ISS 聖空の固有結界 ~IS学園編~   作:HYUGA

5 / 28
 予定よりだいぶ遅くなってしまいました。ごめんなさい。
 今回は鈴がメインの話です。話を読んでいるうちに鈴のこと嫌いになるかもしれませんが、お願いですから絶対嫌いにならないでください<(_ _)>
 それでは第五話『鳳凰の舞姫』どうぞ(^_^)/~


第四話 鳳凰の舞姫

 □鳳凰の舞姫

 

 ◆中国・山東省『青島IS実験場』現地時間――――5時56分―――

 

 束による世界への宣戦布告から遡ること、四時間前。中国・山東省『青島』

 まだ、誰も何も知らなかったこのとき、この地で事件は起こっていた。

 中国におけるISの最大生産地である、ここ『青島(チンタオ)IS実験場』。普段は、常駐する警備用のISが守る中国一安全な場所と言えるこの場所。

 そこは今、炎と闇夜で覆われる地獄絵図と化していた。

 

 

 

『きゃあぁああああ!!!誰か!!誰か助けて!!助けて!!誰かあぁああ!!』

『バカ!!邪魔だドケ!!』

『いたっ!!やだ、やだ死にたくない!!死にたくないよぉおおおお!!』

『応援はまだ来ないのか!!もしもし!!もしもし!!!』

『お父さん。お母さん、ごめんなさい。私、綺麗な姿で帰れません…う、うぅ…』

『痛い。痛い痛い痛い!!痛いよおぉおおおお!!!!』

『死ぬの?あたし、今日ここで死ぬの!?そんなのいや!!いやあぁああ!!』

 

 

 

 叫ぶ。誰もが助けを求め、叫んでいた。

 ある者はいつもは信じてもいない神に助けを請い。ある者は自分のことだけを考え他人を蹴落とし逃げまどい。ある者は傷ついたからだを引きづりながら、父母に感謝の思い告げながら死を悟り。ある者は動くことなく、喋ることもせず、ただ息絶えていた。

 燃え盛る炎が、まだ薄暗い空の色を塗り替え、昼のような明るさとなっている。

 崩れ落ちた建造物の瓦礫が逃げまどう人々に次々と襲いかかり、幾人もの命を平気で奪っていく。

 まさしく地獄絵図。そこは、完全なる地獄だった。

 

 そして、その地獄の中心に、彼女はいた。

 

 誰もが逃げまどうこの状況の最中、彼女は平気でそこに居続ける。

 が、それもそのはず。なぜなら彼女こそが、この事件を引き起こした犯人。中国で一番安全なこの場所を地獄に変えた張本人なのだから。

 紅くコーティングされた機体が、青竜刀片手に無言で地面に降り立つ。その姿は、あたかも天空から舞い降りた【鳳凰】のごとき神々しさを持っていた。

 そう、それはIS(インフィニット・ストラトス)。だがしかし、それはISであってISではなかった。

 

 【ISS(インフィニット・ストラトス・セカンド)】

 

 それは篠ノ之束が開発した【対IS用決戦兵器】

 世界最強の兵器の一角を担う機体だったのである。

 

 

 

「…。……」

 

 

 

 彼女は、自分が巻き起こしたこの映像をもう一度確かめるように辺りを見渡した。

 その周りには、まるで竜巻にでもあったかのように大破した幾機ものISが転げ落ちている。一機や二機じゃない。もうすぐ二桁にも届かんとする量のISが彼女の周りでただの鉄クズとなっていた。

 

 中国第二世代IS【朱雀】

 

 他の先進国に比べ、IS技術が一歩劣るとはいえ、未だに中国防衛線を守り続ける、中国の虎の子とも呼べる貫禄のある機体であるそれ。

 コアごと潰され地面に落ちたかのISの姿は、まるで羽をもがれた鳥のようになんとも哀れな姿に見えてしまう。真っ赤にコーティングされた朱雀の装甲だったものには、コーティング以外にも、赤い液体が飛び散っている。血だ。それは致死量に達する大量の血であった。

 それは朱雀を操縦していた操縦者の息が絶えている証拠であった。彼女達の遺骸がどんな姿なのか、それは説明することもできない。

 絶大的な力。その紅いISSが持つ力は、その言葉でしか表せないほどに…圧倒的だった。

 

 

 

「く…ふふ…あはは…」

 

 

 

