メリーさんを殺したら怪異の女王になったんだが 作:87776
メリーさん 殺せちゃった どうしたらいい
メリーさん 普通に殺せた どこに連絡
メリーさん 死体 処理の仕方
幽霊の死体 どこに隠せばいい
深夜の2時。
浅い呼吸音と、ひたすらにキーボードをたたく音が部屋の中に響いた。
青いスクリーンライトを前に、俺はどくどくと五月蠅い心臓を抑えながらこの状況を何とかする方法を求める。
「いや、いやいやいや……だってさ、メリーさん殺せるとは思わないじゃん」
半ば涙目になりながら、視線を向ける先には血がこびりついた鉄バットが。
さらにその先、主張が限界突破している
どう見ても“事後”である。
事は2時間前にさかのぼる。
あれは、いつもの様に仕事から帰ってきて風呂に入って飯を食っていた時だ。
ビールを煽りながら、一人で過ごせる至福の時を噛みしめていた時、いきなりスマホが鳴った。
怪訝に思いながら電話をとると、
『あたし、メリーさん。今、今橋駅にいるの』
だなんて世にも恐ろしい内容が、少女の声を通じて告げられた。
メリーさん。それはあまりにも有名な都市伝説上の怪異。
それから電話がかかってきたら最期、もう逃れるすべはない。
死ぬ時までだんだん近づいてくる彼女の存在にひたすらに怯えなければならないという悪質極まりない方法でねぶり殺される。
なるほど、どうやら俺はこれから死ぬらしい。
俺は酷く怯えながら、この世界にさよならを告げる覚悟で、次から次へとやって来るメリーさんからの熱烈なラヴコールを受け続け、次第に彼女はいよいよ家の前までやって来た。
だがしかしここでIQ110(笑)の俺氏、そこで妙なアイデアが浮かんでしまった訳で。
──メリーさんが後ろに来たら、バットで居合抜刀すればいいんじゃね?
なるほど、人間って言うのは追い詰められたら妙ちくりんなアイデアが出るらしい。
いや、それでもバットで居合抜刀しようなんてアイデアが出る方がおかしいとは思うが。うんおかしい。
そしてまぁ、それを実行した結果今に繋がるわけだ。
「ええ……でもそうはならんやろ」
なっとるやろがい(諦め)。
え、そもそもメリーさんって物理効くタイプだったんすか?
もっとこう、スィーって通り抜けてく感じだと思ってたんですけど……。
てかなんすかこの血。めっちゃくちゃグロいやんけ。もしかして人間だったんですか?
……正当防衛だよな?
流石にこれ、正当防衛だって認められるよな(震え声)?
えっと、なになに?
殺しまでしたらほとんどの場合、過剰防衛だって?
てかそもそもメリーさんが後ろにワープしてきたからバットで撲殺だなんて司法で取り扱えない現象が起きてるだって?
インターネットで一通り調べつくしたが、ぶっちゃけ何をしたって悪い方向にしか転ばない気がする。
頼みの綱に、インターネット掲示板に誰か助けてくれと投稿してみたが……まぁ誰も助けてくれないよな──だなんて思っていたら。
人間閉塞している時に
『147:名無し
死体なんて食ってしまえば解決。腐敗する前に全部腹の中にぶち込め』
なるほどなるほど。そりゃぁ確かに食ってしまえばあとは骨しか残らない。
骨だけになってしまえば、後は粉にするなりなんなりで簡単に処理できることは理解できる。
だが奥さん。メリーさんを食うって、ねぇ。
例え幽霊のそれだとしても、目の前の死体は明らかに人間のそれにかなり近いし。
流石に食うって言うのは気が引けるんだが……。
『155:名無し
食わないって言うなら破砕機の中にぶち込んでミンチにして東京湾に捨てるってのもアリ』
却下。設備がない。
ていうか倫理観的にいろいろ終わってる。以上。
……うーむ流石に警察のお縄にかかるのは嫌だし、真面目に食べるってのはアリだな。
しっかし、うーん。流石にそれは嫌だしなぁ。
でも捕まるのは嫌だしなぁ……。
だからって言って人肉(仮)を食べるってそれはぁ世間は許してくれやせんよ。
でもやっぱり捕まるのは嫌だしなぁ……。
いやしかし(以後繰り返し)
