくらいに。
この写真を見て、何とも思わなかったのは一夏くらいなものだ。いや、ここで怒りのあまりモニターを睨みつけている箒も含めたら、二人と言うことになる。
沸点が低い箒はそれとして、一夏の場合も、これと同じような経験をしているのだから、それは必然なのかもしれない。
それでも、親友をこんな目に合わせているどこぞの機関に怒りを感じていないわけではなかったみたいなのだが――――
「これが…これが【IS症候群】…【Infinit Stratos症候群】…なのですか…」
怒りで震える箒が呟く。が、その言葉に千冬は肯定はしなかった。
「…そういえば、もう一つ言い忘れていたな。当たり前のように使っていたからすっかり忘れていた。この症状の正式名称。それは【Infinit Stratos症候群】ではない。こいつもまた、男性学者が皮肉を込めてつけられた名前なのだ」
「【Infinit Stratos症候群】ではない…では、この症状の、本当の名前はなんなのですか…?」
箒の問いに、千冬はすぐには答えなかった。彼女は無言でモニターの映像を切り替える。
そこに浮かびあがう文字。アルファベットが並ぶその文字列こそが【IS症候群】の本当の名前だった。英語があまり得意ではない箒は何が何だかよく分からない。
けど、麻耶は違った。その文字列を見た瞬間、麻耶はこの言葉ほどピッタリな名前があるだろうか、とゴクリと唾をのんだのだ。
やがて、箒も中学の知識を生かし、なんとか解読した。そして同じことを思った。
これはISを、いや、今の世界を見事に皮肉った名前なのだと――――
「正式名称【Innocent sons症候群】それが、この症状の真の名前だ。無論、言わずとも分かるだろうが、敢えて言おう。日本語で言えばこうなる【罪無き息子達】…とな」
千冬はモニターを見る。グロテスクな写真の数々が立ち並ぶ中で、正面のモニターに映った患者名の横の写真。正面から撮った、その写真だけは彼は笑って写っていた。
どんな実験の写真も、今では何の躊躇もなく見れる。けど、その写真だけは今でも見れなかった。
あの夏の日、政府の人間に連れて行かれる一夏を止められなかったときと同じように。自分の無力さを思い知らされるから――――
何の罪も無い少年の悲劇を、千冬はただ見ていることしかできなかったのだから…。
*
「と、こんなことを千冬姉は思っているはずだけど、実は違う。俺の力は【IS症候群】じゃなくて、正真正銘【本物の魔術】だからな」
そう言って一夏はニッと笑顔を見せた。
その笑顔にセシリア油断することはなかった。ライフルのスコープを覗き、いつでも撃てるように一夏に照準を定め、トリガーに指をかけている。
それでも、一夏は余裕そうに照準の先(そこ)に居続けた。
「…一夏様。一応、今の状況がどうなのかお分かりなのですか?」
「ん?あぁ、もちろん分かってるって。俺、大ピンチってところだろ?」
「ではもうちょっと、緊張感と言うものを持っていただいてもよろしいでしょうか?そのようにヘラヘラした態度では、こちらも不愉快になりますわ」
「あらら、フラれちゃった。あ、それはそうとセシリア。この後、ホテルとかどう?」
「そう言う態度が苛立たせるのですわ!!」
ピシャリと言うセシリアに、一夏の冗談はもう通用しなかった。
一夏は完全に包囲されていた。それはライフルで頭を狙われているからだけではない。一夏は完全に囲まれていたのだ。ビット兵器【ブルーティアーズ】に。
それは先ほど以上に厳重な包囲網である。これを抜け出せるのは至難の業のはずだ。
ところが一夏はそれを気にしている素振りなど見せていない。それどころか、笑顔を見せる余裕があるくらいだった。
けど、それでもセシリアは先ほどのことがあるので油断はしなかった。
何かしようものならすぐに撃てるように、彼女は心境は緊迫していた。すでに、日は傾き太陽も沈みかけている。空が真っ赤に染まっていた。
「…日が暮れるな、セシリア」
ポツリと一夏が呟いた言葉に、セシリアは眉をピクリと動かした。
「…どうせその後は、ホテルの話になるのでしょう?その話にはもう乗りませんわ」
「ヒド…くはないか。そうだな、そう思われても仕方ないか…」
「え…?」
これまでとは明らかに違う一夏の態度にセシリアは驚いた。
ニヒルに笑う一夏のそんな表情を、セシリアは始めた見たからだ。けど、それも一夏の本当の顔ではない。セシリアには、もうなんとなく分かっていた。
彼は偽りなのだと。そして本当の彼は、どこまでも底が見えない、深い深い井戸の底のように、決して自分なんかでは手の届かない場所にいる。
セシリアは思った。そのとき、果たして自分はどうするのだろう?と。
セシリアはゴクリと息をのんだ。
「…なぁ、セシリア。そろそろさ、観客の奴らも飽きてきた頃だろ?だからさ――――」
それは恐怖だった。セシリアは知っていた。さっき知ったのだ。これは、この恐怖は、圧倒的な力を前にした純粋な恐怖の形なのだと――――
「…終わらせようぜ。セシリア・オルコット」
その刹那、一夏は呟いた。その言葉を。
そして、セシリアは聞いた。その言葉を。
罪無き息子達(Innocent sons)。一夏の力はその名前の症状には含まれない力だ。けど、間違いなく、一夏もまた罪無き子供達(Innocent sons)の1人であろう。
なぜなら、彼もまたISが生んだ化け物。
心のない寂しがりの化け物なのだから――――
「…My dream is Infinit Stratos…」
何もない心の中に世界が広がる。何本もの剣が彼に抜いてほしいと柄を向けてくる。
それは、一夏にとってかけがえのない人達なのだ。大切で、愛しくて、何より守りたい。だからこそ、一夏はこの力を使う。
世界を…変えるために。一夏は紫色の柄の剣を引き抜いた。
「…それじゃ、セシリア。終わりにしよう」
そして叫ぶ。一夏は真っ直ぐにセシリアを見つめ叫んだ。
どんな状況をも打破できる。
最強の武器をを創る天才【鍛冶屋(blacksmith)】の言葉を――――
「【同調開始(Trace on)】!!」