 一通り、自分が巻き起こしたこの惨劇を見渡すと、彼女は狂喜するような笑みを浮かべた。僅かな笑い声が、炎の中で木霊する。が、無論その笑い声を聞いてる人間など、この場にはいない。動ける人間などいなかったからだ。

 そう、ISSに乗る彼女以外のこの場にいる人間は、全員死んでしまっている。

 そのビジョンが、彼女にはとてつもなく嬉しかったのだ。

 壊した。壊した壊した。彼女は確実にこの世界の秩序を、破壊した。そう思った瞬間、これまで彼女の中にあったいろんな思いが一気に爆発する。

 世界を敵に回したという思いが心の中で胸躍り、彼女の理性は完全に狂乱した。

 

 

「はははは、はははは、あはははははは…」

 

「あははははは!!あははは!!あはははははははははははは!!あははは!!あは!!あはははははははは!!あははははは!!あはははははは!!あはは!!あははははははは!!」

 

 

 

 それは狂気にも似た映像だった。

 幾人幾機もの人間の遺骸とISの残骸の中、狂ったように笑う少女。

 異常だった。人間を殺し、ISを破壊し、世界を壊すことで、彼女は歓喜しているのだ。

 それは本当に、異常な光景だった。

 

 

 

『き…ま…、…き……まき…』

 

 

 

 ザザッ、ザザッ。そのとき、彼女の前でモニターが震えた。

 砂嵐の中、聞こえてくる聞きなれた声。それは次第に鮮明になっていき。やがて、画面の上にクリーンな映像が映りこんだ。

 

 

 

『【舞姫(マキ)】!!!!』

 

 

 

 最早叫ぶように、彼女のコードネームを呼び画面に映る女性は、この世界ならだれもが知っている人物だった。

 これより四時間後、世界動乱をもたらすことになる張本人。

 

篠ノ之束。

 

 彼女は四時間後に、世界に向けて宣戦布告することになるその部屋から少女――――【舞姫】に呼びかける。そんな彼女の表情にはどこかホッとしたような表情が見える。

 やっと通信が繋がった。1時間前の最後の通信以来、途絶えていた束と【舞姫】との通信。それが繋がったことに束は安心したのだ。

 画面に再び映った【舞姫】の無事な姿を含めて、束は安堵の息を吐いた。

 

 

 

「あははは!!あははは…あは…あは…はぁ、…なんですか束さん?いや、正義のマッドサイエンティストさん?今、すっごくいい気持ちだったのに…邪魔しないでくださいよ?」

『【舞姫】もその呼び方するの!?ていうかそれってもうみんなの共通認識!?』

 

 

 

 三週間前に一夏にも言われたその呼び方に、束は驚嘆した。

 まずい。このままでは本当に自分の呼び名が【正義のマッドサイエンティスト】で固定されてしまう。そんな可愛くない呼び名、束は全力で嫌だった。

 そんな束の慌てっぷりに、【舞姫】はケラケラと笑った。

 

 

 

「あははは♪でも、最初に束さんのコードネームだけないのは不公平だ!!ってツイートしてきた【雪羅】に、あたし達もノリノリで合意したのもまた事実ですからねぇ。完徹して決めたあたし達の気持ちにもなってくださいよ、正義のマッドサイエンティストさん?」

『完徹した結果がその呼び方なの!?』

「ちなみにこれはあたしのアイデアですね」

『根源はお前だったのかあぁああああああああああ!?』

 

 

 

 束に【舞姫】と呼ばれた少女は、そう言ってケラケラ笑う。

 その表情は本当に、本当にさっきの人間を殺すことで高笑いしていた少女なのか?と疑いたくなるほど、彼女の笑みはどこにでもいる普通の女の子の笑みだった。

 

 

 

『ていうか、そんな話題で完徹って他にどんな候補が上がったのか寧ろ聞きたいんだけど!?』

「えっと…他にはですね…あぁ、もう忘れちゃいました」

『思わせぶりなことを言って、結局!?』

「だって…束さんに教えてもいいようなものが浮かばなかったんですもん…」

『教えちゃ悪そうなものなら思い浮かんだんだ!?』

「はい、それはもう。【ピーターパン症候群】とか【厨二病みそじ女】とか」

『まだ束さんは二十代前半だよ!?』

「それもあと一年足らずで四捨五入をすれば…」

『お、女の子の年齢を斬り捨てなんてしてはいけません!?』

「あははははは!!!!」

 

 

 