というエンドレスな思考を繰り広げる事1時間。
ついに時計の針も4時を回り、心なしか地平線のあたりが明るくなってきたと思ったころ。
「よし、食べるか」
俺はついにメリーさんを食べることにした。
調理方法は知らん。なんか適当に牛肉と同じ感じで行けるやろ。
と言う訳で、俺は早速解体作業に取り掛かった。
メリーさんの脚を掴み、風呂場まで引きずる。
滅茶苦茶血痕が床に残っていて、オエッとしたが気力で何とか持ちこたえる。
ここはマンションであるため、出来るだけ近隣住民に怪しまれないようにそろりそろりと慎重に作業しなければならない。
そして、物音に気を使いながらやっとのことで風呂場に引きずり込んだら、今度は縄で足を縛り、天井に吊るす。
解体方法は……魚をさばいたことがあるからたぶんそれと同じ要領で行けるハズ。いけなかったら知らん。
以降の記憶は、音と匂いと、人生で一番やり直したい数分間の集合体だ。
詳細は割愛する。自主規制だ。人として。
後に残ったのは、冷蔵庫の中に綺麗に整列された肉々が詰め込まれたタッパー。
どう調理するかはシェフ俺氏の腕にかかっております。
俺はエプロンに身を包み、ゆっくりとタッパーに手を伸ばす。
これから1週間。それらの肉類をすべて消費するためにあらゆる調理法を思案しながら、自身の未来に不安を抱く。
そして、取り出した肉を鍋に放り込んだ。
……ここから先は単調な繰り返しだった。
朝起きてはメリーさんを食べ、昼になってはメリーさんを食べ、夜になってはメリーさんを食べる。
会社には1週間休みますと連絡しているから、外に出ることもせずメリーさんにひたすら付きっ切りでいた。
途中から、俺は心を無にした。なにせ口に運ぶたびにSAN値がゴリゴリ削られるのだ。しかもあの死体の事を思い出すと吐き気までこみあげてくる。
だから、これは牛肉だと思う事にした。
そして何度も何度もメリーさんを口に運ぶこと数日。
俺は二つの変化が起こっていることに気が付いた。
まず一つは肉を食って何も思わなくなったこと。
まぁこっちは慣れみたいなものだ。
別に特筆すべき内容でもない。
そしてもう一つの変化。
それは、鏡に映る自分の姿が変化していたことから気が付いた。
いや、正確に言うとだな。
最初から「変わった」と断言できたわけじゃない。
なんかこう、違和感がある、くらいだ。
目の焦点が合わないとか、照明が悪いとか、寝不足で目がバグってるとか、そういうよく分からない感覚。
「……気のせい、だよな」
そう思って、一回洗面所の電気を消した。
もう一回つけた。
……うん。
違う。
もう一歩、鏡に近づく。
顔をしかめる。
角度を変える。
頬を引っ張る。
「……白くね?」
髪だ。
どう考えても、髪の色が白い。
いや、白いって言ってもだな。
白髪とか、老化とか、そういう方向じゃない。
もっとこう、最初からそういう色ですみたいな白さ。
「……いやいやいや」
嫌な予感を振り払うように、顔全体を見る。
肌。白い。
目。でかい。
輪郭。整いすぎ。
「いやー、やっぱりどう考えたってそうはならんやろ」
なっとるやろがい(n回目)
そこに映っていたのは、
白髪で、人形みたいに整った、
どう見ても人間離れした美少女だった。
しかもこの顔、俺知ってるよ。
「……あー……」
あの時の、あれだ。
深夜。
電話。
今橋駅。
頭の中で、
聞き覚えのある声が再生される。
『あたし、メリーさん』
「……ですよねー」
ため息が、自然に出た。
鏡の中の少女も、同じタイミングでため息をつく。
笑うしかない。俺はゆっくりと鏡を指さす。鏡の中の少女も、こっちを指さした。
「いやでも、自分がなるとは思わんやろ」
しばらく、無言。
「……まぁ。都市伝説だしな」
なにが都市伝説だよ、バカ。
俺は盛大にため息を吐いた。
……そしてまぁ、話は冒頭に繋がるわけである。
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