 一瞬、ここが戦場であることも忘れてしまいそうなほど、彼女は楽しそうに笑っていた。

 それほどまでに、彼女達が交わす会話は日常的で、今にでもお茶とお茶菓子がで出来そうな和やかな雰囲気だったのである。

 だから、異常だった。人がたくさん死んだこの状況に、そんな日本の縁側のように平気で会話する二人の姿は、本当に異常なものだった。

 けど、二人は決して忘れていたわけではない。ここが戦場であることを。ここでは人が人ではなくなるということを。この世界が腐りきっているということを。

 

 

 

『うぅ…酷いよみんな。いいもんいいもん。どーせ束さんだけ世代が違いますよーだ。大人になりたくな子供ですよーだ。みそじまじかの厨二病発症者ですから~』

「もう、拗ねないでくださいよ束さん。【雪羅】には後で、あたしが言っておきますから」

『うぇ?ホント!!【舞姫】の話なら【雪羅】も聞いてくれるから束さん万々歳だよ!!」

「?【雪羅】普段は束さんの話、聞かないんですか?」

「あははは~そーいうわけじゃないんだけどね~。束さんじゃ【雪羅】には勝てないから…。むしろ、馬頭されて喜んじゃうんだ~…』

「あぁ~やっぱさっきの話はなしの方向で」

『え!?なんで!?』

「それと束さん。これからあたしの半径3メートル以内には近づかないでくださいね♪」

『その♪に距離を感じるよ…【舞姫】…』

「あははは♪」

 

 

 

 そんな会話をしながら【舞姫】は地面に刃を突き立てていた青竜刀を引き抜いた。

 距離にして、だいたい3メートルくらい。【舞姫】は、神経を研ぎ澄まさせる。もうすぐそこまで、件の者は迫ってきていた。

 

 

 

『【舞姫】…』

「わかってますよ、束さん」

 

 

 

 心配げな束に【舞姫】はウィンクする。

 直後、何かが【舞姫】の後ろから斬りかかってきた。刃が【舞姫】のすぐそこまで迫ってくる。が、【舞姫】に慌てた様子はない。

 【舞姫】にはすべてが見えていたのだ。後ろから迫る敵の動き、刃の剣先がどこを通るのか、そして、敵の正体も。彼女にはすべて見えていた。

 

 

 

「みんなの仇だ!!死ねえぇえええええええ!!」

 

 

 

 ザシュッ。血が吹き、肉が引き裂かれる音がした。耳と目をふさぎたくなるような残酷な映像。けど、それは【舞姫】のものでは決してなかった。

 

 

 

「…遅い。遅すぎんのよ…あんた…。あんたが遅すぎんだから…ほら?」

 

 

 

 むしろ【舞姫】は涼しい顔で、そんなことを言いながら敵のISが放った刃の軌道線から消えていた。

 その動きは、敵の目には一切映らない。ISに搭載されたセンサーすら、彼女の姿を捉えていることはできなかった。

 瞬間移動。まさしく、その言葉が相応しい動きで彼女は敵の視界から消え去り――――。

 

 

 

「あんたの腕、無くなっちゃったわよ…?」

「かはっ…!?い、いやあぁあああああああああああああああああ!!!?」

 

 

 

 敵のISの背後から、刃を持った敵の操縦者の腕を切り落としたのであった。

 何が起こったのか、敵のIS操縦者には一瞬分からなかっただろう。もしかしたら、彼女は自分の腕が斬られたことすら気づいてないのやもしれない。

 少なくとも、痛みは感じなかったはずだ。痛覚が、スピードに追い付いていないのだから。

 それほどまでの圧倒的な『速さ』

 この『速さ』が、この施設を地獄に変えた。誰も追いつけない『スピード』それが【舞姫】を最強とういう称号に至らしめているのだ。

 

 

 

「う…うぅ…」

「あんたもバカね。隠れてれば気づかれなかったものを…」

「くぅっ…!」

 

 

 

 キッと彼女の瞳が【舞姫】を睨む。

 そのとき【舞姫】は初めて彼女の顔を正面から見た。

 少し驚いた。彼女が自分と同世代だったからではない。彼女のその顔に、見覚えがあったからだ。

 

 

 

「あれ?あんた確か…」

「え…なんで…うそ…」

 

 

 

 【舞姫】は彼女のその顔を知っている。

 そして彼女も、【舞姫】の顔を見た瞬間、驚愕の表情となった。

 だって、彼女達は昨日会っているのだ。この施設に来るまでの道すがら【舞姫】は彼女と出会い、意気投合し、そのままご飯まで食べていた。

 そんな彼女との再会。【舞姫】は普段は信じない、『運命』という言葉を信じてみたくなった。

 本当に。本当に数奇な運命だった。

 そう考えると、すべてがこのときのために収束したかのように、思えてしまう。

 でも、それならばこれもまた『必然』ということになる。

 訂正だ。【舞姫】は思った。やはり、『運命』なんてものは存在しないのだと。

 

 

 

「なんで…そんな、なんでなのよ…」

「奇遇ね。まさかあんたもISの操縦者だったなんて。ホント世界って狭いわ」

 

 

 

 茫然とした彼女に、【舞姫】はとりあえず微笑みかけていた。

 それは燃え盛る炎の中、熱で溶けた建物の崩壊音がBGMの戦場で、腕を斬られた被害者と、それを斬り、彼女の返り血を顔にひっかけた加害者の表情ではない。

 ただ純粋に、昨日会ったばかりの友達との再会を喜んだ微笑みだった。

 そんな【舞姫】の微笑みに、彼女は悲しみの表情を向ける。その瞳は、彼女が夢見心地のように「なんで…」という言葉を暗に訴えていた。

 【舞姫】は呆れたように息を吐く。彼女の言いたいことが分かるが故に、【舞姫】は言葉を紡いだ。

 

 

 

「言葉にしないと伝わんないじゃない。ちゃんと、話しなさいよ?」

 

 

 

 【舞姫】の言葉に、彼女の瞳に色濃い動揺が見えた。

 彼女のその態度が、子供のような体躯に似合わないと感じた昨日の大人びた対応そのものだったからだ。まるで、出来が悪い子供に言い聞かせるようなその言葉。

 彼女の頭の中は、ますます混乱していった。

 

 

 

「なんで…なんで、こんなことを…。なんで…みんなを…殺したのよ…?」

「それはISの構造の問題だからね。だって、こんなパワードスーツじゃ、一緒に操縦者も斬らないとコアの破壊ができないでしょ?」

「っ!?あなたはコアを破壊するついでにみんなを殺したというの!?」

「ま、そういうことになるわね」

 

 

 

 ますます分からなかった。

 確かに、相手の国のコアを奪うため、何度かスパイも入り込んでいたという話も珍しくない。が、基本的に将棋の駒のISコアを奪うのではなく、破壊しに来たというのははじめての経験だった。

 しかも、昨日会った【舞姫】は、どこかの国のためにこんなことをする人間にはどうしても見えなかった。ただ体躯に見合った無邪気さと、似合わない大人びさを持った。

 そんな少女にしか見えなかった。

 だから分からない。彼女には。なぜ、なぜ彼女がこんなことをしたのかという理由が分からなかった。

 

 

 

「ねぇ、教えて。昨日、一緒にご飯を食べたとき、私の思いに賛同してくれたあなたはウソだったの?」

 

 

 

 すがるように、彼女は【舞姫】に問いかける。信じたくなかった。けど、この惨劇を見れば、彼女には昨日の【舞姫】の姿が虚構としか思えなかった。信じたくはないが、そうとしか思えなかったのだ。

 昨日、彼女は一日で意気投合した【舞姫】に夢を語った。

 絶対、絶対にこの国を守るための仕事をする。そんな立派な人間になりたい。

 彼女がそう語った夢に、【舞姫】は確かに頷いてくれた。笑みを浮かべてくれた。それが彼女には何よりもうれしかったのを、彼女は覚えている。

 

 

 

「昨日、あたし達はもう友達だって…そう言ってくれたあれも、ウソだったの?」

 

 

 

 信じたくない。彼女の瞳が次第に潤んでいく。

 昨日、彼女は【舞姫】に友達だって、そう言ってくれた。国家代表候補生であるが故に、友達もできなかった彼女にはそれがなにより嬉しかった。

 【舞姫】は彼女の吐露に、黙って耳を傾けている。その表情に変化は見られない。微笑みを浮かべ、彼女が語る昨日の出来事を懐かしむように笑みを目を細めている。

 すごく。すごく優しい顔だった。

 

 

 

「昨日、私に笑ってくれた。私を励ましてくれた。私を救ってくれた。私にいろいろなことを教えてくれた。それも全部、全部…ウソだったの?ねぇ…応えて!!応えてよ!!」

 

 

 

 そして、彼女はキッと【舞姫】を睨み、その名を呼んだ。信じた彼女の名前。友達だと言ってくれた彼女の名前を――――

 

 

 

「!!【鈴ちゃん】!!!!」

 

 

 

 彼女の訴えに、コードネーム【舞姫(マキ)】こと――――鳳鈴音――――は笑みを浮かべた。

 それはどことなく無邪気で、けどそことなく大人びてもいて、そして何より儚い、憂いを帯びた悲しそうな笑みだった。

 その笑みが、何を隠しているのか、彼女には分からない。

 けど、次の瞬間、彼女は凍りついた。【舞姫】の笑みが、鈴の笑みが一瞬で――――

 

 

 

「そうよ。全部、全部、ウソだったのよ…」

 

 

 

 氷のように冷たくなったから。

 

 

 

「…りん…ちゃん…」

「…そんな馴れ馴れしい呼び方、しないでくれない?あたしはあんたと友達になったつもりなんてないわ。正直、すっごい迷惑なのよ」

「っ!?」

 

 

 

 鈴の口から淡々と出てきた言葉は、彼女の願いを粉々に砕き去った。

 冷たい視線が痛いくらいに刺さる。もう、そこにはさっきまでの優しかった鳳鈴音の姿はない。ただ、獲物に牙をむく、獣しかいなかった。

 

 

 

「だいたいさ、あんた。立派な理想掲げてんのは結構だけど、そんな理想論持ってこんなとこ来ない出でくれない?ここは戦場よ。そしてあんたが乗ってるそれはISっていう、立派な兵器なの。元はどうあれ、それは人を簡単に殺すことが出来んのよ?」

「で、でも!!そ、そんなの…ISには『絶対防御』が…!!」

「相手がISじゃなかった場合は?」

「…。……」

「…、確かに、このご時世。ISでの戦闘以外、考えられないのも事実なんだけどね…。でも、ゼロじゃないのよ。これは」

 

 

 

 鈴の言葉に、彼女はただ押し黙ってしまう。

 これは遊びではない。ゲームでもない。ISを使った、戦争なのだ。

 

 

 

「だからね。ISをファッションかなんかと勘違いされちゃ困るのよ。ISを着て、戦場(ここ)に立っている。それだけで、あなたは【殺人者】なのよ…!!」

「違う!!」

「いえ、違わないわ。あなたは人殺し。そして…あたしも…ね」

 

 

 

 鈴の瞳が、気のせいか一瞬潤む。

 だが、鈴にショックなことを言われた彼女がそれに気づくことはない。虚ろな目で、訳も分からない方向を見ている。視点も安定してなかった。

 鈴は彼女のその有り様をただ眺めていた。後悔したかのように。けど、鈴はすず首を振る。

 すると、そこにはさっきまでの彼女。冷たい【舞姫】としての彼女が再び現れた。

 仮面をかぶったかのような…そんな冷たい顔をした彼女が…。

 

 

 

「…戦場に立つ人間が、気を付けとかないこと。それはただ一つ。…殺される覚悟がない奴は戦場(ここ)に来るな。ただ…それだけ…」

 

 

 

 そして、彼女は青竜刀を振り上げた。

 その瞬間。彼女の口が僅かに動く。声には出てない。けど、鈴の思いがこもったその言葉には、確かな思いがこもっていた。

 ザシュッ。直後、青竜刀が振り下ろされる。それは確実に、正確に、一人の人間の命を奪い去る。

 声はなかった。彼女は最後、何も言わず、ただ、鈴のことだけを見つめていた。それが鈴には悲しかった。

 

 

 

「死ぬ覚悟がないヤツが、こんなとこに来ないで…。迷惑だから…」

 

 

 

 彼女の瞳が閉じていく。その瞳にはもう何も映ってない。

 瞳の中の色が失われた彼女の姿は、しっかりと、鈴の目に焼き付けられた。

 

 

 

「…冥土の土産にもう一つだけ教えてあげる。あたしはね…あたしは…この国が…大っ嫌いなの」

 

 

 

 その言葉はきっと、彼女の耳には届いていなかっただろう。

 けど、鈴は関係なく続けた。彼女の耳には届いてなくても【友達】は…笑顔で送る。それが、彼との…一夏との約束だから。

 

 

 

「…けどね、あんたのことはあたし、結構…好きだったわ…」

 

 

 

 そう言って鈴は笑った。友を見送る女として、彼女は笑ったのだった。

 

 

 

 

 

 

          *

 

 

 

 

 

 

「…【舞姫(マキ)】任務完了。これより、帰還します」

 

 

 

 シャッ。刃を抜く、その瞬間、血潮が鈴の顔に飛び散った。

 けれど、彼女はそれをぬぐおうとは思わなかった。なぜなら、彼女の顔も、手も、今日で真っ赤に染まるほど血みどろになったのだから。

 それを後悔するほど、彼女の心は平常ではなかった。

 

 

 

『了解だよ【舞姫】けど…』

「…すいません、束さん。少し、一人にしてくれませんか?」

 

 

 

 束としては、さっきまでのすべてを見ていた、無論、彼女の最後の言葉も。

 だから、束は心配だった。けど、彼女にそう言われた以上、束は何も言わない。大人しく、彼女はモニターを切り、鈴を一人にしてあげた。

 途端、鈴のなかで悲しみが溢れてくる、が、彼女は決して泣かなかった。

 泣かないと決めたから。ずっと笑ってると決めたから。彼女は泣かなかった。

 

 

 

「…、通話。コードネーム【舞姫】からコードネーム【雪羅】へ」

 

 

 

 その代り、彼女は今一番聞きたい声の主に電話する。

 ワンコール。ツーコール。目的の人物はたったそれだけの呼びかけで出てくれた。

 こんな時間なのに、彼は慌てた様子も、起こった様子もなく、ただ「もしもし」と、声を聞かせてくれる。その声を聞いた瞬間、彼女はスッと心の棘が抜けたようだった。

 

 

 

 

「…【雪羅】。あたし…ねぇ、今少しだけいい?」

『…もう少し時間を考えてほしかったけどな【舞姫】。俺、今日から学校なんだから…』

「うん。分かってる、ごめんね。迷惑なら…切るから…」

『おいおい、それじゃ二時間前から寝ずに待ってた俺の苦労が水の泡だろ?いいから話せって』

「…ありがと」

 

 

 

 二時間前から。今日が初任務とはいえ、まるでこうなることが分かっていたみたいに言う彼に、鈴はくすりと少しだけ笑った。

 その気遣いがうれしかった。彼女は涙を流さない。涙の流し方なんて…忘れちゃったから。

 

 

 

「…ねぇ【雪羅】。友達って、難しいね…」

『…何言ってんだ。簡単だろ【舞姫】?俺とお前は友達だ…それで、いいじゃないか?』

「…うん。そうだね」

『大丈夫。お前は、俺が守ってやるから…』

「…うん。友達…だからね」

『あぁ』

 

 

 

 自分に、人並みの幸せが手に入れられるとは思ってない。

 世界を崩壊させ、これから、何人も殺すことになる自分はきっと地獄に落ちるだろう。

 でも、今だけは。今だけはこの気持ちを抑えるのみ必死だった。鈴は胸の痛みを抑えるように「ありがと…もう時間ないから」と、通話を切った。

 突然かけてきたうえ、さらに突然通話を切った鈴に、一夏は怒るわけでもなく、笑いながら「がんばれ」と言ってくれた。

 だから、頑張らないと。あたしは鳳鈴音。コードネーム【舞姫】。篠ノ之束の『最速の剣』

 そうなると決めたとき、すべてを捨てたのだ。世界への復讐のために…。

 

 

 

「…一夏…」

 

 

 

 それでも、誰もいない今だけは…今だけは…。

 普通の女の子。鳳鈴音に戻っていいはず。

 鈴は明るんできた空を見上げ、微笑んだ。あの空の向こうにいる【大空の英雄】に。

 

 

 

「一夏。好きよ…大好き。だから、許して…」

 

 

 

 ――――あなたのことを好きになってしまったあたしを…。あなたより先に死ぬあたしを…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 キャラ設定

 〇鳳鈴音(ファン・リンイン)

 身長/150㎝ スリーサイズ/75/51/79
 国籍/中国 立場/篠ノ之束「最速の剣」

 一夏のセカンド幼馴染。10歳のとき一夏と出会い、一夏が心を取り戻す一因と
 なる。以降つるむようになる。一夏には友達以上の好意を寄せている。
 IS判定が異常に高く、中国から幾度にわたって打診が来ていたがそれを断り続
 けていた為、14歳の誕生日の日、事故に見せかけ家を爆破され、家族を失う。
 その後中国国籍だったため、中国の施設に身柄を引き取られていった。
 それ以降の動向は明かされていないが、現在は束の元で「剣」となっている。
 だが、中国にいた頃に何かしらの特殊な訓練を受けていたらしい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。